「あの子の分まで生きるんだ」忌まわしい事件から立ち直った少女が、G大阪とファンをつなぐ懸け橋に
◇ピッチ外のスペシャリスト 渡辺怜奈さん
今年6月8日で、あの忌まわしい事件から20年がたつ。「犯人とぶつかった感触、担任の先生がもみ合っているところ、血だらけになっていた先生たちのスーツ…昨日のように覚えています」。児童8人が死亡、教師を含む15人が重軽傷を負った01年の大阪教育大付属池田小事件。当時2年生だった渡辺怜奈さん(27)は今、G大阪の「顧客創造部企画課」で、悲しい別れをした幼なじみの分まで精いっぱい、生きている。
G大阪との出合いは事件後。当時現役だった宮本恒靖らが学校を訪れ、サッカー教室を開いてくれたことだった。「皆で頑張っていこう」。優しく投げかけてくれる言葉は、幼心に響いた。試合にも招待され、渡辺さんは主将の木場昌雄に花束を渡す役目をした。「よくスポーツで元気にすると言われますが、私自身は本当に元気になった。多くの同級生も同じだったと思います」。ファンになり、大学時代はボランティアのガンバガールとして携わり、17年からクラブスタッフとして働いている。
現在の主な業務はファンクラブ担当で、J屈指の会員数を誇るファンからの問い合わせやイベント企画、ファン拡大戦略を担う。一昨年8月に行われたファン感謝デーは「夏なので“フェス”をテーマにしたい」と提案。インスタ映えを考えて、ウォールステッカーという壁にフォトスポットを作るなど、男性よりも流行に敏感な女性の感性を生かし、「飽きさせない」サービスを提案することを意識している。コロナ禍で選手と触れ合う機会がなかった昨年は「私も19年前の記憶を覚えているし、小さな子にとっては選手と少しでも触れ合うというのは一生残っていくものだと思っています」とオンラインでトークイベントを開催した。
「かわいそうとは思われたくないですね。事件で亡くなった幼なじみの子の分まで恥じないように生きるんだというのはあります。そこは譲れないです」。スポーツを通じて誰かを元気にしたい。笑顔にしたい。その手伝いがしたい。渡辺さんは日々そう願いながら、G大阪で前向きに生きている。