育成型クラブとしての負けられない戦い J2・J3漫遊記 G大阪&C大阪U-23 前編

「果たしてこの試合は盛り上がるのか?」

「明日の大阪ダービーですか? やっぱり勝ってもらいたいですねえ。ダービーは白熱するし、 選手もクラブも盛り上がりますから。今日の試合に出られなかった選手は、(明日の試合に出場できる)チャンスがあると思いますし、特に若い選手にはチーム を活性化するという意味でも頑張ってほしいと思います」

7月9日、ガンバ大阪がベガルタ仙台とのホームゲームを3−1で制した試 合後。「明日のU−23の大阪ダービーで、トップチームの指揮官として期待することを教えてください」という質問に対する、長谷川健太監督の回答である。 セレッソ大阪がJ2に降格した2015年以降、J1では大阪ダービーが行われていない。しかし今季、思わぬ形で「新たな大阪ダービー」が生まれた。J3 リーグでのG大阪U−23とC大阪U−23による大阪ダービーである。

今季で3シーズン目を迎えるJ3は、それまで2シーズン続 けてきたJリーグ・アンダー22選抜の活動を終了させ、その代わりにFC東京、G大阪、C大阪のセカンドチームを「U−23」として加盟させることを決 定。結果として、大阪ダービーが3部リーグで復活することとなったのである。ここで気になるのが「果たしてこのダービーは盛り上がるのか?」ということ だ。

いくら「大阪ダービー」と銘打ったところで、しょせんは育成を目的としたセカンドチーム同士の対戦である。果たしてファン は、入場料に見合った対価を見いだしているのであろうか? そこで知人の両クラブのサポーターに、「J3での大阪ダービーの魅力とは何か」を尋ねてみた。 どちらも女性で、2人とも4月10日に市立吹田サッカースタジアムで行われたダービー(2−1でG大阪U−23が勝利)を観戦している。

「吹田の試合では8000人以上のお客さんが入って、かなり盛り上がっていましたね。ウチが1点差で負けたんですが、めっちゃ悔しくて! ウチもガンバもアカ デミー出身の選手が多いので、『どっちの育成がいい選手を送り出しているか』という意味でも、このダービーは絶対に負けられませんね」(C大阪サポー ター)

「私はトップチームよりも、むしろU−23のほうを中心に見ています。注目しているのは、U−19日本代表の堂安(律)、高木(彰人)、市丸(瑞希)、野田(裕喜)の4人。彼らの試合を見るために、FC琉球のアウェー戦にも行きましたよ(笑)」(G大阪サポーター)

「目先の勝負ごと」だけでない「育成へのこだわり」

7月10日にキンチョウスタジアムで開催された大阪ダービーは、好天に恵まれた。入場料は前売りで800円。G大阪もC大阪も、前日にトップチーム がホームゲームを行っており、この日はそれなりの観客数が見込まれていた。ホームのC大阪サポーターにしてみれば「ホームでは絶対に負けられない」との想 いがあり、アウェーのG大阪サポーターからは「キンチョウでのダービーは初めてなので楽しみ」という話も聞いていた。しかしフタを開けてみると、この日の 入場者数は4915人。前回、吹田で行われたダービー(8038人)に比べて、いささか寂しい数字となってしまった。

それでもス タンドが醸し出す空気は、まさしくダービー特有のものであった。容赦無いブーイングと、煽りをたっぷり含んだチャントの応酬。これがG大阪ユースとC大阪 U−18によるダービーであれば、両チームのサポーターはブーイングや汚いヤジを慎むことが不文律となっている。しかしU−23でのダービーは、18歳や 19歳の選手でも「あくまでプロ」の扱いだから、対戦相手のサポーターからすれば十分に攻撃の対象だ。それゆえであろうか、特にアウェーのG大阪U−23 の若い選手たちは、少し表情が堅く感じられた。

まだ強い日差しが残る17時にキックオフ。試合が動いたのは前半31分だった。左 サイドを抜け出した米澤令衣が中央に折り返し、これを澤上竜二が左足でネットを揺らしてC大阪U−23が先制する。しかしG大阪U−23も負けてはいな い。前半42分、左サイドに大きく展開すると左サイドバックの初瀬亮がクロスを供給。これを呉屋大翔がニアサイドから高い打点でのヘディングシュートを決 めて同点に追いつく。エンドが替わった後半は、両者の意地がぶつかり合う展開となり、シュートチャンスのたびにスタンドが沸く。そして決勝点が生まれたの は、後半42分。堂安からのCKに途中出場の一美和成が相手GKの背後から頭で合わせてネットを揺らし、G大阪U−23が2−1で勝ち越しに成功した。

試合後、どっぷりと日が落ちたキンチョウスタジアムを後にしながら、J3における大阪ダービーの意義について考えてみた。両サポーターにとりU−23チー ムによるダービーとは、トップチームのダービーとはいささか違ったニュアンスを有しているように思えてならない。それは「目先の勝負ごと」だけでない「育 成へのこだわり」が絡まったものだ。ここで私は、ひとつの仮説を立てて取材を進めることを思い立つ。J3の大阪ダービーとは、すなわち「育成型クラブとし ての負けられない戦い」ではないか──それが私の見立てであった。

「育成のトップ」としてのC大阪U−23

 仮説を立てたところで、それぞれのU−23チームの指揮官の言葉に耳を傾けることにした い。まずはC大阪U−23の監督、大熊裕司。大熊はトップチームの監督である大熊清の実弟であり、C大阪との縁はトップチームのヘッドコーチを務めた05 年にまでさかのぼる。その後、07年から09年までJFA(日本サッカー協会)のナショナルコーチングスタッフとなるも、10年からC大阪のアカデミーダ イレクター兼U−18監督となり、今季よりU−23を率いている(なお14年には暫定でトップチームの監督も務めている)。まずは、今回のダービーについ て、対戦相手との比較という観点から語ってもらった。

「やはりガンバさんには、技術に長けた選手が育成年代に多いですね。(ダー ビーの)前半のように待ち構えてプレーしてしまうと、相手の良さばかりが出てしまって、逆にわれわれの積み上げてきたものが発揮しにくくなる。それでも後 半のように、攻守にわたってハードワークしていくことで、われわれの良さは出せたように思っています。確かに試合には敗れたし、育成年代ではなかなか太刀 打ちできる関係ではなかった。それでもガンバさんとの差は、多少は縮まってきているという実感もあります」

ここで気になるのが、ライバルとのU−23の位置づけの違いである。G大阪は現状ではU−23を「純然たるセカンドチーム」と定義しており、トレーニングはトップチームと一緒に行っている。ではC大阪におけるU−23の位置づけは、どのようなものなのだろうか?

「ウ チのU−23は『育成のトップ』という考え方でやっています。ですので、練習もトップチームとはまったく別です。斧澤(隼輝)と森下(怜哉)については、 今年高3になりますが、トップに近いところにいるので今はU−23のほうで活動しています。逆に丸岡(満)とか澤上のように、普段はトップにいる選手が ぽっと入ってきますから、連携面で多少はスムーズさに欠けるところも出てくる。それでも、これまで積み上げてきたものができているか、よりよいゲーム環境 の中でプレーできているかを重視しています」

「育成のトップ」であり、同時にU−18とトップチームをつなぐ役割も兼ねているC大阪のU−23。長年、アカデミーダイレクターの重責を担ってきた大熊にとり、このカテゴリーの新設は願ってもないことであったと言う。

「U−18 からトップに上がってきた選手の場合、最初の1〜2年はなかなか試合に出られないわけです。そこを打破するには、『しっかりとしたゲーム環境を与えること が一番』という結論に達しました。今回、J3でU−23チームの加入が認められることになったとき、真っ先に手をあげてくれたクラブには本当に感謝してい ます。J3という環境で、これまで積み上げてきたものを具現化して、トップによりよい選手を送り出すこと。そして最終的には、トップの選手がアカデミー出 身の選手たちで構成されることが、われわれの目的です」

4人のU−19日本代表を抱えるG大阪U−23

G大阪U−23チームを率いる實好礼忠は、立命館大を卒業して95年に加入して以来、07年までの13シーズンにわたりG大阪一筋でプレーしてき た。現役引退後は、名古屋グランパスでの2シーズン(14〜15年にヘッドコーチ)を除き、G大阪のユースとトップでコーチを務め、今季からU−23の監 督に就任。J3での大阪ダービーについては「やっぱり意識しますね。現役時代の記憶に加えて、セレッソさんとはアカデミーでもライバル関係がありますか ら」と、指揮官として少なからぬプレッシャーを感じていたことを明かした。その一方で、現在のポジションにはやりがいを感じているとも。

「立ち上がったばかりのチームですが、今ある環境でいかに選手を成長させていくかがテーマです。トップチームに選手を送り込むことももちろんですが、現在は U−19の日本代表が4人います。彼らの才能を伸ばしながら、ほかの若い選手もアンダー世代の代表に送り込みたい。その意味でも、やりがいがあると同時に 責任重大だと思っています」

G大阪といえば、昔も今も若きタレントの宝庫である。最近ではオランダの名門、PSVアイントホー フェンが堂安にオファーをしていたことが話題になった(結局、当人は残留を選択)。そんな彼らにとって、J3という舞台に不満を持つ選手も出てくるのでは ないか、という不安もよぎる。

「おっしゃるとおり、トップでプレーできずに悔しい思いをしている選手がいるのは事実です。ですから 最初の頃は、彼らのモチベーションを持たせることも自分の仕事だと思っていました。でも最近は、ほとんどの選手が『ここでしっかり結果を出して、トップに 行ってやろう』という気持ちでやってくれています。それにJ3という試合環境は、若い選手のためになっているとも思います。他のチームはJ2を目指してト レーニングしていますし、何といっても公式戦ゆえの緊張感がありますから。セレッソさんとのダービーでも、ブーイングをパワーに変える経験ができましたし (笑)」

95年加入の實好は、G大阪ユース一期生の宮本恒靖と同期。年齢的には大学サッカー出身の實好が上だが、その後アカデ ミー出身者がチームの中核を占めるようになり、宮本は今季からG大阪ユースの監督に就任した。實好自身、現役時代はアカデミーへの憧れはあったのだろう か。最後に尋ねてみると、苦笑交じりにこんな答えが返ってきた。

「憧れですか? なくはないですね。あの環境で、もっと『考える選 手』になっていれば、もっといい選手になれたかもしれない。ただ、今のユースの選手と一緒に練習すると、まだまだ僕のほうがミスは少ないですよ(笑)。そ れに、ただうまいだけではいい選手になれませんし。僕自身も30歳を前に大きなけがをして、いろいろ勉強したり、いろいろな人とサッカーについて語り合っ たりして、見える風景が変わりました。そうした気付きを、若い選手たちにも伝えていければと思っています」

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