<ガンバ大阪・定期便133>宇佐美貴史と一森純。攻守のリーダーが示した勝利への執着と覚悟。
試合前、宇佐美貴史は言った。
「結局、なんだかんだ言って、自分が決めないと」
試合前、一森純は言った。
「最後は何がなんでも自分が体を張る。最後の砦にならないと」
お互いがその言葉を伝え合っていたわけではない。だが、J1リーグでは5試合、白星から遠ざかっていた中で、二人のリーダーたちが口にしていた決意は、ピッチの上でしっかりとこだまし、勝利を強く支えた。
■宇佐美貴史のゴラッソ。6試合ぶりの先制点が、チームの熱を上げる。
パナソニックスタジアム吹田で行われたJ1リーグ第21節・FC東京戦。最初にその決意を結果に変えたのは宇佐美貴史だった。28分、31分、そして33分と、3回立て続けに敵陣で得た直接FK。1、2回目はやや距離があったり、難しい角度だったのに対し3回目、安部柊斗の仕掛けによって得たチャンスは、ペナルティエリア外・中央よりやや右側、ゴールから約30メートルといった距離だったか。『絶好の』とは言わないまでも、宇佐美にとっては十分に狙える位置にボールをセットした彼は、蹴る直前まで、クロスボールにするか、直接狙うかの二択で悩んでいたという。
結果、宇佐美は後者を選択する。『壁』が1枚だったこと、東京が明らかにクロスボールを警戒している守備陣形を築いていたこと。相手GKがゴールマウスのど真ん中に立っていたことが、理由だった。
「直接(ゴールを)狙っているとは思われていないだろうなという感じが見て取れたので、(クロスボールを)あげる素振りだけをして中を動かすことができれば、という感覚でいました。コースとか弾道ということより、強く蹴ることを意識していました」
その決断通りに右足を振り抜くと、ボールは一閃、ゴール右上に突き刺さる。狙い通りのゴラッソだった。
「あの状況で壁は1枚だったし、いいところに壁を立ててくれたなという感じだった。外を巻いていけば、入るか入らないかはわからないけど、チャンスにはなるだろうな、という気はしたので。あの瞬間に、何人か味方を呼んで相手GKを隠すようなこともしようかなとも考えたんですけど、それをすると逆に打つことがバレてしまう気がしたので、このまま蹴ればいいかと思って狙いました」
直接狙ったのにはもう1つ理由がある。前半立ち上がりに見出した、この日最初のビッグチャンスを活かしきれなかったからだ。9分、右サイドが起点になったシーン。半田陸とのワンツーで抜け出した山下諒也が裏に出したボールに合わせてデニス・ヒュメットが前線へ。ペナルティエリア内から中に折り返したボールは相手GKにセーブされたものの、そのこぼれ球を、足を止めずにゴール前まで走り込んでいた山下が拾い、ワンタッチで宇佐美にマイナスのパスを渡す。だが、ゴールマウスに程近い、ゴールエリアからの宇佐美のシュートは目の前の相手DFにあたってしまう。「絶対に決めなきゃいけないシーン」を活かしきれなかった後悔は、より「自分が決めないと」の執着を強くした。
「9分のシーンは、シンプルに判断ミスです。もっと冷静に流し込まなくちゃいけなかった。オフサイドっぽかったかも、とか、ディレイがまだ続いているのかなとか、余計なことを色々と考えてしまって、瞬間的な集中力みたいなものが欠けてしまった。シンプルに、キックフェイントを入れるとか、もっと大胆に思い切って足を振っても良かったと思っています。あれを決められなかった瞬間の精神的なダメージは大きかったし、引きずってもいましたけど、逆にあの瞬間に吹っ切れてもいました。してはいけないミスだったので、以降もずっと、なんとか取り返せるようにってことを意識していたし、FKのシーンではいい意味で、やけになっていた自分もいて思い切れました」
思えば、昨シーズンの開幕戦・FC町田ゼルビア戦では、ビハインドを追いかける状況下、84分に直接FKを決めて「自分史上ナンバーワンのフリーキック」と話していた宇佐美。今回もそれに匹敵する一撃だったかと思いきや、本人の感覚としては「いや、そこは町田戦の方が良かった」そうだが。
■「あの日」から求め続けてきた『完封勝利』への執着も力に変えて。一森純のPKストップ。
その宇佐美の先制点によって、6試合ぶりの『先制点』を手にして折り返した後半。立ち上がりの時間帯にチームのピンチに立ちはだかったのが「最後の砦にならないと」と話していた一森純だった。
51分に東京が得た右サイドでのFKのチャンス。キッカーに立ったバングーナガンデ佳史扶が蹴ったボールは自陣ゴールマウスの右ポスト前へ。そこに詰めた木本恭生への中谷進之介の対応に、主審が迷わずペナルティスポットを指差す。程なくしてVAR判定で『PK』が確実になると、一森は頭を整理してゴールマウスに立った。
「勝負どころ。本当に重要なPKになる。いつもシン(中谷)に助けられてきたからこそ、ここで自分が止めないと」
対峙したキッカーは東京のエース、マルセロ・ヒアン。呼吸を整えて、構えた後は「止めることだけ」に意識を向け、左に飛んだ。
「直感的に左に反応しました。チームのためにも、シンのためにも、自分のためにも、止めたいと思っていました。後半の立ち上がりだったので残り時間はまだ十分あったんですけど、あそこで失点するかどうかで流れは大きく変わる気がしていた中で、何がなんでも止めたい、止めてやるという思いが止めさせてくれたのかなと思います。あとは…ここ最近は、ホームゴール裏と逆のゴール裏(カテゴリー6)にもガンバファンの方たちが座ってくれていて。年々、『22』のユニフォームやタオルを持ってくれている人が増えていることを密かに喜んでいたんです(笑)。今日はいつもに増してそのエリアにたくさんの方が座ってくれていて心強かったし、後半が始まる時にもめっちゃ拍手をくれてすごく力になった。僕の中では勝手ながら『エリア22』と思っていつもパワーをもらっていますが(笑)、今日も支えてもらいました」
見事な読みで、相手のシュートを阻止すると、駆け寄った中谷に胸の辺りを叩かれながら、ガッツポーズで雄叫びを上げる。もちろん、カテゴリー6も含めスタジアムは大いに湧いた。
遡ること、5試合前の第16節・サンフレッチェ広島戦。一森のビルドアップ時のパスミスが中途半端に自陣ゴール前に溢れ、慌てて対応した鈴木徳真がDOGSO(決定的な得点機会の阻止)と判定され、退場に。早々に数的不利を強いられたガンバは最終的に0-1で敗れた。『3連勝』でチームが勢いを増しつつ中で迎えた試合で、流れとしても決して悪くなかったからこそ、一森は試合後、自身に責任を向けた。
「単純にリズムを出したくて、早い時間帯から、徳真(鈴木)に預けたり、また自分がもらって横につけたり、といった動きを意図的にやっていました。その流れで、あのシーンも早めに徳真に預けようとしたんですが、単純にパスがずれてしまった。徳真が前に行こうとしていたタイミングでしたが、ボールの軌道さえ合っていれば、おそらくパスは繋がっていたと考えても、シンプルに自分のミスだと受け止めています」
その試合から2週間ほど経った頃に話していた言葉も印象に残っている。その広島戦以降、チームが勝てていない状況が続いていた中で彼は「今も、敢えて割り切っていない」と厳しい表情を浮かべていた。
「試合後は何回もあのシーンを見直したし、いまだに練習でも似たようなシーンがあると、あのシーンが頭をよぎります。でも、それでいいと思っています。スパンと切り替えられる方がプロとしてはいい立ち居振る舞いなのかもしれないけど、僕はどうしてもそれができない。常々、自分の力でチームを勝たせたい、助けたい、と思っている中で、ああいうミスでチームに迷惑をかけてしまった、みんなをガッカリさせてしまった、何より勝点を落としてしまったという事実を含め、そんなにサラリと流していいものじゃないと思っているから。そのことを受け入れ、背負いながら、立ち向かわなくちゃいけないと思っていますし、次の勝ちを…『完封勝利』という結果を持ってくるまでは本当の意味では割り切れないし、切り替えられないとも思います。ただ、これは決してネガティブになっているわけではないです。確かに、あのシーンを思い出せば、パスを出すのが怖くもなるし、セフティなプレーを選んでしまいそうになる自分もいます。でも、その自分に『いや、違うだろ』『それじゃあダメだろ』と突きつけながら、チャレンジを続けていたらきっと、また自分が成長できる。これまでもそうやって自分のミスに向き合ってきたからこそ、今回のミスにも逃げずに、割り切らずに、次の完封勝利を目指そうと思います」
思えば、今回の東京戦での勝利は、その広島戦以来、初めての『完封勝利』に。そのことについて尋ねると「それを心の置き所としてやってきた」と振り返った一森。その後には「当初から半年くらいはかかると言われていて、ちょうど手術から半年くらいが経った。改めて何をするにも時間は必要だなと学習しました」という言葉が続いた。
■一森が取り戻しつつある本来の『体』。取り組んできたチャレンジ。
この手術とは、一森がオフシーズンに受けていた盲腸の手術を指す。東京戦後は、取材時間が限られていたこともあって多くを語らなかったが、思えば、術後4ヶ月が過ぎた頃にもそのことに触れ「付き合っていくしかない」と話していた。
「盲腸くらい大丈夫でしょって思われがちですけど、傷の大小に関係なく、体にメスを入れるということはいろんなバランスを崩すことに繋がってしまうんだなと実感しています。実際、腸腰筋と呼ばれるお腹周りの筋肉はまだ全然、以前のように動いていない気もするし、体を伸ばす時に多少ブレーキがかかるような感覚も抜けません。ドクターやトレーナーには、この傷が自分の体に馴染むまでには半年くらいはかかると言われていて、自分も付き合っていくしかないと思っていますけど、思ったより影響があるんだなってことを僕自身が驚いています。ただ、悪いことばかりではなくて『最後の体が、伸び切らない気がする』みたいな話を中村有希トレーナーに相談したら、広背筋をもっと使えるようにしたらどうか、みたいなアドバイスをもらって。そこに意図的に取り組んできたら、少しずつ体が伸びるようにもなってきたし、ハイボールへの処理のところでもあと数センチのところに(手を)伸ばせるようになってきた。そのこともポジティブに受け止めつつ、あとはこの体を自分が受け入れて、仲良くしていけば時間が解決してくれるんじゃないかと思っています」
記憶に新しい直近の天皇杯2回戦・ヴィアティン三重戦では前半32分、ゴールマウスの上部を狙って放たれた梁賢柱のミドルシュートを片手一本で弾き出し、この日最大のピンチを救った一森。その一戦を含め、ここ数試合、安定したパフォーマンスが続いているのは、そうした『体』が思うように動き始めたことも影響しているのかもしれない。もちろん、先に書いた、東京戦でのPKストップを含めて、だ。
「まだまだです! まだまだ上げていきます!」
ちなみに、一森の『PKストップ』は、ガンバでは22年5月に戦ったパナスタでの北海道コンサドーレ札幌戦以来、2度目。それ以外の所属チームでも、23年の横浜F・マリノス時代に戦ったサガン鳥栖戦では2度、川崎フロンターレ戦や札幌戦でもゴールマウスに立ちはだかっている。もっと遡れば、J2・レノファ山口時代の16年に戦った天皇杯では、J1のアビスパ福岡を相手にPK合戦に持ち込む死闘を繰り広げた中で、2度、相手のPKを阻止して勝利を後押し。ファジアーノ岡山時代にも3度、PKを止めている。そんなふうに長い時間をかけて積み上げてきた『PKストップ』に対する自信も、この日のパフォーマンスに繋がったということだろう。
■リーグ戦では6試合ぶりの勝利に、キャプテン・宇佐美は何を思うのか。
話を戻そう。そうして2つのビッグシーンに支えられ、東京戦で6試合ぶりに白星を掴んだガンバ。もちろん、宇佐美や一森に限らず、試合を通してマルセロ・ヒアンと熱いマッチアップを繰り広げた福岡将太をはじめ、効果的な攻め上がりから攻撃を後押しした黒川圭介、古巣対決に気迫を漲らせた安部柊斗ら、選手それぞれに任せられた役割を全うしながら、1プレー1プレーに執着を見せたことも忘れてはならない。交代でピッチに立った満田誠や倉田秋、鈴木徳真らがスムーズに試合に入り、相手の攻撃を自由にさせない守備を光らせながら、課せられた役割を全うしたことや、岸本武流が後半アディショナルタイムに見事なゴラッソを叩き込み、東京の息の根を完全に止める2点目を決めたことも。
そんなふうに、取るべき選手がゴールネットを揺らし、止めるべき選手がゴールに鍵をかけ、全員がチームのために戦い切った中で掴んだ6試合ぶりの『勝利』は、果たしてガンバにとって、反撃の狼煙になるのかーー。
再び、キャプテン・宇佐美が口を開く。
「中断期間を経て、リーグ戦を折り返してから、前節の清水エスパルス戦の感覚も悪くなかったし、なんとなくチームの雰囲気みたいなものも変わってきた気がしていたので、東京戦に勝つことでよりいい流れがチームに来るんじゃないかとは思っていました。順位、勝点ということを見ても、ここは是が非でも勝たなきゃいけないというプレッシャーも自分にかけていました。その中で1つ、結果が出たのは良かったとは思います。今のチームは勝点3が積み上がっていかないと乗っていけないと考えても、です。逆にそれが増えてくると、本当にガンと乗っていける強さもあるし、まだまだ未熟なところもあるとはいえ、そうした勢いがついた時にはすごくいいサッカー、結果を得られてきたのも事実だと思います。それに去年のテーマにしてきた『熱量』のところも…もちろん、これまでも、選手それぞれに意識して戦ってきたことに嘘はないですが、そこに勝ちという結果がついてこないと、本当の意味で高まっていかないということは昨年の戦いを見ての通りなので。だからこそ、まだまだ勝ちを積み上げていかなくちゃいけないし、1つ勝ってよかったではなく、こういう試合を繰り返していく、継続することが大事だと思っています。この先も、前半戦の課題だった『失点を減らし、得点を増やす』というチャレンジを、チーム全体で続けながら、勝つことと熱量がリンクしてチームが上がっていくような戦いをしていきたいと思います」
迫りくる暑さを、その熱量で越えていく。そんなガンバの熱い『夏』が始まろうとしている。



