【G大阪】明神が名古屋へ! スタッフとしての慰留を固辞し、「対戦相手として、新スタジアムに立つことを目指す」 SOCCER DIGEST Web 1月6日(水)15時4分配信

「ガンバに利益をもたらす」。強い使命感を抱えてプレーした10年間。

 G大阪で過ごしたこの10年。移籍初日に言われた当時の佐野泉代表取締役社長の言葉をずっと、自分に投げかけてきた。

「今季は強化に8億円をかけた。君たちに、頑張ってもらわなければ困る」

06年1月のことだ。ともに加入を決めたマグノ・アウベス、加地亮、播戸竜二らとともに社長室に挨拶に出向いた明神智和は、真顔で言われたその言葉に、強い使命感を抱いたと言う。

「それだけのお金をかけてもらったことに応える活躍を示さなければいけないし、その金額以上の利益をこのガンバにもたらさなければいけない」

そこから、『G大阪・明神智和』としての戦いはスタートした。当時の監督は西野朗氏。柏時代にもともに仕事をしたとはいえ、チームが変われば、戦術も、求められるものも違う。

しかも、前年度にクラブ史上初のJリーグ優勝を決めたG大阪にとって、06年はディフェンディングチャンピオンとして戦う年。過去には日本代表として日韓ワールドカップに出場した明神でさえ、その重責はプレッシャーとしてのしかかった。

だが、徐々にそれを撥ね除けながら、明神は唯一無二の存在として中盤に君臨し続けた。加入から2年ほど経った頃だろうか。スタジアムには「ここにも明神、そこにも明神」というゲーフラが掲げられるようになったが、それは当時の彼の存在感を如実に示すもの。

圧倒的な運動量と守備力、そして戦術眼を従え、危険を察知するや着実にその芽を摘み取っていく様は圧巻で、08年のACL優勝の舞台にも、また07年のナビスコカップ初制覇や、08、09年の天皇杯連覇の舞台にも、喜びの輪の中心にはいつも彼がいた。

「常に『タイトル』を獲ることを意識しながらサッカーをできたことで、自分自身のサッカー感にも広がりを持てたし、タイトルを獲れた喜びが、またタイトル への欲に繋がって、もっと高いところへ、もっと大きな喜びを、と自分が引き上げられていく感じがあった。これはガンバという『タイトル』を義務づけられた チームに在籍できたからこそ、気づけたことだったと思う」

「対戦相手として、ここ(新スタジアム)に立つことを目指します」(明神)

 そんな明神の姿をピッチでみる機会が減ったのは、初のJ2リーグを戦った13年頃からだ。怪我で戦列を離れた時期もあったとはいえ、控えに回ることが増えると、14年のJ1リーグでの先発出場はわずかに4試合。さらに今季はベンチからも遠ざかることが増えた。

その事実に「一度たりともしょうがない、とは思ったことがない」と明神。むしろ、スタンドから試合を観たり、アウェー戦をテレビで観る状況は、言葉にできない悔しさを募らせ、より、サッカーへの欲を煮えたぎらせた。

「メンバーは監督が決めること。どんな理由でも、選手はそれを受け入れなければいけないと思います。ただ、自分が試合に出られないことに対して、納得した ことは一度もありません。若い時もそうだったように、なにくそ、巧くなってやる、と思ってサッカーに向き合い続けています」

だが、11月のはじめ、明神はクラブから「来季の契約は結ばない」という通達を突きつけられる。と同時に、その人間性や経験を評価され、スタッフとして の残留を慰留されたが、彼の中でフツフツと煮えたぎる欲を『引退』で押さえ込むことはできず、かつ、出場時間に反して、昨年以上に身体のキレを感じていた こともあり、彼は現役続行を決断する。

「試合に向かう道中、チームバスからスタジアムが見える瞬間があるんですが、それがたまらなく好きで。そこでまずブルっと身震いをして、スタジアムに到着後、アップに入る時のスタンドの沸く感じや、入場時の雰囲気にワクワク感が増す。それをやっぱりまだ味わいたい。

正直、現役生活が残り少なくなっているのは自覚しているし、ボロボロになって、惨めなプレーをさらしてまでは現役でいようとも思わない。でも今はまだピッチで闘える自信もあるし、そのために努力をしようと思える自分がいる。

それに……この間、ガンバの新スタジアムを見学した時に思ったんです。『ここで戦いたい』と。それがガンバのユニフォームを着て実現できたら最高だった けど、その可能性がないのなら……まずは、対戦相手として、ここに立つことを目指します。その時に自分がなにを思うのか。バスから観るスタジアムにどんな 気持ちを抱くのか。それが今からすごく楽しみです」

そう次のステップへの思いを聞かせてくれてから、約1か月半。彼の元に待望のオファーが届く。名古屋グランパス。そのオファーに寸分の迷いもなく新たな挑戦を決断した明神は来季、プロとして21年目のキャリアを、自身3チーム目となるJ1クラブでスタートさせる。

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