【藤田俊哉の目】天皇杯の勝敗を分けた3つの精度。ガンバにあってレッズに足りなかったものとは? SOCCER DIGEST Web 1月2日(土)10時4分配信

関根や高木にピンポイントの精度は見られなかった。

 ガンバがレッズを下して天皇杯を制した。ノックアウト形式のトーナメント戦で、しかも大会連覇を成し遂げたのだから、彼らの勝負強さは賞賛に値する。し かもこの試合はガンバにとってシーズン60試合目になるという。見えない疲労がピークに達しているなかでも、ビッグタイトルを勝ち取ることができたのは、 ガンバにタフで試合巧者な選手が多かった証拠でもあるだろう。

ガンバにあってレッズに足りなかったものとはなにか――。試合に目を向けると、終始、ボールを支配していたのはレッズのほうだった。しかし、あらゆる“精度”という点でガンバのほうが一枚上手だった、というのが僕の印象だ。

ひとつ目の精度の違いは、ラストパス。

レッズには興梠という怖い選手が前線にいた。同点ゴールを決めた腰の回り方を見ても、キレの良さは感じられた。しかし、その彼のフィニッシャーとしての能力を引き出すための、ラストパスの精度がいまひとつだった。

終盤になって“ガンバ・キラー”のズラタンもピッチに立った。チームとして1点を追う勢いこそ出ていたものの、フィニッシュのシーンを作り出すラストパ スの精度の低さが、レッズの反撃ムードに水を差していた。ひと言でいうと、レッズはボールを回して崩していくなかで、アイデアと変化が足りなかった。

“崩し”をチームスタイルとするレッズにとって、ゴールをこじ開けるためには、ラストパスの精度がより求められる。終盤、関根や高木がその役目を担うことになったが、積極性こそ感じられたものの、ピンポイントの精度は見られなかった。

決して高木のテクニックが低いと言っているわけではない。この日のプレーもノーミスだったし、左サイドで起点となっていた。ただ、つねに右足に持ち替え てチャンスメイクしていたから、レッズは左サイドを“えぐる”ことができなかった。左利きのクロッサーがいなかったのか、それともただ起用しなかったのか は分からない。例えば、FC東京の太田宏介のような左利きのクロッサーがいたら、李とズラタンのヘッドの強さももう少し生きてきたかもしれない。

柏木欠場の影響は大きかったと言わざるを得ない。

 ふたつ目の精度の違いは、ディフェンス陣の対応。

ガンバがGK東口の好セーブを中心として堅守が目立った一方で、レッズの守りにはファースト ステージのような守備における最終局面での粘り強さに欠いていたように見えた。

とくにパトリックのスピードとパワーには食らいついていけなかった。先制ゴールのシーンはその最たる例だろう。縦パス一本で抜け出してドリブルで独走したパトリックに対して、森脇はあっさりとマークを振り切られ、そのままゴールキーパーとの1対1を決められた。

もちろん、ヨーロッパのトップレベルの試合においても単独突破を許してしまうシーンはたびたび見られる。しかしDFは最後の砦だ。スピードで振り切られるシーンを減らすためにも、身体をうまく使って簡単に抜かれないことが重要になる。

3つ目の違いは、セットプレーの精度。

これは両チームに大きな違いがあった。ガンバが終始、遠藤がキッカーとしてチャンスを作り出していた一方で、レッズは宇賀神や高木が担当したりと、最後までキッカーが定まっていなかった。柏木が負傷欠場した影響は大きかったと言わざるを得ない。レッズにしたら得点源であるセットプレーでも後手を踏んでし まった。

サインプレーでパトリックの2点目を演出したのは遠藤のCKだった。あのように綺麗なサインプレーが決勝という大舞台で形になったことを見ても、ガンバのほうがセットプレー面でも一枚上手だった。

勝負事というものは多少の運も関係するが、この日のガンバはレッズよりもファイナルに向けた準備がしっかりできていた。それが実を結んだと言えるだろう。

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