なぜドルトムントは日本を選ぶのか? CEOが語った「クラブの価値」と「日本の評価」
なぜ、ドルトムントは日本を選ぶのか。2026年夏、ドイツの名門クラブが4度目となる日本ツアーを実施した。香川真司という特別な存在が日本との距離を縮めたことは間違いない。だが、ドルトムントが日本で見ているものは、単なる「海外ツアー先」としてだけではない。クラブのCEOカルステン・クラマーの言葉を聞くと、日本サッカーに対する“外からの評価”が見えてくる。
(文=中野吉之伴、写真=朝倉健/アフロスポーツ)
ドルトムントがツアー先に日本を選ぶ理由
「ドルトムントのスーパースターは、スタジアムであり、人々であり、クラブそのものです」
ドルトムントCEOカルステン・クラマーが口にしたこの言葉は、セレッソ大阪、FC東京と対戦した今夏の日本ツアーにも重なる。ブンデスリーガ主催のインターナショナルメディアツアーで、ドルトムントの国際市場への取り組みについて、クラマーが様々な視点で話をしてくれた。
ドルトムントが日本へチームを連れて行くのは、今回が4回目。FIFAワールドカップ北中米大会にも出場したドイツ代表のヴァルデマール・アントン、フェリックス・ヌメチャ、マクシミリアン・バイアー、兄のジュードに続いてドルトムントでプレーする20歳ジョーブ・ベリンガムら28選手が来日した。
だが、ツアーを決めた時点では、すべてのスター選手が参加できる保証はなかった。ワールドカップでどの国が、どこまで勝ち残るのかはわからない。数試合にわたって出場を果たした選手は疲労も蓄積する。実際に、スイス代表の正GKとしてワールドカップ・ベスト8入りに貢献したグレゴール・コベルや、オーストリア代表の中盤の要として活躍したマルセル・ザビッツァーなど数選手がコンディションを考慮して日本ツアーの登録メンバーから外れた。
だからこそ、選手だけに依存しない価値を伝える必要があった。この考え方は、海外のファンにも選手ではなく、クラブを好きになってもらいたいというドルトムントの姿勢につながっている。
ただ、アジアのサッカーファンは、クラブそのものよりも、特定のスター選手をきっかけにサッカーを見るようになるファンも少なくない。かつて香川真司をきっかけにドルトムントを知った日本のファンも、その一例だろう。クラマーも、選手を追いかけること自体を否定するわけではない。
「特にアジアでは、選手に興味を持つ人が多いことはわかっています。マーケティングに関しても選手にフォーカスすることで、より多くの人を惹きつけることもあります」
それでも、最終的にドルトムントが目指す場所は別にある。そして日本には選手だけではなく、ドルトムントというクラブそのものを応援してくれるサッカーファンが多くいる。そのことが、こうした日本ツアーを考えるうえでとても重要だったという。
「日本の人々に、選手ではなく『BVBというチームそのもの』を見せる必要がありましたし、それを受け止めてくれるファンがたくさんいてくれることが大切でした。たとえスター選手がいなくても、満足してもらえるか。それにスター選手が勢ぞろいしていても、私たちは基本的にクラブというブランドに焦点を当てます」
そして、クラマーは言い切る。
「クラブそのものが常にスーパースターなんです」
「私たちはサッカー企業ではなく、サッカークラブ」
ではドルトムントは選手と国際市場の関係性について、どのように見ているのだろう。サッカークラブにとって、海外市場を開拓するうえでどの国の選手を獲得するかは重要な意味を持つ。
例えばドルトムントは長年継続的にブラジル人選手を数多く抱えていることから、ブラジルには数多くのドルトムントファンクラブがあるという。日本では香川真司がクラブとファンを結びつける存在になった。今夏の日本ツアーにもガンバ大阪から期限付き移籍で加入中の山本天翔が参加している。では、海外市場を意識して、その国の選手を獲得するのかというと、そうではない。クラマーの答えは明確だった。
「もちろん、国や市場を開拓するという意味では重要です。でも、私はマーケティング会社の代表ではなく、サッカークラブの代表です。ドルトムントのようなクラブにとって、『本物であること』が非常に重要です。私たちはまず、選手のクオリティを見ます」
ブラジル市場を広げたいからといってブラジル人選手を獲ることはない。日本市場を意識して日本人選手を獲得するのでもない。まず、その選手がドルトムントにとってスポーツ面で必要なのかどうか。それが最初にくる。
「例えばブラジル人選手を獲得したとします。まずスポーツ面で成功することが必要です。もし彼が活躍すれば、その次にブラジルでのマーケティングやPR活動を行える。あるいは、12〜13年前に香川真司を獲得したときもそうでした。スポーツ面で成果が出た時点ではじめてマーケティング部門が、『では、その選手を日本市場でどう活用できるか?』を考える。それが大事な順番です」
クラブが選手を市場への入り口として利用するのではない。選手自身がサッカー選手として価値を示した結果として、その先に市場が広がっていく。
「私たちはサッカー企業ではなく、サッカークラブです。この違いを理解しなければなりません。選手がどこから来たかを最初からマーケティングのために利用するわけではない。もし彼がスポーツ面で成功し、市場でも活用できるのであれば、その列車は動き始める。でも、それはその前ではありません」
「日本人は少し謙虚すぎる」クラマーCEOが見た日本サッカー
では今夏のジャパンツアーを経て、ドルトムントは日本をどう見ているのだろう。日本について尋ねると、クラマーの言葉には少し意外な熱がこもった。
「私はいつも、日本のサッカー、日本のサッカー文化、日本のおもてなしについて、とてもポジティブな印象を持っています。日本に滞在すること、日本へ行くことはいつも大きな喜びです。香川真司の獲得も、セレッソ大阪とのパートナーシップも、大阪での試合が満員になったことも偶然ではないと思っています」
そのうえで、日本のサッカーを巡るある自己評価に疑問を呈した。
「時々、日本人は自分たちを過小評価しすぎていると感じています」
日本では、FIFAワールドカップでの成績や海外との比較を理由に、「日本にはまだ本当のサッカー文化がない」と語られることがある。そうした課題が存在することはもちろん否定できない。しかし、ドイツから見た景色はまた違う。
「日本人選手がブンデスリーガに来ると、ほとんどの場合、最初からプレーできます。私は、スポーツ面で日本人選手がクラブやファンを失望させたケースをほとんど知りません。日本サッカーのレベルは非常に高いと思います。そして、日本には素晴らしいサッカーファンがたくさんいます。期待した結果を残せなければ失望する。その感覚は理解できます。でも、日本人は少し謙虚すぎる。もっと自信を持っていいと思います」
日本にサッカー文化がない、なんてことはない。サッカー強国と比べたら、まだ課題はあっても、日本には築き上げてきた確かなサッカー文化があるのだ。
ドイツの名門クラブを率いるCEOから返ってきたのは、「まだ足りない」という指摘ではなく、「すでにあるものを、もっと評価していい」というメッセージだったのはとても印象的なことではないか。
日本に向けられた「その言葉」の重み
そして、クラマーが日本サッカーのさらなる国際化という点で評価するのが、Jリーグの秋春制への移行だ。
「プロサッカーのさらなる発展という意味では、シーズンをヨーロッパと同じスケジュールに変更したのは、とても良い次の一歩だと思います」
理由はシンプルだ。選手の移籍という面でこれまで以上に動きやすくなり、ヨーロッパのクラブとの親善試合も組みやすくなる。
「移籍ビジネスがやりやすくなる。親善試合もやりやすくなる。ヨーロッパのシーズン日程がスタンダードと皆が考えているのであれば、それに合わせることには意味があります。もちろん、各国にはそれぞれ事情があり、異なる意見があることも理解しています。それでも、私は国際的な試合日程の『ハーモナイゼーション(調和・統一)』を強く支持しています。だから、とても良い決断だと思います」
UEFAのクラブランキングでドルトムントは10位につけている。抱える選手の総市場価値は5億6500万ユーロ(約1045億円)。そんなクラブでCEOを務めるドイツ人カルステン・クラマーが熱っぽく、「日本はもっと自信を持っていいと思います」と訴えてくれた。
日本に向けられたその言葉は、クラブと国際市場、そしてサッカー文化を考えるうえでも、とても重く響くものがあるではないか。
<了>



