G大阪の秘密兵器は“FW”小野瀬康介。宇佐美貴史を超えるというリスペクト。

2度にわたる沖縄キャンプを打ち上げたガンバ大阪が、開幕に向けて「秘密兵器」に磨きをかけている。

キャンプ最終日の2月1日、京都サンガと行った練習試合でガンバ大阪は6-1で圧勝した。抜群のキレを見せている宇佐美貴史は、4得点の大暴れに加えてポスト直撃弾も放つなど昨年終盤の好調さを維持。そんな和製エースと2トップを形成したのが過去1シーズン半、サイドを主戦場としてきた小野瀬康介だった。

昨年12月、小野瀬は迷いに迷っていた。攻撃サッカーでJリーグを席巻し、15年ぶりのリーグ王者に輝いた横浜F・マリノスからオファーを受けていたのだ。

待遇面もさることながら、小野瀬が魅力を感じたのは良質な攻撃サッカーを貫いてきたチャンピオンチームで、前線の駒として計算されていることだった。アンジェ・ポステコグルー監督が小野瀬の存在に目をつけていたという。

「待遇面もプロとして大事な条件。それもあるけど、点を取れるポジションで出るのか、ガンバでもう一回、タイトルを目指すのか」

もっと前線、ゴールに近い位置で。
2018年は途中まで所属したJ2レノファ山口で25試合10得点をマークしていた小野瀬だが、昨年は公式戦で8得点。「もっと前で使ってくださいと言いたいですけど、それは胸にしまっておきます」と冗談めかしながらも、秘めた自信を口にしていた小野瀬。点も取れるサイドのハードワーカーというイメージが強くなる一方で、膨らんでいたのは前線に近い位置でのプレーへの渇望だった。

横浜F・マリノスの誠意ある交渉に「70%ぐらいはマリノスに行くつもりでいたんですけど、それがひっくり返るぐらい熱心に引き止められました」。松波正信強化アカデミー部長はもちろん、宮本恒靖監督、そして山内隆司社長までもが攻守のキーマンを説得したという。

小野瀬に響いた貴史君の言葉。
ガンバ大阪の熱意に加えて、ドライな現代っ子、小野瀬の心に響いたのは一学年上のスター選手からの言葉だった。

「揺らいでいる時に、貴史君とご飯に行く機会があって『一緒にやりたいよ』と言ってくれた」

小野瀬にとって、宇佐美は私生活では仲の良い先輩であると同時に、ピッチ内では高い壁としてそびえ立つ、乗り越えたいライバルでもあった。

「宇佐美貴史に勝ちたいというチャレンジかな」

一度は敵チームで「宇佐美超え」を目指した小野瀬だったが、その宇佐美や親友でもある三浦弦太の言葉が残留への大きな後押しになったのだ。もっとも宇佐美を目標に掲げるのは憧れにも似たリスペクトを持ち続けているからこそだ。

「僕らの年代の選手で宇佐美貴史は突出した存在ですし、そういう選手と一緒にサッカーをしているのは感慨深いものがある」とは小野瀬による宇佐美評である。

照れ隠しの「大人になったかな」。
「得るものより失うものの数の方が多いと思ったんですよ。ガンバで築いたものとかチームメイトやサポーターとの関係もあるし、誰かのために頑張りたいと思ったのが一番ですかね」

下部組織で育ち、プロデビューを飾った横浜FCからレノファ山口に完全移籍、そして2018年にガンバ大阪へとステップアップしてきた小野瀬。過去2度、移籍を経験しているが全ては自らの成長だけを考えての決断だった。

そんな男は「自分のチャレンジよりも、誰かのために頑張る年にしたいかな」と言った後、「大人になったかな」と照れ隠しの一言を口にした。

誰かのために頑張る――。その言葉に嘘はないことを京都サンガ戦の90分で小野瀬は証明した。

タメを作り、守備意識も高い。
開始早々の4分、宇佐美からのクロスを受けてヘディングで先制点を叩き出すと、23分にはお返しと言わんばかりに、絶妙なクロスで宇佐美のヘディングシュートをお膳立て。この試合が2トップを組んで2試合目とは思えないほど、息の合ったプレーを見せていた。

ボールロストを恐れないアデミウソンの相手DFを剥がすドリブルも魅力だが、小野瀬は体を上手く使いながら、ボールを失わずタメを作り出せるアタッカーである。

「康介も前線でやれる技量とフィニッシュの精度とスピードを持っているし本当にやり易い」(宇佐美)

とりわけ秀逸なのが、昨年まで右サイドで見せてきた守備意識の高さである。

今季はより前線から積極的に相手ボールを奪いに行くサッカーを志向する宮本監督。小野瀬のFW起用はそのシュート力を生かすだけでなく、ファーストディフェンダーとして守備のスイッチとなることを期待したものだった。

京都サンガ戦では宇佐美が猛然とプレスを敢行し、パスコースを制限すると連動した小野瀬が高い位置でボールを奪取。まだチーム全体の連動性には課題を残しているものの、和製2トップは攻守で息の合ったところを見せはじめている。

「あの人を超えたいんで」
もっとも、小野瀬自身に満足感はない。京都サンガ戦での1得点2アシストは全て宇佐美との連係から生み出したものだったが、試合後の小野瀬は開口一番に、4得点の「ライバル」を意識していた。

「僕よりも隣に凄い点を取っている人がいたので、負けたくない。チームとして競争できているのはいいことだと思いますけど、やっぱり負けたくないですね」

キャンプを終え、帰阪したガンバ大阪は2日間のオフを終え、2月4日に再始動。全体練習後のクラブ練習場には居残りでシュート練習に汗を流す小野瀬と宇佐美の姿があった。

宇佐美に負けない鋭いキックを繰り出す小野瀬にシュートの上手さを指摘してみた。

帰ってきた言葉はただ一言、「あの人超えたいんで」

リスペクトありきのライバル心――。オファーをくれた前年王者とのJ1リーグ開幕戦で「秘密兵器」がそのベールを脱ぐ。

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