「みんなでバチバチ」守る、 ガンバの変則システムはハマるとすごい!

予見や推測どおりに事は運ばない――。サッカーの醍醐味を改めて思い知らされた一戦だった。

当然ながら、取材に赴く際には、あらかじめ書こうとするテーマを携えている。J1開幕第2戦「柏レイソルvs.ガンバ大阪」では、ふたつのテーマを事前に用意していた。

ひとつは「柏のブラジル人トリオ」について。FWクリスティアーノとFWディエゴ・オリヴェイラという強力コンビに、ベガルタ仙台から加入したFWハモン・ロペスが融合することで、いかなる化学反応が起きるのか。その可能性について言及できれば、と考えていた。

もうひとつは「今季のG大阪は本当に大丈夫なのか?」というネガティブな内容。開幕戦でヴァンフォーレ甲府に苦戦(1-1)し、3日前のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)では韓国の済州(チェジュ)ユナイテッドに1-4と完敗を喫している。

そもそも目立った補強がなかった今シーズン、G大阪は開幕前から不安要素を抱えていたと思っていたし、前述の2試合を見るかぎり、やはり苦しいシーズンになるのではないかと感じていた。だから、開幕戦でサガン鳥栖を下したこの柏との一戦で、早くも危機的状況に陥るかもしれない。そんなシナリオを思い描いていたのだ。

ところが、こちらの思惑はあっさりと打ち砕かれる。まずひとつ目のテーマに関しては、故障を抱えていたハモン・ロペスが大事を取ってベンチ入りせず、試合前に却下。ふたつ目のテーマについても、開始7分、完璧に左サイドを崩して生まれたFW長沢駿のゴールを見た瞬間、早々に破棄することを余儀なくされてしまった。

この日のG大阪は、済州戦で機能しなかった3バックをふたたび採用。ファビオ、金正也(キム・ジョンヤ)、三浦弦太が最終ラインに入り、両ワイドに藤春廣輝と初瀬亮、中盤のアンカーの位置に遠藤保仁、その一列前に今野泰幸と倉田秋、2トップにアデミウソンと長沢を配置した3-1-4-2が基本布陣だった。

もっとも「すごい変則だった」と今野が明かしたように、状況に応じてその形はさまざまに変化した。時に4-3-1-2でもあったし、4-4-2にも5-3-2にもなった。そして、この変則システムが導いたのは、臨機応変な守備対応だ。前から奪い取ることもできれば、後方でしっかりとしのぐこともできる。この対応力の高さこそが、G大阪が勝利を手にした最大の要因だっただろう。

なかでも際立った動きを見せていたのが今野だ。鋭い出足で相手ボランチの自由を奪い、ビルドアップを許さないだけでなく、そのまま奪い切り、ショートカウンターを発動させる。長沢の先制ゴールも今野のボール奪取がきっかけとなったもので、高い位置で奔走した今野のパフォーマンスがG大阪に勢いをもたらしていた。

一方で、ビルドアップをあきらめた柏が長いボールを駆使すれば、後ろを5枚でしっかりと固めて、スペースを許さない。たとえば倉田はトップ下でありながら、ボランチ的な仕事もこなし、三浦もセンターバックとサイドバックのふたつの役割を担っていた。状況に応じた各々の柔軟な対応が、この変則システムの機能性を高めていた。

ボールを奪った後の展開では、アデミウソンがキーマンだった。「アデミウソンが今日はキレキレだった。前で収めてくれたので、後ろからどんどん上がれるし、今日はそこがひとつポイントだったと思います」と今野が言うように、このブラジル人アタッカーが「攻のヒーロー」だったのは間違いない。

カウンターから単独で持ち込む場面があるかと思えば、前線で時間を作り、サイドの攻撃参加をうながすプレーも難なくこなす。そして、自らもPKで1得点。機能的な守備と個の力を融合させたG大阪が終わってみれば3-1と快勝を飾り、こちらが用意していたシナリオは陳腐なフィクションとして葬り去られたのだった。

戦術的な側面だけでなく、この日のG大阪にはメンタル面の充実もあった。それを導いたのは、やはりACLでの惨敗だ。

「ACLでは球際も負けてたし、攻撃の形も作れなかった。守備でも強くいけなかったというのがあったから、悔しさしか残らなかったし、自分たちでも情けないなという思いがあった」

今野が口にした危機感が、G大阪の選手たちの身体を突き動かしていたであろうことは想像に難くない。出足の鋭さで相手を上回り、連戦の疲労を感じさせず、運動量でも柏を凌駕した。2ゴールを奪い勝利の立役者となった長沢も「みんなでバチバチやっている感じが楽しかったし、同点にされても集中は切れていなかったので負ける感じはしなかった」と充実感を口にしていた。

ただし、不安がないわけではない。長谷川健太監督はACLも含め、今シーズン消化した4試合でほとんど同じメンバーを起用している。ゆえに主力の”勤続疲労”が懸念されるし、チームの総合力を高める作業は置き去りとなりかねない。

もっとも倉田が指摘するように、「とりあえず今は自分たちの形を作らないといけない」と、まだ試行錯誤の段階にあるようだ。ある程度メンバーを固定し、土台となる形を作っている状態。肉づけ作業は、まだこれからなのだろう。

とはいえ長いシーズン、しかもACLにも参戦していることを考えれば、一部の固定メンバーで戦えるはずもなく、早急に形を明確にする必要がある。その問題をクリアしたとき、G大阪は今季も優勝争いを牽引する存在となっていくはずだ。

G大阪だけでなく、開幕当初はどのチームにも不安定さがつきまとう。快勝スタートを切った柏があっさりと負け、不安視されたG大阪が最高のパフォーマンスを示す。寒暖の差が激しいこの時期の天候と同じように、Jリーグではしばらく予測不能な試合が続いていくだろう。そこでは余計な情報や偏見を持たず、フラットな状態で観戦するのがおすすめだ。自戒の念を込め、最後にそう記しておきたい。

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