<ガンバ大阪・定期便118>メンバー表に名前はない。だが、ガンバは宇佐美貴史とタイトルを獲りにいく。
■仲間の想い。宇佐美貴史の想い。
ガンバ大阪にとって4年ぶり、8度目の天皇杯決勝の戦いが始まろうとしている。
キックオフ2時間前に発表されたメンバー表。
チームを代表して先発を託されたのは、一森純、中谷進之介、福岡将太、半田陸、黒川圭介、鈴木徳真、ダワン、山下諒也、倉田秋、山田康太、坂本一彩。控えメンバーに名を連ねたのは、東口順昭、岸本武流、美藤倫、福田湧矢、ファン・アラーノ、ウェルトン、イッサム・ジェバリ。
すでにお気づきの通り、そこに宇佐美貴史の名前はない。右ハムストリングの肉離れによる離脱は、少し前にクラブから出されたリリースの通りだ。
大一番を前にしたトレーニング中に起きたそのアクシデントに、チームに衝撃が走らなかったと言えば嘘になる。ともすれば、宇佐美以上にチームメイトが動揺した表情を見せていたのも事実だ。
だが、それも過去の話。キャプテンがガンバのために戦い続けてきた姿を、その胸に宿してきた『タイトル』に懸ける想いを知っているからこそ、全員がしっかりと顔をあげて準備を続け、そして今日、心1つに国立競技場に乗り込んだ。
「キャプテンのために」
戦いを前に、誰もが口にしたその言葉を、チームのど真ん中に据えて。
「今シーズン、貴史くん(宇佐美)がガンバのために注ぎ、戦う姿をずっとそばで見てきました。その中で、ガンバにとって特別すぎる選手であるからこそ、味わった悔しさも、苦しさもあったんだろうなと感じていました。だからこそ、一緒にこの決勝を戦えないのが悔しすぎます。でも、とにかく今の自分がすべきことは、貴史くんが思いを注ぎ続けてきたこのガンバを勝たせることだけなので。一番大事な選手を失ったのは事実で、彼が同じピッチにいない不安もあるけど、チームからそれをしっかり拭い去って、みんなの気持ちを揃えて戦いに臨むことが僕のやるべき仕事。キャプテンマークには貴史くんへの想いも含め、その重みをしっかり宿して戦いたいと思います。もちろん、ガンバに関わる色んな人のためでもあるんですけど、貴史くんにカップを掲げてもらうために、ということも芯に据えて、自分の全てを使い切って戦い抜きます(中谷)」
「ケガをした瞬間の貴史の姿を見ても、彼がこの試合にどれだけ懸けてきたのかを感じたし、あの姿を見てスイッチが入らないのは男じゃない。もちろん、これまでも応援してくれる人たちのために、クラブのために、という思いで戦ってきましたけど、もう1つ、勝たなくちゃいけない理由が僕たちにはできた。同じピッチに貴史はいないけど、僕らが彼と一緒に戦っていることに変わりはないからこそ、貴史と一緒に、みんなでタイトルを勝ち取りたいと思います(一森)」
「ここまでチームを先頭に立って引っ張って、チームを、みんなを助けてくれた貴史くんがケガで離脱してしまったのは…どう表現していいかわからないけど、悔しいし、残念です。これまでも弦太くん(三浦)をはじめ、色んな仲間の思いを背負ってここまで戦ってきましたが、決勝を前にして貴史くんのために、という思いがまた1つ増えたことで、よりチームとして団結する姿を見せなきゃいけない試合になったと思っています。貴史くんが今シーズン、キャプテンとして大きな仕事を成し遂げられたと思ってもらえる試合をしたいし、貴史くんが『これこそが、俺が引っ張ってきたチームだ』と誇りに感じてくれるような姿を決勝のピッチで見せたいと思います(福岡)」
「僕たちにできることはとにかくガンバのために、貴史くんのために勝つことだけ。勝って、貴史くんにカップを掲げてもらうためにも、貴史くんがシーズンを通して口にしてきた戦う熱量の部分をしっかり持って試合に入りたいと思っています。いつも攻撃のリズムを作ってくれた貴史くんの役割を、僕一人で代わりになれるとは思っていないけど、僕を含めたみんなが少しずつプラスアルファの力を上乗せして戦えば、その部分は絶対に補える。貴史くんのために、という責任と覚悟をしっかり自分のプレーに乗せて戦いたいし、勝つために、貴史くんのために、僕もゴールを狙います(山下)」
「自分がケガをした時のことを想像しても、宇佐美くんが一番悔しい思いをしているはず。宇佐美くんのために、と言うとすごくありきたりの言葉に聞こえちゃいますけど、とにかく決勝戦は宇佐美くんの思いも乗せて戦っていることが伝わるプレーをしようと思っています。僕たちは今シーズン、宇佐美くんに引っ張ってもらってリーグ戦も、天皇杯もここまで勝ち進んでこれたし、何度も苦しい時を助けてもらった。僕も宇佐美くんの何気ない一言にとか、宇佐美くんがガツっと一発、守備にいく姿に、何回も勇気をもらいました。その宇佐美くんのためにという思いを、みんなで1つにして戦いたいと思います(半田)」
そんな仲間に、宇佐美もまた全幅の信頼を寄せている。待ち望んだ決勝の舞台を前に離脱せざるを得なくなった無念は計り知れないが、それでもキャプテンは、仲間のため、チームのために、想いを込めた言葉で仲間の背中を押した。
「この世界にケガはつきもの。起きてしまったことは受け止めるしかないし、これもサッカーの一部だと思っています。あとは、みんなに託します。サッカーは11人で戦うもの。僕がいないから、誰かが抜けたから、というだけで勝てないチームなら、そもそもそれは勝つ力がないと言うこと。少なからず今年のチームはそんな柔なチームじゃないと思っているし、僕は一緒に戦ってきた仲間のことを信頼しているので。今年はここまでチーム全員で進んできたし、このタイトルを獲れれば、クラブの10個目のタイトルに相応しい、全員で獲ったと言えるタイトルになる。国立には、僕らに熱を与え続けてくれたサポーターもたくさん駆けつけてくれるし、スタジアムに足を運べなくてもいろんな人が、いろんなところからパワーを送ってくれる。出ているメンバーも、ベンチ外のメンバーも、スタッフも、サポーターも、最後まで勇気を持って全員で戦い切るだけ。勝ちましょう(宇佐美)」
■それぞれの決意を熱量に変えて。
もちろん、そのための準備はできている。全員がこの日のために力の限りに注ぎ切った2週間を、余すことなくピッチにぶつけるだけだ。
「決勝戦は21年のルヴァンカップでしか経験していないですが、コロナ禍であっても、ファイナル特有の空気の中でピッチに立つ瞬間はすごく特別で、いいものだなと感じたのを覚えています。言葉はなくともテンションが上がるだろうし、浮き足立つだろうし、昂るものもあると思いますが、それをパワーにして、でも僕たち経験のある選手はそれをグッと締めるようなプレーも心掛けながら試合を進めたいと思っています。こういう一発勝負の試合には特有のピリピリ感があり…実は準決勝の横浜F・マリノス戦も前日からかなりピリピリしていたんですけど、嫁さんに『でもこういう時の方がいいプレーができるんだよね』と言っていたら…クリアミスもあったけど、点を取れたし、勝つこともできた。決勝も、このピリピリ感を力にして、これまでやってきた自分たちのサッカーをいつも通りに表現したいと思います。最近は点も取れている一方で、失点もする試合が続いていて、そういう取って、取られての展開にしないことも大事ですが、勝つためには守備のことばかりを考えていても仕方がない。僕らは攻撃に特徴のあるチームだからこそ、前の選手にはしっかり点を取ってもらって、僕らが後ろでしっかり押さえるという戦いをしたいと思います(中谷)」
「このチームのオファーをもらった時から、単にガンバでプレーをするという時間を過ごすのではなく、タイトルという目標を常に意識してきました。先日もちょうどアラーノ(ファン)やウェルトンと話をしていましたが、僕たちの誰もが、このエンブレムを胸に戦うチャンスをもらったことへの恩返しとして、ガンバの歴史に『タイトル』という結果を刻み、自分たちの名前を残したいと思っています。過去、ブラジルでプレーしていた時代に何回かファイナルを戦った経験からも、こうした試合は少しナーバスになったり、気持ちが昂ったり、お腹がひやっとするような感覚を覚えたり、いつもの公式戦とは違う特別な感情が生まれます。その中で大事になるのは…戦術や個人の役割を徹底することはもちろん、一番は、メンタルだと思っています。タイトルを欲しいという気持ちをプレーで表現できるか。そのためにガンバの『血』を燃やして戦えるか。タイトルを本当に望むのであれば一瞬、一瞬の局面において、五分五分のボールを本気で取りに行けるし、セカンドボールも絶対にものにできるはずです。一瞬の動き、1チャンスにどれだけ集中し、気迫を見せられるかにこだわって、クラブのため、チームのため、応援してくれる人たちのためにタイトルを獲りたいと思います(ダワン)」
「子供の頃から、強いガンバに憧れて育ち、ガンバでプレーすること、タイトルを獲ることを目標にサッカーをしてきた僕なので。実際にガンバに加入してからはなかなかそのチャンスはなかったし、20年に初めて天皇杯決勝には進出しましたけど、準優勝では悔しい以外に何も残らなかったことを考えても、今回は絶対に獲りたい。実際、今年のチームには、自分たちでそれを掴める、どんな試合でも最後は自分たちが勝っているって雰囲気があるし、何よりチーム全員の仲がいいというか、すごくまとまって1つになって戦えている感覚もある。チームとしてもこの終盤で、改めて自信をつけて戦えている手応えもある中で決勝に臨めるのも楽しみでしかない。個人的なことで言えば、ここ数年はケガで苦しむシーズンが続いていて悔しい思いもたくさんしてきたけど、その先にあったのが『タイトル』だったならすべてが報われるし、その夢の実現は自分にとってまた大きな一歩になる。勝ちたい。絶対に勝ちます(福田)」
「前回、ガンバが決勝の舞台に立った20年の天皇杯は、個人的にはファイナルにいった記憶もないくらい、自分にとって遠い場所でしたけど、今は違う。自分もしっかり試合に絡みながら、ようやく、自分がこのクラブにタイトルをもたらせられるところまで勝ち進んでこれたので。決勝では自分たちが今、自信にしているチーム力をしっかり表現したいし、個人的にもここまで積み上げてきたことを思い切って出すだけだと思っています。兵庫県に生まれ、中学生時代は神戸のアカデミーに所属していた僕にとって、神戸と決勝戦を戦えるのはすごく幸せなこと。その想いをしっかり持って、勝つことだけを考えてプレーしようと思います。『このクラブで何年プレーしたかより、いくつタイトルをもたらせられたかで、印象は大きく変わる』という話を聞いたことがありますが、僕自身それを意識しながらもこのガンバでの4年間は一度も実現できなかったので。この天皇杯を必ず勝って、その1つ目をガンバにもたらしたいと思います(黒川)」
「これまでもそうですけど、ファイナルに漂う特別な空気って僕は乗っかっちゃったもん勝ちやと思っていて。メディアの皆さんを含め、間違いなく周りは盛り上げてくれるし、ましてや当日の国立には、いつもの試合とは全然違う雰囲気が漂うと思うんです。めちゃめちゃたくさんのサポーターも来てくれるはずやし、セレモニーも特別感があるし、その場に身を置いたら否が応でも気持ちは昂ると思うんですけど、それに飲まれずに、むしろ、乗っかっていくくらいの気持ちでいいんじゃないかと思っています。あとは、今年のチームは絶対に気持ちを出して戦えるメンバーが揃っているからこそ、その仲間を信じて、縮こまったプレーをしないこと。誰でも経験できるわけじゃないあの空気を楽しんで、いつも通り、今の自分たちが持っている力を出し切ることだけを考えたい。誰にでも経験できるわけじゃない、この痺れる試合をみんなで楽しみたいと思います(倉田)」
「ここ数試合は、最後の最後でひっくり返せる試合ができている分、どういう展開になっても落ち着いて試合を運べるどっしり感も出てきたし、それぞれが自信を持って戦っているのを感じます。決勝もその自信をそれぞれがしっかり持って臨むだけだし、去年から今年にかけてしんどい思いをしながら積み上げてきたチーム力をピッチで表現するだけだと思っています。僕がガンバに加入した14年に獲得した『三冠』を思い返すと、苦しい試合、逆境に立たされた時にはいつもヤットさん(遠藤保仁)や今ちゃん(今野泰幸)、ミョウさん(明神智和)らベテラン選手がチームに安心感を与えてくれていた。僕らはその背中を見て、慌てず、我慢強く戦えて、結果を掴むことができた。その自分がベテランと呼ばれる年齢になった今は、彼らのような背中を見せることも役割の1つだと思っているので。ファイナル経験者の一人として、決勝戦ではピッチの内外でチームに落ち着きと、安心感を与えられるような背中を見せたいし、チームが勝つために自分にできることを全力でやり切ろうと思います(東口)」
「今年のチームには、コーチングスタッフ、選手含めて本当にいい雰囲気があるというか。それはリハビリをしていても感じたし、その団結力があったから、決勝の舞台まで勝ち上がってこれたんだと思っています。4年前、20年に初めて決勝の舞台を戦って、最後の1つを勝ち切れるかどうかの違いを痛いほど感じた僕としては、悔しい記憶を塗り替えるためにも、正直、今回の決勝をみんなと一緒にピッチで戦いたかったという思いはあります。でも、僕も貴史くんと同様に、仲間のみんなを信じているので。1つ、1つ、みんなで勝ち上がってきた中で育んだ強さを、決勝の舞台でしっかり示して欲しいし、ガンバがタイトルを掴む姿を、貴史くん(宇佐美)の隣で目に焼き付けようと思います。みんなが貴史くんのために、という思いでより強くまとまったこのチームなら大丈夫。信じて、スタンドで一緒に戦います(三浦弦太)」
思い返すこと約2ヶ月前。J1リーグ第33節・北海道コンサドーレ札幌戦で劇的な勝利を収め、9戦勝ちなしという長いトンネルを抜けた後、キャプテン・宇佐美は今年のチームについて、こんな言葉を口にしていた。
「正直、僕も含めてみんなが苦しかったと思います。でも、逃げずに立ち向かい続けようという話をして、何度負けても、どんだけ悔しい言葉を浴びせられても、みんなでやり続けることをやめなかった。それができるのが今年のチーム。もちろん、サッカーなので戦術や技術も大事ですけど、そうやって何度、倒されても、熱量を持って相手に立ち向かっていける強さは時に、何にも勝る武器になると思っています(宇佐美)」
さぁ、決勝戦が始まる。チームに備わった、その熱量を再び全員で激らせて、やるべきことは、ただ1つ。
「タイトルを大阪に持ち帰る(ポヤトス監督)」
我らがキャプテン、宇佐美貴史とともに。