<ガンバ大阪・定期便158>最大級の緊張を渾身のセーブに変える。一森純が今シーズン初出場。

■2026/27シーズン初出場。「試合勘のなさをネガティブに考えず、心の余裕を持って臨む」。

 一森純にとって2026/27シーズン初の公式戦となった8月26日の天皇杯2回戦・レイラック滋賀FC戦。試合後、取材エリアに現れた彼は「勝ってよかったです。さきほど他会場の結果も聞きましたが、やっぱり天皇杯は簡単じゃないなと。僕自身も久しぶりの試合でしっかり緊張しました」と表情を緩めた。

 実は「しっかり緊張した」という言葉は、試合前に話していた「おそらく、緊張すると思います」とセットで語られた言葉だ。

 一森にとっての公式戦は、特別シーズンにおける唯一の出場となった6月6日のJ1百年構想リーグ・プレーオフラウンド第2戦・東京ヴェルディ戦以来。だが、特別シーズンはほとんどの時間を昨年11月末に負った左母指末節骨骨折や左膝蓋腱炎のリハビリと向き合ってきたからだろう。「試合勘を取り戻したとは言えない状況で特別シーズンを終えた」と一森。それもあって心機一転の2026/27シーズンはより強い覚悟を携えつつ、ACL Two2025/26に続く『タイトル』を誓ってスタートしていたからこそ、今シーズン初めて巡ってきた出場チャンスに試合前からポジティブな意味での緊張感を漂わせていた。

「GKが試合勘を戻すには最低でも3試合はかかるということを、これまでお世話になってきたGKコーチにも言われてきたし、自分もそこは覚悟しています。だからこそ、自分の最大限で集中力を高めて試合に臨むつもりですが、一方で、試合だから何が起きるかわからないよね、ということも常に隣り合わせにあることを自分にしっかり言い聞かせて試合に入ろうと思っています。離脱していた期間も含めて、自分なりのバージョンアップを心掛けて過ごしてきましたが、どれだけ練習をしても最後のところは公式戦でのすり合わせが重要になる。特に試合勘のところは試合を戦うことでしか積み上げられないところも絶対にあるので。そこはネガティブに考えず、心の余裕を持って臨むというか、何が起きたとしても慌てずにその状況に向き合うことを心掛けながら、チームと自分自身を信じてやり続けようと思います」

 実際に試合が始まってからも、その試合勘のところは自分の中で繰り返し確認しながら時計の針を進めていったという。前半の立ち上がりから勢いよく、ハイプレスを仕掛けてきた滋賀相手に対し、一森自身も落ち着いてビルドアップに加わりながらボールを動かしたり、DFラインがスムーズにラインアップできるようにと気を利かせたり。随所に『らしい』プレーを光らせていたが、彼自身はそれも含めて1つ1つ、自問自答しながらのプレーが続いたそうだ。

「今シーズンが始まって、外から試合を観てきた中で、もう少しGKが優位性を持たせてボールを供給してあげられたらいいなというのは感じていたし、DFラインからも『しっかりと連動して出てきて欲しい』ということは言われていました。その中で、自分のところで相手を引き付けてボールを出すことでセンターバックに余裕を持たせてあげようというのは心掛けていたことでした。自分のところでそうした優位性を作ることが次のプレーや、その次のプレーのジャブになって、相手ゴール前に近づくほどより自分たちがより優位に立ってボールを動かせていれば理想だな、と。ただ前半は特に、自分の中でも、こんなふうにビルドアップに加わっていたよなとか、こういう状況ではここに立たないとDFラインを助けられないな、みたいなことを頭の中で考えながら、そこにプレーを伴わせていく、という感覚でプレーすることが多かったのも正直なところでした」

■DFラインの顔ぶれ、展開に応じて戦いを変えながら『0』に貢献する。

 その『頭で考えながらプレーする自分』から『体が状況に応じて自然と反応する自分』に移行できたのが後半だ。59分に滋賀に許したビッグチャンスをスーパーセーブで弾き出せたのも、後者の感覚を得られるようになったタイミングと合致して導き出されたシーンだったという。

「後半に入って、あのくらいの時間帯くらいから何も考えなくても必要な立ち位置にすんなり入るということができるようになっていた中でタイミングよく(竜田柊士選手の)シュートが飛んできて、本当の意味で体にスイッチが入ったなという感覚がありました。そういう意味でもあのシーンをしっかり止められたのはよかったです」

 また後半は中谷進之介がベンチに下がり、少しずつDFラインの顔ぶれを入れ替えながら試合が進んでいった中で、前半ほどGKからビルドアップをするシーンが多くなかったことについても意図的だったと言及した。

「後半はDFラインのキャラクターが変わったことや、2-0でリードしている状況、一発勝負のトーナメント戦だということを踏まえ、コーチングスタッフともコミュニケーションを図りながら敢えて、リスクを負う必要がないシーンではシンプルにプレーしたというか。自陣では無理をして繋ごうとせずに、相手コートでしっかりボールを繋ぐことを心掛けていました。そこは前後半で敢えて変化させたところでした。その中ではいくつか危ないシーンも作られましたが、チームとして0で締められたのも良かったです」

 チームとして今シーズン初の黒星を喫したJ1リーグ第3節・名古屋グランパス戦直後の滋賀戦をきっちりと『0』で締め括れるかどうかは、チームの今後の戦いにも大きく影響すると考えていたからだ。

「25年もそうでしたが、シーズンの入りの時期に失点が続くのはガンバの悪い癖というか。もちろん、チームとしても毎試合『先に失点しない』ということを肝に銘じて臨んでますし、序盤なので最初からすべてが完璧に進むとは思っていません。この時期はそうした課題をチームでしっかり共有しながら進んでいくのが大事だし、内容とか失点数がどうこうという以上に『結果』が取れるのも大事だと思います。ただ長いシーズンを考えた時に、序盤戦とはいえ相手チームに『ガンバから先制点を取るのは容易よな』という印象を持たれるチームには絶対になりたくない。そういう意味でも、また、直近の名古屋グランパス戦で今シーズン初黒星を喫していた流れを断ち切る上でも、天皇杯とはいえチームとしてとても重要な完封勝利だったと受け止めています」

 とはいえ、まだまだ課題はある。試合の入り方、プレスの掛け方、試合の進め方はもちろん「特別シーズンで取り組んできた自分たちの良さを取り戻したい」という思いもあるそうだ。ただし、そうした内容以前のところで一森が何よりも大事にしたいと考えているのは「チームとしてバラけないこと」だという。

「ミョウさん(明神智和監督)からも提示されていることともイコールですが、自分たちがハーフシーズンで取り組んできた『自分たちの良さはなんなのか』という部分はもっともっと、取り戻していきたいと思っています。強度高く、ブラッシュアップをしていきたいし、それを取り戻すだけではなく、相手の出方に応じて、こういう時はこういう戦い方をするといったいろんな引き出しを持ったチームに成長することも必要だと思っています。特に、ハーフシーズンでは前に、前に、ということを強調して進んできましたけど、現実的に暑さや相手の出方によっては、全部が全部、前に、前にではなく落ち着かせるところも必要になってくる。それをチームとして形にしていくためにも、チームがバラけずに進むことが大事というか。もちろん、勝ちながら修正できるのが一番の理想ではあるんですけど、それが仮に出来なかったとしても自分たちで勝手に疑問を大きくしていかないというか。きちんと考えをぶつけ合って、出た課題についてはチームとしての課題として受け止め、チームとして修正することが大事だし、ミョウさん、キャプテンのシン(中谷進之介)を中心に、気持ちを揃えて進んでいきたい。僕自身もそういう声掛けを最後尾からしていければいいなと思っています」

 どんな時も常にチームの勝利から逆算して自分のすべきことを考え、かつ、最大のライバルである『自分』に常に打ち勝っていくために自分自身に矢印を向けることを忘れない一森らしい言葉が光ったが、取材の最後にはこんな秘話も聞かせてくれた。

「さっき、しっかり緊張しましたって話をしましたけど、マジで今日はヤバかったです。今日はいつもと少し勝手が違って、チームバスでスタジアム入りはせず、各自が決められた時間にクラブハウスに集合して、スタジアムのロッカーに向かったんですけど、秋くん(倉田)と一緒に歩いている途中に『ヤバい! 天皇杯のADをロッカーに忘れてきた!』と思って取りに帰ろうとしたら、秋くんに『首から下げたAD、背中側にあるで』とADを引っ張られて、ホンマやー!と(笑)。おまけに着替えている時も『スパッツが前後ろ反対やで』とツッコまれ…。流石の秋くんも、これはマジで緊張していると思ったらしく『純、大丈夫や。お前は、ちゃんとここまで準備してきてんからいつも通りにやればいける』とガチモードで励ましてくれました。マジで頼りになる先輩です」

 どれだけキャリアを重ねても、経験を積み上げたとしても、目の前の1試合に対して決して緩みなく、油断なく、最大限の緊張感を持って「チャレンジャーの気持ちで」向かう。35歳になった今も、それを真摯に続けられるから一森純は今もピッチで変わらない輝きを放ち続けている。

https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa

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