ゴールを量産する中村敬斗の「もしかしたら」思考。日本代表5戦5発、三笘薫とは異なる「自分のいいところ」【コラム】
日本代表は1月1日、国立競技場で行われたTOYO TIRES CUP2024でタイ代表と対戦し、5-0で勝利した。後半開始と同時にピッチに立った中村敬斗は72分にゴールネットを揺らし、日本代表通算5戦5得点とした。三笘薫がAFCアジアカップ初戦に間に合うか不透明な中、中村の躍動は日本代表を助けることになるだろう。(取材・文:元川悦子)
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●フレッシュな面々で臨んだタイ代表戦
国立競技場で行われた日本代表対タイ代表は6万1916人の大観衆を集め、2024年の幕開けを彩った。直後に控えるAFCアジアカップカタール2023を控える日本代表にとっては重要なテストマッチであると同時に当落選上のメンバーの最終チェックの場でもあった。
それに該当すると見られた1トップ・細谷真大、伊藤涼太郎、奥抜侃志、佐野海舟らにとっては、大舞台への切符をつかむべく、底力を示す必要がある。そういう意味でプレッシャーがかかったはずだ。
フレッシュな面々を軸としたチームでスタートしたこの試合。序盤から日本代表は押し込んだが、初めて組む選手たちの連係面が噛み合わず、自陣に引いて守る相手に苦しみ、ゴールをこじ開けるところまではいかなかった。代表戦で初めてキャプテンマークを巻いた伊東純也が右から中に絞ってFW的な動きを見せたり、持ち前のスピードで敵をぶっちぎるなど、圧倒的な個の力を示したものの、彼1人の力だけで点は取れない。前半はシュート数11対1という実力差を見せつけながら、0-0のまま終了した。
森保一監督もある程度、こうなることは想定していた様子で、後半頭から堂安律と中村敬斗を投入。流れを変えようと試みた。余裕を持ってピッチに入ったという中村敬斗は、試合をこう振り返っている。
●本領を発揮する「点の取れる左サイド」
「1点入れば崩れるから早めに取れたらいいよねと律君と話しました。入る時は、とりあえずフランスでやっていることを出せばいいと。フランスの方が今日の相手より強度が高いと分かっていたので、その感覚でやればいいかなと思っていました」
10月のカナダ代表戦で左足首を痛めて以来の復帰戦。ケガを乗り越えた彼はトップ下に入った堂安、右の伊東らの動きを見ながらゴールを念頭に置いてプレーした。
迎えた51分、日本代表は待望の先制点を奪う。堂安が右の大外に展開。伊東純也に落としたところで、田中碧がペナルティーエリアに侵入。ラストパスを受けて右足を一閃。喉から手が出るほどほしかった1点を挙げたのである。
この瞬間、中村敬斗はファーの位置でフリーになっており、GKが弾いた場合はこぼれ球を詰められる状況になっていた。この嗅覚が彼の最大の持ち味。それを登場から間もない時間帯から感じさせていたのだ。
「点の取れる左サイド」はここから本領を発揮していく。53分には右の毎熊晟矢からのクロスに詰めてシュートを打ちに行き、61分にも同じような形から右足を合わせる。これは惜しくも右ポストを直撃したが、いつ点を取ってもおかしくないという雰囲気を漂わせた。
そして待望の瞬間が72に訪れる。中村敬とは左サイドで佐野とパス交換。佐野がエリア内左の深いところに侵入して折り返す、伊東純也と交代していた南野拓実が左足でシュート。これをGKが弾いてこぼれたところに背番号13が詰め、試合の行方を決定づける2点目を叩き出すことに成功した。
これで日本代表では5戦5発。本人は満面の笑みを見せながらゴールを次のように振り返っている。
●5戦5発。
中村敬斗が「自分のいいところ」と話すのは… 「左から崩してパスを出して、拓実君が打った時に『もしかしたらこぼれるかも』と走っておいて、やっぱり思ったところにこぼれてきた。詰めておいてよかったですね。ペナルティーエリア内は自分のいいところなので」
2023年3月に発足した第2次森保ジャパンの通算得点数を見ても、FW上田綺世の7点に次ぐ数字。重要な得点源になっているのは間違いない。
「今のところスーパーゴールは決めてなくて、パスがいいんで。今回はこぼれ球なので、ラッキーですね。みんながつないで後は決めるだけのところだから。つないでくるのが大変だと思うので。逆に僕が作っていく方が課題ですね」
本人も周りへの感謝を口にしたが、所属クラブで右の伊東からのクロスに飛び込む形を日常的に取り組んでいるのは非常に大きいだろう。
今の日本代表は明らかに右の打開力が大きな武器。今回は伊東のみならず、堂安や南野もポジションを入れ替えながら右で作っていたが、彼らの崩しを見ながら、ここ一番でゴール前に侵入。決めきるというのが中村敬斗のスタイルになりつつある。
そこは高度なスキルで自ら局面打開していく三笘薫とは全く異なる部分。もちろん自分から突破する部分は物足りなさも感じさせるが、三笘との違いをストロングと捉えて突き詰めていくべき。そうすることで中村敬斗の存在価値は高まっていくはずだ。
●起用が不透明な三笘薫に代わる左サイドの候補たち
2-0になった後も日本代表はタイ代表を圧倒。オウンゴール、川村拓夢、南野に得点が生まれ、最終的には5-0で圧勝した。国内組と欧州組のコンディションにばらつきがある中、チームとしては課題も散見されたが、当落選上メンバーの中では中村敬斗や佐野海舟がいい味を見せ、アジアカップ切符を手にした。
とりわけ中村敬斗に関しては、三笘が負傷離脱中で「大会初戦に起用できるかどうか分かりません」と森保監督もコメントしたこともあって、戦力としての重要度がより高まってくるだろう。
左サイド候補としては、10月のチュニジア代表戦でこの位置をこなした旗手怜央、11月のシリア代表戦で左に入った浅野拓磨、南野もいるが、本職の左サイドとして中村が起用される場面も多くなると見られる。A代表初の主要大会に向けて、中村は闘志をみなぎらせている。
「アジアカップに選ばれたら必ず優勝したい。それはどの国も一緒だと思うんですけど、それは間違いなくありますし、選ばれたら初めて代表としての公式戦なので、そういった意味ではちょっとワクワクしますね。
2019年の(前回大会の)時はガンバ大阪のキャンプで沖縄にいてテレビで見てましたけど、準優勝だった。実力的に見たら絶対一番なんだけど、決勝でああいう形(カタール代表に1-3で敗北)になった。一発勝負の世界では正直、分からないところもあるけど、しっかり勝ちたい」
菅原由勢や佐野、細谷含めて若い世代が勢いをもたらすことでチーム全体が活性化するのは確か。頭抜けた得点力を誇る中村敬斗はその急先鋒になるべき存在。ここから一気にギアを上げ、2024年にスターダムにのし上がってほしいものである。 (取材・文:元川悦子)



