<ガンバ大阪・定期便124>これぞ、ネタ・ラヴィ!
■清水エスパルス戦で示した攻守、圧巻のパフォーマンス。
本来の姿を取り戻したと言ってもいいのではないだろうか。
ネタ・ラヴィだ。
前節・東京ヴェルディ戦に続き、3月8日に戦った今節、清水エスパルス戦でも先発のピッチに立つと攻守に躍動。90分にわたり中盤のダイナモとして存在感を示し続けた。
「前半は特にチーム全体がいいプレーをできたと思っています。すべての選手が集中し、それぞれの能力を発揮しながらタスクを全うできれば、自分たちのサッカーができると証明できました。結果が出たことを非常に嬉しく思っています。前半のうちに追加点を奪えなかったことが結果的には自分たちの首を絞めたというか、後半、最後に相手のプレッシャーを受けてしまった時間帯もありましたが、自分たちが進んでいる道が正しいと示せた試合だったと思います。先制点を取れたこともさることながら、相手の攻撃を受けに回った時間帯も、チーム全体でしっかりと対応できました。それが無失点、クリーンシートという結果で表現できたのは非常に良かったと思います」
その先制点、山下諒也が決めた左足でのゴラッソも、ラヴィが差し込んだパスから生まれた。
立ち上がりから繰り返し高い位置で奪って攻撃に転じる姿勢を示していた中での36分、スローインからの展開だ。半田陸からのパスを受けて前を向いたラヴィは、左にも選択肢がある中で、右足から左足に持ち替えて山下にパス。それを山下が利き足とは逆の左足でゴール左隅に流し込んだ。
「ネタ(ラヴィ)が反対側に出すかなと思っていたんですけど、僕の方に出してくれたので、彼のおかげで決められました。ボールがネットを突き刺すまで長く感じたというか。時間が止まったような感覚もあって…ネットを揺らした瞬間は本当に嬉しかったです。キャンプ中からずっとヤットさん(遠藤保仁コーチ)と左足でのシュート練習に取り組んでいたというか。(利き足の)右足に少し痛さを感じていた時期があったのがきっかけだったんですけど、左足で練習するようになったら自信がついて、今日はその左足で決められました(山下)」
もちろんラヴィも、山下が右からペナルティエリア内に入ってくるのを視界の隅に捉えていたという。
「本当は逆サイドを見ていたんですが、諒也(山下)にチェックにいっていた相手選手があの瞬間、僕の方に寄ってきたので諒也が空くなと思い、選択を変えて、彼に出しました。得点したのは諒也だし、あれは彼の能力が生んだゴールなので僕の力は関係ないですよ」
謙遜する彼に、半分は自身のゴールではないかと問いかけると「半分もない。20%くらいかな」とラヴィ。「自分たちは毎日、成長の過程にある」と胸を張った。
「開幕戦の大阪ダービーであれだけの敗戦、屈辱を味わったので。ある意味、根本から見直すべき機会を与えられた中で、僕たちは毎日、成長するためにトレーニングを続けてきました。あの試合の課題として残った選手同士の距離間、ポジショニングのところも、チーム全体として見直してきたし、その中で自分自身の強みである『いいタイミングでのボールへのアプローチ』も今日はしっかり発揮できました。ボールを奪うチャンスを見逃さず、ガッツリ、奪って前に繋げる。それが僕の特徴ですが、そのように個々が持っている強みをしっかり表現できれば、このように結果を得られるということだと思います。ただ、大事なのはこれを続けていくこと。スポーツでは一つひとつの瞬間を楽しむことも大事ですが、今からこの試合は過去のものです。だからこそ、また次の試合に再び勝てるように、しっかり準備していこうと思います」
■明神智和コーチと取り組んだこと。チームに向けて投げ掛けた『声』。
ガンバでの3シーズン目。過去2シーズンの戦いをもとに『守備』における課題を感じていたからだろう。特に、昨シーズンはケガにも苦しみ、J1リーグへの先発出場は、わずか8試合にとどまった中で、今シーズンはスタートからその課題にも真摯に向き合ってきた。
教えを乞うたのは、今年からコーチに就任した、明神智和コーチだ。現役時代はピッチのあちこちに顔を出してボールを刈り取り、『鉄人』と異名を取るほど中盤のダイナモとして活躍した氏が編集した昨シーズンのプレー映像を一緒に観て意見を交わし、トレーニングでも改善に取り組んだ。
「Jリーグでのプレーも3年目で、僕なりに経験を積んできたつもりですし、自分の課題には常に謙虚に向き合い、吸収するべきことを吸収してハードワークを続けるのが自分の仕事です。それによって、常に成長を続けなければいけないと思っています。もちろん、続けてピッチに立つ中で試合勘がついてきたのもあると思います。正直『コンディション』という言葉の定義は広くて、メンタル的な要素、身体的な要素、去年でいうとわかりやすくケガというものもありましたが、全てにおいていい状態、つまりケガなく、健康な体で、自分のペースを保ち続けることが大事だと思っていますし、何があっても、自分のパフォーマンスを出すために、最大限の努力を続けようと思います」
それによって、不用意に相手選手に食いつくことでポジションを空けてしまい、そのスペースを使われてしまう回数が減ったことを含め、守備に対する意識の変化が窺えるのは清水戦のパフォーマンスを見ての通りだ。今はまだシーズンの序盤で、発展途上にあるとはいえ、本人も手応えを感じつつあるという。
そしてもう一つ、特筆すべきは、彼がこの2試合で示してきたリーダーシップだろう。以前に所属したマッカビ・ハイファ(イスラエル・プレミアリーグ)では22歳でキャプテンに抜擢された経験を持ち、イスラエル代表キャプテンとしてもリーダーシップを発揮してきたラヴィは、前節、ヴェルディ戦に向かう直前、練習後の円陣で自ら手を挙げ、少し元気のないチームに想いを伝えていた。
「もっとお互いに言葉を交わそう。考えを伝え合ってプレーしよう。俺たちはみんなで戦う。みんなでこの状況を乗り越える。勝ちに行くぞ」
相次ぐケガ人が出ているチーム状況を受けて、自分が声をあげるべきタイミングだと思ってのことだったという。少し照れくさそうに当時の胸の内を明かしてくれた。
「特別な仕事をしたとも、自分が何かを変えたとも思っていないので。自分からその話をするつもりはなかったですが(笑)、隠すことでもないし、尋ねられたのでお答えすると、正直、昨年チームを牽引してくれた貴史(宇佐美)やシン(中谷進之介)が離脱している状況で、副キャプテンの一人であるアラーノ(ファン)もいない時間が長かった中で、彼ら、キャプテン、副キャプテンばかりに任せるのではなく、しっかりとリーダーシップを取れる人間が声をあげて、チームを引っ張ろうとする姿勢を見せることが必要ではないか、と感じたんです。もちろん、彼らの復帰は今も待ち遠しく思っています。でも、その反面、彼らに任せきりではなく、僕たち他の選手も同じように、このチームの一員としてしっかり引っ張っていく、自分を示していくことも、ガンバが強くなるには絶対に必要だ、と思いました」
「ベストなチーム」になるためにも、だ。
「もちろん、僕もいつも、いつも、声をあげているわけではありません。ですが、あのタイミングでは、自分が最前列で考えを伝えるべきだと思ったし、喋らなければいけないと思いました。僕に限らず、日頃から、みんなが目には見えないところでたくさんの努力をしていますし、いろんなやりとりをしています。言葉も掛け合っています。そのたびに『みんな、考えていること、思っていることは同じだな』という気持ちにさせられます。誰もがガンバを勝たせたい、勝ちたいと思って仕事をしているし、そのために全力を尽くしています。今回はたまたま僕が声をあげましたが、みんなの思いは同じだし、目指している目標も同じです。僕たちはただひたすらに、勝ちを目指す。とにかくベストなチームになる。それは自分たち選手だけ、スタッフだけではなく、ガンバに関わる全員で、です。これからも、続けましょう」
謙虚に、力強く、勝つことだけを目指して前へ。その胸の内が透けて見えるような、ネタ・ラヴィの90分だった。