<ガンバ大阪・定期便122>倉田秋、魂の2ゴール。
■チームを勝たせる2ゴール。大阪ダービー後に声を荒げた「まったく、足りてない」の真意とは。
チームが苦しい時に何ができるのか。
自分がガンバのために、やるべき仕事は何なのか。
その想いを注ぎ込んだ、倉田秋の魂を感じる2ゴールだった。
2月22日に戦った、J1リーグ第2節・アビスパ福岡戦。今シーズン初めて先発のピッチを預かった倉田は、立ち上がりから躍動。持ち前の運動量をフル稼働しながら、開幕戦の『大阪ダービー』では明らかに足りていなかった『強度』をチームにもたらす。シーズン前の練習試合は全てボランチで出場してきたものの「トップ下、サイド含めて前目のポジションも幅広くやれるのが強み」との言葉通り、与えられたタスクを理解した上で攻守に気を利かせたプレーを展開した。
その中で、先制点を奪ったのは22分だ。
黒川圭介が左サイドからクロスボールをあげるタイミングで、猛スピードでペナルティエリア内のニアサイドに侵入すると、イッサム・ジェバリが相手DFと競った溢れ球に反応。ダイビングヘッドでゴールネットを揺らす。
「圭介(黒川)のクロスボールからジェバリ(イッサム)が中で潰れてくれて、こぼれ球を押し込めた。信じてあそこに入っていったらいいタイミングで溢れてきてくれた」
更に58分には、相手DFのクリアボールを抜群のトラップで収め、右足を振り抜いた。
「トラップした時点で『これは!』と思えるくらい、完璧なところに止められた。あそこで打たないならサッカー選手をやめた方がいいというくらい、いいところにボールを置けたので、あとは自信を持って振り抜くだけでした。1点だけではなくて、2点取らないと、試合がどうなるかわからないという思いからゴールを狙っていたので、それが形になってよかった」
前節、『大阪ダービー』に敗れた直後のロッカールーム。キャプテン・宇佐美貴史がいの一番に「この結果、この程度のプレーしかできなかったのが、今の自分たちだと受け止めるしかない。ここで気持ちを落としたらズルズルと下に落ちていくだけ。でも俺たちはそうはならない。しっかり受け止めて、歯を食いしばって進んでいく」と口を開いたのに続いて、強い口調でチームに檄を飛ばし、奮起を促したのが倉田だった。
「まったく、足りてない。もっと闘わなアカン。熱量も、強度も全然足りてない。俺らはこれでいいんか? 違うやろ。もっと闘える、もっと闘わなアカン。まったく足りてない」
あまりの悔しさから自然に口をついて出たという。開幕戦。『大阪ダービー』。2-5での大敗。その事実もさることながら、昨シーズンに喫した『敗戦』とは「同じ負けではない」という危機感もあったと振り返った。
「僕なりにいろんな経験をしてきた中で、手遅れになる前に、今の自分たちは全く足りていないという事実にみんなが気づかなアカンと思った。後々、あの負けがあったから今年はいいシーズンになったよね、と言えるようにするためにも、ここでしっかり締め直さなければいけないという思いもあった」
思えば、その危機感は開幕戦を迎える前から倉田が宿していたものだ。これまでの経験上、シーズン序盤は、どのチームも理想通りに進められる試合ばかりではないからこそ、彼自身にも「全てがうまくいかなくても当然」という覚悟はあった。だが、それとは別の話として、昨年のJ1リーグでの4位という結果が、逆にチームの過信や慢心になってはいけないと強調していたのも彼だった。
「もちろん、去年の結果はそれぞれの自信にしていいとは思っています。ただ、内容的なものを冷静に振り返っても、僕は去年の自分たちが強かったとは微塵も思ってない。今のJ1リーグはすごく拮抗したリーグだと考えても少しの甘えが『負け』につながる要素にもなる。今年は去年とはまた違うメンバーで戦っていることからも、去年と同じように戦えば大丈夫と思っている選手が一人でもいたら、絶対に足元を掬われる。実際、今年のチームはまだそこまで安定した強さを出せるチームにはなっていないし、まだまだ成長しなくちゃいけないところだらけなので。むしろ、去年のままでやっていたら勝てる、という思いは捨てて闘う姿勢をしっかり示していかないと、そんな簡単に勝ちは掴めない。そのことを新加入選手を含めてもっともっと擦り合わせながら、チームとしての熱量をもっと大きくしていかなアカンと思っています」
その上で、否が応でも熱が上がる『大阪ダービー』という特別な一戦を、チームにいい流れを作るきっかけにしたいとも話していたが、結果は大敗――。負けた事実もさることながら、特に後半、『追いかける立場』にあった中で今ひとつギアが上がっていかないチームの姿に悔しさを募らせた。
■『1試合2ゴール』は10年ぶり。「必死にボールに食らいついて戦っていれば、ゴールは後からついてくる」
であればこその、ロッカールームでの『檄』だったが、一方で常々、そのプレーで、ピッチで示す『背中』でチームの先頭に立ってきた倉田だ。セレッソ大阪戦以降のトレーニングでも、今回の福岡戦で先発を預かる中でも「何が足りていないのか」を自らのパフォーマンスで示すことに気持ちを注いできたことは言うまでもない。
チームメイトにも『想い』は伝わっていた。
「やっぱり(秋くんは)仕事人だな、と。去年もところどころの試合で、結果を残す姿を見てきた中で今日もそれが出たな、と。あとは改めて、日々、努力というかしっかりとトレーニングを積んでいる選手に、ああいうゴールが生まれるんだなと思いました(中谷進之介)」
「常日頃から準備を怠らずにやっている選手に結果がついてくるということを秋くんに教えてもらった。やっぱり彼はガンバを象徴する選手。このピッチに立つなら、秋くんくらいやらないといけないよね、あれが全員に求められる基準だよね、ってことを今日もまた示してくれた(一森純)」
ちなみに、倉田にとっての『1試合2ゴール』は15年以来、実に10年ぶり。出場試合数やポジション、タスクの違いはあれど、近年は1年を通しても1得点、もしくは無得点に終わるシーズンが続いていただけに、序盤での2得点は上々のスタートだといっていい。
「毎試合、複数得点ができるわけじゃないということは、自分でもわかっているので。とにかく必死に、ボールに食らいついて戦っていれば、ゴールは後からついてくる。その根本的なところをこれからも忘れずにやっていこうと思っています」
自身に目を向けた上で、チームの戦いにも言及した。
「相手にボールを持たれる時間も長かったし、内容的には全然良くなかったと思います。結構、危ないシーンも作られてしまい、自分たちが目指しているところには程遠い内容でした。試合後のロッカールームでも満足している選手は一人もいなかったです。もっとゲームを支配して、どんどんゴール前にボールを送り込んでいくのが、僕らが追い求めているサッカーなので。ただ、前節、甘さが出てしまった球際とか、局面での勝負の意識を改善できたのは良かったし、何より、今節はなんとしてでも勝ちが必要だと思っていた中で、みんながガムシャラに、結果にしがみついて戦えたのも良かったと思っています。ミスもあったけど、食らいついて戦っていたら、自分たちにボールがこぼれてくるのがサッカーですしね。メンタル一つで、たった1試合で、これだけ戦う姿を変えられたということは、それだけの強いメンタリティがこのチームにはあるということ。だからこそ、今日の戦いを最低限にして、もっともっとみんなで上を目指してやっていきたい」
プロ19年目。ガンバの『10』を背負って9年目。言わずと知れたガンバの筋トレ部、別名『倉田塾』の塾長としても先頭に立つ。自身の体への探究心も強い。
「若い頃はトレーニングの効果や意味を調べるのすら面倒で、ただガムシャラにやっていただけでしたけど、最近はなぜその動きがいいのか。鍛えたい場所を効果的に鍛えられているのか。どの筋肉を動かせば、どこに効いてくるのか、など、体の構造を自分で調べたり、人に教えてもらったりしながら、その時々の自分に必要なトレーニングを、必要な強度で効率よく取り入れることができるようになった。ただ、若い頃のようにガムシャラに突き進むのがいい方向に働くこともあり…一概にどっちがいいとは言えないので、時には直感も大事にしているけど(笑)」
様々な取り組みの中で近年、継続的に取り組んでいるのは『骨盤を立てること』。それによっていろんなステップを踏んだり、体を当てられたとしてもブレない体づくりを意識している。そうして色んな角度から鍛え抜かれた肉体は、毎年『最強』を更新している印象も。36歳になった今も『10』の背中はますます大きくなるばかりだ。
もっとも、それは絶えず続けてきたトレーニングだけが理由ではない。いくつになっても変わらずに心の奥底で煮え立つ想いをピッチで、パフォーマンスで表現できるから。ガンバのために、勝利のために、という熱を、目の前の1試合に注ぎ切れるから。福岡戦後の取材エリアで聞いた「不思議なものでゴールが取れると体がめっちゃ軽くなる。早めに取れて良かった」という言葉も、今シーズンを戦う倉田秋の、改めての宣戦布告だと受け止めた。