“大満足”の補強となったチームも! J1ストーブリーグ通信簿2021〈dot.〉
Jリーグのシーズン開幕まで残りわずか。コロナ禍での調整、対策、影響を受けながらも、J1は2月26日の開幕から12月4日の最終節まで長丁場の熾烈な戦いが続く。昨季はシーズン中断の後の過密日程の中、川崎が圧倒的な強さを見せてJリーグ史上最速優勝を達成。迎える今季、「ストップ・ザ・川崎」のチームは現れるのか。4チーム自動降格という残留争いはどうなるのか。J1全クラブのオフシーズンの選手補強を査定(良い方からA・B・C・D・Eの五段階)し、3日間にわけて紹介する。今回は横浜FM、横浜FC、湘南、清水、名古屋、G大阪、C大阪の7チーム。
■横浜FM「D」
2019年に15年ぶりの優勝を飾るも、昨季は9位。巻き返しへ向け、高い個人技を駆使して左サイドからチャンスを生み出すFWエウベル(←バイーア)、2016年にJ3琉球でプレーした経験を持つFWレオ・セアラ(←ヴィトーリア)の外国人に加え、五輪代表候補で2019年6月のコパ・アメリカでフル代表デビューも飾った右SB岩田智輝を獲得した。その他、GK田川知樹(←興国高)、DF平井駿助(←興国高)、MF樺山諒乃介(←興國高)、MF南拓都(←興國高)と同じ高校から新人4人を獲得。特に樺山の技術、攻撃センスは非常に高く1年目でのデビューも期待できる。
だが、ともに昨季チームトップの13ゴールを決めたFWジュニオール・サントスとFWエリキの2人がレンタル終了に伴って退団したことは大きなマイナス。新たに加わったエウベルとレオ・セアラが、最低でも彼らと同等の働きを見せることができなければ、必然的にチームの戦力値は低下することになる。その意味でも、緊急事態宣言延長の影響でエウベルの来日が遅れていることは誤算だ。ポステコグルー監督の続投でチームが大崩れする心配はないだろうが、覇権奪回を目指すには物足りない。
■横浜FC「D」
昨季15位で、今季の目標は残留&トップ10入り。オフは積極的に動き、10人を超える新加入選手を迎え入れた。注目はFW陣。J1通算351試合100得点の34歳FW渡辺千真(←G大阪)、J1通算223試合45得点の32歳FW伊藤翔(←鹿島)、さらに元ブラジル代表でJ2通算65試合24得点のクレーベ(←千葉)の実績のあるストライカーたちを加え、絶賛成長中のFWジャーメイン良(←仙台)、右サイドMFを任されることになることが予想されるFW小川慶治朗(←神戸)、経験豊富なボランチで日本代表入りの経験もあるMF高橋秀人(←鳥栖)といった面々を迎え入れた。
しかし、放出メンバーも多く、一美和成、斉藤光毅、皆川佑介、瀬沼優司のFW陣に加え、DF志知孝明、DF小林友希、MF中山克広、MF佐藤謙介といった主力クラスが大量流出。トータル的には “上積み”というよりも“入れ替え”の様相を呈しており、戦力値的には“横ばい”がいいところ。成長過程だった23歳の一美と19歳の斉藤の2人の代わりがオーバー30のベテランFW陣ではフレッシュさに欠ける。故障、コンディション面を考えても、長いシーズンを戦い抜けるかどうか。大きな不安を抱えている。
■湘南「E」
昨季18チーム中18位の最下位。チームの立て直しが必須という状況の中、FW陣ではウェリントン(←ボタフォゴ)、町野修斗(←北九州)、池田昌生(←福島)、MFの選手ではウェリントン・ジュニオール(←ポルティモネンセ)、中村駿(←山形)、高橋諒(←松本)、名古新太郎(←鹿島)、さらにDF山本脩斗(←鹿島)、GK立川小太郎(←長野)と大量補強。大卒新人の平松昇(←立正大)も含め、伸びしろのある若手日本人選手を多く獲得した点は期待が持てる。だが、J1経験のない選手が多く、現時点でどこまで通用するかは未知数。“2人のウェリントン”に期待したいが、新型コロナの影響で合流が遅れている。
それ以上に目立つのが、退団した面々。毎年のことではあるが、今オフも他クラブの草刈り場となり、MF金子大毅、MF齊藤未月、MF松田天馬、MF鈴木冬一、DF 坂圭祐という主力たちが、他クラブに引き抜かれる形で次々とクラブを去った。戦術的にも中核を担っていた選手たちであり、自慢の“湘南スタイル”も風前の灯だと言える。大量補強で数は揃えたが、戦力値はマイナス。新戦力が台頭する土壌があり、新スター誕生に期待したいところだが……。
■清水「A」
名将ロティーナを迎え入れた今季、主力の残留に成功すると同時に多くの実力者を大量に補強し、過去2年の低迷から一気に上位進出を伺う構えだ。GKは日本代表で実力に疑いの余地がない権田修一(←ポルティモネンセ)、CBに新リーダーとして期待される28歳DF鈴木義宜(←大分)、左SBに昨季ロティーナの下で32試合に出場したDF片山瑛一(C大阪)、中盤にも東京五輪代表候補で様々なポジションをこなせるマルチMF原輝騎(←鳥栖)、右サイドの仕掛け人であるMF中山克広(←横浜FC)と主力級を補強。FW陣も今季ポルトガル1部で9試合7ゴールと爆発していた左利きのブラジル人チアゴ・サンタナ(サンタ・クララ)が加入し、他にも、指宿洋史(←湘南)、ディサロ燦シルヴァーノ(←北九州)と控えの確保にも余念がなかった。
懸念は連携不足になるが、試合を重ねることで解決されるはず。守備組織の構築はロティーナ監督のお手の物で、権田の存在は非常に心強い。安定した守備を手に入れ、10番を背負って昨季10得点を挙げたカルリーニョス・ジュニオと新加入のチアゴ・サンタナの2トップが機能すれば、台風の目となれるはず。その可能性を感じさせる大満足のオフを過ごした。
■名古屋「A」
昨季3位でACL出場権を得たチームは今オフ、周囲を驚かせる補強を次々と成功させた。新エース候補として天才FW柿谷曜一朗(←C大阪)、新たな切り札としてMF齋藤学(←川崎)、攻守において確実に貢献できるMF長澤和輝(←浦和)と元日本代表3人を獲得。さらにCBとボランチでプレー可能なDF木本恭生(←C大阪)、左右両サイドをこなすDF森下龍矢(←鳥栖)という実力者も確保し、組み合わせのバリエーションは大きく増加。レンタルで加入中だった金崎夢生も完全移籍で獲得した。
チームを去った戦力も、MFジョアン・シミッチ、MF長谷川アーリアジャスール、DFオ・ジェソクとわずか。守備ベースは昨季から変わらず、そこに“違い”を生み出せるタレントたちが加わったことで、チーム全体がどのような化学反応を引き起こすかが非常に楽しみ。戦力値は間違いなくアップし、特に柿谷と齋藤の2人は前所属チームでは不遇をかこっていただけに、新天地でのモチベーションも人一倍。新たな刺激と2チーム分の戦力を持って、堂々とJの優勝争いとACLに挑戦できるはずだ。
■G大阪「A」
昨季2位のチームが目指すものは頂点のみ。宮本恒靖監督の下でチームとしての継続性を保った上で、高さとパワーを持つ大型FWレアンドロ・ペレイラ(←広島)、強烈な左足を持ち、右サイドでもプレー可能なFWチアゴ・アウベス(←鳥栖)とJリーグで実績のあるブラジル人2人を獲得して前線のバリエーションを増やした。現役韓国代表で2018年のロシアW杯にも出場したMFチュ・セジョン(←FCソウル)が中盤の強度を上げる。アデミウソンが予期せぬ形でチームを去ったが、その穴は埋まり、さらにパワーアップしたと言える。
主力勢ではFW渡辺千真がチームを去ったが、代わりに東京五輪世代のFW一美和成(←横浜FC)がレンタル先で成長して3年ぶりに復帰。新人はDF佐藤瑶大(←明治大)のみで、U-23チームの解散もあって将来性のある多くの若手たちが他チームに移籍したことは残念だが、トップチームの陣容を見れば致し方なし。さらに元アーセナルのブラジル人MFウェリントン・シウバとの合意報道もあり、この実力者の加入が正式に決まれば、2014年以来のリーグ制覇への準備は整い、2008年以来のアジア制覇への期待も高まることになる。
■C大阪「D」
昨季4位ながら監督も含めて多くの選手が入れ替わり、判断が分かれる不可解なオフを過ごした。獲得した面々を見ると、決して悪くはない。オーストラリア代表のFWアダム・タガード(←水原三星)、ブラジル人CBのチアゴ(←セアラーSC)の外国人2人に加え、2019年に日本代表選出経験のあるCB進藤亮佑(←札幌)、ボランチの位置で高いゲームメイク能力を発揮するMF原川力(←鳥栖)、豊富な運動力で攻撃を活性化するFW松田力(←甲府)、昨季J2で13得点を挙げたFW加藤陸次樹(←金沢)、そして歴代最多のJ1通算185得点のFW大久保嘉人(←東京V)が15年ぶりに復帰。東京五輪候補になるMF松本泰志(←広島)も期限付きで獲得し、確実にチームに貢献できる面々を揃えたと言える。
しかし、その代わりに放出した面々が、守備の要だったDFマテイ・ヨニッチを筆頭に、DF木本恭生、MFレアンドロ・デサバト、そしてFW柿谷曜一朗という実力者たち。何より、彼ら以外も含めてチームの半分が新加入選手という点が、昨季4位のチームとしてはいかがなものか。賞味期限切れの疑いがあるクルピ監督の再々就任も含めて、気がかりな部分が多いオフだと言える。