JリーグID登録数20万突破!ガンバ大阪、コロナ禍のデータ活用法
Jリーグが2017年より導入した会員サービス「JリーグID」。チケット購入をはじめ、Jリーグが提供する各種機能を同一IDで利用できる利便性もあり、現在200万以上の登録を集めている。同IDでは会員によって設定された「お気に入りクラブ」がメール送付やニュース配信など、会員データをマーケティング利用できるため、各クラブはファン・サポーターにJリーグIDの登録を促している。
そんな中、ガンバ大阪が2021年4月にJリーグ内で最も早くJリーグIDの登録数(「お気に入りクラブ」設定数)20万を突破した。その要因は何だったのか。そして、20万の会員データをどのように活用しているのか。ガンバ大阪・顧客創造部の山崎美枝氏、奥永憲治氏、小森誠之氏の3人に話を聞いた。
ホームタウン活動を通じて
――JリーグID登録数20万到達は全Jリーグクラブの中で最速とのことですが、要因は何だとお考えでしょうか?
山崎「ガンバ大阪ではJリーグIDが始まる前からクラブとして顧客データを保有していました。ファンクラブ会員や年間パス会員に加えて、『重点7市(吹田市、茨木市、高槻市、豊中市、摂津市、池田市、箕面市)』を中心とした14市3町のホームタウンエリアに住まれている方のデータが約2万3000件あり、試合開催情報などをお送りしていました。これがJリーグIDを集める上でのベースとなっています」
――ホームタウンエリアの顧客データはどのように集められたのですか?
山崎「大きなシェアを占めていたのはホームタウン活動を通じて得たものです。2003年から選手たちがホームタウンエリアの小学校を訪問し、サッカーを授業として教える活動を行っており、そこで交流した多くの小学生に来場いただいています。当時、試合観戦を希望される方はクラブから配った往復はがきでご応募いただく形だったのですが、クラブハウスに届いた(観戦希望の)はがきの山に埋もれながら、応募いただいた方の情報をエクセルに入力するアナログな形でデータを集めていました」
小森「ホームタウンエリアの小学校に選手と一緒に訪問した時に、『ホームタウン応援デー(ホームタウンエリアに在住の方を対象とした招待・優待試合)』のチラシをお渡しして、行政と連携して市報誌にクラブの情報を掲載いただいて……あまり表に出ることのないホームタウン活動ですが、こうした取り組みがあったからこそJリーグID登録数20万という結果に繋がったと思っています」
――そうした地道な活動の積み重ねで集められたJリーグIDの活用事例を教えてください。
小森「いろいろありますが……例えばスタジアム来場者の居住エリアについて。なんとなく『吹田市の方が多い』『豊中市も多い』とわかっていても両市とも広いので、(大阪)モノレール沿線なのか、阪急(電車)沿線なのか、正確な住所を把握できたことでプロモーションやポスティングなどの施策も細かく考えるようになりました」
――つまり、顧客の属性によってプロモーションを変えているということでしょうか?
小森「変えています。これも具体例で説明すると、メールマーケティングであれば、チケット購入履歴のデータから数カ月スタジアムに来場されていない方を抽出して『久しぶりに試合観戦しませんか?』という内容を送るなどのセグメントを実施しています。そうした効果もあり、メールの開封率も約40%程度と良い結果が出ています」
――保有するデータ量が増えるほどマーケティング活用の幅は広がると思うのですが、目標とするJリーグIDの登録数はありますか?
山崎「JリーグIDの登録数も大切ですが、それ以上にJリーグIDをお持ちの方にアクティブにガンバ大阪と関わっていただくこと。登録していただくことが目的ではないので。つまり、1回スタジアムに来ていただいた方に対して、2回、3回……と来場してもらいファンになっていただくためのチケットキャンペーンを(JリーグIDを通じて)案内することや、グッズ販売のメッセージを送るなどの取組みを行っています」
――ガンバ大阪は近年『顧客育成』という集客コンセプトを持って活動されています。あらためてこのコンセプトを説明してもらえますか?
山崎「これまではホームタウン活動を通じて『ガンバ大阪を知ってもらう』『一度、スタジアムに来てもらう』ことを事業として取り組んでいますが、そこから一歩進んで『定着してもらう』ことを目的としたものです。3回スタジアムに来場されるとコアファンになっていただけるというデータからも(コアファンに至るまでの)階段を途中で離脱されないように様々なアプローチを行っています」
――“コアファン”という言葉が出ましたが、2019年12月に実施したインタビュー記事『遠藤保仁の『ウー提案』って何?惜しいシーンはため息ではなく…』内では、クラブ内で“ファン(サポーター)”の定義を持たれていませんでした。
山崎「JリーグIDを軸としたデータ活用を開始するにあたって、お客さんの層を定義する議論も行いました。最終的にはJリーグのファン層の定義を基に、ガンバもそれに沿う形で決定しています。ガンバ大阪の『G』を頭文字に『G0~G5』までの来場回数ベースで定義しています。『G0』はホームタウンに住まれている方、『G1』は1度来場されたことがある新規の方。『G2』は2回来場されたライト層。『G3』は3~6回でミドル層。これより上をコア層・熱狂層とセグメントして、それぞれのファン層に対してクラブ内で取り組みを決めています」
――コロナ禍の影響もあるでしょうが、『G3』以上へのアプローチが昨年から増えている印象です。『クラウドファンディング』や、ファン・サポーターの投票で選ばれた『30周年記念ユニフォーム』など、ファンとの共創企画が増えていませんか?
奥永「おっしゃる通りです。今は入場者数制限もありますし、新規よりも既存のお客様の離脱防止施策に力を入れています。コロナ禍でオフラインのタッチポイントが減り、試行錯誤しているというのが正直なところではありますが、クラウドファンディングをはじめとするクラブ創立30周年記念事業はその一環です」
DAZNでドキュメンタリー番組の配信決定
――今シーズンもコロナ禍でのJリーグ開催が続く中で、クラブとして新たに設定したマーケティング面でのKPIがあれば教えてください。
奥永「繰り返しの部分もありますが、既存のお客様との関係性を維持することを重要なKPIとして動いています。具体的には年間パス会員とファンクラブ会員のスタジアム来場率。昨年、今年と年間パスの販売は休止していますが、2019年度に購入いただいた方の会員資格は残しているので、そのデータ(スタジアム来場率)を重視しています。来場頻度だけではなく、このコロナ禍の中シーズンに1回でも足を運んでもらえるかを見ており、2019シーズンと同程度、来場いただくことが目標です」
――昨シーズン終了時点で、年間パス会員の来場率は何%でしたか?
小森「JリーグIDのデータでは73%と出ています。もともとはシーズンに10試合以上来場いただける方々が多いので、1度も来場されていない方が約3割いらっしゃるという結果に関しては高いと思っています。アンケートを取ると『家族や会社の目が気になって行けない』などコロナへの心配を(来場しない理由として)挙げる方が多くいらっしゃるので、スタジアムの安全性を高めて、そこをしっかりと伝える必要性も感じています」
――一方でスタジアムへ来場されない方、できない方へのアプローチの重要性も高まっているように思います。
小森「そこはDAZNの視聴促進という形で積極的に推進しています。クラブの収入においてもDAZN視聴者数に応じて得られる『ファン指標配分金』は重視しています」
奥永「DAZNでガンバ大阪のドキュメンタリー番組(J.LEAGUE DOCUMENTARY SERIES ガンバ大阪シーズンドキュメンタリー『Who is your HERO』)を配信することが決まりました。『ALL or NOTHING』(Amazonプライム・ビデオで配信されているスポーツドキュメンタリーシリーズ)のようなイメージで、選手のプライベートな様子やクラブの裏側に密着するような内容になります。クラブとして地上波番組である『ガンバTV』やDVD『THE LOCKER ROOM』でドキュメンタリーコンテンツ制作の実績があったので、そこをDAZNやJリーグに評価していただき、今回の企画が決定したという経緯です」
――マネタイズという点では『サッカービジネスアカデミー(GBA)』の開講、ガンバ大阪OBである加地亮氏がMCを務める『CAZI散歩』をはじめとするデジタルコンテンツの制作など続々と新たな施策に取り組まれています。
奥永「GBAは定員36名に対して3倍の方にご応募いただき非常に好評でした。デジタルコンテンツに関しては入場料収入を補完するほどの収入はまだないですが、スタジアムへ行けない方も楽しんでもらえればという想いで今後も充実させていく予定です。コロナ禍での収入減は今すぐ何かで埋められるというものではないですが、様々なことに挑戦して、反響を見ながら臨機応変に判断していく必要があると考えています」
――では、最後にファン・サポーターのみなさんにメッセージをいただけますか?
山崎「今シーズン、ガンバ大阪は新型コロナウイルス感染症により、チームの活動を一時休止しておりました。その際には、ガンバ大阪のサポーター・ファンだけでなく、多くのサッカー・スポーツファンから励ましや応援のお言葉を頂きました。本当にありがとうございました。このコロナ禍の中、ガンバ大阪は創立30周年を迎えます。30周年を迎えることが出来たのは、今まで応援をしていただいた皆様のおかげです。すでにご案内はしておりますが、様々なプロジェクトを企画しており、メインとなる30周年記念マッチでは特別ユニフォームを着用して試合を行います。この30周年を未来に繋げていき、共に歩んでいきましょう」
ガンバ大阪顧客創造部 山崎美枝氏、奥永憲治氏、小森誠之氏プロフィール
MIE YAMAZAKI 山崎美枝 (株)ガンバ大阪顧客創造部部長。1991年(株)松下サッカークラブ入社(Jリーグ参加に向け準備室勤務、その後1996年(株)ガンバ大阪に改称)ファンクラブ、チケット、グッズ等担当を経て2017年より顧客創造部所属
KENJI OKUNAGA 奥永憲治 (株)ガンバ大阪顧客創造部企画課課長。大阪府出身。大阪市立大学卒業後、大阪体育大学大学院へ進学し、スポーツマネジメントを専攻する。大学院修了後、2001年からガンバ大阪へ入社。パートナー担当や運営担当、ホームタウン担当、チケット担当、広報担当を経て、2021年より顧客創造部所属
MASAYUKI KOMORI 小森誠之 (株)ガンバ大阪顧客創造部企画課主任。大阪府出身。大学卒業後、SCSK株式会社(旧:株式会社CSK)に入社。2008年に株式会社Jリーグエンタープライズに入社し、ワンタッチパスサービス(Jリーグ全試合観戦記録システム)及び、JリーグのMD(マーチャンダイジング)業務を担当。2015年よりガンバ大阪にてグッズ、チケット及びCRMなどの業務を担当