“並外れた努力家”中村敬斗が覚醒 オランダ戦でMOMの大活躍 今大会で評価急上昇の可能性も ついに飛躍の時か
北中米W杯に出場する日本代表が初戦のオランダ戦に臨み、2-2の引き分けに持ち込んだ。後半にリードを2度許す展開となったが、同点に追いついた戦いぶりは大きな価値がある。
奮闘した選手たちの中で、特に活躍が際立っていたのが、左ウイングバックでスタメン起用されたMF中村敬斗(スタッド・ランス)だった。0-1の後半12分にペナルティーエリア左でMF久保建英(レアル・ソシエダ)のパスを右足で受けると、相手DFの股下を抜く弾道で同点ゴールを決めた。「多少コースが甘くても入るのは分かっていたけど、あそこまでうまく決まるとは」と振り返るゴールで試合の流れを引き寄せた。オランダに再びリードを許したが、試合終了間際の89分にコーナーキックからFW小川航基(NEC)のヘディングをMF鎌田大地(クリスタル・パレス)が軌道を変える形でネットを揺らし、2-2のドローに。中村は英国メディア「BBC」で、ユーザー投票による試合の採点で両チーム合わせてトップの評価となる「7.61」を獲得し、この試合のマン・オブ・ザ・マッチ(MOM)に選出された。
■なかなか見る機会がなかった
海外サッカーを取材するライターは「アメリカのダラスで試合が開催され、オランダのサポーターの方が人数は多かったですが、日本代表が同点に追いつくと、日本のサポーターだけでなく、イングランドやアルゼンチンのユニホームを着た観客も大喜びしてすごい熱気でした。特に中村のプレーは目を見張るものがあり、欧州クラブの関係者が『なかなか見る機会がなかったけど、三笘薫(ブライトン)に匹敵するクォリティーを出せる。今大会で評価が急騰する可能性がある』と絶賛していました」と明かす。
「なかなか見る機会がなかった」という言葉が、中村の置かれた立場を表している。所属クラブのスタッド・ランスは昨年フランス2部へ降格。移籍を模索したが、クラブは「攻撃の中心選手」と容認しなかった。世代別代表でも共闘してきた久保はラ・リーガの華やかな舞台でプレーしているのに対し、中村がプレーする環境は注目度が高いとは言えない。若手中心のメンバー構成で自分本位のプレーが目立つため、パスが回ってこないことが珍しくなかったが、今シーズンは14ゴールを挙げてW杯初出場への道を切り拓いた。
ドリブルで局面を打開する能力が高く、パスセンスも光る。一番の魅力はシュートの精度の高さだ。昨年10月に都内の味の素スタジアムで開催されたブラジル戦で、1―2で迎えた後半17分に、MF伊東純也(ゲンク)の右からのクロスを右足のボレーで合わせて同点ゴールを奪った。同年11月の親善試合・ボリビア戦は後半から途中出場すると、71分にペナルティーエリアの右奥に侵入してクロスを送り、FW町野修斗(ボルシアMG)のゴールをアシスト。78分には巧みな技術でDFのタイミングを外すと右足で振り抜き、ゴールを決めた。
■体を張って突破を阻止
スポーツ紙記者は中村の魅力をこう語る。
「高い技術を持った選手は日本代表にたくさんいます。でも、中村はゴール、アシストと目に現れる形できっちり結果を残す。シュート能力の高さは代表の中でもトップレベルでしょう。DF、GKの動きや体の重心を瞬時に判断し、相手の裏を狙う。守備での貢献度が高いことも見逃せません。オランダ戦では、欧州屈指の攻撃的サイドバックとして知られるDFデンゼル・ダンフリース(インテル)とのマッチアップで体を張って突破を阻止していた。端正な顔立ちで華やかなプレーのイメージが強いですが、泥臭くチームのために走り回れる。日本代表に不可欠な選手になったと言えるでしょう」
中村は19歳の時から海外クラブでプレーしているが、順風満帆な歩みだったわけではない。ガンバ大阪から19年に期限付きで移籍したオランダ1部のFCトゥウェンテではメンバー外になる日々が続き、契約期間を1年残して退団。その後はJリーグよりレベルが落ちるオーストリアの2部リーグでプレーした時期もあった。
■予断を許さない
ガンバ大阪の当時の関係者が振り返る。
「努力家でしたね。高校3年生の時に飛び級の形で入団してきましたが、浮足立つことなく将来の目標に向けてコツコツ努力を重ねていました。左サイドから右にカットインする得意の形も、居残りで毎日のように練習していましたよ。W杯の大舞台で活躍している姿はうれしいですが、驚きはないです。才能はすごいですし、並外れた努力を積み重ねればこうなるだろうなと」
今大会のW杯は各組上位2位以内と、3位の上位8チームの計32チームが決勝トーナメントに進出する。日本代表はグループFで最も強いと言われているオランダと引き分けて勝ち点1を奪ったことで、決勝トーナメントに前進したと言っていいだろう。ただ、戦いは予断を許さない。同じグループのスウェーデンがチュニジアに5-1で快勝。得失点差を考えると、グループで首位通過のハードルは高い。次戦で対戦するチュニジアは勝ち点3を奪いに捨て身で襲い掛かってくることが予想される。簡単な戦いにはならないだろう。
オランダ戦で攻撃の中心を司る久保が負傷交代したことにより、チュニジア戦に出場できるか不透明な状況だ。最高のスタートを切った中村にかかる期待は大きい。



