ガンバが韓国王者撃破でACL4強!ラスト15分の混戦を招いた強さと脆さ。 Number Web 9月17日(木)16時1分配信
アウェーゴール方式の妙。第1レグ、第2レグのトータル180分を見通した戦略。国内リーグとの兼ね合い。そして感情。
ACLという大会の魅力が凝縮された戦いになった。
9月16日に行われたアジアチャンピオンズリーグ準々決勝ガンバ大阪vs.全北現代モータース。ロスタイムの米倉恒貴の劇的なゴールにより3-2で勝利 したガンバが、ベスト4進出を決めたゲームだ。8月26日に行われたアウェーの初戦を0-0で終えていたため、2試合合計スコア3-2でガンバ大阪が上 回った。
宇佐美貴史がピッチにいなかった。これがまず、ゲームを展望するにあたって無視できない点だった。アウェーで行われた初戦でイエローカードを貰い、警告累積で出場停止処分となったのだ。
なにせ、相手のチェ・ガンヒ監督の「対宇佐美対策」の執念たるや凄まじいものがあった。初戦を終えた後、「最も警戒すべき相手。ややもすればガンバの攻撃の70%は宇佐美が絡み、構成されている」と口にするほどの存在だったからだ。
実際に初戦では、普段サイドバックで起用される背番号「25」チェ・チョルスンをアンカーに起用。宇佐美をマンツーマンでマークする役割を与えた。“宇 佐美用の超特別対策”ともいえる戦い方に、韓国メディアから「Kリーグ王者にしては守備的ではないか」という不満が出た。しかしチェ監督は「大量スコアで 勝てればいいが、相手も強いチーム。ホームで失点しないことも大切なこと」と言い切った。全北にとっては、「初戦で勝ち切れなかった点は悔やまれる」が、 アウェーゴールのルールを考えると「0-0だったのは悪くない」というところだった。
しかし、この日の万博のピッチには初戦と同じアンカーの姿があった。
全北は宇佐美が欠場したにもかかわらず、本来サイドバックのチェ・チョルスンをアンカーに起用したのだ。
前日会見でチェ監督が「本来のサイドでの起用」もほのめかしていたにもかかわらず。
「宇佐美の替わりに(初戦では途中出場だった)倉田が出てくるだろう、と予想した。彼もかなりの力量を持った選手。だからマンツーマンで抑える必要があった。リーグ戦で本来のボランチが一人骨折してしまったという背景もあった」(チェ・ガンヒ監督、試合後に)
チェ監督は、右サイドバックに本来CBタイプのキム・ギヒを起用する策も用いた。韓国メディア内では「第2戦のカードはどう切る? と注目を集めていただけに、なおさら意外に感じられた「守備的」なやりかただった。
いっぽうでチェ監督は、国内リーグの直近のゲームでエースの左MFレオナルドのプレーを30分だけに抑えた。休養をしっかりと与え、この戦いに臨んだ。「選手ともこの日に向けて本当に多くの話をしてきた」というほどの重要なゲームだったのだ。
それほどにガンバ大阪は相手をナーバスにさせていた、ということでもある。
ゲームは“全北有利”の状況で進んだ。
ガンバは13分に不運なハンドの判定のPKから失点を喫してしまう。直後の14分にFKから相手のオフサイドトラップのかけ損ないを突き、阿部浩之から の折り返しをパトリックが決め、1-1の同点に追いついたが、まだまだ全北が有利だった。アウェーでゴールを決めたため、2試合連続で引き分けの場合は、 全北に勝ち上がりの権利が与えられる。
それでもガンバは、後半31分に倉田秋のミドルシュートで勝ち越しを決める。2戦を通じて初めて、勝ち上がりに優位な位置につけたのだ。
これは、前半から相手の守備陣形を崩すために細かい「仕込み」を続けてきた成果ではなかったか。
倉田自身は試合後、相手がアンカーを起用してきた守備的布陣を上手く利用したことを明らかにしている。
「フタさん(この日先発した二川孝広)と一緒に話し合って、ポジションを変えながら相手の中盤のスペースを“空ける”ようにしたんです。そこをパトリックなどにうまく使って欲しいなと」
つまりは、マンマーク役を担ったチェ・チョルスンを困惑させながらDFラインに吸収させるようなポジションを取らせる。すると相手のボランチのライン が、17番のイ・ジェソン1人だけ残った状態になる。イは本来攻撃的な選手なだけに、DFライン手前のスペースは有効活用できる、ということだ。
このスペースを倉田自身が最高の形で使い切った。
ゴールシーンではチェが守備ラインに吸収された状態で、中盤後方からの遠藤保仁のパスを受けた。この段階で、もうひとりのボランチ、イ・ジェソンの横をボールが通過していた。
倉田は相手のマークを外していたうえに、DFラインの手前にはたっぷりとしたスペースと、シュートを振りぬく時間さえあったのだ。
試合後、片野坂知宏コーチも「ピッチ上の選手がうまく話し合いながら、相手ボランチのスペースを使ってくれていた」と口にした。
相手の「守備的に戦う」という狙いを打ち破った瞬間だった。
しかしその後は、結果がどう転ぶか読めない展開になった。
「2-1で終わらせるべき試合だった」と、長谷川健太監督が振り返った通り、残り時間15分のゲームをうまくクローズできなかったのだ。これはガンバにも全北にも言えることだった(それはそれで見ていて楽しい展開でもあったのだが)。
2-1となった時点で、全北はなりふり構わず攻撃に出てきた。
79分にはCBのキム・ヒョンイルに替えFWウルコ・ベラを投入。85分にはCBアレックス・ウィルキンソンに替えてFWキム・ドンチャンを送り出した。
ピッチ上にDFがほとんどいない状態になった。チェ監督曰く「パトリックにだけマークをつけ、後は攻撃を考えた。リーグ戦でも2度ほど使ったことのあるやり方」だった。
これが功を奏し、88分に右サイドからのセンタリングをウルコ・ベラが決めた。このゴールで、再び全北が次のステージに進む権利を得た。
しかし――劇的な結末は、アディッショナルタイムの93分に訪れた。
遠藤からのパスをフリーだった金正也が受けると、「DFとは思えない華麗なボールコントロール」(遠藤)を見せ、米倉にパス。これを「後半の途中から前 目のポジションを取るよう指示を受けていた」という米倉が決め決勝ゴール。途中出場の2人が決定的な仕事をやってのけたのだった。
遠藤は試合をこう振り返った。
「満足はしていない。試合のラストプレーで決着がつくようなことは本来はしたくはないが、結果が出たことはよかったと思っている」
たしかに、この先の戦いを考えても残り15分間の試合運びは課題として残った。15分は「クローズする」という発想を持つには多少長い時間だとしても、88分の失点は余計だった。
今季、アジアを舞台としたガンバ大阪の一連の戦いぶりは、“ACL日韓対決ウォッチャー”として見ると、こんな風に感じられた。
3月、グループリーグにて。城南FC戦で「らしさ」を発揮できず敗れた。
5月、決勝トーナメント1回戦にて。FCソウル戦で「らしさ」を発揮して勝った。
9月、準々決勝にて。全北現代戦で「らしさ」を発揮できずとも勝てた。
日韓のクラブ双方が、この大会にかける強い想いをもっており、感情を剥き出しにして戦ったからこれほどの熱戦が生まれたのだ。これらのゲームにはもうひとつ、「興奮」というキーワードがあったのだと思う。
全北のチェ・ガンヒ監督は「先制点をPKで挙げた直後、選手が“興奮”しすぎてしまった。これが原因で失点した点が残念。セットプレーに冷静な対応が出来ていなかった」と悔やんだ。
一方の長谷川健太監督は、前日会見で「相手チームにも日本語通訳がいるし、スタメン関連の情報はノーコメント」とピリピリとした雰囲気を作り出した。一 方、試合終了間際には劇的な決勝ゴールに“興奮”するあまりピッチに足を踏み入れてしまい、主審から退席処分を下されてしまった。
強いだけじゃない。崩れそうになり、感情も剥き出しにする。そんなガンバ大阪の魅力も感じられたゲームでもあったのだ。
準決勝では中国の広州恒大と対戦する。9月30日にアウェー、10月21日にホームでの戦いが待っている。この秋の日本サッカー界最大のビッグマッチのひとつだともいえる。
ガンバの戦いぶりを頭の片隅に置いておくと、Jリーグも観戦の楽しみがより深まる。これは間違いないことだ。