アジアを代表する浦和vs横浜のピッチは“同窓会”ヴェルディ・アカデミーで育った男たちの邂逅

5月6日、ゴールデンウィークの最後に組まれたカードは浦和レッズ対横浜F・マリノス。1年前のアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を制したチームと、今季のACLファイナルに進出しているアジアを代表するチーム同士の顔合わせだった。

【写真】横浜のGKポープ・ウィリアム

■ポープ、前田、中島の同期ら5選手  観衆4万579人を数える大盛況の中、試合はホームの浦和が2-1で勝利した。興味深かったのは、先発メンバーだった。

5人の東京ヴェルディのアカデミー出身者が顔をそろえていた。浦和にはFW前田尚輝(29)FW中島翔哉(29)MF大久保智明(25)の3選手、横浜にはGKポープ・ウィリアム(29)MF渡辺皓太(25)の2人。しかも前田、中島、ポープが同期なら、大久保と渡辺もまた同期だ。

何より東京Vの試合でないところが、その意味を示している。

彼らはよみうりランドにある練習場に通い、同じ釜の飯を食い、切磋琢磨(せっさたくま)した。そこからわかれ、さまざまなサッカー人生を歩み、その先のピッチの上で邂逅(かいこう)。そこには昔の思い出がよみがえり、さまざまな感情が交錯する。試合の結果以上に、そのサイドストーリーには惹かれる。

試合後、ポープに話を聞いた。「ポープ・ウィリアム」という名前は海外出身選手のようだが、父は米国人、母は日本人。東京・日野市の出身である。

「特に深い話はしていませんけど、(前田)直輝も(中島)翔哉もいて、本当に小学生から切磋琢磨してきて、J1のピッチで再会できたのは僕個人としてはうれしかったですし、そういう中で試合も楽しめました。ただ結果がついてこなくて悔しいですけど。ただ小さい頃から知っているやつが敵として、ゲームできたのは個人的にうれしかったです」

■プロ輩出数ナンバー1の育成力  コロナ禍で在宅勤務となった2020年6月、当時の日本出身Jリーガー1544人が中学時代にどこに所属していたか、すべて調べてみた(同年5月31日登録時点)。どういう道をたどったのか個人的な興味もあって、育成の肝となる「3種」にフォーカスしたものだった。

ここは4年前のデータで恐縮だが、参考までに東京Vが48人(読売日本SC含む)で最多。続けて柏レイソル45人、ガンバ大阪44人、セレッソ大阪36人、横浜F・マリノス(日産FC、横浜F・マリノス菅田含む)35人だった。

育成にかけては日本一のクラブと言っても過言ではない。実際に最近アジアを制してパリオリンピック(五輪)の切符を手にしたU-23日本代表にあって、圧倒的な存在感を発揮したMF藤田譲瑠チマと山本理仁のコンビも東京Vアカデミーの出身だった。

再びポープの言葉に戻る。

「自分のベースを作り上げてくれたクラブ。翔哉も直輝も大久保もそうですし、うちにはナベ(渡辺)がいて、槙之輔(DF畠中)がいて、そして僕もいますけど、こういうJ1のトップレベルの中に、これだけの人数がいるということは、育成組織がどれだけいい組織なのかというのが表れている。まだまだ僕たちは成長していかなければいけないですけど、こういう場所で、違うクラブですけど対戦できるのはすごくいいことだなと思います」

あのランドの練習場で培ったもので、今に生きていることは何だろう。すると、すかさずこう返答した。

「マリノスのサッカーはゴールキーパーとして深く関わりながらこうプレーしていくスタイルですけど。ベースにあるのは、ヴェルディで時間があればみんなとボール回ししたり、文化として根付いていたので、それは自分もキーパーながら、入りながら、ボール回し、鳥かごを楽しみながらやっていた。それが今につながっていると思います」

■「負けることへのアレルギー」

当然指導者は時代とともに変わる。それでもクラブが伝統的に大事にしてきたことは脈々とつながっていく。まるで100年以上も続く秘伝のみそ作りの世界か。元日本代表の戸塚哲也さんや都並敏史さんといった還暦を過ぎた元アカデミー出身者も「鳥かご」を繰り返し、楽しみながら技術と判断力を磨き上げた。

そして何よりメンタルの要素が大きいのだろう。この日の敗戦で悔しさから目を潤ませていたポープは、こうも続けた。

「あとは勝負への執着、負けることへのアレルギーとか植え付けられてきた。サッカーを裏切らないじゃないけど、実力主義、うまいやつがこの世界では強いんだというようなものが根付いているクラブなので。そういう激しさというか、この世界で生きていく厳しさを僕は教えられた」

■11日から世界進出かけACL決勝

綿々と歴史は紡がれていく。取材でヴェルディのクラブハウスを訪れと、隣接するグラウンドでは少年たちが練習に励む姿が目に飛び込んでくる。指導者の言葉に唯々諾々(いいだくだく)という雰囲気はなく、目を輝かせながらプレーに興じている。そこには「好奇心」をくすぐられ、子どもたちは自ら伸びていく。「ランド」という語感とともに「遊び心」こそがうまくなるエッセンスなのだろう。

そのポープはJリーグと並行しながら11日からのACL決勝(対アルアイン=UAE)へと向かう。

「でかい大会ですし、ここを取る、取らないで僕の人生も変わってきます。またクラブにとっても大きな大会なので、本当にいい準備をして(敗戦から)気持ちを切り替えて臨みたい」

アジアの頂点を射止めれば、2025年から始まる4年に1度となる新規クラブワールドカップにも進出できる。かつてのサッカー少年は、プロとなり、キャリアを重ねて世界へ羽ばたこうと闘い続ける。

「ランド」から始まったフットボーラーたちの航海は果てしない。【佐藤隆志】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サカバカ日誌」)

https://www.nikkansports.com/

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