ガンバは遠藤時代から宇佐美時代へ。「今の貴史はチームが勝つために」
ホームで行われたリーグ戦の大阪ダービーでは、実に17年ぶりの黒星を喫したガンバ大阪。スコアこそ最少得点差の1対2だったが、昨季リーグ最少失点のセレッソ大阪に完敗を喫した格好だった。
4カ月前の開幕戦では前年王者の横浜F・マリノスを撃破し、9年ぶりの開幕白星スタートを切ったが、コロナ禍による中断期間は明らかにマイナスに働いた感がある。
「昨シーズンからロティーナ監督のもとでソリッドなサッカーをしている」堅守のセレッソ大阪を崩しきるのが、一筋縄ではいかない作業なのは宮本恒靖監督も承知済み。だからこそ、守備のリスクに目をつむりながら、遠藤保仁をアンカーに起用し、あえて井手口陽介をベンチスタートさせる攻撃的な布陣で選手を送り込んだはずだったが、選手たちのコンディションのばらつきは否めなかった。
両サポーターの熱気を欠くリモートマッチに加えて、4カ月ぶりの公式戦とあって両者が互いに探り合うような慎重な試合の入りを見せたのはやむを得ないところだが、技巧派の選手たちがトラップのズレや、ボールタッチの狂いを見せたことも、テンポアップの妨げとなっていた。
「コンディションには自信がある」
そんなガンバ大阪の中で、違いを見せていたのが宇佐美貴史である。
中盤でタメを作りながら抜群のロングキックの精度で散らし役に徹していた背番号33は、28分、右サイドから切り込み右足を振り抜く。強烈な一撃は木本恭生の体に当たってコースを変えポストを直撃する。
後半はインサイドハーフにポジションを変えたこともあり、シュート1本に終わった宇佐美だが、走行距離は藤春廣輝と小野瀬康介に次ぐチーム3位。グループ別での部分練習が再開された5月末、オンライン取材で口にしていた自信が決して嘘ではなかったことを数字で裏付けたのだ。
「コンディションには自信がある。2カ月空いている間も1人でメニューを組んでみっちりやっていたし、ボールタッチの感覚とか、走力、心肺機能の状態はチームの中でも上位にいる自信はある」
かつてはオン・ザ・ボールでこそ持ち味が発揮されるプレーヤーだったが、自らがガンバ大阪への復帰会見で「2度目も個人的にはダメだった」と言い切ったドイツでの経験は、確実に宇佐美の血となり肉となっていた。
キャンプ最終日に見せた泥臭い姿勢。
宇佐美の内面の変化を端的に物語る印象的なプレーがある。
今年の沖縄キャンプの最終日となる2月1日、練習試合で京都サンガ相手に4得点を叩き出した宇佐美だが、最前線で見せたのはアリバイ守備ではない猛烈なプレスと、時に豪快なスライディングも厭わない献身的な姿勢だった。
エースとしてゴールを量産し残留争いに貢献した宇佐美は、ここぞという場面ではプレスバックでも泥臭くプレー。その真意を今年2月、こう明かしてくれたことがある。
「後ろの選手は無駄なくできるだけ小さなモーションでボールを奪うことが大事だけど、前の選手は大げさなぐらいでいいと、ドイツで監督も言っていた。前の選手がスライディングで止めたり、激しくタックルしてボールを奪って相手の攻撃を遅らせたりするプレーには意味がある。大げさなぐらい、1つのアクションでチームにいい流れをもたらせる」
生粋のサッカー小僧で、時に関西人らしい毒舌でチームを盛り上げてきた「やんちゃ坊主」だった宇佐美だが、28歳にしてプロ12年目を迎えた今、明らかにチームリーダーとしての自覚を見せている。
「強いチームにはいい中堅がいる。プレーでチームを引っ張りたい」
40歳の遠藤も感じる宇佐美の変化。
17歳でトップデビューを飾った当時から宇佐美を知り、良き先輩として支えてきた遠藤保仁も昨季から宇佐美が見せてきた変化を感じ取るひとりである。
「若い頃は自分がいいプレーをすることを意識していたかもしれないけど、今の貴史はチームが勝つためのプレーをしている」
セレッソ大阪戦でJ1最多となる632試合出場を果たした遠藤は、長らくガンバ大阪の顔であり、そしてそのサッカー観がチームのスタイルに絶大な影響を与えてきた。
しかしながら、Jリーグが誇る鉄人も40歳。コロナ禍の影響で過去にない過密日程が待ち受ける今季、もはや全ての試合で背番号7に頼ることは不可能だ。
大記録の達成前、遠藤も自らの立ち位置を冷静に見つめていた。
「日程の計算みたいなのはしていないけど、全部の試合に出るのは多分、無理なので」
宇佐美がゴールを奪えば勝てる。
過去4年、無冠の日々が続き、かつての攻撃サッカーの雄はスタイル再構築の真っ只中にある。今のガンバ大阪に欠かせないのは、心身ともにタフさを見せはじめている宇佐美貴史という攻撃の軸である。
数字は雄弁だ。4勝1敗で乗り切った昨季の終盤5試合で宇佐美は計5得点。公式戦1勝2敗のスタートを切った今季、まだ和製エースのゴールは生まれていないのだ。
「今季は特に難しさも今までと違うものがあるが、その中でもタイトルを取れたら、すごくタフなシーズンを乗り切ったということだし、個人的にもタフになれる。自分にとってもチームにとっても成長するためにはしっかりと結果を出すことが必要」
遠藤の時代から宇佐美の時代へ――。やんちゃさも魅力だった「ガンバの王子さま」は今、王位継承者としての資格を確かに備えている。