久保建英不在でパリ五輪18人どう変化? OA“最小限”提言の「ベスト布陣」を考察【コラム】
久保建英の招集叶わずか…“代役候補”に躍り出るのは?
2024年パリ五輪開幕まで2か月。大岩剛監督率いるU-23日本代表はご存知の通り、グループDに入り、7月24日の初戦・パラグアイ戦を皮切りに、27日のマリ戦、30日のイスラエル戦に臨むことになる。
【布陣図】久保建英が不在でどうなる? U-23日本代表、パリ五輪メンバー18人「ベスト布陣」
いずれも難敵にほかならないが、まずはグループリーグを突破し、8強入りしなければ、メダルへの挑戦権も得られない。「勝てるチーム」をどう作るのか。指揮官のメンバー選考が非常に重要になってくるのだ。
自国開催だった2021年東京五輪を振り返ってみると、6月のインターナショナルウイークからオーバーエイジ(OA)枠で選ばれた吉田麻也(LAギャラクシー)、酒井宏樹(浦和レッズ)、遠藤航(リバプール)の3人が合流。7月の事前合宿やテストマッチを経て、しっかりとチームに融合した状態で本番に挑めた。
しかしながら、今回は6月のアメリカ遠征(7日と11日のアメリカ戦)と7月17日のフランス戦の3試合しか事前準備の時間が取れない。その活動すべてにOA選手を合流させられるのであれば、3枠フル活用も歓迎だが、6月時点で流動的な状況であるのなら、パリ世代だけで戦うという選択肢が現実的ではないだろうか。
6月からOA選手を呼べるにしても、人数は最小限にした方がいいかもしれない。今のところ、大岩ジャパンを見ると、やはり守備陣の人材が不足している。有力候補と言われる板倉滉(ボルシアMG)と左サイドバック(SB)とセンターバック(CB)を柔軟にこなせる伊藤洋輝(シュツットガルト)が移籍しないという前提でクラブ側の了承を取り付けられるなら、彼らを選ぶべき。それ以外にも谷口彰悟(アル・ラーヤン)や町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)らが候補に挙がっているが、とにかくDFの2人はOAに割くという考え方で行くのがベターではないか。
それ以外の16人はパリ世代から選びたい。FW陣も大迫勇也(ヴィッセル神戸)や上田綺世(フェイエノールト)といった年長者を呼ばず、細谷真大(柏レイソル)と藤尾翔太(FC町田ゼルビア)で勝負していい。2012年ロンドン五輪でも、大津祐樹や永井謙佑(名古屋グランパス)らで十分に戦えた。むしろハードワークを求められるであろう五輪本番は若くフレッシュな面々に託した方がいいという考え方もある。
そこで、1つ考えなければいけないのが久保建英(レアル・ソシエダ)不在時の対応だ。当初は本人も意欲的で、クラブ側も前向きと見られたが、直近の情報では大きすぎる負担を危惧して不許可になる可能性が高まった。久保の実力や経験値を期待した大岩監督の落胆は大きいだろうが、ほかの戦力で乗り切るしかない。
幸いにして、日本にはトップ下を担える若き人材は複数いる。久保が入るはずだったところを鈴木唯人(ブレンビーIF)と佐野航大(NECナイメンヘン)が担ってくれれば問題ないはずだ。
佐野に関しては、大岩ジャパン参戦経験がほぼなく、共闘経験のある選手が松木玖生(FC東京)と高井幸大(川崎フロンターレ)くらいしかいないことが懸念材料だろう。それでも、トップ下からサイド、ボランチと中盤のあらゆるポジションを柔軟にこなせるのは魅力。2023年U-20ワールドカップ(W杯)でも活躍しており、国際舞台での勝負強さは折り紙付きだ。将来性を視野に入れても、ぜひ呼んでもらいたい人材と言っていい。
ただし、鈴木唯人も佐野も今夏のステップアップの可能性が皆無ではないため、五輪参戦が叶うかどうかは微妙だ。欧州組の場合、誰もがそういったリスクがある。今季オランダリーグ1部で3ゴール5アシストの斉藤光毅(スパルタ・ロッテルダム)も同様だろう。今回は全員を呼べる前提で選出したが、今後の動向次第ではどうなるか分からない。そこが頭の痛いところだ。
パリ世代の欧州組に関しても、「OA枠同様に6月からフル稼働できないなら、確実に呼べる選手でチームを作る」といった覚悟が指揮官には求められる。中途半端に欧州組を待っていると、チームが固まらず、本番でも強固な組織が形成できない恐れがあるからだ。鈴木唯人や佐野が難しいなら、4~5月のU-23アジアカップ(カタール)に参戦した荒木遼太郎(FC東京)や、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝でも活躍を見せた植中朝日(横浜F・マリノス)らが次なる候補となってくる。そのあたりは早い段階で決断を下した方が得策ではないか。
五輪で活躍→ビッグクラブへ売却もクラブの“戦法”
その点、シント=トロイデンの藤田譲瑠チマ、山本理仁、鈴木彩艶の3人はクラブ側も協力的で、障害はなさそうだ。最終予選の時は鈴木彩艶の招集は見送られたものの、五輪本番となれば話は別。同じ欧州開催だったロンドン五輪で活躍した吉田が直後にイングランド1部サウサンプトンへの移籍を成功させた例もあるため、クラブ側も「選手を高く売るためのアピールの場」と位置づけているからだ。
「欧州格上リーグに選手を送り、移籍金を稼ぐとともに、クラブのステイタスを上げる」ことを重視するシント=トロイデンにとって、3人揃って五輪に参戦するメリットは大きい。特に最終予選でキャプテンを務め、評価を一気に上げた藤田には大きな期待がかかるところ。彼の統率力やリーダーシップは今のチームに不可欠だと言っていい。
守備陣も最終予選のメンバーを軸に選出した。左SBは大畑歩夢(浦和)やバングーナガンデ佳史扶(FC東京)も有望な人材ではあるが、やはり18人枠を考えた時、両SBができる選手が1人必要。そうなると内野貴史(デュッセルドルフ)を連れていくのがベターだ。内野も最終予選では出番が少なかったものの、クラブに戻った後は5月19日の最終節マグデブルク戦に先発。23、27日に行われるボーフムとの1部2部プレーオフにも参戦すれば、修羅場経験を積み重ねた状態で五輪の大舞台に立てる。そのアドバンテージも生かしたいところだ。
右SBにしても、今季売り出し中の濃野公人(鹿島アントラーズ)や最終予選メンバーの半田陸(ガンバ大阪)らがいるが、187センチの長身でいざという時はCBもこなせる関根大輝(柏)はやはり外せない。酒井宏樹の後継者とも言うべきポテンシャルを備えた大器に大舞台を経験させることは、今後の日本代表にもプラス。彼には成長曲線をさらに引き上げてもらいたい。
久保抜きの18人でメダル獲得を目指すというのは難易度が高いかもしれないが、日本はロンドン・東京の2大会で準決勝まで進んでいる。その経験値も生かしつつ、チーム全員が持てる力の全てを出し切れば、高い領域まで辿り着くことは不可能ではない。
まずは24日の6月シリーズ日本代表メンバー発表、そして30日のU-23日本代表のアメリカ遠征メンバーの行方をしっかりと注視していきたいものである。
[著者プロフィール]
元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。