【明神智和】ボクはこうしてプロになったvol.2|「生活のほぼ全てがサッカー基準」育成年代から意識すべきピッチ外での立ち居振る舞い

プロになるとはどういうことなのか?

ガンバ大阪などで名高い活躍をし、ワールドカップにも出場した元日本代表の明神智和氏。現在はガンバ大阪ユースコーチとして指導者の立場にある同氏が、プロを目指す子どもたちに伝えたいこととは――。

第2弾では、プロになるとはどういうことなのか?また、普段の生活から取り組めること、競技生活を続けていく上で必要なことについて語ってもらった。

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“プロ”とはサッカーが仕事になるということですので、生活のほぼ全てがサッカーを基準に考えなければならない。それまでは、学生だったり、他の生活もありながらのサッカーでしたが、それが全てをサッカーのために費やすようになるということです。

では実際にどんな生活になるかというと、1日の練習では1回2時間ほど。それが2部練になっても4時間です。ただし、それ以外の部分で残りの20時間をどうサッカーに使っていくかということが大きな差になります。

一つはチーム練習以外の個人トレーニングの部分です。

プロを目指すような選手は、身体を鍛えることは当然やっていると思います。筋力をアップする、怪我をしない身体を作る、身体をどう動かすかというボディーコーディネーションを突き詰める。ほかにも疲れをどう取り除くかなど、身体だけのことを考えてもいろんな種類が考えられます。

もちろん各クラブ、チームにフィジカルコーチだったり専門のスタッフがいると思うので、そこで様々な情報やメニューをもらうこともできると思いますし、それとは別に専門でやっている外部の人のところに訪れて取り組む人もいるでしょうし、今の時代であれば、ネットのなかにもそういう情報がたくさん落ちているので、自分が興味あることを取り入れてみる。いろんな方法でトライしてみたら良いと思います。

そこで大切なのは自分に今何が必要で何が足りないのか、それをまず考えることです。ただ、周囲の人がやっているからだけではなくて、自分に本当に必要なものが何かを考えないと長続きしない。

身体のことは、ある程度続けていかないと成果が目に見えてこないので、1週間や1か月続けたくらいではなかなか自分の本当の力にはならない。なので長く続けられるというのは大事なことです。

トレーニングと同様に大切なのは食事と睡眠

身体が資本の仕事ですから、トレーニングと同様に日々積み上げていくものとして大切なのは食事です。

食事はまずしっかり3食摂る。ただ、それはみんながやっていることなので、そのなかでどれだけ差をつけられるか。

疲労を回復するため、身体にエネルギーや力をつけるため、いろいろと意図はあると思うのですが、そこでもなぜこの食事を食べたほうが良いのか、こういう時にはどういうモノを食べたほうが良いのか。必ず栄養素を含めて様々な効果があるので、そこを意識することが大切です。

特に昨年のJリーグであれば、過密日程のなかでハードに試合をこなさないといけないので、どれだけ次の試合までに疲労回復できるか。練習であれば限られた練習しかできないので、睡眠や食事の部分でどれだけ良いものを、何をどのタイミングで獲るというところまで影響してくると思います。

実際に僕が現役の時は、チームの合宿中に栄養士さんを呼んできて、教えてもらう機会もありました。

その一方で、社会人になると様々な付き合いもあって栄養素を摂る、身体をつくるという食事以外の場面もあります。もちろん、ジャンクフードを食べたり、脂っこいものを食べるということもあると思います。

食事にはメンタルの部分も含めてリフレッシュするという側面もあるので、他の人と楽しくワイワイ食事をして気分をリフレッシュするということも大事です。

ただ、すべての生活がサッカーに通じるので、一般の人と同じ食事をしていてはいけないというのは大前提としてありますね。メリハリを自分でしっかりとつけてやらなければいけません。

若い頃はあまり意識しないかもしれませんが、休養や睡眠というのも大きな要素です。

いわゆる“規則正しい生活”をしていたら、朝起きた段階で今日は疲れが残っているのか、調子はどうなのかということを知ることができます。変化があった場合に気付きやすいというメリットがあります。

また、僕も経験があるのですが、年齢を重ねると長く寝れない、寝つきが悪いということもありました。

寝る前に温かいモノを飲むとか、刺激物を少し控える、疲れているのであれば、胃に優しいものを食べるようにする、夜寝る前には水分をどれだけとるか。ベッドや枕の高さや質、部屋の環境、電気をどうするという寝室の環境面。さらには、寝る前に心地よい音楽を聴いた方が良いのかとか、サッカーの事を考えすぎたり、今であれば携帯を見過ぎて脳が起きてしまったり、それであれば、寝る前どれくらいで携帯を見ることを辞めなければいけないかとか、いろんなことを試しました。

やはり同じ睡眠でも、どうせ同じ6時間を寝るなら質の良い睡眠のほうが、3食の食事をするなら必要な栄養素を摂れるほうが良いと考えていました。日頃の生活のなかでどれだけサッカーを中心に考えられるかというのは、ほかの選手たちと差をつけていく上では大事なことではないでしょうか。

どういう選手が長くプロで活躍できるのか?

生活面での積み重ねと同様に、自身がステップアップしていく上で忘れてはならないのが新しい環境への適応です。プロ選手では、チームを移籍したり、遠征に出る、代表に招集されるなどその時々で変化が生じます。

それに適応するには、とにかく会話をして自分を知ってもらう。そして相手を知るというのがまず重要になることです。対話、会話ができるというのは改めて大事なスキルなのだと思いました。

僕自身は、なんでもガンガンとオープンに行ける感じではなかったですけど、ただ、代表に呼ばれたときは、同世代の人が多く、助けられたこともありました。できるだけみんなで行動する時間は部屋に籠らないようにしたり、みんなが集まっている部屋があったらそこに入っていったり、出来る事から広げていきました。自分の部屋で独りでいた方がストレスもないかもしれませんが、そこで一歩自分から踏み出すことは必要です。

代表でご一緒した中山(雅史)さんや、カズ三浦知良)さんはそういう部分も凄かったです。もちろん有名でみんなが知っているというのはあるかもしれないですけど、新しく入ってきた選手に対しても、すごくコミュニケーションをとりますし、いつもオープンなマインドで、明るい感じで入っていける。あの姿を見た時にやっぱりすごいなと感じました。

サッカーの部分ももちろんですが、身体づくりの生活面であったり、普段からの心構えというか人間性の部分もお二人のように長くプロ生活を続けていく上では欠かせないものなのだと気づかされました。

そして、最後に生活や人間性と切り離せないのがメンタルの保ち方です。

今はSNSなどもあって、僕らの時代よりもプレッシャーが強くなっていると思います。オンとオフの切り替えという部分もより意識しなければいけません。

大前提として、プロの世界なので、批判とか注目を浴びるということは受け入れないといけません。お金を払ってプレーを見てもらっているので、そこから逃げることはできないですし、そこに立ち向かえるだけの根っこの部分のしっかりとした意識を持っていないといけないです。

その上で、自分がどう処理していくか。そこにはいろいろと工夫が必要だと思います。プレッシャーに勝っていく為には、日頃からそのプレッシャーを想像して、予測しておかなければならないですし、自分のレベルが上がって、クラブの規模も上がって、注目度が上がれば上がるほど、プレッシャーは強くなるので、そういう世界にいるというのは理解しておかなければいけません。

オンとオフの切り替えを作ることが特に大事になります。僕が現役の時は意図的に頭を切り替える時間を作っていました。これまで話していたことと矛盾している部分かもしれませんが、生活全てをサッカーにと言いながらも、少しだけ頭、身体ともに離れられる時間をつくる。

ゴルフをやったこともありますし、読書や映画鑑賞などもよいでしょう。僕はやったことないですけど、楽器とか弾けたら面白いのかな。頭、脳にも違った刺激もあるのかもしれないですね。

生活面や人間性、メンタルというピッチ外の部分でもしっかりと考えて、取り組んでいる選手が最終的にはプロで長く生き残っていける選手だと実感しています。

日頃のちょっとした習慣からも差がついていくということを、育成年代の時から気付けるかどうか。僕も選手にも伝えていることですし、そこを考え続けて、取り組み続けられる、そういう選手が代表に入って、海外に行って、長くプロで活躍し続けられるというのは間違いないと思います。

【著者プロフィール】 明神智和(みょうじん・ともかず)/1978年1月24日、兵庫県出身。シドニー五輪や日韓W杯でも活躍したMF。黄金の中盤を形成したG大阪では2014年の国内3冠をはじめ数々のタイトル獲得に貢献。現在はガンバ大阪ユースコーチとして活躍中。また、初の著者『徹する力』を2月26日に上梓した。

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