ガンバ宮本監督が目指す変化「2点目、3点目を狙える戦いをしたい」
ガンバ大阪宮本恒靖監督インタビュー
2月12日。沖縄キャンプ最終日の前日に取材に応じたガンバ大阪の宮本恒靖監督は、2週間弱のキャンプで積み上げたチームとしての”自信”を言葉に変えた。
「チームとしてどうボールを動かすのか、というところに対しての共通理解、意識を共有できたこと。また、新加入のMFチュ・セジョン(FCソウル→)のプレーを他の選手が理解して、チームとして取り入れられたこと。二次キャンプからは、FWレアンドロ・ペレイラ(サンフレッチェ広島→)やFWチアゴ・アウベス(サガン鳥栖→)が合流し、お互いを知る時間を作れたことも、プラスの要素だと思っています。
彼ら2人もできるだけ早くコンディションの遅れを取り戻そうと、しっかりトレーニングに取り組んでくれていますし、少しずつ、体のキレやボールを蹴る力強さが出てきていました。
ただ、チーム全体としては、ボールを奪う瞬間のイメージの共有や、ボールの動かし方、ポジショニングなどがよくなっている一方で、フィニッシュの回数やコンビネーション、ゴールネットを揺らすための作業は、まだまだ改善が必要だと感じています。フィニッシュに至る最後の崩しの局面でもっとイメージを共有して、相手ゴールに迫ることを求めたいし、個人の質もまだまだ上げていってもらいたいと思っています」
そのなかでは4-3-3の新システムにも着手。今年最初の公式戦となった2月20日のFUJI XEROX SUPER CUPでも同システムでスタートを切り、時間帯によっては昨年とは違う攻撃の迫力を示した。
「内容として、新シーズンがスタートして取り組んできたものがたくさん出たのはよかったところだと思っています。ただ、相手(川崎フロンターレ)に上回られた瞬間があったのは事実で、そこは改善していく必要がありますし、いろんな基準が見えた試合になりました」
もっともシステムについては、以前から3バック、4バックの併用を含め「相手に応じて柔軟に対応していく」と明言していたことを思えば、4-3-3もあくまでオプションの1つという見方も。ただ、いずれにせよ、そのトライが今シーズン、宮本監督が目指す”変化”を求めたチャレンジであることは間違いない。
その変化とは、”ボールを持っている際のプレーの質の向上”だ。 「昨年はたくさんの選手が試合に絡みながら、勝ち切らなければいけない試合をしっかりモノにしたり、厳しい試合で逆転勝ちをしたり、押し込まれながらも逃げ切ったりと勝負強さを示せたシーズンになったと思っています。そういう意味ではタフになったという手応えを感じられたところもありました。
ただ、試合によっては、悪い流れに歯止めがきかなくなって大量失点につながってしまったという反省もあったし、ボールを保持する力、得点数にも物足りなさを感じました。リーグ戦では2位という成績を残せたものの、昨年はコロナ禍の影響で降格チームがないイレギュラーなシーズンだったことを考えれば、結果だけで推し量れない難しさもありました。
また、順位表を見てのとおり、首位の川崎フロンターレと、それ以外のチームでの争いになったのも否めません。その川崎との差をいかに縮め、追い抜けるのかにトライするためにも、今年はディフェンス面で粘り強く戦うことや、相手からボールを奪う圧力は継続しながら、ボールを持っている時のプレーの質の向上を図りたい。
昨年は、結果的にその時々の自分たちの強みを最大限に生かすために、ダイレクトにゴールを目指すようなサッカーを強調した時期もありましたが、今年は去年の最初にもトライした、自分たちでボールを動かしながら相手陣内に入っていく、それを得点につなげていく攻撃をしたいと思っています」
その狙いを明確に示すべく、今シーズンはリーグの試合数が例年の34試合から38試合に増えることを踏まえて、目標とする勝ち点は「75」に、得点数は「65」に設定した。昨年の反省をもとに、1試合での”複数得点”を睨んだ数字だ。
「昨年は1点差勝利が17試合ありましたが、これは勝負強さを示せたとも言えますし、追加点を取れなかったという見方もできます。実際、試合のラスト10分では、攻め切って追加点を狙うというより、守り切る展開になることが多かった。
もちろん、だからこそ勝ち切れた試合もあるだけに、試合によってはそういう戦い方も大事に考えたいですが、攻撃での成長を求めるためには、後半の途中で2点目を、さらに終盤には3点目を狙えるような戦いを目指したい。サッカーはボールを持つ時間を競うスポーツではないので、ボールを持つことだけに固執したくはないですが、ボールを持つことはチャンスの数をより多く作り出し、守っている時間を減らすことにつながります。
だからこそ、ボールを持ちながら相手をどこまで引きつけられるのか。余裕を持って時間を作り出せるのかを突き詰めていきたいと考えています」
それを実現するべく、今シーズンも新たな戦力を獲得。中盤には2年越しのラブコールとなった韓国代表ボランチ、チュ・セジョンを、前線にはJ1での経験もある点取り屋、レアンドロ・ペレイラやチアゴ・アウベスを加え、期限付き移籍で経験を積んだFW一美和成(横浜FC→)もレンタルバックとなった。
また、代表クラスのセンターバック陣がそろう守備陣にも、明治大学から即戦力と期待されるDF佐藤瑶大を、レンタルバックのGK林瑞輝(レノファ山口→)を加え、さらなる層の厚さを実現した。今シーズンは4年ぶりのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の戦いが待ち受けると考えても、既存の選手を含め心強い顔ぶれがそろったと言えるだろう。
そのACLのグループステージの相手は、全北現代(韓国)、タンピネス・ローバーズFC(シンガポール)、シドニーFC(オーストラリア)に決まった。2月25日にグループステージのマッチスケジュールが発表されたばかりだが、まずもっての目標となる同ステージ突破に向けて、どんな準備を進めていくのだろうか。
「アジアの戦いは、常々”重たさ”を伴います。1対1のぶつかり合いはもちろん、1シーンごとの激しさに”重たさ”があって、それに面食らわないチーム、個人としてのパワーや強度が求められます。
それを、日々の練習から意識づけしていかなければいけないと思っていますが、正直、現時点では『とにかくベストを尽くす』という以外に、多くを伝えることはできません。まずはチームとしてのベースを築いていくことに集中したいと思います」
その言葉を聞く限り、まずは国内のリーグ戦でチーム、個人のパワーアップを図り、新戦力を融合しながらチーム力を高め、それをアジアでの”結果”につなげていくことになりそうだ。その基盤に、今シーズンのスローガン『TOGETHER as ONE』になぞらえたマインドの定着を促しながら。
「ガンバのために、チームの勝利のために戦えるか、走れるか、というハードワークの部分をベースにしながら、選手それぞれの個性をパフォーマンスとして発揮すること。同じ方向を向いて戦えるチームになることが”闘える”集団への成長を促すと考えています。
実際に昨年も、いい戦いができた試合、苦しい展開ながらも勝ち切れた試合は確かにそう言ったマインドが宿っていました。それを継続して出せるチームになっていけるように、”チームのために”というマインドがガンバの根底に流れる血となっていくように、チームづくりを行なっていきたいと思います」
昨年、築き上げた守備力をベースに、クラブアイデンティティでもある”攻撃”でのパワーアップを目指す新シーズン。”宮本ガンバ”としてはその先に、いまだ実現できていない”タイトル”を明確に見据えている。
宮本恒靖(みやもと・つねやす)1977年2月7日生まれ。大阪府出身。現役時代はガンバ大阪、オーストリアのザルツブルク、ヴィッセル神戸でプレー。日本代表でも活躍し、2002年、2006年のワールドカップに出場。2011年に現役引退。その後、ガンバのアカデミーコーチなどを経て、2018年のシーズン途中からトップチームの指揮官に就く。