ルヴァン杯決勝で勝敗を分けた大きな差 切り札を使った浦和、ツキを逃したG大阪

東西2大クラブの対決は浦和に軍配

最後の最後に、勝運が『赤い悪魔』へ転がり込んだ。

Jリーグを代表する東西の二大クラブ――浦和レッズとガンバ大阪が顔を合わせたルヴァンカップの決勝は、互いに譲らぬスリリングな攻防の連続となった。90分を戦ってスコアは1−1。さらに延長でも決着せず、勝負はPK戦に持ち込まれた。先行のG大阪は4人目の呉屋大翔が外し、浦和は全員が成功。5人目のキッカーとなった遠藤航が力強くゴールネットを揺らすと、ピッチ上に真っ赤な歓喜の輪が広がった。

浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が「PK戦とは運が反映されるもの」と話せば、G大阪の長谷川健太監督も「今日はレッズにラック(運)があった」と振り返る。それを暗示したのが、延長後半の15分、スタンドの大観衆が思わず息をのんだシーンだ。ボックス内から放った呉屋のシュートが右ポストをかすめ、ゴールライン際を転々とし、左ポストにぶつかる寸前でカバーに入った森脇良太にクリアされた。これでG大阪が勝機を逃すことになった。

「私の気迫がもう少しあれば、逆にポロっとゴールラインを割っていたかもしれません……」

長谷川監督は自ら「勝負事に『たられば』はない」と断じながらもなお、それを口にせずにはいられなかった。そして、ツキに見放された格好の呉屋を直後のPK戦で4番手のキッカーに指名した。なぜ、22歳のルーキーに重責を託したのか――という、自らの決断への後悔をちらつかせつつも、そうせずにはいられなかった複雑な心境を吐露してもいる。

「決勝のPK戦では蹴りたがらない選手もいる。キッカーと決めていた選手に『蹴りたくありません』と拒まれた後、呉屋と目が合ったら『蹴ります!』と言ったので、なんと勇気のある、すごく気持ちのある選手だなと。結局、外してしまいましたが、彼に決めた私の責任。気持ちのあるPKを蹴ってくれた。いつかガンバにタイトルにもたらしてくれるんじゃないかと思います」

キックオフからペースを握ったのはG大阪

残酷な結末とも言えるが、キックオフからペースを握っていたのはG大阪の方だった。

2週間前のセカンドステージ第14節で浦和に0−4と大敗を喫した試合から組み合わせを一変。スピアヘッドにアデミウソンを据え、トップ下に本来はボランチの遠藤保仁をもってくる。そして「空席」となったボランチの一角に今野泰幸をはめて、昇竜の井手口陽介とタッグを組ませた。

横浜F・マリノスとの準決勝第2戦(1−1)で好感触を得ていた新シフトは、浦和の攻守の歯車を狂わせることになる。前線から激しく圧力をかけ、電撃的な速攻から一気に押し切るプレス・アンド・ラッシュを展開。プレスが空転すれば、迷わず自陣に引いて隙のない守備ブロックを築く。とりわけ、4バックの手前に陣取る今野と井手口のハンティングペアが、危険なバイタルエリアを完全封鎖。浦和は前線で攻めのポイントを作れず、司令塔の柏木陽介も厳しくマークされたことで、後方から縦パスが入らないノッキングの状態に陥った。

さらに、浦和がワイドオープンに球を逃せば、G大阪のサイドバックが縦の進路を防ぎ、ボールサイドのボランチ(今野か井手口)が素早く寄せて2対1に追い込み、浦和の球を絡め取っていく。球際に強く、味方のフォローも迅速で、こぼれ球もことごとく回収していく今野と井手口の神出鬼没なプレーが、G大阪の好リズムを強力に後押ししていた。

開始17分の先制ゴールも、球際に強い今野がバイタルエリアへ突っ込む槙野智章からボールを奪い、遠藤を経由して、アデミウソンへ。アデミウソンは鋭いターンから寄せ手の遠藤航を交わして前を向き、そこから60メートル近く独走して、巧みにフィニッシュまで持ち込んだ。

「われわれがカウンターを受けて失点する典型的なシーン」とは、ペトロヴィッチの弁。前半は4対3とシュートの数で上回ったのは浦和だが、危険な攻めを繰り出したのはG大阪の方だった。さらに、浦和サイドにはアクシデントが続く。33分には「さあ、速攻」という場面で興梠慎三のパスが主審を直撃。その3分後には、左アウトサイドの宇賀神友弥が負傷による交代で早々とベンチへ。何やら試合の流ればかりでなく、ツキもG大阪の側にあるようにみえた。

最初の交代がターニングポイントに

実際、G大阪に運が味方していたとすれば、いったい、どこで潮目が変わったのか。G大阪のベンチが動いた66分が、最初のターニングポイントもしれない。

殊勲の先制点を決めたアデミウソンをベンチに下げ、ターゲットマンの長沢駿を投入。後半に折り返して反撃に転じた浦和が攻めの手を強めた時間帯と重なる。浦和に押し込まれる時間が増え、後ろから長いボールを使って逆襲の足掛かりをつかみたいというベンチの思惑が、長沢の「高さ」と守備に回ったときの「追い込み」を必要とした格好か。

だが、ここから事態が暗転する。

スピアヘッドを裏へ走らせる「縦一発」の選択肢を失った上に、期待した長沢のポストワークも不発。さらに72分、右翼に藤本淳吾を投入すると、同サイドを狙った浦和の攻めが活発化する。そして3分後に左サイドからバイタルエリアへ潜り込んだ高木俊幸のシュートがGKを強襲し、CKを獲得。その直後、高木と交代でピッチに立った李忠成の値千金の同点ヘッドが生まれることになった。

柏木の左足から放たれた鋭く曲がり落ちるボールは、ピッチ上の誰よりも高いニアサイドの巨人(長沢)をかいくぐるように、その背後で待つ李の頭へ吸い込まれていった。1−1。負けパターンにはまりかけていた浦和が、これで一気に息を吹き返した。

李が強調する「チーム一丸」での勝利

プランが狂ったG大阪のベンチは延長目前の88分、3枚目のカードを切る。左翼へ回った長沢に代わる3人目のスピアヘッドとして、あの呉屋が登場してくるわけだ。それこそ「たられば」ではあるが、交代のカードを切る順番が違っていたら、その後の流れはどうなっていたか。ちなみに、長谷川監督はこうも話している。

「どちらが勝ってもおかしくないような試合だった。ただ、そこでもう一歩、突き放せる駒や力が、まだチームに欠けていたと思う。逆に浦和は交代で入ったばかりの李が決めている。あのあたりが勝負のアヤなのかなと」

槙野が「持っている男」と評したMVPの李は、試合後のミックスゾーンで「うちはチーム一丸。全員が活躍してこそ結果を残せる」と、総力戦による勝利を強調した。両軍ベンチが戦術的な意図をもって手持ちのカードを切りはじめた66分を境にして、ゲームのシナリオは赤い歓喜のエンディングに向かって、少しずつ動き始めていたのかもしれない。

「自分の限られたキャリアを考えたら、タイトルを狙えるチャンスはそうあるわけではない。だから、どうしても勝ちたかった。神様に感謝したい」

すでに30代へ突入している殊勲の李は、かみ締めるように語った。めぐってきたチャンスをわしづかみにする「握力」の強い男をジョーカーとして使える選手層の厚さ。そこが、経験値の少ないルーキーを最後の決め手と頼んだG大阪との小さな、いや、大きな差だったのだろう。

なお、浦和にとって国内タイトルの獲得は06年J1リーグ制覇以来、10年ぶりだ。また、今季から大会名が変更されたルヴァンカップ(前身はナビスコカップ)の優勝は、実に13年ぶり2度目のことになる。さらに、監督就任から5年目のペトロヴィッチ体制下では初の栄冠となった。

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