<ガンバ大阪・定期便138>中谷進之介がたどり着いた『ウノゼロ』。

「今シーズン、ベストゲームじゃないかな。チームとしても、個人としてもいい試合ができました。前半からいい戦いができていたんですけど、なかなか得点がこなかったので。『このまま行くと小森(飛絢)選手も一発があるしな』とか、後半は『松尾(佑介)選手が入ってちょっと嫌だな』って時間が続いた中で、柊斗(安部)が決めてくれてすごく助かった。ただ内容としては終始、すごく良かったと思っています」

 9月13日に戦ったJ1リーグ第29節・浦和レッズ戦。今年2度目の『3連勝』に、また浦和からの『シーズンダブル』に中谷進之介は試合後、声を弾ませた。完封勝利は7月5日に戦った第23節の『大阪ダービー』以来、約2ヶ月ぶり。前半のうちに失点することなく試合を進められたのも、そのセレッソ大阪戦以来だ。ここ最近は横浜FC戦、湘南ベルマーレ戦と『連勝』こそできていたものの、一方で『複数失点』が気になっていたが、この日は終始、全体が連動しながら浦和レッズの攻撃を自由にしない堅守が光った。

「立ち上がりから個人個人のところで球際の勝負にしっかり勝てたことがチームの流れを作ったと思うし、浦和の出し手のところであまり裏への意識もそう多くなはなかったことでラインも高く保ち続けることができた。前線からの守備もすごく決まっていて、ごぶごぶのボールがマイボールになる瞬間が多かったのも大きかったと思います。相手の前線への対応のところは、正直、小森選手は初めて対戦するので手探りなところもあったんですけど、後半の松尾選手のプレースタイルは頭に入っていたし、(新加入の)イサーク・キーセ・テリン選手は映像でしか確認していなかったのでどんな感じかなというところもありましたけど、彼が入ってきた時間帯は完全にゲームを握れていたので、そこまで手を焼くことなく対応できたのかなと思います」

 思えば、5月に戦った埼玉スタジアムでのアウェイ戦も、0-0で前半を折り返した後半、山下諒也のカウンターからゴールを奪い、『ウノゼロ(1-0)』で勝ち切っていたが、この日の試合前には、チームとしてもその試合映像を改めて見返しリマインドしていたこともあったという。

「あの試合は今シーズンの戦いの中でも結構いい守備をできていたので、ダニ(ポヤトス監督)からも、もう少しハイラインでできるんじゃないかって声を掛けられていました。ただ、やっぱり前からプレスをかけた時にそこで外されてしまうと、浦和のカウンターに晒されてピンチになるシーンもある、というところでそこの使い分けは意識しながら『ミドルゾーンでブロックは組むけど、ラインは下げない』といういい戦いができたんじゃないかと思います。もっともこれも思った以上にボールが取れたからというか。前線から追いかけたとしてもそこでボールを奪いきれなければ僕たちももう少し後ろに下がらざるを得なくなっていたと思うんですけど、今日はボランチのところでもしっかり潰せていたし、僕たちDFラインもしっかり前に出ていって潰しにいけたシーンも多かったので、そこまで下がらずに済んだと思っています」

 中谷自身、ここまで、苦しみに苦しんだ。

「プロキャリアを振り返っても、ここまで長く落ち込んだのは初めてかもしれない」

 チームの失点がかさむ事実に、何より「自分に納得のいくパフォーマンスができないこと」に、だ。もちろん『失点』は守備陣だけで語れる話では決してなく、チームとしての連動のもとに成立するものだ。彼自身も、自分一人でどうにかできるとは考えていなかったが、それでも、ガンバに加入した時から「失点を減らすのが僕の仕事」だと使命を口にしていた中谷だ。最後の局面において、昨年であれば最後の局面で伸びていた足が伸びていないことも、身を挺したプレーでボールを奪いきれていないことも自覚していた。

「正直、自分でも理由はわかっていません。でも、どう考えても去年の方がボールを嗅ぎ分ける力みたいなものが冴えていたし、伸ばした足や体にシュートブロックが当たっていたな、と。去年であれば、シーズンが進んでいくにつれてパフォーマンスが上がっていく実感もあったんですけど、今年はどこか、それも持てていなくて。その自覚があるから仮に試合に勝ったとしてもどこかすっきりしないというか。実際、前の選手に助けてもらって勝てた試合ばかりだという現実を自分が消化しきれず、ずっとモヤモヤしていました」

 昨シーズン、ガンバが示した『堅守』の中心には紛れもなくフィールドプレーヤー唯一のフル出場で守備陣を統率した中谷がいて、それがリーグ2位の失点数(35)やプロキャリアで初の『Jリーグベストイレブン』選出に繋がったのは間違いないが、だからこそ余計に、自身へのジレンマや焦りを募らせることになったのかもしれない。もちろん、これまで通りに、いや、これまで以上に、彼なりにさまざまな方向から自分に刺激を与えて『変化』を探り、「とにかく積み上げていくしかない」と腹を括って自分と向き合ってきたが、なかなかその状況から抜け出せず、昨年とは一転、リーグワースト3位(44)を数える失点数に対する責任も抱え込んだ。

「あまり考えすぎるのも良くないなと自分に言い聞かせても、どうしても自分のプレーに納得がいかないから考えちゃいますしね。横浜FC戦もようやく連敗から抜け出す勝ち星を掴めたのに、心からの嬉しい! が沸き上がってこなかったというか。嬉しいという感情以上に、失点したことに頭が持っていかれて『何やってんだ』って気持ちになっちゃって…その自分に『俺、大丈夫か?!』と思ったり。でも、ようやくなんか、抜けそうな気がする。いや、まだどこか気持ちは苦しいですけど、なんか、抜け出せそう」

 その言葉を聞いたのは、前節・湘南ベルマーレ戦後だ。この試合も入りは決して悪くはなかったにもかかわらず13分という早い時間帯の失点を含め、前半を1-3で折り返すという苦しい戦いを強いられたが、前半終了間際に相手に退場者が出て数的優位に立った後半は、開始早々の49分に美藤倫が決めた得点を勢いに攻撃が加速。53分には中谷の左足がゴールネットを揺らし、同点に追いつく。

「ラッキーでした。亮(初瀬)からの浮き球が来そうだなと思いながら入っていけたというか、嗅ぎ分けられました。うん、ボールの匂いを嗅ぎ分けられた」

 その約10分後、64分に自身が見出した、絶好の追加点のチャンスではゴールを捉えられなかったが「あれを決められたら完璧でしたけど、僕の場合は、たまたまボールが来て、ちょっと足に当たって入るくらいがちょうどいいかも。目の前にしっかりコースが見えちゃうとダメみたいです」と中谷。だが、そのシーン含めて、勘が冴えると言おうか。攻撃でも守備でも、瞬間、瞬間で「嗅ぎ分けられ」、自然と体が動くのを実感できたことは「どことなく噛み合っていない」と感じていた歯車が、噛み合う気配を感じた瞬間でもあった。

「今もまだ苦しんではいますけど、ああいうゴールがきっかけになるんじゃないかなって気はしています。もちろん、4失点している事実は全く誇れないですけど、でも、点を取れて、勝てたってことを自分にしっかり刻もうと思っています」

 晴れやかな表情を見せていたのも印象的だ。そうして迎えた浦和戦でのパフォーマンスは、と言えば先に書いた通りだ。スコアレスの状況が続く中、85分に安部柊斗がミドルレンジからのゴラッソで先制点を掴んだガンバは、途中出場の選手もしっかりとタスクを果たしながら残りの時間もしっかりと試合をコントロールし、『ウノゼロ』で締めくくる。

「やっぱりアラーノが入るとゲームがコントロールされるな、と。マコ(満田誠)が入ってきたばかりの時にやってくれたような、チームをコネクティングするような、繋げる役割をアラーノがやってくれてすごくチームが循環した。また、徳真(鈴木)も要所要所でしっかりと顔を出してボールを捌いてくれたので、すごく助かりました」

 中谷自身も、守備での安定もさることながら、再三にわたって鋭い縦パスを前線に送り込んだり、前線に顔を出したりと、攻守にわたって昨年を彷彿とさせるようなパフォーマンスを光らせた。

「宇佐美くんに入れた縦パスは自分でも絶品だったなと思いましたけど(笑)、それも守備のところでいいプレーができていたからだと思います。試合前に、たまたまXを観ていたらサッカーの名シーンを集めた動画が出てきて。(センターバックの)ファビオ・カンナヴァーロがバロンドールを獲ったシーズン(2006年)の映像が流れてきたんです。それを観て『やっぱ、これくらいいかなきゃな!』とリマインドしていたのも良かったのかも。本当にありがとう、X! って感じです」

 実はこの日の浦和戦を終えて、取材エリアに現れた中谷が、開口一番に話したのは「ようやく霧が晴れました」という言葉だった。もちろん、そこには約32000人の観客数を数えた『熱々の』ホーム戦で久しぶりの完封勝利を挙げられた安堵も込められていたはずだが、それ以上に、彼が続けてきた『自分自身』との内なる戦いを1つ、乗り越えたという意味での言葉だったと受け止めている。そして、その事実がどれほどまでにガンバにとって心強いものなのかということは、きっとこの先の戦いが教えてくれる。

https://news.yahoo.co.jp/users/expert/takamuramisa/articles?page=1

Share Button