ルヴァンの女神はレッズに微笑む。 ガンバがわずかに見せた「心の隙」

カップ戦のファイナルらしい、手堅い一戦だった。ただし、「手堅い」の語感に含まれる「退屈さ」は、そこにはない。終始、緊迫感に包まれた高品質の決勝戦だった。

2年ぶりの優勝を目指すガンバ大阪と、13年ぶりのタイトル獲得を狙う浦和レッズとのルヴァンカップ決勝は、PK戦の末に浦和が勝利。本拠地の埼玉スタジアム2002で、赤の歓喜が爆発した。

この試合を語るうえで見逃せないのは、2週間前に行なわれたリーグ戦の同カード。浦和が4-0とG大阪を撃破した試合だ。開始早々にMF高木俊幸のゴールで先制した浦和が勢いに乗り、後半にも3点を追加。G大阪が退場者を出したこともあったが、スコア、内容ともに浦和の完勝と言える試合だった。

その流れを踏まえれば、浦和優位と見るのが妥当で、G大阪の浦和対策がいかに機能するかが、この決勝戦の焦点と言えた。

「出しどころだけじゃなく、出された後もボールにプッシャーをかけに行くこと。常にボールに行こうという意識はあったし、取ってチャンスにつなげていこうと。アデミウソンはカウンターのスピードも速いし、取ったときはそこを見るようにしていた」

MF今野泰幸が語ったように、G大阪は鋭いプレスからのショートカウンターを狙いとしていた。2週間前のリーグ戦では早い時間帯に失点したこともあり、浦和の勢いに押されて後手後手の対応になっていたことは否めなかった。いかに自分たちからアクションを仕掛けてボールを奪いに行けるかどうか。その積極的な守備意識が、2週間前とは明らかに違っていた。

17分の先制点の場面でも、攻め上がったDF槙野智章に今野とMF遠藤保仁が果敢にプレスをかけてボールを奪取。遠藤がつないでFWアデミウソンの60メートル独走カウンターを導いた。

また、このカウンターだけではなく、この日のG大阪は長いボールを駆使して、余計なミスを生じさせない狙いがあった。

「相手の背後にという考えはありましたし、アバウトなボールでも相手のラインを下げるという意味では効果的。リーグ戦で負けたときはまったくそれがなかったので、そこは修正できた」と語るのは遠藤だ。ポゼッションをある程度放棄し、裏に蹴ってはセカンドボールを拾う。シンプルかつ効率のよいプレーを選択し、浦和に隙を与えない戦い方を徹底していた。

一方で浦和も、立ち上がりから慎重な戦いを演じていた。前回のG大阪戦後にMF柏木陽介は、「負けてもまだ首位にいられるという余裕があったから、立ち上がりから積極的に行けた」と話していた。その時点で首位に立っていた浦和は2位の川崎フロンターレに勝ち点3差をつけており、たとえG大阪に敗れ、同節に川崎Fが勝利を収めたとしても、得失点差を考えれば首位の座を失わずに済む状況にあった。

敗れても挽回の余地が残されるリーグ戦ならではの戦い方が、開始早々の高木のゴールにつながったというわけだ。しかし、「やるか、やられるか」のカップ戦では、その考え方は成り立たない。それゆえ浦和は慎重に試合に入っていたし、G大阪と同様に、いかに隙を見せないかを意識していたのは間違いなかった。

もっとも、17分の失点シーンには隙があったと指摘せざるを得ないが、リードを奪われても浦和は慎重な姿勢を崩さないでいた。そこには、過去の失敗から学んだものがあると、柏木は言う。

「負けている状態で、攻めに行き過ぎなかったところが大きかった。1点取れる自信はあったし、チームとしてゲームをコントロールできるところがよかった。攻め急いでカウンター食らうシーンがこれまでは多いなかで、時間を作ることが必要だと思っていた。うまくゲームをコントロールできたところが、チームとしても、個人としても成長した部分だと思う」

たしかにこれまでの浦和だったら、攻め急いでバランスを崩し、カウンターで失点を重ねる……いわば自滅の道を辿っていたかもしれない。しかし、この日の浦和はあせらずに我慢して、組織のバランスを保ち続けた。

 G大阪にしても、浦和にしても、崩れたほうが負けるという緊迫感が常に付きまとっていたのだろう。のどもとにナイフを突きつけたまま、にらみ合いが続く。そんな任侠映画のワンシーンを見ているかのような展開だった。

ただ、ビハインドを追っている浦和には、どこかでリスクを負う必要があったはずだ。そこで転機となったのが、76分の交代策。交代直後にCKから生まれたFW李忠成の同点ゴールの背景には、「代わって入った選手に決められたのだから、マークとか集中力とか言われてもしょうがない」と今野が指摘したように、G大阪側に生じたわずかな隙を逃さなかった浦和のしたたかさがあった。

結局、その後は両者ともに崩れることなく、勝負はPK戦へとゆだねられる。PK戦は運を味方につけたほうに勝利の女神が微笑むと思われがちだが、選手たちの見立ては違った。FW興梠慎三は言う。

「PKは運と言われがちだけど、コースをしっかりと突いて蹴れば入るし、GKとの駆け引きもある。そういう意味では、全員が決められたのはよかった」

一方のG大阪は、4人目のFW呉屋大翔が失敗。長谷川健太監督によれば、本来は別の選手に蹴らせようと思っていたそうだ。しかしその選手が拒否し、志願した呉屋にキッカーを任せたという。5人全員が立ち向かった浦和に対し、G大阪は勇気を持てなかった。最後の最後に見せた心の隙が、勝敗を分けてしまったのかもしれない。

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