【イタリア人の視点】G大阪の新スタを知るための5つのトピック。欧州基準の“劇場”が日本サッカーの未来を変える

ガンバ大阪の新スタジアム、市立吹田サッカースタジアムで開催されたJ1開幕節G大阪-鹿島戦。新スタジアムで初めてとなる公式戦でG大阪は敗れてしまったが、魅力的な劇場は、日本サッカーの将来に資するものであると改めて感じさせられるものだった。

まさに夢が現実に

 吹田スタジアムは確かに素晴らしい施設だが、その美しさは建築面だけにあるのではない。サッカーコミュニティの精神が体現されたスタジアムだという事実 も重要だ。プロジェクトは2008年頃に立ち上げられ、草の根からの投資の助けも得て、おそらくはアジアで最高と言うべきサッカースタジアムの誕生に至っ た。

場内に足を踏み入れてみれば、欧州の中規模スタジアムとの差異は全く感じられない。イングランドやドイツ、あるいはユベントス・スタジアムにいるかのようだ。日本国内にも他に美しいスタジアムはあるが、吹田スタジアムはレベルをもう一段上へと引き上げてくれた。

施設内を一巡りしてみたが、あらゆる場所から完璧な見やすさだ。屋根は観客席の大半を雨から守るだけでなく、一体感のある雰囲気もつくり出しており、サポーターの声を反響させて独特の空気を生み出すことにもなる。

ガンバ大阪のサポーターも素晴らしい

 25年間の歴史を通して、ガンバ大阪は郊外の少クラブからアジア屈指のビッグネームへと成長してきた。クラブ経営陣や、ベンチおよびピッチ上でクラブの歴史を築いてきた者たちは称賛されて然るべきだ。

だが、スタジアムが正式にオープンしたこの日、ガンバで最も印象的だった存在はそのサポーターたちだった。

観客席全体を占めるガンバファンたちが試合中ずっと飛び跳ねながらチャントを歌い続けており、記者席で隣の同業者と試合について話をするのに大声で叫び合わなければならないほどの大歓声だった。

サポーターの生み出した雰囲気は本当に最高のものだった。Jリーグのあらゆる試合でこれが味わえるようになることを願いたい。

良いスタジアムは良いサッカーを生む

 この素晴らしい舞台設定の中で心配だったのは、凡戦がそれを台無しにしてしまわないかということだ。だが全くの杞憂だった。適切だと感じられたジャッジ にも助けられ、ガンバもアントラーズも非常に激しさのある試合を展開し、観客は最後の瞬間までプレーに夢中になっていた。

鹿島の激しいプレーは5枚のイエローカードを生んだし、丹羽が重い怪我を負うことになったのも残念だった。それでも、Jリーグが国際舞台で競争力を高めていくためにはまさにこういう試合こそが必要なものだ。

遠藤や小笠原といった選手たちが健在な一方で、新世代の台頭が目立ったことも朗報だ。この日は特にカイオ(21歳)と鈴木(19歳)のコンビネーション や井手口(19歳)の見事なパフォーマンスなどが目を引き、日本が継続的に優れたタレントを輩出できるようになっていることが実感できた。

とはいえ、吹田スタジアムまでの道のりは…

 一般サポーターと同じようにスタジアムを体験したいと思ったので、タクシーのことは忘れてモノレールに乗ることを選んだ。試合開始1時間前の時点ではそれほど混雑してはいなかったが、駅からスタジアムまでの道のりはちょっとした長旅だと言わざるを得ない。

もちろん、サッカーファンに囲まれながら15分ほどの距離を歩くことに何も問題があるわけではない。とはいえ、2万人や3万人のサポーターが試合のたび に吹田スタジアムを訪れるようになることを考えると、スタジアム周辺の交通インフラには改善が必要なのではないかと思う。特に、長い階段(数えてみると 149段あった)は荷物を持った観客には本当に大変なものだ。

試合終了後には、モノレールやバスやタクシーを待つ人の列が落ち着くまでにはたっぷり2時間ほどを要した。今後もこの日と同程度の客入りが続くのだとすれば、公共交通機関のさらなる充実が必要となることは間違いない。

スタジアム周辺の飲食店も不十分だ。ユニフォーム姿のままだった2人のガンバファンから、席に座るまでに1時間半待たされたという話を聞いた。試合とほぼ同じだけの時間だ!

他クラブ・他都市もガンバと吹田の後に続くべき

 空腹時にレストランが満席なのは悲劇的だが、それだけ大きなビジネスの機会があるというポジティブな兆候でもある。スタジアムに隣接するショッピングセンターには普段より3万5千人ほど多くの客が詰めかけ、確実に大きな収益を生んでいたはずだ。

サッカーには人を集める大きな力があることは言うまでもないが、それだけではない。雇用を生み出して地域のビジネスを振興し、経済面でプラスの相乗効果を生み出すことができる。

栄光に満ちた万博競技場は、昨年までJ1クラブが本拠地としていた施設の中では最も見苦しいものだったということに誰もが同意してくれるのではないかと 思う。今や劇的なアップグレードが実現されたとはいえ、日本国内にはまだまだ数多くの“恐竜”のような古いスタジアムが現存しており、一旦取り壊した上で の改築、あるいは新スタジアムへの移転がぜひとも必要な状況にある。

特に顕著な例はやはり広島だ。日本で最高のチームの一つが、日本で最も醜いスタジアムの一つでプレーしている。より優れたスタジアムを持つのにふさわしい都市は他にも多い(例えば湘南や甲府、その他下部リーグのいくつかのチームの本拠地など)。

吹田スタジアムの成功がそういった共同体に向けての好例となるべきであり、全ての試合が吹田と同様の美しいスタジアムで開催されるような日本サッカーの未来へと繋がっていくことを期待したい。

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