38歳の丹羽大輝、スペイン4部でプレーする日々に「今日もサッカーができる。その事実に、自然と心が踊る」
ベテランプレーヤーの矜持~彼らが「現役」にこだわるワケ第1回:丹羽大輝(アレナス・クルブ・デ・ゲチョ/スペイン4部)/後編
スペインでの実質3シーズン目、スペイン4部のアレナス・クルブ・デ・ゲチョで戦いを続けている丹羽大輝だが、コンディションは「自分でも怖いくらい、いい」と胸を張る。
それは、今シーズンのプレーを見ても明らかだ。ここまでアレナスが戦った公式戦31試合のうち、29試合に出場して2得点。2475分という出場時間は、所属選手のなかで最長を誇る。その要因が、彼の言葉にある「一周まわってフレッシュに……」に隠されている気がして、掘り下げて尋ねてみる。
「年齢を重ねると、チーム内での立場やベテランとしての役割を意識する選手も多いけど、僕はこの年齢だからこそ、逆を取るというか。たとえば、ウォーミングアップで4対2のボール回しをするとなると、若い選手から鬼に入るし、練習のセッションごとの移動も若い選手が一番遠い場所、奥に行くことが多いと思うんです。
でも、僕は率先して鬼から入るし、移動の時は一番奥に走ります(笑)。ふたりひと組でキックの練習をする時も年齢の近い同じ相棒とボールを蹴るのではなく、必ず毎日、組む相手を変えています。そのほうが、いろんな癖のボールを受けられるから。
プレーも同じで、守備ひとつとっても、経験値が増えるほど自分が走らずに周りに走らせるなど、ラクすることを覚えるんですけど、僕は周りを使う効果も理解したうえで、あえて自分が走りにいく。ピッチ外でもそれは同じで、チームバスで移動するときも、若い選手に荷物を運んでもらうのではなく、自分が最初にバスを降りて、一番重い荷物を運んでいます(笑)」
面白いもので、そんなふうに17~18歳頃のような行動を心掛けるようになるにつれ、自身がどんどんアップデートされていくのを実感しているという。
「FC東京での終盤頃から、若い選手とプレーすることが増えていたなかで、どことなくベテランという言葉に自分自身が騙されているんじゃないか、と思っていたんです。その考えがスペインに来て、より明確になりました。
そうやって、若い選手の時のような感覚ですべてに向き合っていると、脳も騙されるのか、体がどんどん動くようになるんです。今シーズンは本職のセンターバックだけではなく、サイドバックやボランチをすることもありますが、プロ1、2年目の時のように、試合に出られるのなら『どこでもウエルカム!』と思って向き合っています」
チームスタイルに対しても同じで、プロの世界に生きるからこそ、どんなスタイルも厭わず、与えられる役割、求められるプレーにただ懸命に向き合っている。
「もちろん、自分の好きなスタイルと合致する監督と仕事ができたり、心からリスペクトできる監督に出会えれば理想です。でも、そんな巡り合わせは奇跡に近い。
ですから、どんなサッカー、監督に出会おうと『ああ、こういう監督もいるのか』『こんなサッカーもあるんだ』と、新たな発見、出会いとして素直に受け入れます。仮に『自分はこういうプレーをしたいのに、チームのスタイルに合わない』と思ってプレーしていたら、きっと躍動できないですしね。
サッカーって、やっぱり自分自身が躍動するというか、心が躍るようなワクワクした感覚でプレーしていないと、観ている人のワクワクも引き出せないと思うんです。だからこそ、今もどんなプレーをするか以前に、まず自分の心が躍っているかを大事にしています」
そして、その考えが自身のキャリアを支えてきた要素かもしれないと言葉を続ける。
「キャリアを重ねるほど、いろんなことが見えて、いろんな知識も増えて、欲が出るものですが、プロは応援してくれる人がいて、バックアップしてくれている企業があってこそ戦える。そのことへの感謝を忘れなければ、今日もサッカーができる、仲間と週末の試合を目指せる、という事実に自然と心が躍ります。このマインドが自分のなかからなくならない限りは、現役選手でありたいと思っています」
「一周まわってフレッシュに」というマインドは、実はコンディションづくりにも活かされている。若い頃から自主トレにおいても、いろんな試行錯誤を繰り返しながら、自身の体への投資を続けてきた丹羽だが、キャリアを重ねた今もその試行錯誤に余念がない。
「この歳になると、みんな維持ばかり心掛けるようになるけど、僕はその逆。やり込むことしか考えていません。実際今も、この走り方がいいかな、この蹴り方はどうかな、他にいいトレーニングはないかな、って常に自分に問いかけながら、いろんなことにチャレンジしています。去年、走り方を変えたのもそのひとつ。おかげでスプリント時のマックスのスピードは今、キャリアベストです。
食事もこれまで、食べ方や食べるタイミング、食べるものの工夫を、おそらく何千回も試してきたのに、いまだにパスタと白米を食べる比率を変えたり、フルーツを食べる量を調整したり、細かくいろんなことを試して、それによる体の変化に耳を傾けています。そういう取り組みのせいか、面白いことに、20代の時より試合後の疲労感も……強がっているわけではなく、マジでないです(笑)」
今年に入って、練習前、練習後、そして就寝前と1日3回プールに入って筋肉を緩めるようにしているのも、新たな取り組みだ。アレナスを含め、4部のクラブの多くが人工芝のグラウンドを利用することによる体のダメージを取り除くためだという。
「日本にいるときは練習後、リカバリーを目的にプールに入っていたんですけど、感覚がすごくよくて。その経験をもとに、練習前にも入ってみたんです。そうしたら、一般的には練習前は筋肉が緩むからあまりよくないと言われていたのに、思いのほかフィーリングがよく、練習中に体がすごく軽く感じられるようになった」
これらはすべて、年齢に対する危機感があってこそ。年齢にとらわれず、自らは心も頭も「一周まわってフレッシュに」を保ちながら進化を続けている一方で、世の中はそれを簡単には認めてくれないことも重々理解しているからだ。
「外国籍選手としてプレーする38歳が、試合に出られなくなったら即アウト。ピッチに立てばやれる自信があっても、そのピッチに立つこと自体が大変になってくるのが年齢という壁だと思う」
もっとも、その危機感も切羽詰まったものでは決してなく、「この先も現役選手を続けるための原動力」に他ならない。
「今は正直、この先や引退後のことはほぼ考えていません。サッカー、スポーツというふたつのキーワードには携わって生きていこうとは思っていますが、基本は、今日の課題を明日の練習でどう克服できるか、くらいしか頭にないです。
『ひとつでも高いステージでプレーしたい』『そこで自分の力を試したい』という目標はあるけど、今の自分が動かせるのは、あくまで直近の10秒後、1分後、1時間後に何ができるか、何をするかだけ。それが結果として、週末の試合や今後の自分につながっていくはずですしね。だからこそ、経験はあってもフレッシュに、知識はあっても頭でっかちにならず、今やるべきことを見逃さずにやり続けようと思います」
今シーズンも残すところ、あと1カ月。スペインに渡ってから毎年、単年で契約してきたため、現時点では来シーズンの去就は決まっていない。18チーム中、5チームが自動降格する4部リーグにあって、アレナスは現在12位。今は残留争いから抜け出すことに気持ちを注いでいる状況だ。
もっとも”一周まわった”男に、ナーバスな空気は微塵も感じられないが。 「スペインに来て昇格争いは経験したけど、残留争いの経験はないから。いやぁ、面白くなってきた!」
経験の詰まったフレッシュさと感謝を胸に、今日を戦い抜き、明日につなげる。決して簡単ではないそのことを、変わらない熱量で続けられる愚直さと強さが、丹羽大輝のサッカー人生を今も前へ、前へと進めている。
(おわり)
丹羽大輝(にわ・だいき)1986年1月16日生まれ。大阪府出身。ガンバ大阪のアカデミー育ちで、2004年にトップチーム昇格。当初はレンタル移籍を繰り返して、徳島ヴォルティス、大宮アルディージャ、アビスパ福岡でプレー。2012年にガンバへ復帰。2013シーズンからスタメンに定着し、2014シーズンにはチームの三冠達成に貢献した。翌2015年には日本代表にも招集された。その後、2017年にサンフレッチェ広島へ完全移籍し、翌2018年にはFC東京へ。そして2021年5月、スペイン4部のセスタオ・リーベル・クルブへ完全移籍。現在は、同じスペイン4部のアレナス・クルブ・デ・ゲチョでプレーしている。