失い始めたガンバ常勝の記憶。ルヴァン杯でイズム継承なるか。

勝者のメンタリティとは、決して目に見えたり、数字で表せたりする概念ではない。Jリーグでは鹿島アントラーズが、代々「ジーコ・スピリット」の継承に成功して来たが、勝者であり続けることの難しさや誇りは、いわば一家相伝で次世代に受け継いでいくものである。

2005年の初戴冠以降、ほぼ毎年のようにタイトル争いを繰り広げて来たガンバ大阪は国内で鹿島アントラーズに次ぐ、9度の優勝回数を誇って来た。しかし、ガンバ大阪は常勝軍団だった当時の記憶を徐々に失い始めている。過去3シーズン、無冠に終わっただけでなく、今季も天皇杯では昨年に続いて大学生相手に苦杯を舐めるというJリーグ史上初めての醜態。

攻撃サッカーの再構築や常勝軍団としての復権を目指したはずの「GAMBAISM」というチームスローガンが、あまりにも虚しく響く有り様だ。

ルヴァンカップで見せた勝負強さ。
「天皇杯で負けてしまって、今シーズン現実的に唯一狙えるのがルヴァンカップ。よりこの大会への思いが強くなった」

ゲームキャプテンの三浦弦太がこう話していたルヴァンカップで、大阪の雄が忘れかけていた勝負強さの一端を見せつけた。

ルヴァンカップ準々決勝でガンバ大阪の前に立ちはだかったのは、かつての恩師・長谷川健太監督が率いるFC東京。日本代表に招集された永井謙佑と橋本拳人を欠くFC東京にホームで行われた1stレグで1-0と快勝。

しかし、2ndレグはリーグ戦で首位を走るチームに地力を見せつけられ、67分には痛恨の2点目を献上した。

スコアだけを見れば、0-2という絶体絶命の状況である。このままタイムアップの笛を聞けば、敗退決定――。しかし、百戦錬磨の強者たちに焦りは全くなかった。

「三冠ホットライン」で準決勝へ。
キーワードはアウェイゴールだ。

「先に点を取られても、こっちが1点を取れば一気に優位になる」と遠藤保仁が言えば、パトリックも「この大会はアウェイゴールが大事になる。2ndレグで僕らは少なくとも1点を取る力はある」と断言していた。長谷川監督が率いた当時、ルヴァンカップでは3年連続で決勝に進出し、AFCアジアチャンピオンズリーグでも数々の修羅場をくぐって来た選手たちは、虎視眈々と敵地での「一刺し」を狙うのだ。

そして2失点目からわずか9分後、その時がやってきた。

遠藤の縦パスをきっかけに宇佐美貴史がゴール前にパーフェクトクロスを供給すると、パトリックが文字通りねじ込むようなヘディング弾を決め、貴重なアウェイゴールをゲットした。

いずれもこの夏の復帰組である宇佐美とパトリックによる「三冠ホットライン」の開通でFC東京を退けたガンバ大阪は、2年ぶりに準決勝への切符を掴み取った。選ばれし4チームの中で、アウェイゴールのアドバンテージを活かしたのはガンバ大阪のみ。お世辞にも完勝とは言い難い足取りだったが「ルヴァンカップは2試合合計で180分という考え方でいい。2試合を通じて勝ち上がることが大事」(遠藤)なのである。

闘志を燃やすパトリック、宇佐美。
うっすらとルヴァンカップの頂が視界に入って来たガンバ大阪だが、エベレスト登山のシェルパ(案内人)よろしく、チームを支えるパトリックは、世代交代が進むチームの現状を決して、楽観視はしていないのだ。

「僕が前回所属していた3年間は、どのシーズンも全てのタイトルを争っていた。今は若い選手が増えて、その選手たちがどこまで本気でタイトルを狙っているのか。ガンバはビッグクラブで常にタイトル争いをしないといけないし、僕自身も常にチームの皆にタイトルを狙っていこうと声をかけている。ガンバはそういうクラブだと、僕たちがきっちりと若い選手に教えていかないといけない」

FC東京戦でピッチに立った選手のうち、タイトル経験者は途中出場の宇佐美を含めて6人のみ。昨年夏から指揮する宮本恒靖監督にとっても、指揮官としてのタイトルには無縁で、優勝争いは未知の領域だ。パトリック以上に、強いガンバ大阪を見続けてきた宇佐美もまた、チームの復権に静かな闘志を燃やす男の1人である。

「個人的にはキャリアでタイトルに恵まれて来た。タイトルがチームに与えるものは大きい。記録にも残るし、メンタル的にもそう。クラブとして大きくなろうと思うなら、数多くのタイトルが必要になる」

相手はミシャ率いる札幌。
準決勝で対戦するのはクラブ史上初の快挙を成し遂げたコンサドーレ札幌だ。チームとしての経験値では絶対的にガンバ大阪が上回るものの、北の大地のクラブを躍進させてきた指揮官は、浦和レッズを率いていた2016年のルヴァンカップ決勝でガンバ大阪を下した成功体験を持っている。

かつてはリーグ戦で「お得意様」にしてきたはずのコンサドーレ札幌だったが、ペトロヴィッチ監督の就任後は1敗2分けという戦績だ。

ルヴァンカップの準決勝の直前にはリーグ戦でも対戦が決まっており、10日間で3連戦という厳しい日程も待つ両チーム。試合中の采配では後手を踏みがちな宮本監督にとっても、その手腕が問われるルヴァンカップだが、持ち駒に関してはペトロヴィッチ監督よりも恵まれているのは間違いない。

賢人と三冠戦士がいるうちに。
サンフレッチェ広島と対戦した5年前のルヴァンカップ決勝で、当時「シルバーコレクター」と呼ばれていた長谷川監督を優勝監督に押し上げたのは遠藤の冷静さと「僕は絶対に諦めない男」と自称したパトリックの追撃弾。パトリックは言う。

「ルヴァンカップのタイトルが今シーズンのガンバにとっては大きな意味を持つ。簡単じゃないけど、決して不可能じゃない。1つ1つ戦っていくだけさ」

決勝までの道のりはまだまだ険しいが、クラブの全タイトルに貢献してきた39歳の「賢人」と三冠戦士が健在のうちに優勝の記憶をチームに受け継ぎたい。鹿島アントラーズが、代々そうしてきたように。

世代交代が進み始めているガンバ大阪だが、真に目指すのは常勝軍団としての復権である。勝者のメンタリティを取り戻すのか、それとも4年連続の無冠に終わるのか――。

大阪の雄にとって、今シーズンのルヴァンカップは1つのタイトル以上の意味を持っている。

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