U-16代表の「ミニ世界大会」が福島で開幕 欧州、南米、アフリカの異大陸マッチが生み出すモノ
10年目の「国際ユース大会」
平たく説明してしまうと、2015年に日本サッカー協会が創設した国際ユース大会のことである。16歳以下のカテゴリーでコロナ禍の直撃を受けた期間を除いて毎年開催されており、今年はウクライナ、ベネズエラ、セネガルの3カ国が来日。4チームの総当たり方式で優勝を競っている。
異なる大陸から3チームを招いて総当たり戦というルールは大会創設時から貫徹されており、例えば記念すべき第1回大会ではフランス、コスタリカ、チリが、第2回大会ではハンガリー、メキシコ、マリが来日した。
第1回大会からこのタイトルを何度も戦ってきたU-17日本代表の森山佳郎前監督(現・ベガルタ仙台監督)は「自分たちとはサッカーに対する考え方もスタイルも異なるし、しかも3チームが全部それぞれ異なる相手との連戦は選手たちにとっても、僕たち指導者にとっても学びになる」と語っていたように、現場の「学び」も多い大会となっている。
過去のメンバーリストをさかのぼると、第1回大会にはGK大迫敬介(サンフレッチェ広島)、DF伊藤洋輝(バイエルン)、第2回大会にはGK谷晃生(FC町田ゼルビア)、DF菅原由勢(AZ)、MF久保建英(レアル・ソシエダ)、FW中村敬斗(スタッド・ランス)、第3回大会にはGK鈴木彩艶(シント=トロイデンVV)といった具合に、現在のA代表選手たちの名前を見いだすこともできる。パリ五輪を目指すチームにも、DF半田陸(G大阪)、MF松木玖生(FC東京)、斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)らこの大会の経験者は複数いる。
異なる大陸との3連戦という意味では世界大会のグループステージのシミュレーションという捉え方もできるし、日本にはいないタイプの相手にそれぞれの選手がどう対応するかを確認するテストの場としても機能している。
そんな大会が今年も開幕し、日本は初戦でウクライナと対戦し、FW葛西夢吹(湘南ベルマーレU-18)、MF神田泰斗(大宮アルディージャU18)のゴールなどで6-0と圧勝。好調なスタートを切った。
代表チームの舞台裏は「仁義」がモノを言う世界
6-0というスコアが端的に象徴するように、この第1戦の相手であるウクライナのチームパフォーマンスはなかなか上がらなかった。
そもそも戦禍の影響で「いくつかのアカデミーは攻撃を受けている土地にありますし、国外でトレーニングを行ったりもしているが、若い選手にとって非常に難しい状況になっている」(モロズ・ユリー監督)と、影響は当然あるのだろう。ただ、それ以前の問題として、ウクライナの選手は明らかにコンディションが悪かった。
後半に入ると足をつる選手も続出し、ユリー監督が「準備期間も短く、フィジカル的な問題はあった」と認めた通り、プレーのクオリティは時間の経過とともに下降線をたどっていった。
そしてこれは、この大会初戦でしばしば見られる現象でもある。たとえばセネガルの選手たちは来日直後に「こんなに長い旅は初めて」と口々に漏らしていたそうだが、16歳の選手なのだからそれも当然。初めて時差ボケになり、初めて移動によって肉体がダメージを受けることを知り、初めての土地で食事を含めた初めての生活に戸惑うのも自然なこと。このため、初戦のパフォーマンスはほとんどのチームが低くなる。
逆に日本の選手は時差ボケもなく、普段から使っている日本式の芝の上で、慣れている日本の審判員の笛の中でプレーするのだから、チームパフォーマンスは自然と高くなる。日本がこの大会を3連覇中である要因の一つはこれで、選手たちが「負けたら恥ずかしい」(DF横井佑弥=ガンバ大阪ユース)というマインドで大会に臨むのも、こうした背景があるからだ。
こうなると、「アウェイに行ったほうが強化になるのでは?」という考え方も自然と出てくるだろう。これは一つの真理なのだが、しかし誰もが考えることでもある。もちろんアウェイの経験は絶対的に重要だが、そもそも大会創設時に言われたのは「アウェイの経験を積むためにも、日本に大会が必要」(霜田正浩技術員長=当時)という逆転の発想だった。
代表チームの舞台裏は、ちょっと驚くほど「仁義」がモノを言う世界である。もちろん、ビジネスの要素はあるし、スポーツの文脈から動く物事も多いのだが、「ギブ・アンド・テイク」の考え方も強い。世界各国で行われる国際ユース大会は「誘われたから、俺も誘うよ」というような関係性の中で、「日本に大会がないのはまずい」という背景もあった。
たとえばルーマニアを呼べば、その後にルーマニアが国際大会を開くときに呼ぶ国として「日本」が選択肢に入ってくるし、アメリカやメキシコといった国と日本が「仲良し」になってしばしば強化試合を組めるのは、こうした大会での交流があってこそというわけだ。国際的な人脈作りを日本がしていく中に、この大会は位置付けられている。
異なる大陸連盟から大会に招待する3チームを選び、交渉し、実際に来てもらうという流れは簡単なものではないのだが、その過程と大会を通して築かれたネットワークはA代表や五輪代表のマッチメークにも活かされている。この大会の歴代参加チームを見ていくと、後に「つながった」例があることに気付けるはずだ。
従来、日本にも静岡県のSBSカップや国際ユースin新潟などユース年代の国際大会は存在しているのだが、大会の主導権を持っているのは地方自治体だったり、特定の企業だったりする形だった。そうではなく、日本サッカー協会が主導して対戦相手を選び、大会のルールを設定し、スケジュールを決める。そういう場が必要ということで、この大会の創設につながっている。また、地方で国際大会を開催するノウハウの蓄積という運営面での狙いもある。
コロナ禍での中断を経たものの、あらためてこの大会が「戻ってきた」意味は長い目で見たときに、日本サッカー界にとって確かな意味があるわけだ。
地元開催の今大会は「絶対に負けられない」
もちろん、だからと言ってこの年代のチームと個人を強化する上で、「アウェイでの経験」を軽視しているわけではまったくない。
実際、今年に入ってからは2月初旬にアルガルベカップ(ポルトガル)、2月末から3月にかけてトルコ遠征、そして3月末から4月にかけてはモンテギュー国際大会(フランス)と3度の海外遠征を消化。ドイツ、オランダ、ポルトガル、スペイン、デンマーク、フランス、メキシコ、ウェールズ、チェコ、コートジボワールのU-16代表と異国の地で対戦する経験を積んできた。
廣山望監督はそうした戦いの中で抽出したチームとしての課題を改めつつ、個人の課題については当人にフィードバック。チームに戻っての取り組みを促しつつ、今大会で集まってからは、「勝利」を強調。ホスト国として恥ずかしい戦いはできないというプレッシャーをあえて選手たちにも共有しつつ、大会に臨んでいる。
指揮官は「まずしっかり勝ちにこだわり、勝者のメンタリティを得られるようにしたい」ともコメント。ポルトガルやトルコの遠征では選手を試したり、課題を抽出する場とする中で大敗も目立つことになったが、フランスで行われたモンテギュー国際大会では強豪と渡り合い、決勝進出まで後一歩というところまでたどり着いた。
そうした流れを踏まえて、今大会は地元開催ゆえに「絶対に負けられない」(横井)というプレッシャーを乗り越えながら勝利を重ね、チームと個人の財産を作りたい考えだ。
チームとしてのターゲットは、来年秋に開催されるU-17ワールドカップ。そこで大きな飛躍を迎えるためにも、まずはこの地元開催の「ミニ世界大会」での結果をつかみ取りにいく。