遠藤保仁が望むスタイルの確立とは。 10年先を考えたガンバの改革
一昨年9位、昨年は7位――。ここ2年のガンバ大阪の成績である。
結果だけ見ると共に中位だが、実際は残留争いに巻き込まれ、この2シーズンを含めて4年連続で無冠に終わっている。常に優勝争いに絡むことが求められるチームだけに、その成績はやはり不本意と言えるものだろう。
今シーズン、ガンバは昨年の堅守速攻から、ハイプレスで攻撃的に戦うことを打ち出した。今季、ガンバで20年目のシーズンを迎える遠藤保仁は、その攻撃的スタイルを確立すべく意欲的に取り組んでいる。
「ガンバは攻撃的なチームとして(みんなに)浸透していると思います。僕も、そういうガンバで育ってきましたし。今年は、攻撃的な自分らのスタイルを確立していきたいですね」
遠藤が攻撃的なチーム、独自のスタイルの確立にこだわっているのは、ガンバが伝統的に攻撃に特化したチームであり、その時に強さを発揮してきたからだ。
また、ここ数年、川崎フロンターレや横浜F・マリノスをはじめ、スタイルを確立したチームが優勝しているからでもある。ガンバはここ2年、残留争いの中、J1に生き残ることが目標になり、スタイルを確立するまでには至らなかった。昨年のマリノスの優勝を見た遠藤は、あらためてチームスタイルの重要性を認識したという。
「マリノスは、一昨年は残留争いをしていたけど、最後までリスクを負った攻撃的なスタイルを貫いた。それをブレずに突きつめて、スタイルを確立し、昨年それが実を結んだ。FC東京やフロンターレのサッカーも『こうだ』っていうのを説明できる。昨年、J1に昇格した大分(トリニータ)が、なぜあそこまで戦えたのかというと、片野坂(知宏)監督が攻撃的なスタイルを貫いたから。あのメンバーで守備的な戦いをしたら、たぶんJ2に落ちていたと思う。
上位のチーム、結果を残しているチームは、自分らのスタイルを持っているんですよ。下位で戦力的に乏しいチームも、残留するためのやり方を徹底しているので、ある意味スタイルを持っている。ガンバは、ここ2年、勝たないといけない、残留しないといけないというのが大きくて、自分たちのスタイルを確立しきれなかったですね」
遠藤の言葉からは、ガンバらしいサッカーを確立できないもどかしさ、それと同時に強いガンバのサッカーの取り戻したいという強い意欲が感じられる。では、遠藤が考えるガンバのサッカーとは、どういうものなのだろうか。
「ガンバ本来のサッカーは、ビルドアップからしっかりと組み立てて、きちんとポゼッションしながら相手を押し込んでいく、相手を支配していくスタイルだと思う。そういうサッカーをしている時のガンバがいちばん強かった。ただ、現代のサッカーは、速く攻めるのが主流ですからね。その武器をしっかりと持ちつつ、ボールを保持して攻撃していく。そのふたつを融合させたサッカーがガンバのスタイルだと思うし、それを今年、確立するのが最大のテーマだと思ってます」
遠藤が攻撃的スタイルを熱望しても、それを実践できる選手がいないと確立はできない。2005年、超攻撃的なサッカーでリーグ優勝を果たした時は、攻撃能力の高い選手が多かった。今年は、幸いなことにそのスタイルを実現できるだけの面子が揃っている。
「うちのメンバーの顔触れを見ると、攻撃的な選手が多い。その破壊力は、リーグでも1、2を争うぐらいの迫力を持っている。最初は攻撃的なスタイルがうまくいかなくても、我慢して続けていけば結果は出ると思うし、結果が出るメンバーが揃っている。その武器は使うべき。今シーズンはチームとして、それを活かして攻撃的にいく方針なので、個人的にはかなり楽しみ」
そう言って、遠藤は表情を緩めた。
2年前、レヴィー・クルピ監督の後任になった宮本恒靖監督が、チームを立て直すために着手したのが守備の修正だった。それが功を奏し、9連勝して残留争いから脱した。
昨年もその結果を踏まえて守備的なサッカーを継承したが、前半戦から躓き、残留争いに陥った。光明が見えたのは、シーズン終盤だった。30節の湘南ベルマーレ戦で、ガンバはそれまでの鬱憤を晴らすような攻撃的なサッカーを見せ、勝ち切った。ラスト3試合は3連勝で終え、7位まで順位を上げた。その戦いをキッカケに、今年はより攻撃的な方向に舵を切ったわけだが、湘南戦からの遠藤のプレーは圧巻だった。
「湘南戦から攻撃的にいって、よくなった。(宇佐美)貴史の調子がだいぶ上がってきていたし、みんなの調子もよかったので、前で楽しくやれた。そういう攻撃的なサッカーをするのであれば自分は生きる。でも、守備的に戦うサッカーやったら自分は生きないと割り切っていた。
試合に出る、出ないは監督が決めることだし、自分は出られなくても腐ることはなかった。『出たらやります』っていう気持ちはいつも持っていたし、紅白戦とかでスタメン組を負かして、『自分はこれだけできます』っていうのを見せないといけないと、いつも思っていました」
昨年は、28試合に出場し、そのうち先発は20試合だった。今シーズン、ガンバが攻撃的に戦うのであれば出番が増えそうだが、遠藤自身はどう考えているのだろうか。
「試合に出ても、出られなくても、コンディションは常にいい状態に保っておきたい。昨年はずっとよかったので。ただ、俺くらいの年齢(40歳)になると、何か悪いプレーをするとすぐ『年齢が原因だ』って言われますからね。それは、この年齢になるとつきまとう問題だから仕方ないけど、いまだに『運動量が少ない』と言われる。
僕は、チームで2、3番目に走っているし(試合中の走行距離)、何をもって運動量が少ないと言っているのかな? と思ってます(笑)。まあ、自分が攻撃を全部仕切るという年齢でもないので、どこでパワーを出すのかを考えて、周囲の選手をうまく使って攻撃していきたい。助け合いの精神で(笑)」
今年確立しようとしている、ハイプレスから素早く攻撃に転じるサッカーだけでは、リーグ戦を勝ち抜くことは難しいだろう。攻撃の手段をより多く保持しているチームが優勝を争うことになるが、遠藤はアイデアが豊富で、決定的かつ気の利いたプレーができる選手。今季もチームにとって欠かせない存在になるのは間違いない。
いよいよリーグ戦が開幕する。
今シーズンも選手の移籍が多く、上位チームの横浜F・マリノス、鹿島アントラーズ、FC東京、そしてJ1昇格組の柏レイソルは、積極的に選手補強に動いた。ガンバも昌子源を獲得し、さらに補強を継続中だが、遠藤は今年のリーグ戦をどう見ているだろうか。
「昨年、上位チームだったマリノス、FC東京、アントラーズ、フロンターレあたりは今年も上位に来るでしょうね。きちんと補強しているし、スタイルも確立されている。ただ、マリノスは久しぶりにACL(AFCチャンピオンズリーグ)を戦うし、(ヴィッセル)神戸は初めて。その影響は出てくると思います。そういう面で言えば、今年はフロンターレが優位かな。一昨年はフロンターレが連覇を達成して、昨年はマリノスが優勝した。個人的には、今年はどんなスタイルのチームが出てくるのか、すごく楽しみにしています」
独自のスタイルを持った強豪チームは、今年もかなり手ごわい。ガンバが名門復活を遂げるには、そうしたチームを打ち負かし、タイトルを獲得しなければならない。
遠藤は言う。
「監督が『タイトル獲得』と言っているとおり、それが今シーズンの自分らの目標。ただここ2年間、残留争いをしてきたし、昨年7位のチームなので、あまり大きなことは言えない。現実的に、みんなガンバは中位ぐらいの予想でしょ? それはここ2年の成績を考えれば当然だと思います。
でも、戦力的に見れば、優勝できるぐらいの選手は揃っている。昨年、マリノスが優勝したけど、一昨年は12位ですからね。うちも優勝の可能性は大いにあります。ここ数年、最終節で優勝が決まっているので、今年も最後までもつれるんじゃないかな」
遠藤自身は、楢崎正剛が持つJ1通算631試合の最多出場記録を、あと2試合で更新する。前人未到の記録達成がすぐそこに迫っている。
「あんまり興味ないですね、そこは(笑)。僕は毎試合、たとえば今日負けたら優勝争いから脱落するとか、勝てば優勝に近づくとか、そういうワクワク、ドキドキするような試合がしたいし、4点取られた5点取るようなサッカーをしたい。昨年、得点(54得点)は決して悪くないからできるでしょ(笑)。とにかく、自分たちのスタイルを確立したいですね。これから10年先を考えても、ガンバのスタイルをもう一度つくっていかないといけない。そうして、『ガンバって強いよね』って周囲から言われるシーズンにしたいと思います」
シーズンを通して、遠藤が言う刺激的な戦いを展開し、自分たちのスタイルを確立し、タイトルに手にすることができるだろうか。
ガンバの未来を占う意味でも、今シーズンは非常に重要な1年になる。