<ガンバ大阪・定期便112>何度でも乗り越え、何度でも輝く。半田陸が戦列復帰。

 約2ヶ月半ぶりの戦列復帰を、ホーム・パナソニックスタジアム吹田の大きな歓声と拍手に迎えられた。

「ウォーミングアップの時からすごく大きな声援をいただいて、すごく心強かったです。だからこそ、勝利を届けたかったんですけど、勝ち切れずすごく悔しい」

 出場は56分から、アディショナルタイムを含めて約40分間。ピッチに立った直後の59分には相手のパスを鈴木徳真が自陣でカット。その流れからの攻撃チャンスに、ピッチの中央のスペースを攻略して経由地点になった半田は、前線の宇佐美貴史に抜群の軌道を描いたロングパスを送り込む。戦況を見守っていた時からイメージしていたという半田らしいプレーだった。

「あそこのスペースが空いてくるのはわかっていたし、武流くん(岸本)とはまた違う後ろでのボールの動かし方というか、外に張るばかりではなく、あんなふうに相手の5-4-1の4枚の左、今日のヴェルディなら唯月(染野)の前に立って、その選手を引っ張っていくようなプレーを意識していました。個人的にはそこまで何かができた、という内容ではなかったですが、ケガなく終われたのは何よりだし、自分的には去年の復帰戦より体が動いたという感覚を得れたのはすごくポジティブなところ。ただ、チームとしての結果がついてこなかったのはすごく悔しいです」

■パリ五輪代表選出と無念の離脱。「ケガを含めてサッカー人生」。

 半田陸がパリ・オリンピック2024を戦うU-23日本代表メンバー18名に選出されたのは7月3日のこと。そのメンバー選考にも影響を与えた4月のAFC U-23アジアカップ カタールカップ2024を、体調不良やケガが重なって不完全燃焼に終えていたこともあってだろう。再び戻ったJ1リーグで気持ち新たにアピールを続けていた中での選出だった。

「強豪国が相手になるほど、サイドバックの守備のところでやられないことが結果を求める上ではマストだし、チームを助けることにもつながる。そこはU-23日本代表での活動を通して大岩剛監督にも評価してもらっていたし、今回の選出にもつながったところだと思うので、パリでもしっかり表現したいです。また、今回のチーム編成を見ると、本来の右だけではなく左サイドバックを預かる可能性もあるかもしれないので。左右が変われば、ステップの踏み方や視界の捉え方も全く違うだけに、パリまでの時間はそこへの準備ということも頭に入れて過ごしたいと思っています」

 だが、フランスの地で調整を続ける最中、大会初戦であるパラグアイ戦を目前に控えた7月22日の練習中に、接触によって左腓骨を負傷。昨年7月にもガンバでの練習中に左腓骨骨幹部骨折の大ケガを負い手術を行なっていた半田だが、今回は同箇所よりやや下の部分にヒビが入り、代表離脱を余儀なくされてしまう。本人の暗澹たる気持ちを想像すればこそ、声を掛けるのも躊躇したが、そんなこちらの胸の内を察してか、8月6日に帰国後初めてクラブハウスで顔を合わせた際には、言葉は少ないながらも真摯に対応してくれたのを覚えている。

「今回はヒビが入っただけなので、前回ほど(復帰に)時間はかからないはずだし、手術もしなくていいから、とにかく自然に(骨が)くっつくのを待つ感じです。大丈夫ですよ。多分2ヶ月くらいで戻れるんじゃないかな。またピッチに戻ったらゆっくり話ししますね」

 とはいえ、それ以上のことを尋ねるのは憚られ、彼の心情に触れる質問は遠慮したが、そこから約1ヶ月が過ぎた9月上旬。全体合流が目えたタイミングで再び話を聞いたところ、当時の心境を教えてくれた。

「離脱はもちろん悔しかったし、人生で1回出られるかもわからないくらいの大会だったので、昨年のケガを負った時よりは落ち込む期間も多少はありました。ただ、オリンピックがサッカー人生の全てではないと思って、割とすぐに切り替えられた自分もいました。受傷した後、ケガの特性的にやれる治療があまりなかったというか…。超音波をあてたり、他の箇所の張りを取り除くような治療はしていましたけど、基本は自然治癒を待つ感じだったし、患部のことを考えるとすぐには飛行機に乗らない方がいいって状況もあったので、しばらくは帰国せず、現地で過ごしたのも良かったのかもしれません。現地に応援に来てくれていた奥さんやその友達と一緒に、協会の方がチームのホテルとは別の近い場所にホテルをとってくれて、基本的には自由にというか、サッカーのことや代表のことは頭から外して美味しいものを食べに行ったり、ゆっくりした時間を過ごせたので、その間にリフレッシュもできて、うまく気持ちを切り替えられた気もします」

 その間にはU-23日本代表が戦った、パラグアイ戦、マリ戦の2試合をスタンドから観戦。離脱した後も連絡を取ることの多かった西尾隆矢(セレッソ大阪)らが躍動する姿を目に焼き付けて帰国の途についたという。

「理仁(山本️/シント=トロイデンVV)の活躍もすごい嬉しかったです。大会が進むにつれて得点パターンがどんどん増えて、力強さが増していく感じもして、すごく成長しているなというか…誰目線?! って感じですけど(笑)、かつてはチームメイトとして一緒にプレーしていた時期もあったからこその変化をすごく感じて、嬉しかったです。試合後に楓喜(山田/東京ヴェルディ)が僕のユニフォームを掲げてくれたりもして…何も聞いてなかったので驚きましたが、以前、楓喜が離脱した時に僕が彼のユニフォームを掲げたこともあったので、そのお返しをしてくれたのかも? 嬉しかったです。ただ、正直な胸の内としてはみんなの活躍を手放しで喜べたかというと、そうでもない自分もいました。やっぱり僕もあの場に立って同じ時間を共有したかったというのが素直な気持ちで、日本の勝利を喜んではいても、心のどこかで喜び切れていなかった気もします。ただ、ケガを含めてサッカー人生だと思っているので。ピッチに戻れていない今はまだ、先のことを考えるほどの余裕もないし、描けないですけど、これまでと同じように、自分の居場所で、ガンバで毎日、毎週、毎試合、ベストなパフォーマンスを出し続けるしか先もないと思うので。これから終盤戦にかけてより緊張感のある試合が増えてきますし、まだ天皇杯も残っているので、まずはそこでしっかり力になれる自分を想像して、復帰を目指したいと思います」

■半田が与えたいと考える『変化』。大阪ダービーを反撃の狼煙に。

 以降、チームに完全合流してからは、メディカルスタッフの「患部に痛みさえ感じなければ、どんどん強度を上げていいぞ」というアドバイスのもと、足の状態と向き合いながら復帰を目指し、9月23日に戦った奈良クラブとの練習試合(30分×2本)にもフル出場。チーム事情もあって前半は右センターバックで、後半は右サイドバックでプレーし、対外試合でのゲーム勘を積み上げる。そして、冒頭に書いた東京ヴェルディ戦で負傷後、初めてのメンバー入りを果たし、56分からピッチに立った。

「久しぶりのピッチでしたが、全然、怖さは感じませんでした。今日は時間が短かったですが、スタートから使ってもらえたら、コンディションももっと上がると思います。ただ公式戦に出て、改めてコンビネーションはまだまだ高めなくちゃいけないと感じました」

 試合を外から観る時間を通して、またチームの8戦勝ちなしという状況を踏まえても、ピッチに立つ限りはチームに明確な変化を与え、なおかつそれを勝利に繋げたいという思いも当然、ある。

「ダニ(ポヤトス監督)のサッカーの狙いとして、サイドチェンジは1つありますが、試合展開によってはもう少し同サイドで3〜4人でボールを動かして崩すこともあっていいんじゃないかとは思っています。もちろん、僕は守備の選手なので、当然まずは守備の意識を大事に考えていますし、その攻撃の部分も周りの選手と話しながらになりますが、サイドでの崩しからの突破、背後に走って、というプレーはもっと増やしていければな、と。そういったチームに与える変化、みたいなところを探るためにもまだまだ自分のパフォーマンス、コンディションを上げて、できるだけ早くベストの状態でチームに貢献できるようにしたいと思います」

 悔しい時間を支えてくれた仲間、家族、応援してくれる人たちへの感謝をプレーで伝えるためにも。

「今日の試合も奥さんは観に来てくれていましたが、その奥さんをはじめ、山形にいる家族やガンバのメディカルスタッフやコーチングスタッフ、チームメイト、いろんな人の支えがあっての復帰だったし、この時間に関わってくれた全ての人たちにすごく感謝しています。特に自分の一番近くにいてくれた奥さんは、今日の試合前に連絡した時も、実は奥さんの方がドキドキしていて(笑)。いつも僕のことを僕以上に喜んでくれたり、ドキドキしてくれたり、という人なので、その彼女に復帰した姿を見せられたのは良かったです。これからどんどんチームの勝利に貢献して、自分自身もいいプレーを続けたいというか。ガンバサポーターはもちろんのこと、家族や山形で応援してくれている人たちにも届くくらいの活躍をしたいと思っています」

 次なる戦いは、10月2日、未消化になっていた『大阪ダービー』だ。中3日で迎える連戦であることや、練習試合と公式戦で出場時間を積み上げてきた状況を踏まえても、半田の先発出場は十分に考えられる。本人もチャンスがあれば、この試合を自分自身の、そしてチームにとってもきっかけにしたいと息巻く。

「去年、ケガからの復帰戦も大阪ダービーだったし(10月28日、J1リーグ第31節)、今年4月のアジアカップで五輪出場を決めて帰国した最初の試合(5月6日、J1リーグ第12節)もホームでの大阪ダービーだったので。自分的にもダービーは縁がある試合だと思っています。自分自身のきっかけになればいいし、チームとしても勝てていない状況が続いているからこそ、この試合で勝利して、もう一段階上にいくターニングポイントにしたい。サポーターの皆さんも勝利を待ち望んでいるはずなので、この試合で喜びを爆発できるように、ガンバにとって久しぶりの勝利に貢献できるようにしたいです」

 今シーズン、半田が先発出場したJ1リーグの戦績は9勝5分1敗。唯一、退場になった第21節・FC町田ゼルビア戦では黒星を喫したものの、それ以外の試合では常に勝ち点を積み上げてきたことになる。加えて、『大阪ダービー』に特化して話をすれば、昨年6月のルヴァンカップにおいて、アウェイの地で決めた決勝ゴールを脳裏に焼き付けている人も多いことだろう。もちろん、今年のJ1リーグ前半戦における「記憶に残る大阪ダービー」(https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/a4e868e4ef04b93e4e3e14352a6c351bbd4d1b2e)において、彼が時差ボケをものともせず、圧巻の輝きで右サイドを制圧したことも。

 すなわち、半田の輝きがチームの勝利に直結する姿を、繰り返し示してきた『大阪ダービー』だ。この一戦で彼が掴むであろうきっかけは間違いなく、ガンバの、そして半田陸の反撃の狼煙になる。

https://news.yahoo.co.jp/expert/authors/takamuramisa

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