<ガンバ大阪・定期便135>心の『重さ』を力に変えて。今シーズン初の逆転勝利。

 120分+PK合戦の末に敗れた天皇杯3回戦・モンテディオ山形戦の屈辱から中3日。J1リーグ第24節・川崎フロンターレ戦の決勝点は57分、鈴木徳真が右サイドの裏に送り込んだロングパスから始まった。

 ボールを受けたウェルトンが走り出した瞬間、宇佐美貴史、デニス・ヒュメット、倉田秋がそこに追随して、全速力で相手ゴールに迫る。その状況下、ドリブルで運んだウェルトンが選んだのはニアサイドの宇佐美貴史。それを宇佐美が「迷わず」スルーすると、その奥、ゴール真正面からヒュメットが右足を振り抜いた。

「ウェルトンがもう少し、縦に持ち込んでからデニス(ヒュメット)か、秋くん(倉田)にマイナス気味に出すかなと思いつつ、でも、ウェルトンが僕に出してくれたので、迷わずスルーしました。特にデニスから『スルー』というような声が掛かったわけではなかったですけど、感覚的に二人のどちらかはいるやろうな、と。また、アウェイで川崎と戦った時に、川崎の選手が僕に過剰に(マークに)ついてくるのを感じていたので、走り始めた時から自分の中では『スルーやな』と思っていたのもあります。むしろ最初からスルーするために必死に走っていた感じでした(宇佐美)」

「チームとしてイメージが共有できたシーン。本当にそれぞれのアイデアが合致した中で自分のところにボールがきて、きっちりと決められた。嬉しいです。あの時間帯まで、あまり僕がシュートを打てるチャンスはなかったですが、ボールがくることを信じて、裏への抜け出しを狙うとか、ボールをもらうという自分のタスクを心がけていました。その中で、あのシュートシーンでは自分の質を見せることができたということだと思います。パスを受けた瞬間は、ボールをゴールマウスに収めることだけに集中していました。今日は通訳のパディ(小野優通訳)の誕生日だったので、いいプレゼントができました(ヒュメット)」

■ゲームを支配しながら先制される展開になった前半。倉田秋のゴールで振り出しに戻す。

 山形戦での屈辱的な敗戦からしっかりと立ち上がれるのか。

 そんな不安を覚えるほど、選手たちはそれぞれに心に『重さ』を残して、川崎戦を迎えていた。

「山形戦は、チームとして全然入りも良くなかった中で、前半のうちに2点を追いかける展開になってしまった。ただ、トータルして良くなかったのは事実としてありながらも、10人の戦いを強いられた中でもなんとか延長戦に繋げ、その延長戦も一旦はリードを許しながら追いついていた中で、PK合戦の一人目のキッカーである自分が止められてしまったのが敗因のすべて。試合自体は、5番目のキッカーに立ったマコ(満田誠)が外して終わったけど、マコが外したのと、最初のキッカーである僕が外したのとでは全く意味が違う。自分の未熟さ、情けなさ、してはいけないミスをしてしまった申し訳なさしかない。ただ、すぐに川崎戦が迫っていることを考えると、無理にでも切り替えるというか。全員が、もっとこの敗戦に心を痛めて、受け止めた上で、そこからどう立ち上がっていくかを川崎戦で示すしかない。チームとしての未熟さも、僕自身の未熟さも受け入れて、でもピッチではとにかく、タフに戦う。それしかないと思っています(宇佐美)」

「僕自身、監督からの信頼を感じながらピッチに立った中で、後半のビッグチャンス(67分)を決め切れなかったことを含めて、大きな悔しさが残っています。次の川崎戦もその苦しさ、気持ちの重みを抱えてプレーすることになるとは思います。ただ、天皇杯の戦いが終わってしまった今、僕たちが考えるべきは目の前の試合、ホームでの川崎戦で必ず、勝点3を掴むことだけです。悔しさは受け止めつつも、悪かったところばかりに目を向けていたら前には進めないからこそ、縮こまらず、これまで積み上げてきたいい部分を自信を持って表現するだけだと思っていますし、そのために全力を尽くします(ウェルトン)」

「ダニ(ポヤトス監督)からは、山形戦を前に『決勝戦のつもりで戦おう』と言われていた中で、本当に全員がそう思って臨めていたのか? なのに、なぜあの立ち上がりになったのか? ということにもっと真剣に向き合わないと。正直僕は、その真剣さも、目の前の1試合に懸ける思いも、ガンバのユニフォームを着る重みも、まだまだチームとして物足りなかったと思っているし、こういうことを繰り返しているようでは、本当の強さは備えられないとも思う。そこをもっとチームとして突き詰めていかないといけない。また、自分に対しても、もっと『勝たせるGK』になっていかなアカンとリマインドしたというか。流れの中で食らった4失点もそうだし、PK合戦で1本も止められなかったことを含め、今の自分ではまだまだ足りない。その事実を…この試合で何が起きて、何が足りなかったのかを、試合が終わったからと過去のものにするのではなく、チームとしても、僕自身もしっかり向き合って、整理して、でも、いいプレーができている時、チームとしてうまく進められている時間もあったことには自信を持って、気持ち新たに川崎戦に向かおうと思います(一森純)」

 不甲斐なさと覚悟。

 気持ちを切り替えるというよりは、それぞれが、その両方を受け止め、心を燃やす材料にしたというべきだろう。それは、川崎戦のキックオフ直後からプレーで表現され、序盤は明らかにガンバペースで試合が進んだ。

 ハイライン、コンパクトな陣形を保ちつつ、右サイドMFのウェルトンが外に、右サイドバックの半田陸が中にポジションをとって攻撃に厚みを作り出し、トップ下の宇佐美がコントローラーとして、臨機応変に縦に、横にと動き回って、相手ゴールに迫る。試合前、ポヤトス監督は「どちらがボールを持つかがカギ」だと話していたが、その言葉通り、理想的にボールを持てたことが流れを引き寄せていたのは明らかだった。

 にもかかわらず、先制点を奪ったのは川崎だった。

9分。高い位置でボールを繋ぐ中で生まれたガンバの連携ミスを突いた川崎が、ロングカウンターを発動。ガンバも攻→守への切り替えは早く、川崎の3枚の攻撃に対して、6枚の守備で対応したものの、最終的には、小林悠にゴールネットを揺らされてしまう。

「チームとしてかなり入りが良かった中で、1チャンスを仕留められ、『今日はいけるぞ』という流れにブレーキがかかるような失点になってしまった。僕自身もすごくがっかりしたというか重くのしかかった失点でした(一森純)」

 その失い方も影響してか、以降の時間帯はボールを持つことはできても、中盤から後ろでボールが動くことが増え、なかなか前にボールを刺せない展開に。またボールを失った際には、川崎・山本悠樹を起点にDFラインの背後を揺さぶられ、ゴール前までボールを運ばれてしまうという我慢の時間が続く。

 その状況に歯止めをかける同点弾が生まれたのは、前半アディショナルタイムだ。

45+3分。決めたのは、前節・セレッソ大阪戦に続き、先発のピッチに立っていた倉田秋。局面を打開すべく、右サイドから宇佐美が思い切って送り込んだクロスボールはニアサイドのウェルトンの頭をかすめて、イレギュラーに相手DFの足元へ。そのこぼれ球を、中央から走り込んでいた倉田が右足でゴールに沈める。

「なんか起きるかなと思って信じて走り込んだら、相手の守備陣も戻りきれていない状況でめちゃめちゃいいところに溢してくれて、最高のボールになった。あまりにいいボールがきたので、逆に難しさもありましたけど、落ち着いて仕留められました。前半のうちに追いついておくのと、ビハインドを負った状況のままで(前半を)折り返すのとでは後半の流れも大きく変わると思っていたので、決められてよかったです。天皇杯が情けない結果に終わってしまった中で、改めて口にするまでもなく、この試合の重要性はわかっていた。そもそも僕自身も、チャンスをもらった限りは結果を出さないと終わるというか…。チーム内にはライバルがたくさんいるからこそ、普段の練習も常にその危機感を持って、いつチャンスが来ても結果を出すための準備だと思って取り組んできたし、試合にも臨んできた中で、それがこうして結果に繋がると、ああ、自分がやっているトレーニングは間違っていなかったんやなと思える。それがまた頑張る力になりますしね。続けます(倉田)」

■1-1で迎えた後半。一森の渾身のセービングにも助けられながら、逆転に繋げる。

 試合を振り出しに戻して、迎えた後半。

「失点シーンは軽すぎましたけど、それ以外のところではボールも支配できていて、焦るような前半ではなかったので。戦術面や試合運びでは上回れているという手応えもあったので、後半はもう一度、より自分たちがボールを持って、できるだけ相手選手を走らせ、消耗させることをリマインドしていました(宇佐美)」

 ゲームの進め方を統一して臨んだはずが、立ち上がりは川崎のマルシーニョ、エリソンに立て続けにゴール前ににじりよられ、ヒヤリとさせられる時間が続く。だが、そこは一森が渾身のセービングで弾き返し、ゴールを許さない。

「今日は、相手にボールを持たれると、ああいうシーンを作られるとわかっていたので、とにかく自分たち絶対にボールを持つことを狙いとしていたんですけど、ふわっとしていたと言われても仕方ないような立ち上がりになってしまった。そういう試合がここ何試合か続いている中で、今日はたまたま止められて、流れを取り返すことができましたけど、それでOKとは思っていません。今シーズンは試合ごと、時間ごとに波が大きすぎる。やられてから目が覚めるのでは遅いからこそ、チームとしての甘さはまだまだ突き詰めていかないといけないと思っています(一森)」

 その『我慢』をヒュメットの逆転ゴールに繋げたのが、冒頭に書いた57分のシーンだ。それによってよりアラートな空気を漂わせたガンバは、攻守のバランスを保ちながら安定して試合を進めていく。75分を過ぎてからは、より前への圧力を強めた川崎の攻撃に幾度かさらされる時間もあったものの、80分の川崎・エリソンの決定機は一森が懸命に伸ばした右足で弾き出し、86分の宮城天のシュートにも再び、一森が体を張ってゴールを許さない。

「山形戦を含め、ここ最近は、GKとDFが連携してうまく守ることができていなかった中で、そこをもう一度意識しようということは試合前から守備陣で話していました。実際、エリソン選手のシュートシーンも、弦太(三浦)が対応してくれて…弦太自身はもう少し『ファーを切りたかった』とは言っていましたけど、あそこで利き足(左足)の方に切り替えさせない対応をしてくれたことで、エリソン選手は角度のないところから、右足でシュートを打たざるを得なくなり、僕も限定して守ることができた。そういう意味ではチームとしていい守備の連携が取れたシーンだったと思います。ああいうシーンを増やしていくことは、失点の確率を減らすことにもつながっていく。僕自身もスーパーな選手ではないからこそ、周りの選手に助けてもらって守備範囲を限定してもらえるとセービングの確率も上がっていくんじゃないかと思うので、もっともっとDFラインで突き詰めて、連携で取り切るシーンを増やしていきたいです(一森)」

 また、試合終盤に投入された途中出場の選手たちも、うまく試合に入って、流れを引き継いでいく。

 中でも目を惹いたのが89分からピッチに立った美藤倫だ。

「守備のところでできるだけボールを刈り取ることと、動き回るところを意識してピッチに入りました。ただ、久しぶりの試合が楽しみすぎて、あまりいろんなことを考えられず、ワクワクした気持ちとドキドキした緊張の中でプレーしている感じで、1年目の自分を思い出すようでした(美藤)」

 4月25日のJ1リーグ第12節・FC東京戦を最後に、ケガで戦列を離れていた彼にとって、この日は約3ヶ月ぶりの公式戦だったが、5分間の後半アディショナルタイムを含めて、終始アラートにチームを盛りたてる『守備』を展開。90+2分には川崎の左サイドからの攻撃に反応し、裏抜けを狙った川崎・山本を後方から追いかけて、スピードで上回り、体を入れてボールを奪い返したシーンも。思えば、美藤にとっての山本は、関西学院大学時代に「すごく可愛がってもらった憧れの先輩」だ。その親しみを寄せる山本と、復帰戦で顔合わせたことに、ことさら燃え上がる感情があったのかも知れない。

 そんな美藤の熱を感じるパフォーマンスは、チーム全体に疲労が見え隠れする終盤、まして押し込まれていた時間帯だったからこそ、仲間に勇気を与え、勝利への執着をより強めることにも繋がった。

「思った以上にケガが長引いてしまい、苦しかったところもありましたが、自分と向き合えた時間でもあったので、そういった思いを全部、今日のピッチにぶつけようと思っていました。僕がベンチに入れたことを喜んでくれる人たちもたくさんいて、そういう方たちの気持ちを改めて感じながら、それをピッチで表現することに集中していました(美藤)」

 結果、押し込まれた終盤もしっかり相手の攻撃を弾き返したガンバは、今シーズン初の『逆転勝利』で、後半戦初の『連勝』を引き寄せる。

「今日は勝てたことが全て。この勝利で、山形に敗戦したという事実がなくなるわけではないですけど、J1リーグは、なんとか上に追随していきたいという状況下で、こうして勝てたことをポジティブに考えたい。後半戦に入って5試合目で、今のところ京都サンガF.C.にしか負けていないということを考えても、今日の勝利をまたチームの力にして、自分たちが自信を持てるきっかけにしていきたいです(宇佐美)」

「山形戦はあれだけたくさんの方に応援に駆けつけてもらいながら情けない試合をしてしまったにもかかわらず、今日もこれだけたくさんの方に来ていただいて、声援を送ってもらった。ウォーミングアップの時から、サポーターのみなさんの姿を見て『これは当たり前じゃない』とリマインドしていたし、皆さんが苦しさを感じながらも足を運んでくれたことに、心してピッチに立ちました。だからこそ、勝利という結果につながってよかったです。前半、ビハインドを追いかける展開になった中で秋くんのゴールに救われました。ゴールを決めた姿を後方から見ながら、やっぱり普段から絶えず、やり続けている選手には結果がついてくるよな、と改めて学んだ試合でもありました(一森)」

 宇佐美の言葉にあるように、この川崎戦の勝利が、今シーズンすでに二つの『タイトル』獲得のチャンスを逃してしまった事実を帳消しにくれることは決してない。ただ、悔しさをしっかりと受け止め、前に進もうとする覚悟は個々の、そしてガンバの、この先の強さに変わる。ベテラン勢の姿に、それを確信した試合になった。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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