<ガンバ大阪・定期便134>50回目の『大阪ダービー』。
■それぞれの思いを繋げた、70分の先制点。
Jリーグでは50回目を数える『大阪ダービー』を前に、三浦弦太は、その胸の内を明かしていた。
「去年、右膝をケガした直後、宇佐美(貴史)くんの誕生日にホームで戦ったダービーは今も鮮明に覚えています。あの時も少しチームとしてうまくいっていない時期にダービーを戦ったけど、ダービーは良くも悪くも正念場というようなタイミングで戦う印象がある。だからこそチームとしてもこの試合をいいターニングポイントにしたい。また、もし先発のピッチに立てたなら、僕にとってもすごく大事な試合になると思っています。ここまで、やれることは全てやってきたからこそ、あとはチームが勝つために、ピッチで力になれるか。そこにしっかりこだわって、とにかく90分で勝ち切る試合をしたいと思います(三浦)」
その三浦が約1年2ヶ月ぶりにJ1リーグに先発出場した7月5日のJ1リーグ第23節・セレッソ大阪戦。三浦に限らず、選手それぞれの思いを、胸に残していた開幕戦の悔しさを、前節・京都サンガF.C.戦の不甲斐なさを、真っ直ぐにピッチにぶつけた戦いがゴールに結実したのは、70分のことだった。
決めたのはネタ・ラヴィ…ではなく、半田陸。ファン・アラーノの仕掛けで得た右コーナーキックのシーン。ファーサイドで福岡将太が頭で折り返したボールは、再びキッカーに立っていた右サイドの満田誠に渡る。
「コーナーキックのあとで、中にそのまま人が密集していたので、そのままもう一回あげても難しいかなと思った時にパッと中を見たらネタ(ラヴィ)が空いていたので出しました(満田)」
咄嗟の判断で送り込まれたグラウンダーのマイナスのパスを受けたラヴィは、ダイレクトで右足を振り抜いた。
「ガンバにとって非常に重要で、すごくタフな試合でした。ホームで苦渋を舐めていたので今日は必ずここで結果を残そうと思っていました。マコ(満田)からいいボールが来て、ふかさずに抑えて打てたのが良かった。陸(半田)のヘルプにも助けられました(ラヴィ)」
その言葉通り、低い弾道のシュートは、半田の背中を経由してゴールに吸い込まれる。試合後に、ネタから自身に得点者が変更されたことを知ったという半田は「シンくん(中谷進之介)がアピールしてくれたおかげ」と笑った。
「ネタのシュートはおそらくゴールマウスから外れていたので、僕がちゃんと背中に当ててコースを変えておきました(笑)。背中でコースを変える練習をしていたので、その成果が出た…ということにしておきましょう(笑)(半田)」
冗談めかしてシーズン初ゴールを振り返ったが、その『背中』も『勝利』に対する執念の一部だったことに嘘はない。それがチームをさらに加速させる先制点になったことも。
■2度のビッグチャンスを活かしきれず、前半をスコアレスで折り返す。
セレッソ戦を前にチームとしてリマインドしたのは、戦術以前に「京都戦と絶対に同じことを繰り返さないこと」だったという。この日キャプテンマークを巻いてピッチに立った中谷も強い言葉でそれをチームに求めた。
「京都戦は正直、自分たちを出し切れた感もなく、なんとなく終わってしまったという反省をもとに、とにかく今日は、そういう試合だけは絶対にしないでおこう、と。そこはチーム全体として意識していました。いろんなところから熱が湧き上がってくるような試合というか、チーム全体がまとまって戦えれば良いプレーができると信じていたので、そのために自分がリーダーシップをとってやれればいいなと思っていました(中谷)」
その言葉通り、試合は立ち上がりから『大阪ダービー』らしい熱と、両者の勝利への欲がいきなり沸点に達したような、熱い試合になった。前半のシュート数はガンバが6本、セレッソが7本。互いに持ち味を光らせながら、ゴールに肉薄し、互いにチャンスを作り出す。
そのうち、ガンバのビッグチャンスは23分と、33分の2回。前者は、満田の精度の高い右コーナーキックに三浦が打点の高い『頭』で合わせたが、ゴールマウス右上隅を捉えたかと思われたシュートは、相手DFにヘディングで弾き出されてしまう。
「相手のGKが割と前に出てくるというスカウティングを伝えられていたので、そこに取られないように意識しながらファーサイドに送り込みました(満田)」
「ドンピシャだったので点を取れたら最高でしたけど、相手選手もナイスディフェンスでした(三浦)」
そして後者は、山下が右ポスト前で合わせたシーン。左サイドを突破した黒川圭介のクロスボールを、相手DFがクリア。すかさず、ペナルティエリア内でこぼれ球を拾った満田が左足でパスを送り込む。だが、右ポスト前、ゴールマウスまであと1メートルほどの距離で放たれた山下のシュートは枠を捉えられない。
「あり得ない。『大阪ダービー』という試合で、絶対にやっちゃいけないミス。前半は相当、悔やんで、反省し、引きずりました(山下)」
それでも前半は、その山下を中心に徹底して右サイドにボールを集め、押し込んだ。これは一つに、山下が高い位置をとることで、セレッソの左サイドの攻撃を自由にさせないことが狙いだったという。また、仮にガンバの左サイドから攻めた場合のリスク管理と言おうか。そこでボールを失ってしまうと、セレッソの攻撃の軸でもある右サイドMFのルーカス・フェルナンデスに一気にカウンターを許しかねないということへの予防線を張った『右偏重』だったのかもしれない。
「ルーカス・フェルナンデスを自由にさせないということはチームの狙いの1つとしてあったところ。また、チアゴ・アンドラーデ選手もかなりスピードのある選手だと思っていたので、彼にプレーさせないようにということもチームとして意識していました。そのために自分が高い位置を取り続ければ、相手の守備の時間が長くなるということが狙いとしてありました。それも含めて今日は90分を通して、チームとして狙いを持って戦えた。気持ちと言ってしまうと簡単ですが、相手にやらせないところとか、練習でもかなりダニ(ポヤトス監督)にも強く言われていたし、映像をもとに『もっとやってほしい』と伝えられていた。今日はそこをみんなが意識高くできたんじゃないかと思います(山下)」
もっとも28分にはセレッソ・アンドラーデのシュートが右ポストを叩いたり、前半終了間際の42分にはこの日初めて、相手のエース、ラファエル・ハットンにゴール前ににじり寄られたシーンも。そこは一森純を含めたアラートな守備で弾き返し、ゴールを許さない。
「アンドラーデ選手のシュートは、ポストに救われて失点にはならなかったけど、やられてもおかしくないシーンだった。あのタイミングでクロスボールを入れられても触れられるかなという立ち位置にはいたんですけど、思いの外、スピードもある、すごくいいボールだったし、アンドラーデ選手もすごくいいポジショニングをしていたことで、シュートを打たれてしまった。あれは自分の準備不足と集中力不足。反省しなくちゃいけないと思っています(半田)」
■90分を通して継続された強度。集中力の感じられる『守備』」が決勝点を生む。
その集中力を研ぎ澄ませた守備は、スコアレスで折り返した後半も継続。安部柊斗が右臀部を打撲し、三浦が脳震盪疑いで交代になるというアクシデントに見舞われながらも、代わってピッチに立った鈴木徳真や福岡将太が遜色ないプレーでチームを盛り上げ、新たな熱を送り込む。
「多分、打撲です。立ち上がって走り出した時に体に電気が走ったので、やばいなと思いながらプレーしていたんですけど…時間が経っても治らなかったので(プレーを)やめました。僕にとっては初めての大阪ダービーでしたけど、みんな気合が入っていたし、サポーターも気合が入っていたし、今日は何がなんでも勝たなければいけないと思っていたので勝てて本当に良かったです(安部)」
「前半、相手のシュートが頭を直撃した時は大丈夫だったのに、前半の終わり頃から目がチカチカし始めて。でもプレーをしたかったので、ハーフタイムにはその状態を伝えた上で後半を戦っていたんですけど、クロスボール対応の時に光の感じでちょっと見えづらさを感じて。大事なダービーだっただけにプレーを続けたいという思いもあったけど、何よりチームの勝利を大事に考えていたので、途中でプレーを終える判断になりました(三浦)」
特に、前節の3失点を受けて「メンタル的にも重く過ごした1週間を過ごしてしまった」と振り返った福岡が、その悔しさをしっかり受け入れ、気持ち新たにピッチに立っていたのも印象に残った。前半終了のホイッスルが吹かれた瞬間、真っ先に三浦に駆け寄り、声を掛けていた姿を含めて、だ。
「FC東京に勝った後の京都戦であんな内容の試合をしてしまって、個人的にはすごく切り替えるのが難しい1週間でした。その中で今日は弦太くん(三浦)が出場して…自分としてもすごく競争心が湧いたというか、いい意味で、負けたくないという気持ちが新たに芽生えるのを感じながら戦えた。弦太くんに代わってピッチに入る時に、弦太くんが言ってくれた『あとは頼む』という言葉がすごく響いたし、それがプレーで表現できたのかなと思っています(福岡)」
それもまた冒頭に書いた70分の決勝ゴールに繋がる大きな力になった。
■中谷進之介の示したリーダーシップ。「全員でまとまった守備ができた」。
守備で勝つ。思えば昨シーズンはそんな印象の試合がたくさんあったが、この日のセレッソ戦もまさにそれを彷彿とさせる試合になった。個々がしっかりと強度を発揮しながら、中央を固く閉じた守備は、セレッソの攻撃のタクトを振う香川真司の動きを制限し、外へ外へとボールを追いやる。そこからゴール前にパスを送り込まれたとしても、守備陣が徹底して体を張った。
その中心にいたのは、中谷だ。
久しぶりに左センターバックでスタートした彼は、再三にわたって気迫ある守備を展開。試合の流れに応じて、ブロックを組むとき、前からいく時の割り切りをチームに促しながらも、高いライン設定で間延びしない陣形を実現させた。
「深追いしすぎず、コンパクトにしながら戦えたし、クロスボール対応のところも、弦太(三浦)や僕のところで最後しっかり体を張れたのは良かったところ。マコ(満田)たちが前線からプレッシャーをかけてくれていたとはいえ、そこで外されるとピンチになっていたシーンもあったので、ある程度、割り切ってブロックを組むことも必要だと思いながら、でも、ラインは下げないようにしてみんなでスライドしながら、いいラインを組めていたし、全員がまとまったいい守備ができた。左センターバックは久しぶりだったので、最初はビルドアップとか、どうかなと思っていたけど、ワンタッチで縦パスを入れる感覚も、フィードの感触も悪くなかった。まだまだ伸び代があるなと思いながらプレーしていました(中谷)」
その姿は、中谷がJリーグ後半戦に入るにあたって自身にリマインドしていた『最後は個で守れるか』という責任を示すものでもあった。
「昨シーズンとは人も入れ替わって、去年と同じ守備をしていても守れないということは感じながらシーズンを進んできた中で、まだまだ僕自身も状況を見て、判断して、予測するというところの感覚が去年ほどはマッチしていないなってことは正直、今も感じています。ただ、守備は最後は結局『個』で守れるか、だとも思うので。仲間と協力して守る、チームとして狙いを持って守備をするとことももちろん大事ですが、それが破られてしまうことは必ず出てくるのがサッカーですしね。そこで自分がどんなプレーができるか。たとえば、去年のホームでの川崎フロンターレ戦でバフェティンビ・ゴミス選手にゴール前で切り返されてシュートを打たれてブロックした時のように、切り返されたところにも反応できて、最後は体でぶつかって刈り取る、みたいなプレーが今年はまだまだ少ないと考えても、その最後のところで『自分がしっかり体を張る』『守り切る』という責任をもっと、自分に突きつけてやっていきたい。それがあれば防げる失点も絶対に増えていくと思うから(中谷)」
そんな中谷にも牽引され、セレッソ戦では後半戦で3つ目となる『無失点』を実現したが、慢心はない。チームとしても「まだまだ昨年ほどの守備力が戻ってきたわけではないし、まだまだ強くなっていかなくちゃいけない」と考えているからだ。
「今日は、大阪ダービーという特別感もあったし、個人的にも去年、ヨドコウ桜スタジアムで負けた悔しさも…相手の喜び方を含めてすごく覚えていたので、何がなんでもやらせないという強い思いが結果につながったんじゃないかと思います。大事なのは、これを続けていくこと。そうすれば波にも乗っていけるはずだし、それによって着実に勝ち点を重ねていければまだまだ上位を狙っていける。とにかく、まだまだ、もっともっとと求めながら連勝することで、いいエナジーを作れるようにしていきたいです(中谷)」
黒星が先行している今シーズンの結果や順位を踏まえても、それは誰もが胸に抱いている思いでもある。
「6月に戦った天皇杯(*2回戦/ヴィアティン三重戦/○2-1)とは雰囲気も、相手も違いましたけど、思ったより違和感なく入れました。ダービーに勝てたことはもちろん、自分がそこに出場して勝てた事実を、たくさんのサポーターが喜んでくれたこともすごく嬉しかったです。チームとしても僕自身としても今日の試合をすごく大事に考えていたので、これをきっかけに浮上していけたらいいなと思っています(三浦)」
「ピンチもありましたけど、全員でしっかり守ることもできたし、勝っている状況でラスト10分をどう戦うのかが勝点3を取るには大事という中で、相手のオフサイドにも助けられたとはいえ、今日は1-0でしっかり締めくくれた。また、シンプルなところですが、今日のように戦術以前の戦う気持ちとか、相手より走るとか、1対1に負けないという姿を示すことができれば、それに伴い戦術もまだまだ強化されていく。続けていきたいです(満田)」
昨シーズン、ホームでの『大阪ダービー』での勝利をきっかけに、2連勝、5連勝を含む『9戦負けなし』の勢いを示して上位争いに参戦した流れを、この先の戦いで作り出すためにも。



