“17歳でJデビューの天才”が1年で構想外…それでも中村敬斗23歳が森保Jで序列アップした理由「三笘選手がいるのに…素直に嬉しい」
切れ味鋭いドリブルとパス、そしてずば抜けたシュートセンスには、やっぱり惚れ惚れさせられる。金髪をなびかせた、中村敬斗のことだ。
日本代表で主戦場となる左サイドには三笘薫という絶対的な存在がいるが、不在時の一番手として起用されるまでに序列を一気に上げてきた。
日本代表初招集は昨年3月。当時、オーストリア1部のLASKリンツでレギュラーの座を掴んで飛躍の時を迎えていた中村は、3月24日のキリンチャレンジカップ・ウルグアイ戦で代表デビューを果たした。与えられたのは終了間際のわずかな出場時間だったが、サムライブルーのユニフォームをまとって立つピッチをしっかりと噛み締めた。
「初招集では起用されない選手もいる中で、しかも同じポジションには三笘選手がいるのに、こうして少しでも使ってもらえたというのは素直に嬉しいです」
三笘に代わってスタメン、強烈ミドル弾
開催中のアジアカップでその存在感はより大きなものになる。負傷明けの三笘はグループステージを欠場。重要な初戦ベトナム戦で左サイドの代役を任されたのが中村だった。
23歳の若きアタッカーは、見事にその期待に応える。前半アディショナルタイム、左サイドで南野拓実からのパスを受けると、得意のカットインから強烈なミドルシュートをゴール右隅に突き刺した。まさかの2失点で浮き足立っていたチームに落ち着きをもたらす貴重な逆転ゴールだった。
さらに、再び左ウイングでスタメン出場した3戦目のインドネシア戦でもゴールを演出した。
1-0で迎えた51分、自陣中央でボールをもった堂安律がドリブルで敵陣まで運ぶと、左サイドの中村にボールを預けた。ここで中村は右後方から来たボールを右足アウトサイドでボールを引き込むように足元にピタッと止め、すぐさま周囲の状況を確認した。
ベトナム戦のようにカットインしてフィニッシュにもっていけるか。ファーサイドのスペースに走り込む上田綺世にクロスを送るか。ハーフスペースに侵入する久保建英と絡むか。どの選択も可能な位置に一発でボールを置いた中村が選んだのは、自身の外側へオーバーラップを仕掛けていた堂安へのパスだった。
オフサイドに注意を払いながら、猛スピードで駆け上がる堂安のベストタイミングに合わせて丁寧に右足でパス。ボールを受けた堂安はそのまま冷静にファーサイドで待つ上田へグラウンダーのクロスを送り、貴重な追加点が生まれた。
あのシーンを中村はこう振り返る。
「あれは自分の中で複数のイメージができていました。数ある選択肢の中で、より得点につながる可能性が高い方を選択できました」
この無駄のないプレーと選択にこそ、中村の進化が表れている。
異例の飛び級Jリーグデビュー
高校時代は街クラブの雄・三菱養和SCユースでプレー。個性を尊重する指導によってイキイキとプレーしていた中村は、いつも矢印がゴールに向かう選手だった。ベトナム戦で見せたような“左斜め45度”は当時から「敬斗ゾーン」と恐れられ、衝撃的なゴールシーンを何度も目撃してきた。左サイドから中央へ深く侵入する怖さも持ち合わせ、テクニックとドリブルが長所の選手ではあったが、フィニッシャーとしての嗅覚も備えていた。常に全身を使って「俺にパスを出せ」とアピールする積極性がありながら、ゴールを決めた後は決して大喜びするわけでもなく、クールに決め込む。『スラムダンク』に登場する流川楓のようなスター性も密かに感じていた。
そんな才能は早くから開花した。街クラブの選手では異例となる高校卒業を待たずしてガンバ大阪に加入。高校3年になる直前の2018年2月24日にJリーグデビューを飾ると、同年の3月にはルヴァンカップ戦でプロ初ゴールも記録している。すぐさま海外からオファーも舞い込み、19歳の若さでオランダ・トゥエンテへと飛び立っていった。
しかし、壁にぶち当たった。
トゥエンテでは開幕戦でいきなり移籍後初ゴールを決めて驚かせたが、相手のレベルが上がったことで徐々にノッキングするシーンが目立つようになった。もともと「自分が決める」意欲が強いあまり、独りよがりのプレーになってしまう癖があったのだが、得意のカットインがハマれば強烈な破壊力を見せられる一方で、試合から消えてしまうことも珍しくなくなり、リーグ終盤になるとメンバー外の試合が増えていった。
オランダをわずか1年で去ることになった中村は、ベルギー1部のシント・トロイデンへ。そこでも日の目を見ず、さらに2021年2月にはオーストリア2部(LASKリンツが保有するセカンドチーム)に活躍の場を移した。
「苦しかった。思い描いていた海外での自分とは違った」
目標としていたA代表はおろか、どんどんステップダウンしている……。しかし、この経験が中村を強くする。
「外国人選手である以上、どの立場、どの状況においても結果を残さないといけないというのが定め。オーストリアは組織的なプレーやパスなどのクオリティーは他のリーグより低いですが、球際などのインテンシティはフィジカルサッカーがメインなので、5大リーグ(イングランド、スペイン、イタリア、ドイツ、フランス)は抜きにしても、他の国よりは強度はかなり高い。このサッカーに触れてきたので、激しい球際や粘り強い守備は自分にとって大きな武器になっているんです」
伊東純也とのコンビでブレイク
活躍が認められ、およそ半年後にLASKリンツに完全移籍すると、2022-23シーズンはオーストリア1部で14ゴールをマークした。さらに昨夏には伊東純也が在籍するフランスのスタッド・ランスへステップアップし、現在もチームの両翼を日本人コンビで担っている。
この目覚ましい成長を森保一監督が見逃すはずもなく、目標としてきた日本代表の一員となったのだった。
前述したインドネシア戦のシーン。高校時代だったら、迷うことなくオーバーラップをする堂安を囮に使ってカットインしていたかもしれない。A代表に入りたてだったら、すぐに堂安へのパスを選んでいたかもしれない。もちろん、どれも決して悪い選択ではない。ただ、「ゴールへのプライオリティーが高いプレーを(次のプレーをする)ギリギリの段階で選べないと上では通用しませんから」と口にするように、ファーストタッチで複数のプレー選択ができる場所にボールを置き、そこから最適解を導き出す瞬時の判断は、ここまでの道のりを凝縮したようなプレーだった。それをアジアカップという舞台で披露できた意味は大きい。
コンディションが懸念される三笘の出場はあるのか。もし、まだ時間がかかるなら左サイドには誰が起用されるのか。これから始まる“負けたら終わり”の決勝トーナメントでのキーマンとして、中村を挙げても異論はないだろう。
「(三笘の)スペースが少しでもあったら縦にスッといけるプレーは、誰でもできるプレーではありません。だからこそ、僕は球際、切り替え、守備のところで勝負したい。もちろんペナルティーエリア内でのシュートやパスのアイデアや決め切る力は自信がある。三笘選手と比較するのではなく、僕は僕のやり方を磨くだけです」
もがいた時間があるからこそ、今は自信をもって日本代表のユニフォームを着ることができる。
アジア王者奪還に燃える森保ジャパンに、また逞しい若きアタッカーが加わった。中村のことだから、おそらくゴールを決めてもクールに決め込むだろう。しかし、その胸に秘める想いは誰よりも熱い。



