U-20W杯に滑り込んだアタッカー。G大阪・中村の「敬斗ゾーン」を見よ。

諦めなかった。僅かなチャンスでも逃さないつもりだった――。

5月23日に開幕するU-20W杯に出場するU-20日本代表の最終メンバーに選出されたガンバ大阪の若きアタッカー・中村敬斗は、精悍な表情で今年初となる日本代表のシャツを身に纏い、本番前の国内最後の試合となった流通経済大学との練習試合(13日)のピッチに立った。

この試合は前日、前々日にJリーグでスタメン出場をした瀬古歩夢(C大阪)、鈴木冬一、齊藤未月(ともに湘南)、郷家友太(神戸)、藤本寛也(東京V)などが出場せず、Jリーグで出場機会が多くない選手で構成された。ピッチに立った11人にとっては、これから臨むU-20W杯に向けたチームづくりのためだけでなく、個々のコンディション向上、そしてアピールの場でもあった。

「(代表に)ギリギリで入ったことは承知の上で、覚悟を持ってこの試合に出た。形はどうであれ、最終メンバーに入ったので、他の選手とフラットとは言わないまでも、この試合が重要だということは理解していた。この試合でしっかりとアピールして、あとは本番を迎えるだけ。チャンスをものにしようと意欲的にやれたと思います」

彼がこの世代の代表に入ったのは今年初。このチームのエース格だった久保建英と安部裕葵がコパ・アメリカの影響でメンバー外になったこともあり、中村が当落線上ギリギリからの抜擢となった。だからこそ、相当な覚悟を持ってこの練習試合に臨んでいた。

見事なボレー、ポジションも複数こなす。

 左サイドハーフとしてスタメン出場をした中村は、積極的な仕掛けと、フィニッシュ能力の高さをこの試合で披露した。

1-0で迎えた34分に左サイドからDFラインの裏に走り込んだFW田川亨介に絶妙な浮き球のパスを送り、決定機を作ると、44分には右からのクロスをファーサイドで走りこみながらダイレクトボレー。2点目のゴールを突き刺した。

後半はポジションを左から右サイドハーフに移すと、今度は右からドリブル突破と正確なラストパスを供給してチャンスを演出。DF三國ケネディエブスを前線に上げたパワープレーのテストでは右のインサイドハーフもこなした。1ゴールという結果だけでなく、この試合で複数のポジションをこなし、クオリティーの高さを示し、きっちりとアピールをすることができた印象だった。

試合後、中村はいつもと変わらない淡々とした表情を見せたが、その言葉は節々に強烈な意志が込められていた。

「自チームで試合にあまり出ていないからということでのフル出場ですが、走ることができたし、ゴールを決めることができた。いいアピールにはなったと思います」

U-17W杯で活躍、高3でプロに。

 中村にとって前述したように、U-20日本代表メンバー入りは今年に入って初のことだった。

今回の代表メンバーの多くも出場していた2017年U-17W杯でチームの主軸としてプレーしていた中村は、初戦のホンジュラス戦ではいきなりハットトリックと爆発し、3戦で4得点とグループリーグ突破に大きく貢献。決勝トーナメント初戦となったイングランド戦でも、ゴールこそ奪えなかったが、守勢に回りながらも時折見せるドリブル突破でチャンスを作り出した。

そして昨年、高校卒業を待たずして、生まれ育った千葉を離れ、高3でG大阪に加入。レヴィー・クルピの下ですぐに頭角を現し、開幕戦で早速J1デビューを飾ると、ルヴァンカップ第2節の浦和レッズ戦でプロ初ゴールをマークした。

順調なステップアップを見せていた中村だったが、昨年途中でクルピ監督が解任され、新たに宮本恒靖監督が就任すると、状況が一変した。

「レヴィーさんには得点感覚が優れていることを評価されていたのだと思うけど、それ以外を見たらおそらくプロの平均点以下で、プロで通用するレベルではなかった。走れないし、戦えないし、球際に行けないし、オフの動きも足りない。それを宮本監督に指摘された」

出番は一気になくなり、ベンチ外を味わう時期が続いた。倉田秋の出場停止で巡ってきた昨年のJ1第33節のVファーレン長崎戦ではスタメンに抜擢され、J1初ゴールとフル出場を記録したが、「3カ月半くらいはほぼJ1から姿を消した」と本人が表現するように、表舞台から長く離れた。それも影響し、年代別の日本代表からも彼の名前は消えていた。

カップ戦で見せ付けた「敬斗ゾーン」。

 迎えた2019年。プロ2年目のスタートはJ1の表舞台ではなく、U-23チームとしてのJ3だった。だが、そこでコツコツと自分のプレーを表現し、カップ戦でトップチームのチャンスを掴んだ。

4月24日のルヴァンカップ・グループリーグ第4節のジュビロ磐田戦。3-1で迎えた後半アディショナルタイム2分、ハーフラインを超えた位置でDF黒川圭介からパスを受けると、ファーストタッチを大きく前に出して一気に加速。ペナルティーエリア左内に侵入すると、コースを消しにきた相手DFを内側への切り返しでずらし、かわし切らないまま右足一閃。強烈なライナーは右ポストに当たってゴールに吸い込まれた。

高校時代から何度も見せていた「これぞ、中村敬斗」という高速カットイン。左45度の「敬斗ゾーン」から放たれた強烈かつ正確なシュートだった。

すると、同5節の清水エスパルス戦でも結果を残す。2-1で迎えた67分、DFラインからのロングフィードをFWファン・ウィジョがワンタッチで左サイドを駆け上がった中村に落とすと、ファーストタッチでギアをトップスピードに上げて前に仕掛け、相手DFを完全に振り切ってカットイン。最後は「敬斗ゾーン」から、冷静にGKの動きを見て、頭上をドライブ気味に射抜くコントロールショットを突き刺した。

課題に向き合い、逃げなかった中村。

 ルヴァンカップで2戦連発。周りからは復活弾のように見えた。だが、中村にとって、これまでの不調は決して“低迷”ではなかった。

宮本監督によって、課題を突きつけられたからこそ、彼はそこから逃げたり、焦って全てを解消しようとしたのではなく、1つずつ解決していく道を選んでいたのだった。

「日頃から監督などに言われたことを徹底して取り組んで、競り合いも意識的にやるようになりました。一つひとつこなし、昨年の長崎戦でスタメンに抜擢され、そこで少しでも変わった姿を見せることができた。そう思って今季に入ったのですが、やっぱり変わりきれていなかったというか、まだまだ足りないことを知った。

でも、そこで(G大阪)U-23の森下仁志監督に本当に鍛えなおしてもらった。サッカーに対する姿勢もそう。守備を意識して取り組んでいくと、自分の1番大事な武器というのを忘れてしまうんですよね。確かに去年の終わりは試合で守備をやるようになったし、それはいいと思うのですが、『ただのチームの一員』になってしまっていた。そこで『自分の武器を発揮しろ』と森下さんに言われました」

「感覚が戻ってきている証拠」

 「ルヴァンカップの2ゴールを見てもらってもわかると思いますが、去年のJ1初ゴールのようにこぼれ球を詰めて押し込んでの得点も大事ですが、左サイドから切れ込んで決める『自分の形』をプロの舞台で出すことができた。今日の試合(流通経済大戦)ではなかったですが、感覚が戻ってきている証拠だと思います」

課題と向き合い、周囲の意見を聞きながら、着実に平均値を上げる。そしてそれに忙殺されすぎて、本来の自分の武器がぼやけてしまいそうな時に、森下監督がその感覚を呼び覚ましてくれた。

1日を無駄にせず、結果に一喜一憂せずに歩んできたからこそ、ルヴァンカップ「敬斗ゾーン」からの2ゴールにつながり、今、U-20W杯に挑む立場を手にすることができた。

「諦めずに狙っていました」

 中村が放った言葉で、一際、表情が精悍になり、語気が強まったものがあった。それは今回の代表入りに関してだ。

「U-20W杯を本気で狙っていたのでは?」と筆者が聞いた時だった。

「『がっつり本気』で、諦めずに狙っていました。ポジション的に久保と安部くんの2人が上の代表に行くという報道を見て、ポジションが空く可能性があると思っていたし、そこのスレスレのところを自分が狙ってやろうと常に考えていた。ルヴァンカップでしっかりと結果を残せたから、ここにいると思っています」

2人が招集外となったおかげなのかもしれない。ギリギリかもしれない。滑り込みかもしれない。

しかし、それはすべて、中村自身が可能性が少しでもある以上、絶対に諦めず、U-20W杯を明確なターゲットの1つとしながら、本気で自分を信じて取り組んだからこその結果であった。

運ではなく、努力で引き寄せた。

 大会前のシミュレーションとなった3月のヨーロッパ遠征、4月の国内合宿に呼ばれていない時点で、普通の選手だったら諦めてしまうかもしれない。だが、彼は違った。本気で世界の舞台に立つことを狙い続け、広がった可能性を確実に掴み取るべくラストスパートを仕掛けた。

決して運が良かったのではなく、中村自身の努力で引き寄せたものだった。

今、彼の目にはU-20W杯で躍動する姿が明確に映し出されている。練習試合で見せた気迫溢れるプレーと精悍な表情がそれを物語っていた。あとはそれを実現させるために、これまでと変わらずに1日1日を真剣に、本気で生きるだけ。

本気で取り組み、諦めない人間にチャンスの神様は微笑む。

次はポーランドでサッカーの神様を微笑ませる番だ――。

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