「ドラマ多過ぎ!」水沼さんと北條さんがルヴァンカップ決勝名勝負を語る
2025シーズンのYBCルヴァンカップは9月初旬、プライムラウンド・準々決勝が行われる。
幾多の歴史を刻み、サポーターから愛されてきたカップ戦・ルヴァンカップ。ここではサッカー解説者の水沼貴史氏とサッカージャーナリストの北條聡氏が、過去のファイナル名勝負を振り返り、同大会の魅力を語り合った。(取材日=8月12日)
史上最速2トップは「やばかった」
2003Jリーグヤマザキナビスコカップ
鹿島アントラーズ 0-4 浦和レッズ
得点:13′ 山瀬 48′ 86′ エメルソン 56′ 田中
2003年11月3日(月・祝)14:09KO国立競技場 入場者数:51,758人
北條:浦和、クラブ史上初タイトルの一戦です。浦和は前年も決勝に行って、鹿島に負けているんですよね。
水沼:メンバーがすごい。浦和の監督がオフト。鹿島はトニーニョ・セレーゾ。この試合、鹿島CKのボールをクリアしようとした坪井とエメルソンが激突して、二人が頭をテープぐるぐる巻きにしてプレーしていたシーンが印象に残っていますね。得点は先制が山瀬(功治)のヘッドで、次はエメルソン、そして田中達也、エメルソンが2点目。
北條:鹿島は3点ビハインドになった後、小笠原満男が2枚目のイエローで退場します。
水沼:田中達也の突破を止めようとしたんですよね。達也のドリブルはスラローム系じゃないんですよ。キュッキュッ、カックンカックンって教習所のクランクみたいな感じで止めにくい。あと覚えているのは、エメルソンが縦パスに抜け出した2点目のシーン。出てきたGK曽ヶ端(準)をかわして、カバーに走ってきた大岩(剛)にシュートを打つと見せかけると大岩が滑って(無人の)ゴールに流し込んだ。
北條:田中達也とエメルソンの2トップは本当に「やばかった」。
水沼:あと、鹿島のエウレルが負傷交代しましたが、代わりに入ったのが中島裕希で。まだ町田ゼルビアで現役なのもすごいです。
2点ビハインドからの大逆転劇
2014Jリーグヤマザキナビスコカップ
サンフレッチェ広島 2-3 ガンバ大阪
得点:20′ 35′ 佐藤 (広島)/38′ 54′ パトリック 71′ 大森(G大阪)
2014年11月8日(土)13:10KO埼玉スタジアム 入場者数:38,126人
水沼: このころの広島は強かった。森保一監督で2012、13年リーグ連覇。G大阪は確かこの年三冠(J1、リーグカップ、天皇杯)ではなかったかな?
北條:三冠の1発目ですね。
水沼:広島はその年ガンバに獲られて、翌年またリーグを獲った。
北條: 健太さん (長谷川健太監督)が会見が終わった後に出てきて「いや~タイトルって獲れるときはあっさり獲れるんだね」って言っていました。ずっとシルバーコレクターといわれていて本人も気にしていたようですが、この年一気に3つ獲るわけですから。
水沼:サンフレッチェ全盛期にね。(佐藤)寿人がいて、千葉ちゃん(千葉和彦)がいて、水本(裕貴)、アオ(青山敏弘)、柴﨑(晃誠)もいる。G大阪をみると、パトリックと宇佐美貴史がいる。さっきの2トップじゃないけれど強烈です。パトリックの2得点は両方クロスからのヘディングで、1本目はヤット(遠藤保仁)、2本めは宇佐美から。コンビで決めて、最後に大森晃太郎という。
北條: 阿部浩之選手と大森選手の両サイドですね。
水沼:健太監督時代のガンバでの二人は「仕事師」のイメージです。
北條:阿部選手はその後、川崎Fに移籍して優勝請負人のようになりました。
水沼:2点取られて3点取っての逆転はなかなかありません。大逆転勝利はカップ戦ならではの醍醐味だと思います。
スタイル全開でクラブ史上初優勝
2018JリーグYBCルヴァンカップ
湘南ベルマーレ 1-0 横浜F・マリノス
得点:36′ 杉岡(湘南)
2018年10月27日(土)13:10KO 埼玉スタジアム 入場者数:44,242人
水沼:湘南はスタイル全開でした。ガンガン前から行って走り切って。杉岡(大暉)のものすごいシュートが決まってそれが決勝点になった。
北條:曺貴裁監督が最後、地面につっぷして泣いていましたね。
水沼:横浜FMはアンジェ・ポステコグルー監督1年目。かなりのハイラインを敷いていた。伏線ですよ、この試合が。このシーズン失点が多くて「ちょっどうなの?」と思われながらも決勝まで来ている。そしてマリノスは翌19年にタイトルを獲りました。
北條:いいストーリーです。決勝まで行くと「来季は行けるんじゃない?」となるのかもしれない。カップ戦の決勝がリーグ戦に繋がることってありますね。
水沼:確実にありますね。自信を得られますから。
北條:あと、若いチーム、優勝経験のないクラブがこの大会で初優勝することが多い気がします。湘南ベルマーレは初優勝です。
水沼:思います。ルヴァンカップの決勝はサポーターもすごく盛り上がって独特の雰囲気になりますし、“登竜門”だと感じますね。
悲願を懸けた大会屈指の名勝負
2019JリーグYBCルヴァンカップ
コンサドーレ札幌 3-3(PK4-5) 川崎フロンターレ
得点:10′ 菅 90’+5 深井 99′ 福森(札幌)/45’+3 阿部 88′ 109′ 小林(川崎F)
2019年10月26日(土)13:10KO 埼玉スタジアム 入場者数:48,119人
水沼:PK戦で川崎Fがやっとルヴァンカップ悲願の初優勝を遂げました。ここまで4回決勝で敗れていた。札幌はクラブ史上初のファイナリストです。
北條:お互い「懸かって」いたんですよね。野々村芳和チェアマンが現場にいて、野々村さんは札幌の元社長でしたから、試合後メディアが慰めたみたいな感じの記憶が残っています。
水沼:すごい試合展開でした。後半ATの福森(晃斗)のCKを深井(一希)が決めて。
北條:「これで札幌に決まったかな」と思った人も多かったと思います。でも最後の最後に大御所が待っていた。
水沼:谷口彰悟がDOGSOで一発退場して福森(晃斗)がすごいFKを決める。
北條:でもCKから山村(和也)選手の折り返しのこぼれを…。
水沼:小林悠がプッシュした。
北條: 大会史上でも1、2を争う名勝負でした。この試合の前に中村憲剛さんと話したんですよ。川崎Fもタイトルが獲れなくて苦労した時期が長かった。ルヴァンカップも「獲りたい」と思っていたそうですが、当時出てきた若い選手たちは「勝てるでしょ」と始めから思っていて変わったなあと感じたそうです。逆転されても「いやいや大丈夫でしょ」と思ってプレーできるんでしょうね。
水沼:「勝者のメンタリティー」だ。
北條:川崎Fにとってそういう変化の時期のタイトルだったってことですね。
まさに決勝。PK戦の明暗
2024JリーグYBCルヴァンカップ
名古屋グランパス 3-3(PK5-4) アルビレックス新潟
得点:31′ 42′ 永井 93 ‘中山(名古屋)/71’ 谷口 90’+11(PK) 111’小見(新潟)
2024年11月2日(土)13:09KO 国立競技場 入場者数:62,517人
北條:昨年の一戦です。これも点の取り合い、壮絶なPK戦でした。
水沼:PKを外した長倉(幹樹)が号泣しているのと小見(洋太)の印象がすごく残っていますね。
北條:延長前半の小見の同点ゴールをアシストしたのは長倉のスルーパスでした。でもPK戦って不思議とその試合で活躍した選手が外すことがあるような気がします。
水沼:あと、延長に入って先に名古屋の中山(克広)が決めるんですけど、小見の同点弾のPKは中山が小見をひっかけて与えていたんですよね。
北條: ドラマがちゃんとありますね。新潟も2019年の札幌ではないですが「悲願の初タイトル」という背景があって。
水沼:カップ戦はドラマが多過ぎますね。リーグ戦はPK戦はないですから。
北條: 水沼さんは決勝で蹴ったことがありますか?
水沼:蹴りましたよ。天皇杯、国立で。舞い上がって外したこともある(笑)。当時でも、カメラマンも後ろにどーっといるし。
北條:平然とPKを決める選手ってやはりすごいんですね。
水沼:あれだけの人がいる中でね、バッジョの名言もあるし。ほら言って。
北條:え? 私が言うんですか(笑)? では…「PKを外すことができるのは、PKを蹴る勇気を持った者だけだ」。



