<ガンバ大阪・定期便144>圧巻のスピードと運動量に加わった、得点力。山下諒也が熱い。
■名古屋戦の技ありゴールについて「あの時は簡単でした」
J1リーグ第34節・名古屋グランパス戦で決めた先制点で、山下諒也の今シーズンのリーグ戦における総ゴール数は『7』に。チーム内では宇佐美貴史の『8』に次ぐ2位タイにつけた(注:同じく2位はデニス・ヒュメット)。
過去には、20年のJ2リーグで8得点を挙げている山下だが、J1リーグでの『7』はキャリアハイを数える数字。しかも、今シーズンはチームが苦しい状況下でことごとく、ゴールネットを揺らしてきた印象も強い。おまけに、彼がゴールを決めた試合は5勝2分と一度も負けていないのも特筆すべきだろう。もちろん、その圧巻のスピードで幾度となく対戦相手を脅威に陥れてきたことも。
うち、先に書いた名古屋戦でのゴールは安部柊斗のスルーパスに抜け出した、技ありのゴールだった。
「今になって思うと難しいゴールだったかなと思ったけど、あの時は簡単でした。全部が怖いくらいイメージ通りでした。マークにきた相手選手の前で触って、右に切り返して、ファーに流し込むってところまで、コースも狙い通りでした」
基本的に、彼は試合後に自身のゴールシーンを見返すことはないそうだが、名古屋戦後は家族と実家に帰省したこともあり、両親が録画していた映像を一緒に観たという。しかも、珍しく繰り返し、だ。理由はある。
「ゴールを決めると、親が決まって『いいゴールだったね!』とかっていうメッセージと共に動画を送ってきてくれたりするんですけど、自分ではもういいっていうか、見ようとは思わないんです。でも、名古屋戦後に実家に帰ったら、試合のハイライトの映像とか、Jリーグタイムとかすごい録画していて、それを一緒に観させられました(笑)。両親もサッカーが好きで、試合も観に来てくれたりもするので、いつもそんなふうにみんなで見返しているのかはわからないけど、僕のゴールが嬉しかったんだと思います。おじいちゃんもすごい喜んでくれていました。なんでも、僕がゴールを決めるたびに1万円、貯金しているらしくて、今年は7万円貯まったらしい。貯めたお金をどうするのかは知らないし、単に貯めているだけかもしれないけど、そういう話を聞くと嬉しいです」
ちなみに、自分のゴールを見返さないのは敢えてだという。「自分にルーティーンを作りたくない」そうだ。
「サッカーをしていると、いい時も、悪い時もありますけど、どちらかというと悪い時の方が多いと思っているから。だからこそ、いい時の感情に縛られていたら、次の日、あるいは次の試合で痛い目を見るんじゃないかって思ってしまう。それに仮にいいパフォーマンスができたとして、その映像を観てしまったら、変にそれを続けていこうと思っちゃったり、その日の行動を次も意識してしまいそうな気がするから。でも、それはしたくないんです。基本的に僕は思い出に縋りたくないというか、常にその日のままの自分でいたいタイプだから。いい日やいいプレーのことは、より忘れてしまいたいし、逆に悪い日のこと、悪いプレーはしっかり頭に焼き付けて覚えていたい、みたいな。で、その悪い日の自分と向き合うことで、それが成功につながったら、またそれを忘れて次に、というマインドでいます。そうやってどんどん違うことに挑戦していきたいです」
■模索のシーズン。手応えは「ない」と言い切るワケ。
名古屋戦に限らず、その3日前に戦ったAFCチャンピオンズリーグ2・ナムディンFC戦でも『2アシスト』で攻撃を加速させるなど、好調ぶりが伺える山下だが、本人は「模索している感覚の方が強いシーズン」を過ごしてきたという。意外にも「手応えもない」と言い切る。
「去年はガンバに加入して1年目で、悪く言えば何も考えずにただ、ただ、自分の特徴を出せばいい、その延長線上に勝利があれば、なおいいと思ってプレーしていたんです。正直、自分の持ち味である走力とかスピードを出し切ってアピールできれば、それでOKみたいな感覚もありました。でも今シーズンは前半戦、なかなか勝てなかったこともあって、ちょっとそこを失くしてというか…それ以上に、試合状況とかチームでの役割を考えてプレーすることが増えたんですけど、そうなってくると自分の良さを消してでもやらなくちゃいけないプレーが出てきたりもして、練習でも考えながらプレーすることが格段に増えた。もちろん、僕の特徴として『スピード』があって、きっと観ている人からすれば、もっとそれを出せばいいのにって思っているだろうし、僕もそれは感じているんですけど、でも、チームでの役割ということを考えると、それが正しいのかわからないのも正直なところで…自分としてはそれを模索しながら進んできた印象が強い分、去年以上にもがいているような感覚になっているのかもしれないです」
この話を聞いたのは、第32節・アルビレックス新潟戦の直前、つまり、リーグ4連勝、公式戦5連勝とチームとしての結果が出ている時期だっただけに、より印象に残っている。特にチームのフォーメーション的に、また前線の選手の特徴もあって、左サイドからの崩しが増えていた中で、山下の預かる右サイドからの崩しは、右サイドバックの半田陸とも話し合いを重ねながら試行錯誤を続けているとも話していた。
「もちろん11人で戦っているので、僕らが我慢することで左サイドの攻撃がうまくいくのはチームとしてはいいことだし、それで点を取り切れたらいいという考えは、僕にも、陸(半田)にもあります。ただ、試合によっては、あるいは相手の出方によっては、それだけだと攻撃が行き詰まることも出てくるわけで、その時に自分たちがどういうふうに立ち位置を工夫すれば右からの打開ができるのかということはシーズンを通して考えながら進んできました。僕が内側をとって、陸に幅を取らせるとか、その逆で、僕が幅をとって、陸に内側を取らせるのか。あるいは、それだけだと攻め切るにはどうしても枚数が足りないことも出てくるので、ボランチの選手にもうまく加わってもらって厚みを作り出そう、とか。その回数が増えれば逆に左の攻撃もより活きるシーンが増えて、チームとしてもより相手にとって脅威になる攻撃を仕掛けられるんじゃないかと思っています」
ただ、そうした試行錯誤の中で少しずつ、光を見出しつつあるのも事実だろう。
たとえば、31節・横浜F・マリノス戦で満田誠が決めた65分の同点ゴールは、満田が右サイドから攻め上がった半田陸とのワンツーで切り拓いたシーンだったし、続く32節・アルビレックス新潟戦で宇佐美貴史が決めた先制ゴールも、半田と山下で右サイドを攻略したボールを、最後は山下が敵陣、深いところから折り返し、宇佐美へとボールを届けている。
そして、冒頭に書いた名古屋戦も、まさに右から崩したシーンだ。そうしたゴールシーンに限らず、ここ最近は右サイドからの攻撃がより勢いを増しているのは、決して偶然ではない。もちろん、左サイドで起用される選手の特徴に影響を受けるところもあるはずだが、いずれにせよ、ここ最近のボランチやトップ下とも連動した右サイドからの仕掛けは見応えたっぷりだ。
「いや、まだまだできるし、回数も増やせると思っています。そもそも、今年をスタートするにあたって去年の戦いをもとに、両ワイドの選手が8点以上取れるチームになれば、上位に食い込んでいけるんじゃないかというのが自分の基準にあったというか。もちろん、二桁いければ最高ですけど、最低でも8点以上取れれば、もう1つ上の戦いができるんじゃないかと。これは、数字を意識するということではなくて、なんていうか、攻撃の回数を増やす意識づけをするための目安? みたいなもので…シーズンが始まったら、数字的なことは全然意識せずに進んで、でも、気づいたら達成していた、チームの勝利に貢献できていた、というのが理想です。だからこそ、とにかく今はやり続けるだけ、走り続けるだと思っています」
もちろん、いつだって欲し続けているガンバの勝利のために、だ。残りの試合も、死力を尽くして走り抜く覚悟はできている。
「とにかく、毎試合、自分がどうなってもいいってくらい全ての力を注ぎ切ろうと思って試合に臨んでいます。僕を獲得してくれたクラブ、仲間にしてくれたチームに、応える術はそれしかない。何より僕はガンバに来て、こうして勝って…サポーターの皆さんを含めてみんなで喜ぶのが、とにかくもうめちゃめちゃ嬉しいから。だからこそ、試合に出る以上、ガンバが勝つためにしっかり貢献できたと胸を張れるプレーをしたい。毎試合、それを自分の責任に変えて戦っています」
ちなみに、その決意のもとで臨んでいた直近の名古屋戦のスプリント回数は両チームあわせても、最多の21回。フル出場ではなかったにも関わらずだ。まさに驚異であり、脅威。そのスピードも、プレーの端々に光らせる、負けん気の強さも。
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1



