<ガンバ大阪・定期便145>「試合に出たい」。その思いを募らせた、名和田我空の2025年。

 ガンバ大阪の2025シーズンを締めくくる、AFCチャンピオンズリーグ2・ラーチャブリー戦。待望のプロ初ゴールを挙げた前節・東方戦に続く先発出場に、J1リーグ開幕戦以来となるパナソニックスタジアム吹田でのプレーに、名和田我空は昂る気持ちを抑えてピッチに立った。

「ようやくパナスタでプレーするチャンスが来たなというのは試合前から思っていました。東方戦で1つ(点を)取れていたことでうまく気持ちも持っていけたし、あまり緊張しすぎず、でも緊張感もしっかり持って、いい状態で試合に入れました」

 チームにとっても均衡を破る先制点であり、彼にとっては待望のパナスタ初ゴールが生まれたのは53分だ。美藤倫からの縦パスに抜け出した半田陸がゴールライン際からファーサイドにクロスボールを送り込むと、相手DFともつれながら左ポスト前に詰めた名和田が頭で合わせ、ゴールネットを揺らす。もっとも、ホームサポーターの目の前で喜びを爆発させるのかと思いきや、東方戦の時のようなガッツポーズすらない。聞けば「実は(ゴールが)決まったのか、わからなかった」と笑った。

「頭に当たって、そのままもつれて倒れてしまって、え? 決まった? みたいな感じになったので、喜ぶタイミングを逸してしまいました(笑)。もうちょい、喜びたかったです。ずっとこのホームで点を取りたいと思ってやってきて、開幕戦からここまですごく長かったですけど、このスタジアムで、あの熱量のサポーターの前で得点ができたのは来シーズンに繋がるのかなと思っています」

■「答え合わせは公式戦でしかできない」。焦燥感を募らせた前半戦。

 神村学園高校から鳴物入りでプロキャリアをスタートした今シーズン。J1リーグ開幕戦の『大阪ダービー』で華々しくデビューを飾った名和田だったが、チームは2-5で大敗。彼自身もポヤトス監督の信頼を掴むには至らず、時間が経つほどピッチから遠ざかる時間が続いた。ここまでの出場は、J1リーグ戦が4試合、ルヴァンカップが2試合、そしてACL2が今節のラーチャブリー戦を含め2試合。9月末に開催されたU-20ワールドカップを戦うU-20日本代表からも漏れ、悔しさに暮れた。その直後に話を聞いた際の言葉が、彼の今シーズンの戦いを物語っていた。

「自分に対して『俺は、何をしてんだ?』って思いはもちろんあります。キャリアにおいてここまで試合に絡めなかったのは初めてで、だからこそ、この1年、どこが成長できたのかわからないまま進んできたというのが正直なところです。どれだけ練習で『こういうプレーができた』というものがあったとしても、本当にそれが公式戦でもできるのか、通用するレベルなのかもわからないですしね。その『答え合わせ』は、公式戦でしかできないからこそ、すごく悩んだ時期もあったし、ずっと自分への悔しさを抱えながら進んできました。高校時代までは『試合に出るためにどうしようか』ではなく『試合に出た上で次の試合をどう戦うか』を繰り返し考えながら、点を取りたいとか、こういう形を作り出したいというものがあったんですけど、プロになってずっとその答え合わせができていないのが自分にとっては一番辛いかも。1週間、自分なりの精一杯で練習しても、それが公式戦出場に繋がらなければ週ごとの達成感も持てないですしね。そういう意味ではこれまでのキャリアで一番、試合に出たいな、出なきゃな、という思いが募った1年でした」

 もちろん、高卒でプロになってすぐに試合に出られるほど甘い世界ではないことは覚悟していた。先に書いた通り、数こそ少ないながらもチャンスをもらった試合もあっただけに、それをモノにできなかった自分の物足りなさも自覚していたという。だからこそ、自分に矢印を向けてやり続けたというが、それでも夏を過ぎ、秋になっても、ピッチに立てない日々に焦燥感は募った。

「正直、ACL2の戦いが始まったらもう少しチャンスがあるのかなと思っていました。特に、9月のホームでの東方戦で2-1で勝っている状況下、72分に東方に退場者が出てもなお出場機会をもらえなかった時は『これほどまでに信頼がないのか』とめちゃめちゃ悔しかったし、落ち込みました。とはいえ、信頼を得られていない=足りないということでしかないと考えても、自分が積み上げていく以外にチャンスを引き寄せる方法はないので。あとは、やっぱり公式戦での結果ですよね。今シーズン、紅白戦や練習試合で点を取っても自分の置かれている状況は変わらなかったことを思っても、やっぱり公式戦で結果を残さないと本物の信頼は得られない。実際、アウェイのラーチャブリー戦での亮太郎くん(食野)にしても、名古屋グランパス戦(J1リーグ第35節)の武流くん(岸本)にしても、限られた時間の中で結果を残したから信頼を掴んだと思いますしね。ただ、そのチャンスは望んで得られるものではないですから。結果、やっぱり普段の練習や練習試合でアピールを続けるしかない…という堂々巡りになるんですけど、でも、自分がやるべきことをやめてしまったら、すべてが終わってしまうことだけは間違いないので。周りの先輩選手からもずっと『やり続けろ』と言ってもらっているし、コーチングスタッフも…特にミョウさん(明神智和コーチ)には、居残り組のトレーニングでもマンツーマンに近い状況でアドバイスをもらっているので。ミョウさんのためにも自分が活躍する姿を見せたいと思っています」

 名和田によれば、試合のメンバー入りができなかった選手だけの『居残り組のトレーニング』は、この1年「正直、普段のみんなとの練習よりも一番キツかった」という。それは単に人数が少ないのもあるが、何より、高強度のメニューが組まれていたことや自身に足りていない部分と徹底して向き合う時間になったことが理由だ。

「高校時代はいつも『やり終わったー!やり切った!』という感覚で練習を終えていたんですけど、プロになってからは少し物足りなさを感じていたというか。どことなく体力が残っているのを感じながら練習を終えることが多かったので、プラスアルファで筋トレやシュート練習をしてきたんですけど、それでもどこか足りていない感があったんです。それは公式戦に出場しているメンバーを中心に練習メニューが組まれているのもあるので、そこに絡めていない自分の責任なんですけど。でも、ミョウさんとの居残り組のトレーニングは公式戦に出ないことが決まった上での練習だから、めちゃめちゃ強度も高いし、自分のウィークとも向き合う時間にもなったし、高校時代を思い出すような『やり切った感』もすごくあって、自分にとってはすごくありがたかったです。常に『メンタル的に今がキツいのはわかるけど、やり続けないと何も状況は変わらないぞ』『ボールをもらったら前を向いてプレーすることを意識しろ』と言われ続けたことも支えになりました」

■ようやく巡ってきた試合出場のチャンス。そこで得た『答え』とは。

 そうした時間を過ごしてきた名和田に、約半年ぶりのチャンスが巡ってきたのが11月27日に戦ったACL2第5節・東方戦だ。5月のルヴァンカップ・ジュビロ磐田戦以来の先発のピッチに立った彼は、チームが早い時間帯に得点を重ねてリードを奪った展開にも後押しされて、75分に待望のプロ初ゴールを挙げる。三浦弦太から送り込まれたロングボールをペナルティエリア内で受けると、少しポジションをずらして右足を振り抜いた。

「パスの選択は考えなかったです。基本、僕はスパッとプレーの判断をするタイプなので、あの場所、角度でもらった瞬間に勝負だ、と思っていました。少し下がって打ったのは、あの角度じゃないと相手の足に当たると思ったから。ボールがあまり回転していなかったことからもわかるように、しっかり芯を捉えられたイメージ通りのシュートでした。ただ、この1年、数字だ、数字だと思ってやってきたけど、こうして試合に出てみると、やっぱりそれ以外の部分でもっと貢献しないといけないということも突きつけられたので。ボールロストも多かったし、自分が関わっている(攻撃の)作りのシーンで、どれだけ得点の匂いをさせられるか、チームに数字をつけられる役割をできるかというところはまだまだだと痛感しました」

 特に前半はチームとしては得点を重ねていたものの、名和田自身はあまりボールに関われていなかったからだろう。ハーフタイムには周りのスタッフ、選手に「どうすればもっとゴールに近づけるのか。リズムを作り出せるのか」を相談し、アドバイスをもらってポジションを修正を図ったと聞く。だが、そうした修正も、試合展開に応じて「もっと自分自身で早めに判断して、変化させなきゃいけなかった」と名和田。彼の言葉を借りれば、それも、試合に出たからこそ得ることができた感覚だろう。

「東方戦のハーフタイムにヤットさん(遠藤保仁コーチ)に『我空はもっと自分でシュートを打っていいぞ』と言われたんですけど、そこも試合に出たから感じられたことというか。もちろん、チャンスがあれば狙っているし、でも自分の役割として周りを活かすことも考えなきゃいけないポジションという中で、その配分というのかな。打つ時、出す時の判断はもっとできるようにならなくちゃいけないと思ったし、そのためにはプレー中に情報をより多く得ることも必要だと感じました。これはミョウさんにずっと言われてきた『前を向くプレー』にも関わることで、それも試合に出たから改めて感じられたと思っています」

 簡単にいうと、自身がプレーの判断を下すにあたって、どこに味方選手、相手選手がいて、それぞれがどういう動きを狙っているのか。それを踏まえて、何を選択するのがベストなのかを瞬時に捉え、プレーに反映させるということ。そうした『情報』を得る方法として今シーズン、名和田は常に『首を振る』ことを意識的にトライしてきたと聞くが、その能力を磨く必要性は、この終盤戦の試合出場を通してより実感したという。

「自分がどういう時に前を向けて、どういう時はボールを下げてしまっているのか、という部分には、その時々の瞬間的な情報量が関係していると思うんです。首を振って周りを見ることで視界がとらえた空間をパッと把握する能力というのかな。ボールが味方選手から自分のもとに届くまでのゼロコンマ数秒の間に、どれだけの情報を自分に入れられるか。それが多いほどよりいい判断ができるんじゃないか、と。だからこそ、トレーニングを通して『首を振る』ことを意識して取り組んできて、それによって見える範囲や見えるものは増えてきた実感もあるんですけど、それを公式戦の中でより有効に使えるようになるには、まだまだ足りない。その情報量をもっと得られるようになれば、シュートを打つかどうかの判断や、前を向くタイミングでより効果的なプレーができるはずだし、チームの攻撃も活性化できて、相手にとってもめちゃくちゃ嫌な選手になれるんじゃないかと思っています」

 事実、この終盤戦の3試合における彼を見ていると、明らかにプレー中、何度も、何度も首を左右に振り続けている。彼自身の言葉にもある通り、今のところはその振った先にある情報の収集量や、それをプレーに反映させる回数はそこまで多くはないが、それは公式戦を重ねることで、確実に増やしていける部分であるはずだ。となれば、彼が前線で示す『脅威』もより大きくなるに違いない。

「最近は、そのために目のトレーニングも始めました。GKがよくやっている顔の横に両手の人差し指を立てて、目で追う、みたいなトレーニングです。あれ、琉偉(荒木)がやると、めちゃめちゃ目の動きが早いんです。本人はあまり自覚していないみたいですけど(笑)、他の選手と一緒にやっているのを見ても、群を抜いてめちゃめちゃ早い! それが彼の反射神経にもつながっているんじゃないかとも思います。そもそも僕は、柏レイソルの小泉佳穂選手が試合直前にその目のトレーニングをやっているのを見て、始めたんですけど。実際、小泉選手はライン間でボールを受けるのがめちゃめちゃ巧いし、判断も的確で間違えないですしね。それは瞬間的な情報収集力に長けているからじゃないかなとも思うので、僕も最近はそれを真似て、目のトレーニングにトライしています。そんなふうに、この1年を通して自分には何が必要で、どんなトレーニングが合っているのかを見つけるのが大事だということも学んだことの1つなので、自分の中でしっかり取捨選択しながら必要なトレーニングを続けていこうと思います」

 ところで、だ。このシーズン最終盤に連続して試合に出場したことで、彼はプロ1年目に対する自分なりの『答え合わせ』ができたのか。だとしたら、そこにはどんな『答え』があったのか。間髪入れずに「足りていない自分がわかりました」と返ってきた。

「思えば今シーズンは、いろんな方に注目していただいた1年でした。プロになった時のSNSへの反響というか自分でもビビるくらいたくさんのメッセージをもらったことからも、それに応えなきゃと思って戦ってきたシーズンでした。学生時代から注目されることを力に変えて、それを乗り越えることで成長してきたからこそ、ガンバでも、皆さんからの注目を刺激にして頑張らなきゃいけないとは思っていましたが、ぶっちゃけ、プレッシャーも感じていました(笑)。試合に出ていなくてもパナスタに行けば、僕のユニフォームを着てくれている人が目に飛び込んでくることも多くて、その度にスタンドに座っている自分が情けなく、申し訳ない気持ちになったこともあります。10月末に日東化成さんの新イメージキャラクターに起用してもらった時も光栄だなと思う反面、試合に出ていない選手がピッチ外だけで目立っているわけにはいかないという思いもあって、だから試合に出なきゃいけない、活躍しなきゃいけないと、自分にプレッシャーもかけていました。その中でこうして最後は試合に少し出られましたけど、さっきも話した通り、まだまだ足りないところがたくさんあると感じたのは正直な気持ちです。最終戦のパナスタでゴールを取れたとはいえ、やっぱり悔しい気持ちの方が大きくて、トータルしてみれば皆さんの応えられなかったシーズンだと受け止めています。だからこそ、来年は必ずこのガンバで試合に出て、活躍したい。というか、応援していただく皆さんに『チームの主力として活躍しているな』と思ってもらえるようになって初めて、本当の意味でプロとしてのスタートが切れると思っています」

 こうして、名和田我空のプロ1年目の戦いは幕を閉じた。シーズンを通して燃やし続けた試合に出たいという欲が、その中で最後の最後に奪い取った2つのゴールが、彼にとってどれほどの意味を持つものになるのか。その答えはきっと、来シーズンのピッチで示される。

https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1

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