U−23が参戦するJ3、成功の鍵は? FC東京、G大阪、C大阪それぞれの事情

U−22選抜から単独のU−23チームへ

手倉森誠監督率いるU−23日本代表が2016年リオデジャネイロ五輪の本大会出場権を獲得するなど、ようやく若い世代の台頭に光明が差し始めた日 本サッカー界。そんな流れをより加速させるのではないかと期待を集めているのが、FC東京、ガンバ大阪、セレッソ大阪の各U−23チームが今季、J3に参 戦することである。

日本サッカー協会とJリーグは、2014〜2015年の2シーズンにわたってJ1、J2のU−22選抜をJ3 に参戦させてきたが、「場当たり的な寄せ集めチームでは若年層の抜本的強化にはつながらない」という懐疑的な見方が高まった。そこで、U−22選抜の活動 を昨シーズンで打ち切り、今季から単独クラブのU−23チームを年間を通してリーグ参戦させる方針に転換。上記3クラブが2016年のJ3を戦うことに なった。

U−23チームの出場資格は23歳以下(当該シーズンの12月31日における満年齢)の選手に与えられるが、オーバー エージ枠3人が認められている。GKに限っては追加のオーバーエージ1枠を活用できるルールも設けられた。さらにU−23はJ2昇格資格を有さないという 申し合わせもなされている。

U−23をトップチームと一緒に活動させるFC東京

とはいえ、全てのクラブが23歳以下のプロ契約選手だけで1チームを作れるわけではない。FC東京の場合、今季登録メンバーでU−23に該当するの は、小川諒也、室屋成、柳貴博、幸野志有人、佐々木渉、中島翔哉、野澤英之、橋本拳人、平岡翼、ユインス、2種登録の波多野豪とギリギリの11人しかいな い。こうした実情を踏まえ、クラブとしてはU−23とそれ以外を分けずに通常通りのトレーニングを行い、試合直前に誰をU−23の試合に行かせるかを臨機 応変に判断するというやり方で、今季J3に挑むという。

「ウチの場合、23歳以下だけで11人を組める陣容でないのが現実。オー バーエージも3人までなので、どうするかを考えなければいけません。前日にあるJ1の試合でベンチ入りした選手が45分出たのか、10分出たのか、全く出 なかったのかという状況の違いも起きる。誰を行かせるかは悩ましい部分で、現場にとって非常に難しいハンドリングになるのは間違いない。だからこそ、常に 一緒に活動しながら最後のところで『この選手は今回、J3に出る』と切り分けていくことが、チームにとってプラスになると考えます。

いずれにせよ、われわれにとって一番重要なのは、J1制覇を目指す中で1人でも多くのU−23の選手を引き上げること。そのために、J3をうまく活用していくことが大切だと思います」と城福浩監督は説明する。

人材育成、チームの底上げの重要性

FC東京U−23の指揮を執る安間貴義監督も「あくまで最大のテーマはJ1で活躍できる人材を数多く送り出すこと」と言い切る。

「僕 らの使命は、移籍市場が開いた時、外から何人も選手を補強するような形にしないこと。『U−23には使える選手がいますよ』と胸を張って言えるような状態 にしないといけない。そうすることで、限られた補強費を1人の大物選手に充てることもできる。未完成品を完成品に近づけることが僕の仕事なんです」

実際、安間監督は昨季も丸山祐市や橋本をセカンドチームで指導し、トップチームに送り出している。とりわけ丸山は湘南ベルマーレ時代に磨いたカバーリング 能力に、前でつぶせる力を加えようと意識的に指導した結果、ヴァイッド・ハリルホジッチ監督の目に留まって日本代表入りも果たした。そういう人材を1人で も多く作ることを意識していくという。

こうした考え方はG大阪にも共通している。彼らもFC東京同様、トップとU−23を分けず に活動し、試合前にメンバーを選別してJ1とJ3を戦う方向で動いている。今季のチームには23歳以下が16人おり、U−23の単独チームを活動させられ る状態ではある。だが、あえて全員一緒にトレーニングすることでチームの底上げを図り、若い世代の台頭を促そうともくろんでいるようだ。

長谷川健太監督も「トップの選手が代表やけが人で抜けることもあるし、ユースの選手も加えながら戦う必要が出てくることもある。U−23の實好礼忠監督やユースとも連携を密にしていく必要がある」とコメントしており、チームとしての総合力が問われるのは確かだろう.

あえてトップチームと差をつけるC大阪

一方、J2のC大阪はJ1の2クラブとは異なり、J2とJ3の日程が重複することも加味しながら、完全にトップとU−23を別々に動かしている。トップチームは1月中旬に大阪で始動した後、タイ・宮崎キャンプを経て、28日に町田ゼルビアとの開幕戦を迎える。

U−23は1月下旬に高知でキャンプを実施。その後は大阪で地道な調整を続けている。練習時間もクラブハウスのロッカーも別にし、遠征の長距離移動もほとんどバスを使うなど、「2軍」という位置づけを若い選手たちに実感させているのだ。

「い いも悪いも『下剋上』。下から這い上がるハングリー精神を持ってもらいたい。そういう厳しさが、今までのセレッソには足りなかった。練習時間もロッカーも 別にすれば、トップとの違いを痛感するだろうし、鳥取や富山へのバス移動もタフさを養うことにつながる。僕らがJFLを戦っていた90年代はバス移動が当 たり前でしたし、ブラジルなんかでもごく普通。コスト削減にもつながりますからね」と大熊清監督は語気を強める。

トレーニングが別になる分、指導者同士のコミュニケーションはより不可欠なものとなる。今季は大熊監督の実弟である裕司氏がU−23監督に就任。彼らは常日ごろから細かい意思疎通を図りながらトップの戦術をU−23に落とし込み、個を育てるように仕向けていくという。

「U−23 はわれわれの育成の一番上のカテゴリーという捉え方。これまでU−23年代はレンタル移籍などで公式戦の出場機会を増やすように努めてきましたが、自前で 個を伸ばし、トップの戦術に適応できるように仕向けることはやはり重要です。ハードワークや守備意識は現代サッカーでは当然のごとく求められますが、今ま でのセレッソには確かに足りなかった。そこを突き詰めていき、攻守にアグレッシブに関われる選手をU−23からトップに数多く引き上げたい。トップと U−23の選手入れ替えは常時行います」(大熊裕司監督)

セレッソのトップチームは今季もJ2での戦いを強いられるが、中長期的 にJ1復帰、J1タイトル争い、AFCチャンピオンズリーグ参戦という未来像を見据えて、あえて今季のJ3挑戦に踏み切った。「J3にはユースの庄司(朋 乃也)や17歳の森下(怜哉)、15歳の瀬古(歩夢)といった2種登録の選手もどんどんトライさせたい」と大熊清監督が言うように、10代のタレントを輩 出できれば、今後への礎を築くこともできる。日本屈指の育成クラブとして、彼らはU−23の活動を重視していくつもりだ。

U−23チームの成功の鍵を握る成果と運営

このように3クラブの事情はまちまちだが、「個を育てること」が最大のテーマなのは間違いない。その一方でJ3は公式戦。J2昇格がなかったとして も、有料試合である以上、やはり結果は求められる。「勝ちにいかなければ意味がない」とFC東京U−23の安間監督も強調する通り、現場サイドは上を目指 す意識をもちろん忘れてはいない。

けれども、FC東京やG大阪はチームを固定して強化ができないため、本気で今季J2昇格を狙う 大分トリニータや栃木SC、AC長野パルセイロのようなチームと互角に戦えるのかどうかは未知数だ。昨季のU−22選抜もモチベーションにばらつきがあ り、強化に直結しなかったという声も根強い。そこをどうしていくかは各クラブや指導者の手腕によるところが大だろう。

加えて言う と、クラブ側は集客や広報宣伝活動、試合運営といった問題もクリアしなければならない。FC東京U−23は味の素フィールド西が丘や江東区夢の島競技場で ホームゲームを戦うが、誰が出るか直前までハッキリしなければ、集客活動やイベントなども仕掛けにくい。スタンドが閑散とする中では選手のレベルアップに もつながりにくい。いかにしてJ3を盛り上げていくかは非常に難しいテーマなのだ。

それでも、FC東京にとっての「西が丘」や 「夢の島」はかつての聖地。G大阪にとっての万博記念競技場やC大阪のキンチョウスタジアムも同様だろう。クラブが長い歴史を紡いできた場所にレジェンド とも言うべきOBらを呼んでイベントなどを開催すれば、オールドファンが足を運んでくれる可能性もある。アイデア次第でJ3の試合を有効活用でき、リーグ 全体を盛り上げられるチャンスも少なくない。

今季、この3クラブがJ3でどんな成果を残すか、運営面で成功するか否かによって、 今後のU−23の活動、J3のあり方も大きく変わってくる。近い将来、J2昇格の道も開かれるかもしれないだけに、3クラブの動向が大いに気になるところ だ。3月13日のJ3開幕節では、FC東京U−23がSC相模原とのアウェー戦、G大阪U−23がY.S.C.C.横浜とのホームゲーム、C大阪U−23 がグルージャ盛岡とのホームゲームにそれぞれ挑む。まずはその戦いぶりに注目していきたい。

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