【J1分析】G大阪対広島「東口のシュート」で明らかになった「ガンバの問題」
【明治安田J1リーグ 第20節 ガンバ大阪vsサンフレッチェ広島 2021年5月12日 18:03キックオフ】
初めは、無観客試合の影響だと思っていた。シンプルな4-4-2に回帰したガンバは、昌子源が後方からボールを動かし、倉田秋が巧さを見せて突破を試み、パトリックが体を張って突き進もうとしているのに、何かが変だった。
それぞれのシーンは素晴らしいのに、なぜか思ったよりも迫力を感じない。この変な感じは無人の客席のせいなのだろうか。そう思っていた。
しかし、そうではなかった。
ようやくその理由がはっきりとわかったのは、試合終了が近づいた時のことだった。
ガンバのコーナーキックが弾き返されると、ボールは前の方まで出てきた東口順昭に渡った。ゴールキーパーの彼は前方を見回し、どうしたものかと一瞬逡巡した後、思い切ってロングシュートを放った。
再度展開して、チームとして攻撃し続けるための準備をしていた選手がいなかったから、自分でシュートを打ったのだ。シュートはゴールを大きく越え、サポーターのいない座席にぶつかる音が虚しく響いた。
このプレーを見てようやく、前半から感じていた違和感がはっきりした。
昌子が何度も後方からチームを動かしていたのは、前線で打開できずにそこまで戻してやり直していたからであり、倉田やパトリックはチーム全体の動きの多様さ不足を補うべく、攻守で動き回って1人でどうにかしようとしていたのだった。
テクニックやフィジカルで勝負している個々の場面は素晴らしいプレーをしているのにもかかわらず、それがチームとして上手くいっていない部分を補うために披露されているから、迫力が伴っていない。それが違和感の正体だった。
■宮本監督の今後に期待
こうなると、攻勢を強めているように見えていたその前の時間帯の解釈も変わってくる。
宇佐美貴史が、低い位置でどんどんボールに関与していたのは、フィニッシャーになるという最大の長所を犠牲にしてでも、そう動かなければならない状況だったということだし、最終的にゴールに向かって飛んでくるロングボールに体を張るのがレアンドロ・ペレイラではなく宇佐美だった場面は、彼が頑張っているということより、その状況が既におかしかったのだ。
強烈な個の力で勝つチームであっても、チーム全体の適切な動き出しと選択の繰り返しは欠かせない。個の力をどこでどう発揮できる状況になっているのかが大切なのだ。
これは、この日ようやくデビューしたウェリントン・シウバが「皆が少し自信を失っているように感じる。それを取り戻すためには勝利を挙げないといけない」と語る一方で「そのためにはチーム一丸となって普段の倍以上の気持ちで練習に臨み、そこで自信を積み上げて勝利に結びつけなければ」とも言っているのに似ている。達成したい目的の1つ前の部分こそが大切なのだ。
10試合を終えて1勝。選手それぞれの能力が高いことは間違いないが、それを適切な場所で適切に発揮できなければ相手への脅威度は高まらず、勝ち数は伸びない。浦和戦に向けて、宮本恒靖監督はこの苦境を脱するためにどういう修正をしてくるだろうか。
■試合結果
ガンバ大阪 1―2 サンフレッチェ広島
■得点
36分 佐々木翔(サンフレッチェ広島)
44分 一美和成(ガンバ大阪)
65分 川辺駿(サンフレッチェ広島)