熾烈なJ1リーグ残留争い、8クラブの「救世主候補」 危険なG大阪、最下位の磐田…苦境打開への“推し”戦力は?

【識者コラム】残留争いの“救世主”候補をチームが置かれている状況と残留ミッションの難易度からピックアップ

J1リーグの残留争いは8クラブに絞られたと言える。ただし、28試合で勝ち点31の清水エスパルスと27試合で勝ち点23の最下位ジュビロ磐田では残留の難易度が大きく違う。そうした事情も踏まえて、残留争いの“救世主”候補をチームが置かれている状況と残留ミッションの難易度からピックアップする。

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■11位:清水エスパルス

救世主候補:鈴木唯人(MF)

残留ミッション難易度:★★

第28節のサンフレッチェ広島戦で怪我から12試合ぶりに復帰。15分間のプレーだったが、クロスやドリブルで今後を期待させるパフォーマンスだった。清水はゼ・リカルド監督が守備とビルドアップを整理し、そこにMF乾貴士、FW北川航也、MFヤゴ・ピカチュウという強力なアタッカーを加えて、第23節のサガン鳥栖戦から5試合で勝ち点11を獲得したが、前節は広島に長い時間を数的優位で戦いながら0-2で敗れた。勢いがトーンダウンしそうなところで、前半戦はエース級の活躍を見せたパリ五輪世代のホープが戻ってきたということは、何かの示唆かもしれない。新戦力との連係を高めながら、鋭い突破と決定力を発揮して残留確定、さらに1つでも上に浮上する牽引者になれるか。

■12位:北海道コンサドーレ札幌

救世主候補:キム・ゴンヒ(FW)

残留ミッション難易度:★

得失点差で同じ勝ち点31の清水の下にいるが、1試合少ない暫定の順位であり“残留争い組”では最も有利な立場にある。それでもシーズンに4度の連敗があるチームの傾向を考えると、安心はできない。そもそも目標が残留ではないことを考えても、残り7試合でできるだけ勝ち点3を積み上げたい。そのキーマンは新加入の韓国人FWキム・ゴンヒだ。第28節セレッソ大阪戦での初ゴールが貴重な同点ゴールとなったが、前線で起点になりながら、ゴール前に迫力を加える役割が期待される。

典型的なターゲットマンではないが、大事なところで必ずゴール前にいるというフィニッシュワークを継続できれば、チャンスは多いチームだけに覚醒的なゴール量産も期待できる。なにより最初の挨拶を丁寧な日本語で行うなど、真面目な性格がにじみ出る選手なので、Jリーグにもなじみやすいのではないか。27歳だが、2年間の兵役直後にコロナ禍となり、まだポテンシャルを出し切れていないようにも感じる。韓国代表でも3試合に出ており、札幌で活躍してカタール後の代表に定着する可能性は十分にありそうだ。

■13位:京都サンガF.C.

救世主候補:パウリーニョ(FW)

残留ミッション難易度:★★

勝ち点29ながら、残り8試合を残す京都。パウリーニョは東京ヴェルディとの天皇杯準々決勝(2-1)で2ゴールし、準決勝へ導く立役者だが、8月10日に加入もいまだリーグ戦の出場はない。前節のヴィッセル神戸戦ではベンチ入りしたが、早い時間帯にリードを奪ったこともあってか、出番は訪れなかった。しかし、天皇杯の活躍で曺貴裁監督も積極的に起用していくのではないか。試合後には相手以上に、味方が特長を知るきっかけになったことを指揮官も強調していた。セカンドボールを拾って個人技で決めた1点目は圧巻だが、FW宮吉拓実のパスから決めた2点目は周囲とのイメージ共有が進むほどに、得点チャンスが拡大していく期待を抱かせるものだ。個人の打開力に加えて、シュート技術の高さには疑いの余地がないだけに、どう絡んでいけるか。これまでの勝ち点1を3に、勝ち点0を1にできる能力を秘めたアタッカーだろう。

■14位:湘南ベルマーレ

救世主候補:山田直輝(MF)

残留ミッション難易度:★★

代表級の才能を持ちながら、度重なる怪我に泣かされてきた攻撃的MFは今シーズンも、序盤戦と後半戦に2度の離脱があり、まだ得点を取れていない。しかし、第28節の川崎フロンターレ戦では後半途中からの出場ながら、MF阿部浩之との鮮やかなコンビプレーから決勝ゴールをアシストした。続く横浜F・マリノスとの試合ではワイドに流れてのクロスなどが得点に結び付かなかったが、プレー時間を増やしながら状態を高めている。まずは次の清水エスパルス戦に勝てば、ライバルより大きく優位に立てる。屈強なディフェンスを相手に崩しのアクシデントをもたらせるか。もちろん虎視淡々とゴールも狙っているだろう。

■15位:アビスパ福岡

救世主候補:ジョン・マリ(FW)

残留ミッション難易度:★★★

ここまでリーグ最少の21得点だが、頼みの綱であるディフェンスも揺らぎ出している。天皇杯では準々決勝でJ2ヴァンフォーレ甲府に敗れたが、まだルヴァン杯が残っているので、同勝ち点のガンバ大阪より、やや厳しい日程の戦いになりそうだ。コロナ禍の今シーズン、ベンチメンバーすら揃わない状況でカップ戦を乗り切るなど、過密日程で1試合にかかる負担も大きくなった。ただ、そうしたチーム事情を踏まえても、本来持っている縦の迫力まで失われているのは気になるところだ。そんな状況を打破する一番の“特効薬”はFWの得点だ。今夏、福岡に復帰したカメルーン人のジョン・マリは、前線で存在感のある動きを見せながらも、短い出場時間でなかなかゴールネットを揺らせていない。もっともリーグ戦で唯一の先発となった第25節の鹿島アントラーズ戦では4本のシュートを記録。ゴールポストに嫌われる場面もあった。長谷部茂利監督は守備の貢献度なども考えて前線の起用法を判断しているかもしれないが、もっと出番を与えたほうが、少なくとも相手ディフェンスは嫌がるのではないか。

■16位:ガンバ大阪

救世主候補:福田湧矢(MF)

残留ミッション難易度:★★★★

勝ち点28、得失点差で入れ替え戦の16位にいるが、第28節のサガン鳥栖戦のパフォーマンスや残り6試合の対戦カードを考えると、かなり危険な状況にある。次はホームのFC東京戦だが、その後に優勝争いを演じる横浜F・マリノスやヴィッセル神戸、ジュビロ磐田との残留争いの“6ポイントマッチ”しか残っていない。神戸と磐田に勝てば+6で少なくとも16位確保は見えてくるが、自動残留圏内でのフィニッシュを勝ち取るには少なくとも、もう1つは勝ち点を積み上げたい。そのためのプラスアルファの力になりそうなのが、MF福田湧矢だ。5月の神戸戦で負傷交代してから、鳥栖戦で16試合ぶりの復帰となったが、短い時間でも一人躍動感が違っていた。サイドから違いを見せることで、前線のFWパトリックやFW鈴木武蔵の決定力もより発揮されやすくなるはずだ。ムードメイカーでもあり、そこにゴールやアシストなど、目に見える結果が付いてくれば、チームも波にのる。心身両面でチームに推進力をもたらせる選手だ。

■17位:ヴィッセル神戸

救世主候補:菊池流帆(DF)

残留ミッション難易度:★★★★

暫定監督を含めて3度の監督交代を経験するなど、安定しないシーズンの中で大きな目標であるはずだったACL(AFCチャンピオンズリーグ)も吉田孝行監督が主力のコンディションを配慮した起用法で、消化不良な幕切れに。さらに天皇杯も準々決勝のターンオーバーが実らなかった。筆者の正直な見解を言わせてもらえば、起用法はさておき、指揮官はメディア向けの発信も含めて「天皇杯を本気で獲りに行く」姿勢を前面に押し出したほうが、その結果に関わらず、リーグ戦にも良い流れが向いたのではないか。終わったことは嘆いても仕方がない。ここからはサバイバルになるなかで、救世主候補にはセンターバックの”ファイヤー”菊池流帆を推したい。

リーグ戦はここ4試合、楽しみにしていたであろうACLも欠場したが、鹿島アントラーズとの天皇杯準々決勝で1点を追いかける終盤に投入され、いきなりミスパスはあったものの、FWエヴェラウドらを相手に気合のディフェンスを見せた。今夏加入のDFマテウス・トゥーレルもいるので、どういう起用法になるか不明だが、1つ1つのプレーがチームを前向きにさせていく期待は大きい。

■18位:ジュビロ磐田

救世主候補:ファビアン・ゴンザレス(FW)

残留ミッション難易度:★★★★★

今回取り上げた残留争いの8チームでも、最も困難なミッションであることは間違いない。成績もさることながら、戦力的にも夏の上積みはほとんどなく、伊藤彰前監督(その後、ベガルタ仙台の監督に就任)も去った状況で、渋谷洋樹監督のもと、ビルドアップの可変をやや限定的にして、縦に入れていく意識を増やすなど、戦術的な“リフォーム”は行われているが、短期間でガラリと好転するわけではない。そうしたチームにあって、ライバルにない爆発力が“ラッソ”ことFWファビアン・ゴンザレスだ。

前半戦は守備面の粗さや球際でオフェンスファウルを取られやすい手癖など、明らかな課題があり、伊藤前監督にも重用されなかった。しかし、夏場を前にチャンスをもらうとゴールを量産。ここからというタイミングでコンディション不良を発生して、しばらく試合から遠ざかる期間に、チームは深刻な得点力不足で下降線を辿った。ようやく復帰した現在も100%とは言えない。

それでも与えられた時間で規格外の突破力と得点力を見せている。そのほかにも期待したいFW陣はいるが、ライバルにない”ラッソ“という武器をどれだけ活用して勝ち点3の絶対条件であるゴールにつなげられるか。そこに前節の柏レイソル戦で初ゴールを決めたMF吉長真優、そしてここまで無得点のFW杉本健勇に待望のゴールが生まれるなど、プラスアルファが加わっていけば、意外とスムーズに残留ルートを見出せるかもしれない。

[著者プロフィール]

河治良幸(かわじ・よしゆき)/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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