<ガンバ大阪・定期便141>宇佐美貴史がJ1通算300試合出場を達成。親友、仲間の前で決めた一撃。
宇佐美貴史にとってJ1リーグ通算300試合目の出場となった、第32節・アルビレックス新潟戦。
「なんか決められそうな気がする」
試合前に話していた言葉は37分に現実となった。1点を追いかける状況下、ハーフウェーライン付近で粘った半田陸が敵陣、深くに送り込んだ縦パスに合わせて山下諒也が抜け出すと、後ろから走り込んできた宇佐美にグラウンダーのパスを届ける。
「チームとして狙っていた形。映像を見て、今日は僕らの右サイドも背後を取れそうな感覚はあったので、ずっと狙っていました。あのエリアを制圧できて最後、いいボールを送り込めれば1点になるって思いながらプレーしていました。最初はデニス(ヒュメット)に合わせようと思っていたんですけど、彼が中に入ってくるのがちょっと遅れたので、1つ待って状況を変えてからの方がいいかなと思っていたら、貴史くんがフリーで入ってきたのが見えたのでそっちを選択しました(山下)」
ボールを受けた宇佐美は、9月17日に戦ったAFCチャンピオンズリーグ2の初陣、東方戦でゴールを決めた際のイメージを描きながらダイレクトで、お手本のように美しく右足を振り抜いた。
「諒也(山下)がすごくいいところに落としてくれたので、自分は隅に流し込むだけでした。そこまでの作りを含めて、ああいった状況を作ってくれたチームメイトに感謝しています。ACLの時のように、しっかり隅に転がすだけでした(宇佐美)」
■「今はプレーしていてすごく楽しい」。宇佐美が覚える充実感の先にあった予感。
これまでも、節目やキーとなる試合で爪痕を残してきた宇佐美だが、正直、彼は試合前に「決められそうな気がする」というような言葉を、簡単に口にする選手ではない。いや、正確には10代後半から22〜23歳頃まではそういった言葉を聞くこともあった。だが、キャリアを積み、自身の体やコンディションに対するアンテナがより敏感になるにつれ、そういった予感めいた言葉はあまり言わなくなった。
それはおそらくキャリアを重ねる中で、すべてのプレーが自身に備わる才能や感覚だけではでは生まれないと、より深く実感するようになったから。かつ、キャリアを積み、チーム内での立ち位置の変化や、近年であれば『キャプテン』という責任も相まって、個人よりチームとしての結果をより意識するようになったのも理由だろう。事実、近年の宇佐美はその言葉の端々に、自身のプレーによってどんなチームの変化があるのか、結果に繋がるのかを意識した発言が増えた。
つまり、だ。
その宇佐美が「決められそうな気がする」と口にしたということは、チームにおける自身の活き方、活かされ方はもちろん、それによるゴールへの道筋が明確に描けて試合に臨めている状態にあることを意味する。事実、それは、新潟戦のピッチでも明らかで、トップ下を定位置に、ダブルボランチと効果的にポジションを入れ替わりながら長短のボールを使い分けて攻撃の軸となった彼は、ここまでの『公式戦5連勝』でも示してきたキレ、プレー精度を示しながらチームを前に進め続けた。2失点目につながってしまった敵陣でのパスミスが珍しく映るほどに、だ。
「あれ以外はほとんどミスなく進められていたと思うんですけど、自分のミスから2失点目を招いてしまったのは残念でした。僕のところでボールを奪ってから前に、というシーンで自分のパスの質が甘く入ったのもあるんですが、相手のサイドバックの選手(藤原奏哉)の立ち位置もよく、その後も彼は何度かインターセプトを繰り返していたことからも、まんまと相手のテリトリーに自分が入ってしまったのは反省として残りました」
とはいえ、その2失点目がチームの、そして宇佐美自身のブレーキになることはなく、60分にウェルトンのシーズン初ゴールで再び同点に追いついたガンバは、64分に安部柊斗、75分にデニス・ヒュメットが加点し4-2。83分にすでにピッチを退いていた宇佐美は、勝利の瞬間をベンチで見届け、試合後は、ゴールを決めた他の3選手と共に久しぶりにガンバクラップの先頭に立った。
「先手を許してしまったとはいえ、特に焦ることはなかったです。展開的にも、ボールも保持できていたし、それを続けながら相手の体力をじわじわと削っていけば後半、必ず(相手に)隙が生まれてくるというか、むしろその中で『何点決められるかな』くらいの感覚でプレーできていました。だからこそ自分の2失点目のミスは避けなくちゃいけなかった。周りの選手がたくさん点を取ってくれて感謝しています。今はプレーしていてもすごく楽しいです。チームとしても勝てているし、自分としても(公式戦では3試合連続ゴールと)結果を伴わせながら、すごくいい状態でサッカーができている。ただ、これを長く続けていかなくちゃいけないと思っていますし、逆にチームの火力というか、そういうものが下がってきた時に、どういった流れを作り出さなくちゃいけないかってところも今の段階から準備している自分もいる。勝っている流れはありますけど、これから上位チームとの対戦があると考えても、そこを勝ってこそ本物だと思うので、勘違いすることなく、また気を引き締めてやっていきます」
■いつだってパワーをくれる親友との対戦。大好きな先輩(?!)の前で示した更なる進化。
J1リーグ300試合出場という節目の試合に、宇佐美が密かに楽しみにしていることがあった。新潟に在籍する親友・高木善朗との対戦だ。
小学生の時に都道府県選抜チームで対戦したことをきっかけに互いを知り、仲良くなった高木は宇佐美が長らく『親友』だと親しみを寄せる同級生だ。アンダー世代の日本代表で共にプレーしたことはもちろん、似たような時期に海外移籍を経験したこともあって「いい時も悪い時も共に過ごした戦友」でもあるという。
実際、宇佐美がFCバイエルン(ドイツ)、高木がユトレヒト(オランダ)に在籍していた時代は、繰り返しスカイプで連絡を取り合い、日本と海外サッカーの違い、ドイツとオランダのサッカーの特徴について激論を交わし、自分たちの未来についても考え方を伝え合ったと聞く。
「周りには『海外に出るのが早い』って言われたりもしたけど、善朗(高木)とはよく『やっぱり海外に出てきてよかったよな』って思いを伝え合っていました。もちろんいいことばかりではなく、お互い悔しい思いもいっぱいしたし、気持ちが折れそうになった時もありました。でも、家族以外には吐かない弱音も善朗には口にできたというか。お互い、初めての海外移籍だったこともあり、むしろ日本にいる時以上に素直に胸の内を明かせたし、善朗も頑張っていると思うことがまた自分のエネルギーにもなった。彼と話をするたびに、U-17ワールドカップのグループリーグで敗退した時に善朗に言われ、約束した『もっとうまくなって、でっかくなって、いつかこの借りを返そうぜ!』って言葉が蘇って、背中を押されました」
その関係性はキャリアを重ね、30代に突入しても変わらず、コロナ禍を開けて23年のホームゲーム後に久しぶりに食事を共にした時には「再会を誓って、時計を交換した」というエピソードも。その高木と、限られた時間ながら再び、同じピッチで戦えたことを喜んだ。
「善朗も経験がある選手で、彼がスタートから出ていたらまた違う展開になったかもなと思うくらい、要所要所でのキックの質、いやらしいボールを蹴ってくるところは相変わらずでした。もっと長い時間、一緒にプレーしたかったです。小学6年生の時から知っている彼と、この歳になっても同じピッチに立てていることを素直に嬉しく思います。僕にとっても、善朗にとっても、もうちょっと頑張ろうな、という日になりました」
今も変わらず、互いに17歳だったあの日、悔しさの中で交わした約束を胸に、だ。せっかくなので、親友から聞いた言葉も残しておく。
「J1リーグで300試合出場はなかなかできることじゃない。小さい頃から彼を見てきて、悔しい思いをたくさんしてきたのも知っていますし、ガンバにどういう思いで戻って、どんな思いで今、ピッチに立っているのかも僕なりにわかっているつもりです。だからこそ、彼が300試合という節目を迎えたことを心からリスペクトしています。そのタイミングでゴールを決めるあたり、敵ながら流石だなと思って見ていました。お互い、33歳で、プレーヤーとしては終わりも見えてきていますが、まずはその日まで自分らしく戦い抜くというのは、敢えて口にせずとも、お互いが常に思っていること。もちろん、その先の人生でも長い付き合いになるんじゃないかと思っています(新潟/高木)」
また、この日は宇佐美にとってガンバアカデミーの先輩であり、06年から13年までガンバに在籍した(注:12年は新潟に期限付き移籍)平井将生もイベント出演のためパナソニックスタジアム吹田に来場。平井といえば、宇佐美がプロ2年目を迎えた10年。レギュラーに定着する上で足がかりとなった、シーズン初先発の第6節・大宮アルディージャ戦で、宇佐美の『初アシスト』からゴール決めた人物だ。
平井の方が4歳先輩ながら、珍しく宇佐美が「将生!」と名前を呼び捨てにする間柄で、チームメイトだった頃から二人でいる時は、どちらが先輩かわからないというようなやり取りをしていたのも懐かしい。もちろん、それは平井への親しみがあってこそ。実際、平井がキャリアの最後を過ごしたJFLのFCマルヤス岡崎に所属していた時代には、宇佐美がわざわざ遠方まで試合観戦に訪れたこともあった。
そんな関係性があるからだろう。平井も偶然ながら宇佐美の300試合目に居合わせた偶然を喜び、「感慨深い」と言葉を続けた。
「2日前に『新潟戦に行くわ』って電話した時は、300試合のことも知らなかったんです。でも来てみたら今日が300試合目だと聞いて…なんか、めちゃいいタイミングでパナスタに来れて、貴史(宇佐美)のゴールまで観れてよかったです(笑)。僕はJ1、J2合わせても200試合に届かんくらいやったから、J1で300試合は…抜かれすぎました。大宮戦は確か右アウトサイドでパスをもらってゴールを決めたんですけど、あれから300試合かぁ。話したら昔と何も変わってへんから、逆に数字を聞いた方が感慨深いです。現代サッカーで貴史のプレースタイルはある種、絶滅危惧種やのに、それでもチームの中心でやれているのはすごいなって思います。今日のプレーを見ていても攻撃も作れるし、自分でも決められるし、守備もするし、ガンバには欠かせない大黒柱。これからも頑張って欲しいです(平井)」
ただし、そんな先輩の言葉に対するアンサーを宇佐美に求めたところ、「将生は感慨深いやろうけど、俺は何も感慨深くない」とニヤリ。「(出場記録を)抜かれすぎたと話していましたよ」と伝えると「最初から、俺は将生なんて見てないし」と続け、平井の宇佐美評に対しても「そりゃそうでしょ、当たり前!」。かつてのやり取りを思い出すかの如く、嬉しそうに『塩反応』を繰り返した。もっとも、なんだかんだ言って、平井のことが大好きな宇佐美のこと。試合後にはきっとしおらしく…いや、変わらぬ同級生目線で連絡を入れたに違いない。
https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1



