【岩本輝雄の目】宇佐美貴史「ハットトリック解析」――スペックが高すぎる点取り屋 SOCCER DIGEST Web 6月30日(火)17時30分配信

J1通算得点ランク2位の佐藤寿人に勝るとも劣らない技術。

 現役選手で今、最も多くのゴールを決めているのは、広島の佐藤寿人だ。J1の通算得点ランキングを見ると、1位は157得点の中山雅史さん。そして2位が152得点の寿人。おそらく、今季中にもこの順位は入れ替わるのではないだろうか。

寿人とは仙台時代で一緒にプレーした仲で、彼の優れたシュート技術はその頃から際立つものがあった。シュート練習でもバンバン決める。その技術は今もまっ たく衰えていないし、むしろ向上しているとも思う。ハマった時は日本で一番、シュートが上手い選手と言っても過言ではない。

そんな寿人に勝るとも劣らない選手が、G大阪の宇佐美貴史ではないだろうか。

第1ステージ最終節のアウェー山形戦、彼はわずか13分間で、J1では自身初となるハットトリックを達成した。

試合は序盤から山形ペースだった。ハイプレッシャーで相手の先手を取り、ゲームを優位に進めていく。チャンスを決め切れず、ゴールは奪えなかったけど、少なくとも前半の山形のサッカーは評価に値するものだった。

劣勢を強いられたG大阪だったけど、彼らは慌てていなかった。確かに主導権は握れなかったけど、ある意味、“やらせている”という風に見えた。相手の勢 いが勝るのであれば無理をしない。リスク管理を徹底して、風向きが変わるのを待つ――昨年度王者の風格と余裕が十二分に感じられた。

後半に入ると、さすがに山形にも疲れが見え始める。G大阪も攻撃の強度を少しずつ上げていくなかで、G大阪の背番号39は山形にとって嫌な存在だったに違いない。

G大阪の布陣は4-4-2だけど、2トップのパトリックと宇佐美はどちらかというと縦関係になり、4-4-1-1とも言える変則的な形だった。最前線にパトリックがいて、ひとつ後ろの位置に宇佐美がポジションを取る。

宇佐美が賢いのは、バイタルエリアの込み入ったスペースではなく、相手の2ボランチの脇あたりでボールを受けていたこと。「そこまで下がるか」というぐらいまで下がってきて、そこでパスをもらって前を向き、推進力のあるドリブルで敵陣を崩しにかかっていた。

「ゴールって簡単に決まるんだ」と思わせてくれる選手。

 どこでマイボールにすれば自分の特長を活かせるかを分かっている。相手のボランチが遠藤保仁をケアしに行くことで空いたスペースを見つける嗅覚も鋭い。 その点でも宇佐美のクレバーさが見て取れたけど、彼の最大のストロングポイントは、冒頭で話した寿人に通じるシュートの上手さだと思う。

サッカーは、そう簡単にゴールが生まれるスポーツではない。相手も必死に守ってくるから、取れない時は本当に取れない。でも、宇佐美のプレーを見ている と、「こんなにDFがいるのに、ゴールって簡単に決まるんだ」と思わせてくれる。それほど宇佐美のゴールシーンは鮮やかだし、非凡な技術が伴ったものだと 改めて気付かされた。

まずは50分、倉田秋のアシストから左足で先制点をゲット。特筆すべきは、そのファーストタッチだ。DFの足が届かず、なおかつスムーズに足を振れる絶 妙なポイントにボールを置く。シュートを打つ選手からすれば、当然だけど、エリア付近ではそれほど時間を与えてもらえない。だからファーストタッチでボー ルの置きどころを間違えれば、シュートは打てない。

左足の正確なシュートはもちろん、その前段階の準備も含めて、ストライカーに必要な要素を宇佐美は完備していると言える。

59分の2点目も、ファーストタッチの妙技が光る。パトリックの軸足の裏を通す巧みなパスに反応すると、ボールの勢いを殺さないように右足でチョンと押し出し、対応してきたDFの股を通して抜き去る。

これでGKと1対1の状況を作り出すと、前に出てきた山岸範宏の位置を確認し、正確なシュートでネットを揺らす。今度は右足だったけど、左右両足で精度の高いシュートを打てるから、相手としても予測し難く、守りづらいはずだ。

62分の3点目はこぼれ球を押し込んだものだったけど、中盤からドリブルでボールを持ち運び、右サイドに展開してチャンスを作り出したのは、他ならぬ宇佐美自身だった。

ストライカーとしては、まさにハイスペック。

 寿人との比較では、寿人はエリア付近で待機しながら、相手との駆け引きで抜け出してゴールを狙うタイプだ。一方の宇佐美はプレーエリアが広く、自分でボールを持ち出して決定機を作れるから、相手からすれば相当にやっかいな選手だと思う。

後ろに下がってゲームメイクもこなし、パスも出せて、自ら仕掛けられる。キープ力もあるから時間を作って味方を活かすこともできる。2点目のところで触 れたけど、右足でも左足でも質の高いシュートが打てるし、ファーストタッチを含め、シュートまでの一連の動作に無駄がない。

バイタルエリアで“こうなれば決められる”という自分の形を持っている。ストライカーとして、まさにハイスペックな宇佐美は、第1ステージの17試合で13得点。これで得点ランクで単独トップに立った。

日本代表ではまだ“自分が、自分が”という側面が強く、連係面が今ひとつで、本人も満足できるパフォーマンスを見せられていないと思う。逆に言えば、そこまで突破できるだけの実力があるからこその弊害かもしれないけど、本来の実力を出し切れていない。

もっとも、ここまでのJ1で強烈なインパクトを放った選手のひとりだった。課題を挙げようとしてみたけど、正直、現時点ではこれといって見出せなかった。

第2ステージでもゴールを量産しそうな気がする。

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