<ガンバ大阪・定期便126>進撃の、イッサム・ジェバリ。

■名古屋グランパス戦は1得点1アシスト。圧巻の存在感で勝利を後押し。

 ボールを収め、味方のスペースを作り出し、ゴールを決める。

 しかも、その全てを高い精度で、だ。

 4月12日に戦ったJ1リーグ第10節・名古屋グランパス戦も圧巻の存在感で攻撃を牽引したイッサム・ジェバリは、63分に均衡を破る先制点を右足で奪うと、76分には山下諒也の追加点をお膳立てした。

「サポーターの皆さんの前で今シーズンのホーム初ゴールを決めることができて本当に嬉しい。今日は全体的にいいゲームができた。主導権を握れたし、自分たちのやりたいこともしっかり表現できた。それが結果につながったのは最大の収穫だと思っています」

 立ち上がりから、名古屋の『タイトな守備』を感じていた中で、頭を使ったプレーを心がけていたという。

「今日の試合は僕にとっては難しくて、どんな動きをしても、どこに動いても、どんなパフォーマンスをしたとしても必ず、相手のセンターバックが僕についていた状況だったので、常に頭を使ってプレーしなきゃいけないと感じていて、そこは徹底していました」

 事実、相手がミドルゾーンでブロックを敷いてきた中で、前半はシュートチャンスを作り出すことに苦心している姿も見られたジェバリだが、ボールを失わずに相手のセンターバックをピン留めして味方にスペースを作り出したり、細かくポジショニングを調整しながらギャップを作り出したり。時にはボールを運んで、相手を動かしたりと、まさに頭を使った、献身的な動きで相手のDFラインにジャブを入れ続けた。

「タイトな守備の中でもボールを失わない、自分にチャンスが訪れた時にはしっかりとそれを活用することは心がけていました。また自分の周りにはマコ(満田誠)、ネタ(ラヴィ)、アラーノ(ファン)らがいた中で、前線でとにかくしっかりと体を張り続けることが、今日の戦いにおける役割だという自覚もありました」

 そのジャブが功を奏する形で得点につながったのは後半だ。63分、ファン・アラーノから縦に送り込まれたスルーパスに反応すると、ペナルティエリア内で相手DFを2枚交わして右足を振り抜く。冷静に、相手の動きを読んでいた。

「アクションを入れて、左で打つと見せかければ相手DFが必ずスライディングをしてくるというのはこれまでの彼らの試合の傾向から感じていたので、まずはフェイントを入れました。その上で二人目の選手がスライディングをしてきた時には、まずはしっかりボールをキープすることを心掛けました。そこは瞬間的な、咄嗟の判断もありました」

 さらに76分にはネタ・ラヴィからボールを受けると、ドリブルで運んで左から上がってきたアラーノへ。そのまま自身もスピードを落とさず、ゴール前に侵入すると、アラーノのシュートが左ポストを叩いたこぼれ球に反応。中に詰めていた山下を見逃さず、パスを送る。

「諒也がフリーだったから。あれはパスしかないでしょ? もちろんシュートを打っても入る可能性はあったとは思いますけど、状況的にはパスが賢明だったと思っています」

 チームのために、より得点の確率が高いプレーを選択して貴重な追加点へと繋げ、5試合ぶりとなるリーグ戦白星を決定づけた。

■ガンバでのプレーも3シーズン目。ジェバリが明かす好調の要因とは。

 自身の好調の要因について、日本のサッカーへのフィットとコンディションの良さを挙げる。

「FWである以上、ゴールを取ることも僕に課せられた仕事だと考えていますが、何より大事なのは最高のパフォーマンスをピッチで表現するための準備を怠らないことだと思っています。その点において言えば、キャンプを含めたプレシーズンを通していいコンディションを作れていますし、開幕後もいい過程を過ごせています。もちろんそれだけの準備をしても一昨年、昨年のようにケガに苦しめられることもある世界ですが、少なからず今シーズンはケガなく自分のリズムを見出せています。その事実は、より自分らしさをプレーで表現することにも繋がっています」

 特に、日本でのプレーも3シーズン目に突入し、サッカーや生活に体が順応し始めたことも今のパフォーマンスを支えているという。「いろんなことがうまく回り始めた」と実感することも多いそうだ。

「母国・チュニジアと日本では8時間の時差があります。それによる体の変化は当然ありますし、食べ物が変わるということは体づくりにも影響します。来日当初はピッチの芝の質の違い、グラウンドの硬さにプレーを適応させることにも少し時間を要しました。また、ようやく慣れ始めたところで昨年のように膝を痛め、積み上げてきたものが振り出しに戻ってしまうこともありました。そうした時期を乗り越え、今年は過去の2シーズンを経験値にしながら、体もプレーも適応できているように感じます」

 事実、ガンバに加入した23年は5得点、昨シーズンに至ってはケガが続いたことも影響して2得点にとどまったのに対し、今シーズンはJ1リーグ開幕から10試合で4得点。特に、第4節・東京ヴェルディ戦でシーズン初ゴールを挙げて以降は、より体のキレが増した印象も強い。周りの選手との連携も良く、中でも同試合でガンバデビューを飾った満田誠とは加入直後から驚くほど相性の良さを示している。

「マコとの相性の良さは彼が移籍してきた初日のトレーニングから感じていました。彼を一目見て、トップ下の選手としてストライカーを活かしてくれるプレーができるクオリティを備えているとわかりましたし、彼の存在は自分の好調を語る上で大きな要因になっています。基本、彼は大人しめで口数が多くはない選手なこともあって、お互いを知るためにたくさん会話をしたというようなこともなかったですが、単純にマコがエネルギッシュにプレーする選手で素晴らしい機動力を持っていることが、ピッチでいいコンビネーションを示せている理由のすべてだと思います」

■高まる、ホームタウン愛。「チュニジアと時間の流れがすごく似ている」

 さらにいうならば、そうしたパフォーマンスにも大きな影響を及ぼす日々の生活が落ち着き、家族が穏やかに暮らしていることも、心の安定につながっているという。ジェバリによれば日本での生活は、母国・チュニジアでのそれと似て通ずるところも多く「住めば住むほど、日本が好きになっていく」そうだ。

「僕は基本的に、家でじっとしているのが好きじゃないので、フリータイムには近所に買い物に出掛けたり、スーパーに行ったり、魚屋やパン屋を覗いたり、カフェでコーヒーを飲んで過ごすのが好きなんです。僕は日本の文化を尊重していますし、『日本』という国そのものを好んでいますが、特に自分の生活に溶け込んでいる吹田市や豊中市といった身近な環境が最高に気に入っています。ここで過ごしていると、自分も市民の一人なんだな、ここが自分の家だなと思う瞬間もたくさんあります。その理由を考えると、おそらくチュニジアでの日常とすごく似ているからだと思います。実際、日本での暮らしは、僕が若い頃にチュニジアで過ごしていた日々を思い出させるほど時間の流れがすごく似ています。また人々がとても明るく、フレンドリーで感情豊かであることも居心地の良さにつながっています。パン屋や魚屋に行ってちょっとした会話をしていても、まるで母国にいるような感覚を覚えるのは日本が初めてです。また、各地にローカルな味や、ローカルならではの楽しみ方があるのもすごく気に入っています」

 ローカル、という点に関して言えば、大阪の文化の1つともいえる『お笑い』に関しても、自身の性格に相通ずるものがあると感じているそうだ。確かに、取材のたびにジェバリの口から飛び出す、ユーモアには何度も笑わせてもらっている。

「日本の笑いのセンスというのかな、人を卑下したり馬鹿にするような笑いではなく、常にリスペクトのある…日本語で言う『イジリ?』や笑いのセンスはとても好きです。これは僕のそもそもの性格が、楽しいことや誰かを笑わせるのが好きだからかもしれません。その点においても最近は特に自分は『大阪』にピッタリだなと思うことが多いです。もし僕が日本語を流暢に話せるようになったら、皆さんを笑わせる自信はメチャメチャ、あります(笑)。また、生きていく上で『笑い』というのはみんながハッピーになれる最大の武器だと思えばこそ、SNSなどでも最後にクスッと笑えるような投稿を心がけていますし、リアクションがいい皆さんに負けない笑いを取ることはいつも狙っています。そういえば、以前、SNSで『ちょっとロン毛にしようかな』って言ったことがあるんです。すると途端に、サポーターの皆さんが反応してくれて、数分後には弦太(三浦)のロン毛を合成した写真など、瞬く間にいろんな反応が届き、やられた! と思いました。採用するか? いや、今はこの髪型が気に入っているから、その予定はないな(笑)」

 周りを笑顔にするための行動は、もちろん、ピッチでも心がけていることだ。と同時に、応援してくれる人、支えてくれる人たちのために、という思いは、自身のモチベーションにもなっている。

「僕はサポーターの皆さんにとって遠い存在ではいたくないんです。だからこそ、面白いもの、楽しい瞬間を一緒に味わう時間を出来るだけ大事にしたい。もちろん、それはピッチでも同じです。皆さんにたくさんのハッピーを、笑顔を、楽しい瞬間を届けるために、最大限の努力をするだけだと思っていますし、ガンバ大阪の選手として仕事ができるという幸せに対して、また、それを支えてくださる、サポーターの皆さんや、フロントスタッフ、チームスタッフ、チームメイトのためにベストを尽くして恩返しをしたいと思っています。僕はガンバを愛しています。皆さんが毎回、パナソニックスタジアム吹田で作り上げてくれる雰囲気も本当に大好きです。最高に素晴らしく、誇りにも感じています。そのことに対して、自分のパフォーマンスを通して、たくさんの愛を、笑顔を届けることがプロサッカー選手としての使命でもあると思っています」

 そんなふうにサポーターへの想いを明かしていたジェバリは、名古屋戦後のヒーローインタビューでも開口一番、サポーターへの感謝を口にした。

「まずはサポーターの皆さん、ありがとうございます」

 そして、深い親しみを寄せるパナスタで、彼自身も待ち望んでいた今シーズンの『ホーム初ゴール』が挙げられたことを、それがチームの勝利につながったことを喜んだ。

「もう、ベストなフィーリングでした。それ以上、言いようがないくらいに」

 その言葉と共に浮かべた笑顔は、今のジェバリの充実ぶりを物語ってもいた。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

Share Button