「日本に帰ってから償いますから」“怒る監督”に堂安律が一言…「本田圭佑と似通ったところが」敏腕スカウトが“中学生のリツ”にホレた日
アジアカップで惜しくも8強で敗退した森保ジャパン。多くの選手がうつむくなか、10番を背負った堂安律は、責任を痛感しながらも自身のSNSで「必ずやり返します」と宣言した。ピッチで見せた闘争心、リーダーシップの源流はどこにあるのか。
1994年からガンバ大阪のスカウトとして多くの選手を発掘してきた二宮博氏の著書『一流の共通点 スカウトマンの私が見てきた成功を呼ぶ人の10の人間力』(徳間書店)から堂安のエピソードの一部を抜粋して公開する。
【前編:自己啓発力(常に目的をもち、自己を高めていくことができる力)について/後編に続く】
※以下、時系列や所属は全て発売日(2023年7月18日)のママ
【貴重画像】“ヤンチャそうだけどキャプテン”だった高1・堂安律の10年前。飛び級タケとキャッキャするU-20W杯、同い年の冨安と感動W杯、オランダ時代からの盟友・板倉滉と仲良し2ショットも
リツ(堂安律)にヨーロッパで活躍する意識が生まれたのはいつだったでしょう。
彼はガンバ大阪のアカデミー時代、都合三度、スペイン・バルセロナに遠征しています。ダイチ(鎌田大地)と同じく、このときも私が引率しました。
少なくとも、感受性の強い中学時代に、その遠征に加わった選手たちは、世界最高峰のヨーロッパサッカーが雲の上の存在ではなく、必死に努力すれば手の届くところにあるという思いをもつことができたと思います。
“金の卵”がそろうバルセロナと練習試合
遠征ではFCバルセロナの練習場を見学し、本拠地のカンプ・ノウで試合も観戦します。ただ、それ以上に、世界的に有名なFCバルセロナのカンテラ(育成組織)に所属する同年代のチームと練習試合を行うことにこだわりました。
FCバルセロナのカンテラには、世界中から有望なタレントが集められています。2022年のW杯カタール大会で優勝したアルゼンチン代表のリオネル・メッシや、ヴィッセル神戸でも華麗なプレーを披露した元スペイン代表のアンドレス・イニエスタもカンテラ育ちで、彼らのようになるかもしれない“金の卵”がそろっているのです。金の卵たちと試合で対戦してプレーを体感することで、レベルの違いや、追いつくためにやるべきことが見えてきます。
ガンバ大阪のアカデミーもJリーグのなかでは屈指と言えるほど技術を重視していましたが、FCバルセロナの選手たちは、さらにボールの扱いが丁寧で、プレーの質が高いのです。球際も激しいですし、ボールの置きどころ1つとっても、学ぶところがたくさんありました。
遠征費はクラブで全額負担できないので、各選手からも旅費の一部を出してもらいましたが、そのぶんだけの「心の土産」をもって帰ってほしいと思っていました。
リツは当時から親分肌の一面をもっていました。悪い意味ではありません。監督と選手のパイプ役を担っていたのです。
遠征中、FCバルセロナとの大事な練習試合を翌日に控えたタイミングで、練習前にボールに空気を入れ忘れたことがあり、鴨川幸司監督(現・ティアモ枚方アカデミーダイレクター)が全員に走る練習を命じました。ですが、リツは、 「明日は大事なFCバルセロナとの試合があります。日本に帰ってからちゃんと償いますから、今日の走る練習はやめていただけませんか」
そう鴨川監督に掛け合い、チームメートの思いを代弁したのです。目標を達成するために、はっきりと自分の意見を主張する。ある意味、ケイスケ(本田圭佑)と似通ったところがあると思います。
ケイスケと一緒で「ビッグマウス」と評されることもあるリツですが、「有言実行」を貫いているのです。言ったからには、やらなければならない。リツもケイスケも、そういう思いで、意図的に発言しているのではないでしょうか。ある意味、やらなければならない状況に自分を追い込んでいるのです。
海外はまだ早い…反対意見を翻した堂安
飛び級でトップチームに加わったリツは、19歳でFCフローニンゲン(オランダ)に移籍。当時のガンバ大阪の社長、山内隆司さんは当初、10代での渡欧を不安視していました。しかし、リツと1対1で面談し、こう考えを改め直したといいます。
「彼の強い覚悟にびっくりした。彼のヨーロッパで活躍したいという熱意をひしひしと感じ、応援したいと思うようになった」
リツは覚悟のある選手です。こうと決めたら、まず行動に移してみる。彼の目標設 定力=自己啓発力は「行動」と直結しています。動かなければ何も始まりません。行動を起こすことで現状に変化が生まれ、何かが得られるのです。
第1章で、私が小嶺忠敏先生から学んだこととして、「やらないで後悔するよりも、 やって後悔したほうがいい」という姿勢を紹介しましたが、リツは、さらに踏み込んで、「どうせするのなら、熱意をもって全力でするべきだ」というマインド、考え方 の持ち主です。何度も記したとおり、目標設定力=自己啓発力は「常に目的をもち、自己を高めていくことができる力」のことです。
「目標」は「夢」から転換できることにもふれました。何もせず、ただ待っている、じっとしているだけで叶う夢は、ありません。リツが示したように、夢を叶えるには行動が大事なのです。
「行動」は「努力」と置き換えられるかもしれません。努力することによって夢、つまり目標が達成できるのです。そう考えると、目標設定力=自己啓発力とは「夢と努力」を指していると言えます。
ガンバ大阪を退職後、私は各地の大学や企業で講義や講演を行ってきました。この章の初めに取り上げた甲南大学での公開講座もその1つです。
受講者がどんな方なのか、どんなテーマの講義や講演なのかによって伝える中身は変えるようにしますが、1つだけすべての講義、講演に通底していることがあります。
それは「夢×努力=幸せ」ということです。これは、私の揺るぎない信念でもあります。「夢」は「目標」、「努力」は「行動」と考えると、この目標設定力=自己啓発力を高めることが、「幸せ」に近づく道のように思います。
(後編に続く)



