<ガンバ大阪・定期便132>約束の場所へ。三浦弦太が、今シーズン初のフル出場。

 覚えているだろうか。昨年の5月6日。ホーム・パナソニックスタジアムでの大阪ダービーをスタンドから試合を見守っていた三浦弦太が、試合後、チームと共にガンバクラップを終えた後、翌日からの入院、そして負傷した右膝の手術を前に話していた言葉を。

「みんなとガンバクラップをしながら『またここで一緒に喜びあいたい。もっと強くなって帰ってこよう』という気持ちがすごく湧いてきた。僕は僕にできることに全力で向き合って、また強くなって必ずここに戻ってきます」

 あの日から1年が過ぎた6月18日。三浦はその言葉を実現するべく天皇杯2回戦・ヴィアティン三重戦で先発のピッチに立った。パナスタでの公式戦は、昨年、右膝を痛めた4月28日のJ1リーグ第10節・鹿島アントラーズ戦以来、約1年2ヶ月ぶり。試合前はいつも通りに準備をし「自分にとっても、チームにとっても大事な一戦」に気持ちを集中させてスタジアム入りをしたという。だが、いざピッチに入場すると、自分でもコントロールできない感情が湧き上がった。

「自分でもよくわからないんですけど、いざピッチに立って、ああ戻ってきたんだなと思ったら、柄にもなく込み上げるものがありました。それ以外でも、少し油断したら、ちょいちょいグッとくるような瞬間があって…言葉にするのが難しいんですけど…なんでしょうね」

 それもあって、試合後のインタビューでは言葉を詰まらせて涙を浮かべる一幕も。そのあとは約束通り、ガンバクラップの先頭に立ち、笑顔で勝利を喜んだ。

■「リハビリというより、パワーアップのためのトレーニング」を乗り越えて。沖縄キャンプで部分合流。

 本人の「柄にもなく」という言葉につい頷いてしまうほど、この1年強もの時間、三浦はリハビリにも、トレーニングにも、ひたすら明るく、ポジティブに向き合ってきた。もちろん、こちらに向けているのはいつも表向きの顔で、見えないところではその心を重くしたこともあったのかも知れない。それもあっての「込み上げるもの」でもあったはずだ。

 だか、それすら疑わしくなるほどむしろ、リハビリに向き合う時間を楽しんでいるように見えるくらい、彼はどこまでもポジティブに復帰への道のりを進んできた。

 術後、クラブハウスでのリハビリを本格的にスタートした際に口にしていた言葉のままに。

「より強くなって戻れるように、復帰した時に『ケガをしてよかった』と思えるくらいのパフォーマンスを発揮できるように、自分の体としっかり向き合っていこうと思います」

 今シーズンに入り、部分合流した日のことも鮮明に覚えている。1月17日にスタートした沖縄キャンプも6日目に突入した1月22日。三浦は練習に先駆けて挨拶に立った。

「今日からまた一緒にボールを蹴れることになりました。よろしくお願いします」

 短く語った決意に、コーチングスタッフやチームメイトから拍手が起きる。ポヤトス監督も彼の復帰を喜び、心強さを言葉に変えた。

「弦太(三浦)の復帰を非常に嬉しく受け止めています。彼はプレーだけではなく、それ以外の部分でも影響力のある選手。チームが苦しい時には助けてくれますし、仲間に寄り添うことも忘れません。今日の練習を見ての通り、チームにすごくポジティブな空気を運んできてくれました。ここから急がず、焦らず、でもしっかり動きながら回復していって欲しいと思っています。私たちにとって、とても大事な選手が戻ってきてくれました(ポヤトス監督)」

 事実、三浦の周りでは彼の戦いを日々、そばで見てきた仲間の胸の内が透けて見えるような笑顔が、いくつも花を咲かせていたのも印象に残っている。練習後には三浦も声を弾ませた。

「やっぱりみんなと一緒に動くのは楽しいです。ここから復帰を目指していく中で、楽しみにしているのはリハビリの日々で取り組んできた、広背筋を鍛えたり、足の指の使い方を意識したり、膝を守るために内側広筋を鍛えたりといったトレーニングが、どんなふうにピッチでのプレーや動きに活かせるかということ。痛めた膝は以前と全く同じではないと考えても、リハビリが終わったから万全です、ということではないし、せっかく長い時間をかけて作り上げてきた土台を揺るぎないものにしてプレーに繋げるためにも、これから先はよりいろんなことに注力して取り組んでいこうと思っています」

 以降も、変わらない雰囲気を纏いながら復帰を目指してきた。長期離脱を経験した選手は、復帰が近づくほど焦りが生まれると聞くが、三浦にはそれがあてはまらなかったということだろう。J1リーグの開幕直後に話を聞いた際もきっぱりとそう口にしていた。

「試合を観ていると当然、サッカーはしたいという気持ちにはなるけど、焦りはないです。リハビリをリハビリとは思わず、自分がパワーアップするためのトレーニングをしていると思って過ごしてきたのがよかったかも」

 むしろ、長期の及んだリハビリの日々が、自身の体に、プレーに、どう表れるのかに『ワクワク感』を漂わせたほどだった。

■2月21日の完全合流を経て、4月7日に初めての練習試合。「大きな15分だった」

 そんな彼が、完全合流したのは2月21日だ。その直後の2月26日のJ1リーグ第3節・ファジアーノ岡山戦では控えメンバーに名を連ねてファン・サポーターを驚かせたが、実はこの時は中谷進之介をはじめ、ケガ人が相次いだことで、急遽、控えメンバーに空きができた中での帯同だったという。

「ダニ(ポヤトス監督)から『出場がまだ難しいのはわかっているけど、できれば帯同してチームにパワーを与えてほしい。ただ自分のコンディショニングもあるだろうから、判断は任せる』と言われて。僕としては、チームのためにやれることがあるなら一緒に行きたいと伝えて帯同しました。長らく公式戦から離れていた中で『アウェイ戦』を想定した予行練習というか…膝回りにテーピングを巻いたり、体の準備や膝のアップをしたり、って時間がどのくらいかかるのかを知るためにもいいな、と。でも、帯同してよかったです。やっぱりスタンドから見るのとメンバー入りするのとでは全然感じるものが違ったから。みんなと一緒に移動して、食事をして、アップをして、というのも久しぶりだった中で公式戦特有の空気を感じて『やっぱり試合っていいな』って思えたのも収穫でした。正直、控えメンバーの立場では、本当の意味でチームにエネルギーを与えることはできなかったけど、それを確認できたのもよかったです。改めて『試合に出て、チームの力にならなくちゃ』と思えたから」

 その2日後の3月1日に迎えた30回目の誕生日には「今年はケガなく、サッカーを楽しめる年にしたい」と語っていた三浦が初めて時間限定の練習試合に出場したのは4月7日だ。

「大学生が相手だったこともあって、展開的にボールを持って攻め込む時間が長く、僕ら守備陣がそこまでプレッシャーを感じるシーンはなかったので、正直、そこまで確認できたことは多くなかったです。でも、久しぶりの試合はやっぱり楽しかった。復帰後初めてフルコートのピッチを体感できたのもここからまたコンディションを上げていく励みになりました」

 初めての公式戦復帰は4月16日に戦ったルヴァンカップ1stラウンド2回戦、水戸ホーリーホック戦だ。延長後半、106分からの出場でアディショナルタイムを含めても15分ほどの短い出場時間だったが、この一戦は三浦にとっては大きな一歩になる。

「展開的にも、しっかり守って試合を終わらせるという役割でしたけど公式戦にしかない空気を感じられたのはよかったです。何より、初めての長期離脱をして、この先、どんなふうに試合に戻っていくのかが描きにくいところもあった中で『こうして試合に出てしまえば、意外とこれくらいは動けるんだな』と思えたというか。練習や練習試合とはまた違った体の感覚みたいなところを実感できたので、僕にとってはすごく大きな15分でした」

■右膝に巻かれたテーピングの意味。リハビリで積み上げてきたことを体に染み込ませることを心がけながら。

 もっとも、その一方で「それが公式戦のスタートから出る、となった時にどれくらい通用するのかはわからない」と話していたのも印象に残っている。4月末に状態を尋ねた際も「練習でも割と体が動いてきたなっていう感覚が出てきた」としながらも、その言葉には「まだまだ一歩ずつ」という慎重な姿勢を漂わせた。

「ここ最近は『対人』も含めて、割と体が動いてきたなって感覚はあります。少し前までは、最後のシュートブロックのところで体を当てられなかったり、寄せて、止まるところで精一杯だったのが、最近は次のアクションを考えながら止まれたり、次のシーンや他の状況を見てプレーを選択できる余裕を持ってプレーできるようになってきた。そういう意味では、ようやく本当の意味で『ああ、結構動けるようになってきた』という感覚は持てているし、4月頭に時間限定で練習試合に出た時よりも確実に、できるプレーが増えている気がしています」

 ちなみにその日の練習で、右膝にはまだしっかりとテーピングが巻かれていたのが気になって理由を尋ねた時には、こんな言葉も残していた。

「あのテーピングは予防とか、怖いからとか、では全然ないです。なんていうか、僕の場合、もともとの足の使い方の癖もあって、また今回のケガによっても、より筋肉が外に流れていきやすくなってしまっているのを、テープを巻くことで矯正しているような感じです。もちろん、それにプラスして、ジムでも筋肉が外に流れていかないように、内側の筋肉をしっかり使えるように、ハムストリングにきちんと刺激が入るトレーニングも続けているんですけど。だから見た目ほどはガチガチに固めてもいないし、あれをしないとプレーができないってことでもない。あくまで動きのサポートをしてもらっているような感覚です」

 その言葉にもある内転筋の補強は、戦列に戻った今も彼が継続しているトレーニングの1つだ。これはあくまで、ケガの再発を防ぐためというより、リハビリを通して積み上げてきたトレーニングや、自身に求めてきた様々な『変化』をピッチでのプレーや動きに活かすため。三浦の言葉を借りれば「この先もずっと続くチャレンジ」でもある。

「せっかく長い時間をかけて取り組んできたものが、ゼロになってしまうのはもったいない。すでに体に染み付きつつあるところもあるけど、見方によってはまだ1年しか経っていないですからね。これまで何十年やってきた自分の動き方、体の癖が、そう簡単に変わるはずがない。実際、意識しないと元に戻る…まではいかないけど、以前の動き方に寄っていっちゃう気もしているので、そこはまだまだ意識して取り組まないと、って思っています。でも、今取り組んでいることが完全に自分のものになったら…って考えると、すごく楽しみだし、そこは僕自身が自分に期待しているところです」

■「残りの2割」をどう詰めていくか。さまざまな葛藤に折り合いをつけて、たどり着いた今。

 もっとも、5月25日の練習試合で初めて『90分』を戦ったことや、その直後に話していた「8割くらいまでは戻っている気がするけど、あとの2割をどう詰めていくかのところがまだしっくりこない」という自分から抜け出すために、6月に入って以降は、その取り組みに対する意識の持ち方を少し変えたという。

 これは、同じように長期離脱を経験したことのある宇佐美貴史からの「いろんなことを取り払って、思いっきりプレーしてみるのも1つかも」というアドバイスをはじめ、同じケガを負ったことのある選手たちに話を聞く中で、踏み切ったことでもある。

「ここまで宇佐美(貴史)くんをはじめ、前十字靭帯断裂を経験した選手に話を聞く中ではいろんな人から『長ければ余裕で1年はかかるケガだから焦るなよ』という言葉を掛けてもらってきました。だからこそ、僕自身も焦ることなくやってこれたんだと思います。でも、こうして戦列に戻ってからの時間が長くなると当然、試合に出たいって気持ちも強くなっていく中で、5月末の練習試合で90分を戦ってからは特に少しモヤモヤした気持ちもあったというか。8割くらいまでは戻った感覚があるけど、でも残りの2割は公式戦を経験しないと戻らないのかな、とか考えるようになっていた中で、そこをどう戻せばいいのか、自分なりに試行錯誤を続けていたんです。そんな時に宇佐美くんにサラッと『1回、いろいろ考えずに思い切ってやってみるのもいいかもよ』と言われたのもあって、6月に入った頃から、それまで継続してやってきたトレーニングをあまり意識しすぎないようにしてみたんです。なんていうか、プレー中は膝のことは考えず、ナチュラルに、自分がしたいようにプレーする、みたいな。そしたら、残りの2割のところが動き出したというか。それを、紅白戦などの大きなピッチで試合をする中でも、続けていたらグンと(コンディションが)上がる感じがしました」

 1年強もの時間をかけて取り組んだトレーニングによって見出しつつある動きと、それを一旦、取っ払うことへの勇気。その葛藤に折り合いをつけるのは、長い期間、真摯に、真っ直ぐに様々なトレーニングや体の強化、進化に向き合ってきた三浦だからこそ、とても難しいものであったはずだ。だが、結果的にそれは三浦を大きく前進させることになる。

「なんか不安だったんです。トライを続けてきて、ナチュラルにできるようになったところもあるけど、それを完全に自分の意識から省いてしまったら、これまでやってきたトレーニングが無駄になっちゃうんじゃないか、ケガをする以前の自分に戻ってしまわないか、って。ケガを治すというより、体をよりいい状態にすることを意識してこの1年を進んできたからこそ、捨てるのが勿体ないというか、その動作を諦めちゃうことにならないかって葛藤もありました。でも、いざ、ナチュラルにプレーすることに踏み切ってみたら、そうじゃないと気づいたというか。ちゃんと自分の体に染み付いているのも感じられているし、ああ、やっぱりトレーニングをやってきてよかったな、とも思えている。何より自分が求めていた残りの2割の感覚が埋まりつつあるのも嬉しいです」

 それによって、今は、継続してきたトレーニングを意識する時と、意識しない時のバランスも、自身の中でうまく図れるようになったという。

「そのおかげで、すごくスッキリした気持ちでサッカーにも向き合えている」

 そして、その姿が、ポヤトス監督の目にも明らかだったからだろう。6月14日の囲み取材では珍しく、監督自ら「弦太(三浦)の状態が明らかに良くなっている」と切り出す場面も。それが冒頭に書いた、三重戦での先発出場に繋がった。

「今の状態になってからは、自分への自信もしっかり持ちながらやれてきたし、あとはチャンスが来た時にどのくらいパフォーマンスを表現できるか、ということだけに集中してきました。その中で、今日の三重戦で先発のチャンスをもらったんですけど、前半は特にバタバタしてしまったというか。こういう試合は難しくなるのはわかっていたので、チームとしても立ち上がりの時間帯に集中しようと意識していたんですけど、思った以上にバタバタしてしまった。ただ、そこを失点せずに乗り切れて、後半の立ち上がりに失点した後も、翔悟(佐々木)がすぐに取り返してくれたことで、チームとしても落ち着けて、逆転に持ち込めた。ただ、無失点を意識していたからこそ先制点を許してしまったことには悔しさが残りました。また個人的にも前半、後ろからもっと斜めのパスを入れるような局面を作りたかったし、出したかったんですけど、相手もブロックを作っていた中でなかなか出せず…。後半はチームとしての動き方を少し変化させて出しやすくなったけど、三重のように5枚でしっかりブロックを作っている相手をどう崩すかは、今後のJ1リーグを見据えても個人としてもチームとしてもより追求していかなくちゃいけないと感じました」

 そんなふうに、その時々の自分としっかり向き合いながら現状を受け入れ、目には見えないたくさんの戦いを積み上げて、たどり着いた『90分』。だからこそ、その試合を勝利で飾れたことを手放しに喜びたいところだが、いうまでもなく三浦にとっては「ここからスタート」だ。

「ようやく今シーズンの土俵に立てたというか、プレーできるぞっていうところまでこれたと思っているので、ここからよりチームの力になれるように努力していきたいと思います」

 むしろ、ガンバの歴代センターバックの系譜を受け継いで『5』を背負う男が、1つの勝利に満足するはずがない。

「この先はAFCチャンピオンズリーグ2の戦いを含めて、暑い中での連戦が入ってくると考えれば、総力戦になる。そこに僕自身もしっかりと力になっていきたいし、全員でチームのために戦う姿を示したい。今シーズンはリーグ戦でも少し失点が多くなっている中で、この先はそこを減らす作業も必要になってくる。そのためには個人でしっかり守れるってことを示していくのも必要だし、でも、一人で守るには限界があるからこそチーム全体としていい守備をすることが大事になる。その一員として守備の固さはもちろん『絶対に失点しないぞ!』という雰囲気をチーム全体に漂わせることを意識しながら、結果的に数字的にも減っているということができれば、勝点も積み上がっていくのかなと思っています」

 そう。お楽しみは、これからだ。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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