G大阪の新DFリーダー中谷進之介は何をもたらすのか? “J屈指”の発言力を誇るCBの統率力【コラム】
チームは今季初の連敗を喫した
ダニエル・ポヤトス監督就任1年目の2023年は最終節にJ1残留が決まるという厳しいシーズンを強いられたガンバ大阪。特に同年は総失点61で、コンサドーレ札幌と並ぶリーグワーストを記録。リーグ最少だった浦和レッズの27の2倍以上もの失点を喫したということで、守備再建が急務の課題となっていた。
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そこで2024年シーズンに向けて、クラブは名古屋グランパスの守備リーダーだった中谷進之介の補強に踏み切った。中谷は海外経験こそないが、日本代表経験もあるJリーグ屈指のセンターバック(CB)。「名古屋の大黒柱の彼がまさかガンバに行くとは……」と関係者の間では驚きの声も上がったほどだ。
その中谷に加え、横浜F・マリノスに1年間レンタル移籍していた一森純も復帰。彼らの存在もあって、今季のガンバ守備陣は安定感がグッと増している。ここまでを振り返ってみると、3月2日の第2節・アルビレックス新潟戦(1-0)と4月3日の京都サンガ戦(0-0)でクリーンシートも達成。序盤5戦終了時点では2勝3分の無敗で、総失点も3という固い内容で戦っており、「今季はひと味違う」といった印象を残しつつあった。
ところが、4月6日のコンサドーレ札幌戦を0-1で落とすと、中3日で迎えた10日の横浜FM戦も0-2とまさかの連敗を喫してしまった。
その横浜戦は得点チャンスの数ではガンバが圧倒。チーム全体のシュート数は21本で、今季絶好調のキャプテン宇佐美貴史が6本、左ワイドのウェルトンが5本と猛攻を見せていた。しかしながら、それを1つもモノにできず、逆に相手に数少ないチャンスを決められたのだ。
特に痛かったのが、後半開始8分にアンデルソン・ロペスの1点目。左サイドを上がった山根陸のクロスを左足で蹴り込まれた形になったのだが、相手エースFWをマークしていた中谷にとっては悔やまれるシーンになったはずだ。
「クロス上がってくるタイミングで『ヘディング来るな』と思っていたので、浮いた瞬間にそこで体を寄せていたんです。だけど低いボールが来たので、そこで遅れちゃいましたね」と本人は読みが外れたことを明かす。
この失点場面以外はほぼ完璧にアンデルソン・ロペスを抑えていただけに、彼自身としては不完全燃焼感が強かったに違いない。こういった小さな綻びが重大な結末になることを、柏レイソル、名古屋で数々の修羅場をくぐってきた中谷はよく分かっている。だからこそ、自身を含め、チーム全体に厳しさをもっと植え付けないといけないと痛感している様子だった。
「もちろん僕からしたら、攻撃陣に決めてほしいですよ。シュート21本打っているし、かなりチャンスがあったと思うから。ただ、僕がガンバに来て、もたらしたいのは、ああいうところで守れて、チームとして締めるところ。実際、今日も締まった試合はできましたけど、本当最後の最後のところで、ボールの寄せがやっぱり甘くなったりとか、ちょっとフワッとするところがあった。そこは絶対に変えていかなきゃいけない。甘さが出ないようにもう1回、やりたいと思います」と彼は自らに言い聞かせるようにコメントしていた。
それと同時に、失点後のチーム全体の雰囲気を変えていく必要性も中谷は感じたという。
「1失点した後、負けているのにゆっくりするとか、『負けているチームの姿勢じゃないな』と思うところがある。それは(マリノスから戻ってきた一森)純くんも言っていること。そこは僕と純くんが中心となってチームを変えていきたいですね。名古屋の頃を振り返ると、やっぱりしたたかなチームだったし、勝負のキワを分かっている選手が何人かいた。彼らを中心に全員が勝負に徹することができた。そこは大きかったかなと思います。今のガンバも結果が出続ければ、自ずとムードも変わってくる。まずは結果を出すことが一番大事ですね」と彼はJ1屈指の堅守を誇った前所属先のいい部分を思い出しながら、ガンバのプラスになるように仕向けていく覚悟だ。
中谷が言葉で示し続ける姿勢
チームの課題や足りない部分を直視し、持ち前の明るさで前向きに発信できるのが彼の最大の強み。コロナ禍で対面取材が禁じられた2000~2022年にかけても、名古屋を代表して頻繁にメディアの前に登場し、理路整然と自分の意見を口にする中谷のことを「オンライン大臣」と命名した記者もいたほどだ。あれだけハッキリと言葉で細かい部分まで伝えられる選手は今のJリーグ全体を見回してもそうそういない。
「自分がガンバに与えるもの? 元気とか明るさかな」と本人も笑っていたが、CBコンビを組む三浦弦太、最終ラインを形成する福岡将太、黒川圭介らも的確な指示や声出しがある分、動きやすいだろう。これでもう少しボランチから前を上手く動かして、ハイプレスからいいボール奪取、鋭い攻めにつなげていければ、今季最初の苦境を必ず乗り切れるはず。傑出した統率力のあるこの男に今後のガンバの命運がかかっていると言っても過言ではない。
「疲れてきた時にフワッとしちゃう時間の修正だったり、ボランチがどこまで前線を捕まえに行くかの指示とかは自分に託された課題ですね。そして肝心なところで相手を抑える部分。今回もアンデルソン・ロペスを抑えなきゃいけなかった。後ろが耐えきれないと失点してしまう。それじゃあ意味がないから、もっとしっかりやれるようにしたいです」
改めて毅然と前を向いた中谷。彼がここからガンバをどう変えていくのか。宇佐美ら前線のアタッカー陣がいかにしてゴールをこじ開けていくのか。そういった点に注目しつつ、今後の戦いを冷静に見極めていきたい。
[著者プロフィール]
元川悦子(もとかわ・えつこ)/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。