代償多いJリーグの新型コロナ共存「東西分離再開」「過密日程」…クラブ間の不公平感とドル箱カードの喪失も

新型コロナウイルスの影響を受けて2月下旬から中断していた各公式戦の再開後の新たなスケジュールが、15日にJリーグから発表された。

J2再開とJ3開幕を今月27日に、J1再開を7月4日に迎えるリーグ戦はJ1が12月19日に、J2およびJ3が同20日にそれぞれ最終節を迎えるスケジュールのなかで、予定しているすべてのカードの成立を目指す。特にJ1は大会方式を大幅に変えたYBCルヴァンカップも並行して行われるため、4カ月あまりにおよんだ中断期間がさまざまな代償を伴わせる過密日程となった。

まず懸念されるのは「予備日」の少なさだ。
Jリーグは例年、台風を含めた気象条件などで試合が延期された場合に備えて、シーズンの後半部分に予備日を設けている。通常は平日の水曜日があてられるなかで、再編されたJ1の日程で空いている水曜日は、9月以降に限れば8日となっている。

Jリーグの村井満チェアマン、再開後の試合日程を各クラブと協議するプロジェクトチームのリーダーを務めてきた黒田卓志フットボール本部長は、予備日の数について異口同音に「潤沢には取れない状況にある」と言及していた。特に村井チェアマンは「新型コロナウイルスの特徴を考えると、第二波、第三波も考えられるという認識でいます」と再開後への懸念も示していた。

秋には第二波が襲来すると指摘されているなかで、今後の感染状況次第では試合を延期せざるをえない地域も出てくるおそれがある。加えて台風を含めた気象条件だけでなく、グループリーグの途中から中断されているAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の再開にも対応しなければならない。
アジアサッカー連盟(AFC)は今月に入って、ACLに関して残された99試合すべてを実施する基本方針を、出場各国と確認したと発表している。日本からはJ1王者の横浜F・マリノス、同2位のFC東京、天皇杯覇者のヴィッセル神戸が出場し、それぞれのグループで首位に立っている。

ただ、Jリーグの新たな日程にはACLのスケジュールは反映されていない。ACLが再開されてJクラブ勢が勝ち進んだときには、再編された日程と重複する可能性もある。その場合にも予備日があてがわれるが、ACLは国境をまたいでの移動を伴うだけに不確定要素も多く、村井チェアマンもこう言及するにとどめていた。

「まずはJリーグとして大会の在り方を議論します。同時進行の要素があると思っています」

新型コロナウイルスという未知の敵を前にして、Jリーグはこれまで「走りながら考える」を合言葉として、その時点でのベストを協議してきた。ACLが再開される状況は、新型コロナウイルスの感染が落ち着き、サッカー界を取り巻く環境がさらによくなることを意味するだけに、臨機応変に対応していく覚悟を決めている。

Jリーグは同時に「ひとつの結論に至れば、小異を捨てて大同に就く」という方針も共有してきた。
小異のなかにはクラブ間の不公平感も含まれる。例えば今月に入ってFW金崎夢生、GKミッチェル・ランゲラックが新型コロナウイルスに感染し、12日までチーム全体の活動休止を余儀なくされた名古屋グランパスも、敵地で行われる清水エスパルス戦から他のクラブと同じ日程で再開に臨む。

移動で生じる感染リスクを減らすため、7月いっぱいはすべてのカテゴリーでクラブを東西に分けて、近隣クラブ同士の対戦を優先させた。対戦カードは「日程くん」の愛称で知られる、競技日程を自動作成するソフトでプログラミングされるが、今回は「例外」となる条件も入力されている。

ホームとアウェイを交互に戦う日程が原則とされるなかで、北海道コンサドーレ札幌は再開初戦から横浜FC、鹿島アントラーズ、湘南ベルマーレ、ベガルタ仙台と4試合連続のアウェイ戦が組まれた。
千葉市美浜区に完成した日本代表の新たな練習施設「高円宮記念 JFA夢フィールド」を拠点として今月22日から1カ月弱の長期キャンプを張り、それぞれのアウェイ戦へ臨むことが決まった。

異例のスケジュールはコンサドーレだけでなく、札幌ドームで開催した場合にビジターチームにも生じるリスクが考慮されたからに他ならない。こうした状況に日本サッカー協会(JFA)も協力し、日本代表チームに先んじて「JFA夢フィールド」を使用できる状況が生まれた。コンサドーレも公式ホームページ上で「御礼」と記した上で、サッカー協会への感謝の思いを綴っている。

「新型コロナウイルス感染症による困難を乗り越え、サッカーファミリー全体でリーグ戦再開に向かっていく中、完成して間もない代表チーム練習施設の使用を許可していただきました。この度の日本サッカー協会のご理解とご協力に感謝いたします。」(原文のまま)

コンサドーレは12月12日以降の最後の3節も大分トリニータ、FC東京、浦和レッズとすべて敵地で戦う。北海道が降雪に見舞われ、屋外での練習ができなくなるリスクが考慮されたもので、J2のモンテディオ山形とアルビレックス新潟は最後の2節を、J3のヴァンラーレ八戸、ブラウブリッツ秋田、いわてグルージャ盛岡も最後の3節を、同様にすべて敵地で戦うスケジュールが組まれている。

不公平感はピッチ上だけに生じるわけではない。
国内の球技リーグで構成される日本トップリーグ連携機構がSNS上で公募し、この日にポジティブな意味合いを込めて「リモートマッチ」と命名された無観客試合を、再開されるJリーグは各カテゴリーで2節ずつ行うことになる。

東西に分かれて対戦カードが組まれたなかで、例えばガンバ大阪は再開初戦でホームのパナソニックスタジアム吹田にセレッソ大阪を迎える。昨シーズンは3万5861人が集まるなど、毎年盛り上がりを見せる「大阪ダービー」における、1億円ともいわれる売り上げがすべて失われることになる。

同じく「リモートマッチ」となる来月8日の第3節では、サガン鳥栖がホームの駅前不動産スタジアムにヴィッセル神戸を迎える。スペイン代表とFCバルセロナで一時代を築きあげた希代のプレーメイカー、アンドレス・イニエスタが加入してからのヴィッセルはホームだけでなく、ビジターで訪れる敵地のスタジアムのスタンドも大勢のファン・サポーターで埋めてきた。

例えば昨シーズンは鹿島アントラーズや浦和レッズなど7つのクラブが、イニエスタ効果のもとで最多観客数を記録している。サガンもそのひとつで、フェルナンド・トーレスの引退マッチでもあった昨年8月23日に昨シーズン最多だけでなく、歴代でも2番目に多い2万3055人を記録している。

昨年度決算で20億円を超える赤字を計上したサガンはいま、身の丈に合った経営のもとで再建途上にある。ドル箱となるヴィッセル戦が「リモートマッチ」となるのは、入場料収入を考えればかなりの痛手になる。それでも「日程くん」により弾き出されたカードのもと、すべてのクラブが「小異を捨てて大同に就く」という思いを織り込みながら、コロナ禍の先にある未来へ向かっていく。

ただ、不測の事態が起こりうることも見越して、今回は対戦カードこそ最終節まですべて発表されたものの、日付やキックオフ時間、試合会場などの詳細が記されたのは8月末までとなった。9月以降に関しては新型コロナウイルスの状況も踏まえながら、8月初旬と10月初旬の2回に分けて発表される。

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