<ガンバ大阪・定期便123>それぞれの想いを繋げて。東京ヴェルディ戦で、今シーズン初の完封勝利。

■一森純が初めての『キャプテンマーク』。苦しんだ前半を、我慢強く戦い『0』で折り返す。

 J1リーグ第4節・東京ヴェルディ戦。前節・ファジアーノ岡山戦から中3日、しかも、ケガによる離脱が続いている中谷進之介、ウェルトンに加えて、キャプテン・宇佐美貴史も不在という状況下で、キックオフを迎える。

 キャプテンマークを巻いたのは一森純。ガンバでは初めて、キャプテンマークを預かることになった副キャプテンは、前日から「チームを勝たせるにはどう振る舞えばいいのか。どうすれば勝てるのか」を考え尽くしてピッチに立ったという。

「前日からずっと、キャプテンマークを預かる自分に何ができるのかを考え続けていました。ロッカーでの雰囲気づくりから始まって、グラウンドに立つところまで何回もイメージしていました。ただ、僕がそこまで何かを言わなくても、みんなが自発的に『やってやる』という雰囲気でこの試合を迎えていたので。逆に、みんなへの逞しさを感じながら試合に入ることができました(一森)」

 もっとも、前半は苦しい戦いを強いられた。イッサム・ジェバリを1トップに据えた中で、理想としているハイプレスではなく、第2節・アビスパ福岡戦のような、ミドルゾーンでややブロックを敷いた状況からジェバリをターゲットにした攻撃を目指す。だが、選手同士の距離間も悪く、思うように前線にボールを進められない。それでも、個々が球際の勝負でしっかりと体を張りながら『やらせない』戦いを続け、前半を無失点で折り返す。

「どんだけ苦しい試合になっても、90分間ずっと相手の流れになることはないので、苦しい時間があっても、そこはしっかりみんなで耐え抜こう、と。前節の岡山戦では、コーチ陣からそこを指摘されていたのにやりきれなかったという反省から、ヴェルディ戦に向けた短い準備期間の中では、もっと意識を上げる、やるべきことをやって凌ぎ切る、という守備の確認もしていました。前半はそれができたからこその『0』だったのかなと。もちろん、課題はたくさんありましたけど、どういう状況ではラインを押し上げるのか、リスク管理では何をすべきか、など共有していたことはある程度、表現できたと思っています(一森)」

「選手が何人か離脱している中で、とにかく気持ちだけはしっかり繋げて戦おうと。その中で、前半はある程度、中盤で構えながら、自分たちからジワジワと網をかけていくことを狙いとしていたというか。しかも、その網をかけるときにはしっかりみんなでいく、距離は崩さない、ということも意識していました。かといって、思うように進められた前半ではなかったですけど、苦しいながらもみんなで耐えて、球際も含めてしっかり戦えていたことが、後半につながった。前半の展開があったことで、後半少し相手が少し消耗したな、ということを感じられる展開になったことも、自分たちの流れに持っていけた理由の1つになったんじゃないかと思っています(黒川圭介)」

■後半の流れを変えた、新加入の満田誠。「近い距離間でプレーできたことがリズム良く攻められることにもつながった」

 0-0で折り返した、後半。苦しい流れを一変されたのは、後半のスタートから投入された、新加入の満田誠だ。チーム合流からわずか3日目。ガンバでのデビュー戦。まして、思うように試合を進められなかった前半を受けての投入と、簡単な状況ではなかったはずだが、頭の中は整理されていた。

「前半、相手がコンパクトにしてきた中で、外から見ていても難しそうだなというのは感じていたので、僕自身は、中間のポジションに立つとか、相手が困るようなポジショニングをして相手のDF陣を広げることや、セカンドボールへの反応を意識して入りました。その中で、選手同士の距離間もよくなっていき、自分たちがボールを持つ時間が増えて攻めやすくなった。自分たちがやりたいサッカーは、やはり後半くらいの距離間で選手が入れ替わりながら、というのが理想だし、実際に(選手同士が)近い距離間でプレーできたことがリズム良く攻められることにもつながったと思っています(満田)」

 また、チームとしても前半、バランスの悪かったネタ・ラヴィと美藤倫のダブルボランチの距離間が修正されたことで、敵陣でボールを動かせる時間が少しずつ増え、それに応じてゲームの流れをじわりじわりと引き寄せていく。ポヤトス監督は試合後、満田投入ついて「前半は、相手のプレッシングを外した後になかなか前進できていない印象があったのでマコ(満田)を入れることでプレスを回避した後、よりチームをグッと前に持っていってもらいたいと考えていた」とも明かしたが、実際、その狙い通りの展開になったと言っていい。

「後半は割とチームメイトが距離間近くでプレーしていたので、シンプルに叩くところと、相手を食いつかせてからパスを出したほうがいいところを使い分けられたと言うか、そこは味方の選手のサポートのおかげもあったと思っています(満田)」

 もっとも74分には、東京Vがロングボールを前線に放り込んだ流れから、福岡将太が相手の染野唯月と競ったセカンドボールを福田湧矢に拾われ、新井悠太に決定機を作られたシーンも。だが、そこは懸命にポジションに戻って体を張った福岡がシュートを打たせない。

「あそこはそもそも僕が染野選手に競り勝たなきゃいけないシーンだったのに上回られたので、そこは自分で取り返さないと、と思っていました。あと、湧矢(福田)のことだからあそこはシュートを打つよりパスを選択するような気がしたので、必死に追いかけたら間に合うなと。自分のミスを自分で取り返した感じなので、褒められたものではなかったけど、守り切れたことだけは最低限だったかなと思います(福岡)」

 余談だが、2日前には第二子の誕生の瞬間に立ち会い、「初めて臍の緒も切りました」という福岡は、妻や第二子はもちろん、家で留守番をしている長男にもパワーをもらってこの試合に臨んでいたと言う。

「奥さんがまだ入院しているので、義母が家に来てくれて長男の面倒を見てくれているんですけど、昨日、家を出るときに『サッカーに行ってくるから、ばぁばと寝てね』って長男に言ったら、寂しいって30分間、大泣きして。『1つだけ寝たら帰ってくるよ。パパ、頑張ってくるからね』と言ったらようやく『僕も頑張る』と納得して、泣き止んでくれた。その姿を見て、お兄ちゃんになったんだなぁ、と成長を感じ、僕も頑張らなきゃいけない理由がまた1つ増えた中での試合だったので、その思いがプレーに乗ったのかも知れない。ただプレーに必死すぎて、ゆりかごダンスを忘れちゃった(笑)(福岡)」

■決勝ゴールは、戦列復帰のファン・アラーノのクロスボールから、イッサム・ジェバリ!!

 話を戻そう。満田を中心に、テンポの感じられる攻撃を作り出した後半の流れを、待望のゴールに結びつけたのがイッサム・ジェバリだ。

 85分、山下諒也が満田との1タッチでのパス交換から左に展開し、ファン・アラーノにパスを繋げると、84分から今シーズン初めてピッチに立っていたアラーノが出場からわずか1分で、抜群の軌道を描いたクロスボールを右ポスト前に送り込み、ジェバリが頭で合わせる。試合後、二人は口を揃え「僕たちには2年、一緒にやってきた信頼がある」と胸を張った。

「アウェイで非常に難しい試合でしたが、しっかりと自分の能力を発揮し、走り、得点できて、チームの勝利につながったことを非常に嬉しく思います。いいクロスボールがあったからこそ決められた、いいゴールだったと思います。前半はうまくいない時間も長かったですが、後半はしっかりと自分たちの中で戦い方を整理できた。また、マコ(満田)が僕の近くでプレーして、ボールの供給源にもなってくれたし、シンプルにさばくプレーもしてくれた。非常にやりやすかったです。ゴールを決められたことももちろん嬉しいですが、自分の中での最大の収穫は90分、フル出場できたこと。ボックスの中での役割を与えられれば、それを徹底できる自信はあった中で、それを今日の試合で表現できたことを非常に嬉しく思っています(ジェバリ)」

「前半、苦しい時間を乗り切れたことで、後半はチームメイトみんなの姿勢、欲がより強まり、しっかりとボールを握りながらハードワークできたことが、リズムの変化にもつながった。ただ、クロスボールは少なかったので、自分がピッチに立ったらそのチャレンジをしようと思っていたし、結果的にそれがアシストになってすごく嬉しいです。ジェバリとは2年、一緒にプレーしているので、あのエリアで自分たちがボールを持ったときに、彼がどこでボールを受けたいと思っているか、どういう動きをするのか、はなんとなく想像できていた。いい形で彼に(ボールが)届いてよかったです。チームを離れていた間も、常に自分がチームのために何ができるかを考えながら過ごしてきた中で、今日は時間こそ短かったですけど、チームのための仕事が結果につながってよかった。次はもう少し試合時間を伸ばせるように準備したいと思います(アラーノ)」

 その先制点がチームのギアをさらに上げることにも繋がり、9分の長いアディショナルタイムも危なげなく試合を運んだガンバは、1-0で試合を締めくくり、今シーズン初の完封勝利を掴む。

「正直、今のチーム状況を踏まえても、最後の時間帯は、最低でも勝ち点1を持って帰れたら、という思いもあっただけに、それを勝ち点3にできたのは本当に大きい。いろんな修正点はありますけど、勝ちながらそれを修正していけるのはすごくポジティブだし、守備を預かる一人としては湧清(江川)がスタートから、翔悟(佐々木)が後半から出場して勝てた事実も、チームの成長を促すものになるんじゃないかと思っています。ただ、試合後ダニ(ポヤトス監督)にも言われましたけど、僕たちはこれでホッとするのではなく『うまくシーズンに入っていかなきゃいけない』と。本当にその通りだと思うので、みんなで流れに乗っていけるように、もっともっと良くしていきしたいと思います。ただ…キャプテンマークは僕には重すぎたので、みんな、早く帰ってきてくれ! って願っています(笑)(一森)」

 試合後、アウェイ戦ながら、味の素スタジアムのゴール裏を青く染めたたくさんのガンバサポーターとの勝利のガンバクラップでは、決勝ゴールを挙げたジェバリと、仲間に背中を押された、やや不安そうな表情の満田が先頭に立つ。

「やり方、わからなかったですけど(笑)、隣のジェバリや、サポーターの方を見ながらやりました。そこも徐々に慣れていこうと思います(満田)」

 もちろん、前半の入り、進め方についての課題は残された。満田を含めた前線の連携もまだまだ好転させていけるだろう。戦術面の熟成もこれからだということは、選手たちも自覚しているところだ。

 ただ、今の時期は小さな収穫を、積み重ねながらチームに『厚み』を作り出していく時期でもあると考えるなら、先の一森の言葉にある、江川や佐々木に代表される『個』の台頭をはじめ、悪い流れを試合の中で断ち切り、好転させられたことも含め、ポジティブな要素に目を向けるべきだろう。何より、それを勝ちに繋げられたことも。

 まだまだ続く、長いシーズンを想像すればこそ、大きな、価値のある勝点3だった。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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