運命のラスト5へ。残留争いに向き合う磐田の強み。渡邉りょうが強調した一体感「そういう姿勢が、永嗣さんが止めてくれたPKに繋がってるかも」

ゴール裏のサポーターも素晴らしかった

ジュビロ磐田は現在、残留争いの渦中にある。勝点は35で、降格圏の18位。勝点40で16位のアルビレックス新潟より2試合、同39で17位の柏レイソルより1試合、消化が少ないと言っても、厳しい立場に置かれていることは間違いない。

【動画】川島永嗣が吠えた! 勝点3を手繰り寄せる魂のPKストップ

それでも“ラスト5”に向けたチームの雰囲気は良く、10月19日に行なわれた34節・セレッソ大阪戦(2-1)からオフ明けの練習では、選手たちの表情も明るく、精力的に身体を動かしながら声もよく出ていた。

C大阪戦では2-1で迎えた後半アディショナルタイムに、不可解なジャッジでのPKを与えて、大きなピンチを迎えた。キッカーは得点ランキングのトップで、この日も流れからゴールを決めていたレオ・セアラ。ゴールマウスを守る川島永嗣は驚異的な集中力で、プロ生活17度目のPKストップを果たし、アウェーでの劇的な勝利をもたらした。

「永嗣も人生をかけた一本だったと思うけれども、そういう修羅場をくぐってますから、彼は。その経験値というものは出たかな」

横内昭展監督も、その時のジャッジに納得しているわけではない。現象としては、確かにファウルを取られた松原后が田中駿汰を蹴っているが、ボールにチャレンジしようとしたところに、後から身体を入れられての結果で、不可抗力だった。

さらにVARの介入もなく、清水勇人レフェリーはさも当然と言わんばかりに、磐田側の不服を突き放し、西野泰正コーチにはイエローカードを提示した。

クラブとしてもJFA審判委員会に意見書は出したというが、そうした騒然とした状況で、川島は目の前のPKを止めることに集中力を発揮した。素晴らしかったのは、ゴール裏のサポーターもジャッジに対する不満を一旦脇に置いて、しっかりと背後から川島を後押ししたことだ。

横内監督は「ある意味、神セーブみたいな。いろんなものがあいつの背中に乗り移ったというか。これは僕が決めたわけじゃないですけど、我々のサポーターが後ろにいて、目に見える形のあるものではないんだけど、そういう見えないものがあいつを突き動かしているものはあった」と振り返る。

磐田が残留という目標を明確にしたのはシーズン終盤戦であり、それまでは「勝点40以上」という開幕前からの指標はあっても、基本はチームが戦いながら成長するという基準で、J1の相手にぶつかってきた。

その基本姿勢は変わらないが、勝負のところで、よりリアルなところに向き合い、この数試合はシステムも3-4-2-1を導入。攻撃の起点としてロングボールを増やし、守備局面では5-4-1のブロックを構築している。

午前に磐田で練習、その足で大阪へ

ただ、磐田が舵を切ったのは、そうした戦術的なベクトルだけではない。監督やスタッフだけでなく、選手たちも残留という目標に、今は全員が矢印を向けていることが伝わる。

横内監督は現在のチーム状況について「選手が本当にこの現状をなんとか打破したいと。選手同士でも話してくれますし、それを選手だけで消化するんじゃなくて、スタッフにも共有してくれる。僕らは毎回、ミーティングで選手に提示して、共有する。今、そういうのをやれている。他がどうこうは分からないし、良いかどうかも分からないですけど、そうやって取り組めている。この現状は僕らのストロングじゃないかな」と説明する。

C大阪戦では、同クラブから期限付き移籍で磐田に来ているFW渡邉りょうはクラブ間の規定により、出場できないことは分かっていた。しかし、試合後には今夏に完全移籍で磐田に加入したジョルディ・クルークスとともに、相手ゴール裏のサポーターに挨拶へと向かう姿があった。その件について渡邉に聞くと、実は午前中に磐田でベンチ外のメンバーと一緒に練習をして、その足で大阪までやってきたという。

「もともと出られないのは分かってましたけど。練習も午前中だったので。終わってすぐ行けば現地で観られると思って、現地で観るという選択をしました」

もちろん、現地で夏まで一緒に活動していたC大阪の選手やスタッフに挨拶したい気持ちもあったはずだが、何より「今はジュビロのエンブレムを背負って戦っている」という言葉の通り、磐田のアウェーでの戦いを現場で見届けたい思いが強かったようだ。

「あと5試合、自分がこのチームに何をもたらせられるか」という渡邉は、磐田の残留争いを独自の目線で展望した。

「僕もこういう厳しい状況は初めてですけど、不思議と落ちる気がしない。それは過信とかじゃなくて、全員の顔を見ててもそうですし、誰一人諦めてないというのをホント…負けてるチームって何かあるじゃないですか。でも、このチームには前を向くパワーがありますし、次に進んでいく力があるチームだなって非常に感じている」

夏に加入した渡邉がチームに新たなエネルギーを注入したことは間違いないが、その渡邉も磐田の選手たちから刺激をもらって、さらなる成長に向けた日々を過ごしている。

苦しい状況で作り出す一体感は磐田の強みだという渡邉は「本当に、そういう姿勢がこの間、永嗣さんが止めてくれたPKに、もしかしたら繋がってるかもしれない」と語り、最後にこう結んだ。

「ジュビロ磐田、選手だけじゃなくてサポーターと一緒に、チーム一丸で頑張りたい」

ラスト5試合。磐田は神戸、G大阪、横浜、FC東京、鳥栖と対戦する。

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